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68,抑えきれない衝動

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(ヴィーク目線)


学園生活最後の年に、4月から隣国のジュエル王女が留学してくるから、いろいろと面倒を見てあげてほしい、そう父上から言われた。

それではエリィと過ごす時間がなくなってしまうではないか!と思うも断ることはできない。

まぁ軽く面倒みるくらいならいいかと思っていたが、ジュエル王女は朝から晩までひっついてきて、少し鬱陶しいくらいだった。
お陰でエリィと過ごす時間がなくなってしまったのが一番辛い。

生徒会で少し顔を合わせる程度しかない。
もっと話したいのに、ジュエル王女が邪魔でなかなか話せない。

そんな憂鬱な前期を終えると、ジュエル王女は夏休みは自国に帰ることになった。
やっと開放される、という気持ちしかなかった。
その時、休みはどうするか聞かれたので適当に答えたが、エリィのことを少し食い気味に質問してくる。
あんまり変なこと言うとエリィに火が飛ぶかもしれないな、と思い公爵家から言われて仲良くしている、とだけ言っておいた。
こう言っておけば、エリィに変なことはしないだろう。

今まで話せなかった分夏休みはエリィと沢山遊んで、街にも行きたい。
騎士団の祝賀パーティーにも来るだろうし、今年こそドレスを贈りたいな。そこで告白しよう。
そう思って浮かれていた。

エリィと会えない日々が続いたので手紙を書くが、最近は返事がこない。
まだ体調が悪いのかな?

手紙の返事がこないまま、夏休みに入り、久しぶりに見たエリィは母君の法事式典で素晴しい演奏と歌声を披露した。いつもとは違うその曲は圧倒的だった。
その歌声は尊く澄み渡り、天国へ届くようだった。歌詞には母君への思いが込められていて、強い愛を感じた。演奏はとても壮大でそこにいた者全てに感動を与えた。
そしてその姿は、気高かく美しくそして儚くもあった。讃歌の女神、と誰かが言っていた。

エリィの歌声を聞き終わった後、暫く余韻に浸っていた。
素晴しい演奏と歌声だ。エリィにしかできないな。
エリィ愛してる。早く私の妻にしたいよ。

話そうと思っていたが、既にエリィはいなかった。まぁこれからはいつでも会えるから今日は仕方がないか。

翌日手紙を出す。
昨日のエリィの様子からすると、もう体調も良くなったように見えた。
それなのに、やはりいくら待っても返事が来ない。

こんなことは今までなかった。
なかなか連絡取れずにいることに焦燥を募らせていた。

クリスは知らないの一点張りだし、フィルと公爵は一緒に聞いても何も答えてくれない。
一度屋敷にも行ってみたが、やはりエリィはいなかった。

やることは沢山あるのに、何ひとつ手に付かない。

それから一週間に一度は手紙を書いたが返事は全く来ない。
もしかしたら私は何か嫌われるようなことをしてしまったのだろうか?

クリスに聞いても、知らないの一点張りだった。お前はそれしか言えないのか。というか絶対知っていて黙っているだろ!
そんな悶々とした日々をやり過ごし夏休みももう少しで終わりだという頃、エリィからやっと手紙が届いた。

内容はそっけなかったが、手紙がきたという事実がとても嬉しかった。
パーティーには出席すると書いてあり、久々に会えることがとても楽しみだった。





パーティーでエリィを見つけた時、あまりにも雰囲気が変わっていることに驚いた。
式典で見た時は、儚げで脆くすぐにでも消えてしまいそうだった。しかし今は美しさに磨きがかかり、晴れ晴れとして気品と自信に満ち溢れていた。この2ヶ月で何があったのだろう。

ドレスで着飾った煌めく姿はうっとりする程美しく、本当に女神のようだと見惚れていた。

私の姿を見て「ヴィーク!」と呼ぶ笑顔を見て、一瞬息が止まった。

(エリィが欲しい。)

そう思った。

(どうやってもエリィが欲しい。私だけのものにしたい。)

そんな独占欲が生まれてきた。
どうしてあんなに待つことができたんだろう。
不思議で仕方がない。

「ねぇエリィ、話があるんだけど少し時間いいかな?」

逸る気持ちを抑え、できるだけ気取られないように話す。

「ごめんね、これからお父様の所へ行かないと。後でもいい?」

公爵の所へ行くなら仕方がないか。

「あぁ、じゃあ後で。」

「…エリィは後姿も美しいな。」

思わず口から出た言葉に、隣にいたカイルが反応する。

「エリィ、雰囲気変わりましたよね。殿下、いい加減告白したらどうです?告白しないなら私が告白しちゃいますよ?」

「うるさいな、タイミングがあるんだよ。」

皆と話していると演奏が止まり、ピアノの音が聞こえてきた。聞いたことがない曲だ。

そのうちに歌声が聞こえてくる。
とても澄んだ歌声。エリィだ。

見える位置に移動する。

ピアノを弾き楽しげに歌うその姿は本当に美しい。
しかし歌詞に出てくる『君』というのは、私ではないということは明白で、その事実は嫉妬心を掻き立てるのに十分だった。

(あぁ…やっぱり私にはエリィしかいない。)

じっと見つめていると、演奏が終わったエリィが脇をすり抜けて外へ出ようとしていたので、慌てて追いかける。思わず手を掴んでしまった。
細いな。少し力を入れたら折れてしまいそうだ。

「エリィ、相変わらず素晴しい歌だね。感動したよ。」

「ありがとう、ヴィーク。」

「なんか雰囲気が変わったね。すごく綺麗だよ。」

このまま私室に誘おうかと思っていたら、
お花を摘みに行きたいと言われてしまった。

「あ、ごめんね。引き止めちゃって。」

「いいのよ。またね。」

……また離してしまったな。
でも今日絶対に告白しよう。そう心に決めていた。

その後会場近くで待っていたがなかなか戻らないので、エリィを探しながら庭園をぶらぶらしていると誰かが抱き合っているのが見えた。

(あのドレスはエリィ?)

