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69,エリィの価値
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こんなはずではなかったのに。
レイノルド殿がいなければ上手くいったかもしれないのに。
いや、違うな。私がもたもたしていたからか。
あぁエリィ!今日会って愛してるって改めて実感したよ。湧き出る感情が抑えきれない。
会場に戻り覚悟を決めて、公爵の元へ行く。
「リフレイン公爵殿。ちょっとお時間よろしいでしょうか?」
「これはヴィークグラン殿下。どうされました?」
「エリィのことなのですが。」
「エリィがなにか?」
分かっているくせに本当に狸だな。
「率直に申し上げます。リフレイン公爵殿、エリィを私の妻にすることをお許し下さい。」
周りがざわつく。
その場にはレイノルド殿もいるが関係ない。それにこうすれば、もはや揉み消す事などできまい。覚悟を持っての行動だった。
「それは私が許すことではございません。
エリィの選ぶ者こそが私の許す者なのですよ。
エリィの前では皆公平です。
ですから殿下がエリィに選ばれたならば、私はあなたを歓迎しますよ。」
静かに見守っていた周囲だったが、
「では私にも立候補させていただけませんか?」
とレイノルドが横から入ってくる。
「では私にもその機会を。」
「私も立候補させていただきたいです。」
とカイルとユリウスもここぞとばかりに声をあげる。
この国の第二王子と公爵家の者、そして隣国の将軍と、錚々たるメンバーだ。
周りの者は皆興味津々である。
「……エリィは大人気だな。私は父として誇り高い。さて、誰がエリィの心を射止められるかな?」
と面白そうな顔をした公爵は続けた。
「私はこの件に関しては何もしない。射止めたければ自分でなんとかせよ。言っておくがエリィはもう儚いお嬢様などではないぞ!昔のままの可哀想なお嬢様ではないのだ。
皆の者も聞くがよい。
エリィは誰よりも努力をしている。エリィの幼少からの努力を甘く見るな。エリィは強い。さっきの歌が全てを物語っている。それを覚えておけ。」
リフレイン公爵のその言葉はその場にいた者の心に重く響いたのだった。
そしてこの出来事はすぐに貴族の間に知れ渡り、この件を知らないのは当事者であるエリナリーゼだけだった。
◆
パーティーの翌日、私は訓練場で土魔法の練習をしながらシドを待っていた。
先日土魔法で作った箱が少し歪なものだったのでもっと綺麗にできるようにしたいと思っていたのだ。
「お嬢、今日は土魔法の練習ですか?」
「シド!久しぶり!元気そうね。会いたかったわ!」
シドはいつもよりも顔色も良く、少し機嫌が良さそうだ。
「カームリーヒルはどうでした?」
「とっても楽しかったわ!シドにお土産を買ってきたのよ。はいこれどうぞ。」
「私にですか?」
アイテムボックスからシドに買ってきたお土産を渡す。ダークグレーの生地に白や金の上品な刺繍の入ったシドに似合いそうなローブを見かけて、一目惚れして購入したのだ。
気に入ってもらえたら嬉しい。
「シドにはお世話になってるからね。是非着てもらえると嬉しいわ。」
早速そのローブに腕を通したシドは、どことなく嬉しそうだ。
「どうです?似合いますか?」
「えぇ、とっても素敵よ。思った通りとても似合うわ。良かった。」
「ふっ、ありがとうございます、お嬢。では久しぶりに行きましょうか。」
そのロープに着替えたシドと共にいつもの山岳地帯へ来た。
ここに来たのは約3ヶ月ぶりだ。
もはや魔法の授業というよりも、シドとの