そう思い見ていると、レイノルド殿がエリィと抱き合っていた。

頭が真っ白になる。胸が苦しい。
なぜレイノルド殿が?
二人は知り合いなのか?というか、そういう関係なのか?一体いつから?
さっきの歌詞に出てきた『君』というのはレイノルド殿のことなのか?

エリィ達がこっちへ向かってきたが、そんな疑問で頭を抱えた私は立ち尽くしたまま動けずにいた。

「ヴィーク、こんなところでどうしたの?」

エリィの声ではっと我に返った。

「……いや、エリィの帰りが遅いなと思って探しに来たんだ。」

「そうだったの、ごめんね。ちょっと涼んでいたの。」

「そっか。」

「私はそろそろ帰るわね。お父様たちに挨拶しないと。」

「……うん。」

ベルリンツの鬼将軍として隣国にまで名を轟かすレイノルド殿を見ると、エリィを見る目がとても優しいことに気がつく。…止めろ。そんな目でエリィを見るな。

その後、馬車へ乗り込もうとするエリィに声をかける。落ち着いたところで話したいからと、私室へ連れ込んだ。

もうエリィが欲しくてたまらない。その欲求が爆発しそうだった。
少しずつ後ずさりするエリィを追いつめる私は、まるで小動物を追い詰める捕食者になった気分だ。

「なに?なにか怒っているの?」

ごめんね、怖がらせて。でもエリィが欲しいんだ。
そう思い、抱き締める。

小さくて柔らかい。温かい。いい香り。すべすべした肌。エリィを形造るなにもかもが好きだ。愛しくてたまらない。

「エリィ……エリィ。エリィ愛してる。愛してるんだ。」

やっと告白できた。

「……ヴィークはジュエル王女と結婚するのでしょう?」

少しの間を置き返ってきた言葉に絶句する。正直ジュエル王女は全く好みではない。

「……何それ?…誰がそんな事を言ったの?」

「ヴィーク、とりあえず離してくれる?」

「嫌だ。」

「痛いわ、離してヴィーク。」

「どうして私から離れようとするの?前は嫌がることなんてなかったのに。」

そう言いながら髪や顔を撫でる。

「愛してるんだ。お願いだ、エリィ。」

口づけしようとしたら、押し返されてしまった。

「なんで……」

拒否されたことがとてもショックだった。
しかしその後、エリィが言った言葉に頬を殴られたような気分になった。

「ヴィークがジュエル王女に、お父様に言われて仕方なく私と仲良くしてるって言っているのを聞いたわ。
あなたははっきりとそう言ってた。友達と思っていたのは私だけだったのでしょう?」

確かに仕方なく友達のふりをしていたよ。
だって、私は最初から友達だなんて思えなかったから。そう思い、言葉を慎重に選んだ。

「私は君のことは最初から友達だなんて思えなかったよ。今でも友達になってほしいと言ってしまった事をとても後悔している。」

「……そう。ごめんね……、私といるのは苦痛だったでしょう。」

「私は最初から君のことを愛していたんだ。最初から婚約者になってほしいと言えば良かった。私の妻になってエリィ。お願い。誰よりも愛してる。」

そう言うと感情を抑えきれなくなり、強引に口づけしてしまった。

柔らかい。いい香りだ。
もっと、もっと口づけしたい。もっと深く触れたい。
胸に顔を埋めてみると、衝撃的な柔らかさが顔に広がる。なんだこの感触……
胸元にも口づけを落とす。

止めてほしいと言っているのが聞こえるがもう止められそうにない。
ごめんね、エリィ。責任はとるから。

そう思ってドレスを脱がそうとすると、強く抵抗してきた。

「お願い、やめてヴィーク!今日は月のものがきていて、体調もあまり良くないの!!」

…月のものか。それは本当なのかな?

「私の提案を受け入れてくれるなら止めてあげるよ。」

「提案て?」

「私の妻になって。お願い。」

「即決はできないわ。考えるから。だからもう家に帰して。お願い。」

考えてくれるだけでも十分だ。エリィが私の方を向いてくれる方法を考えよう。

そう思い、馬車まで送る。
一体どうしたら振り向いてくれるんだろう。

馬車の方に行くとクリスがいるのを見た私は、咄嗟にエリィを抱き締める。クリスにさえ嫉妬してしまう私は心が狭いだろうか。

私の様子を見たクリスは焦ったように、

「ちょっと、何してるの!エリィにはまだ手を出さないって約束だっただろ!」

と言ってきた。

「さっき了解をもらった。」

「了解はしてないわ。考えるといっただけでしょ。それもかなり強引だったじゃない。」

そんなこと言わないでエリィ……。

「エリィ…もう待てないよ。お願い、私を選んで。」

「気持ちはわからなくもないけど、ちょっと落ち着こうよ。」

「落ち着いてなどいられない。
横から奪われようとしているのだぞ?」

いつの間にか私の腕をすり抜けたエリィは

「とりあえず今日は帰るわね。ではヴィーク、またね。」

と言い残し、馬車は行ってしまった。
    
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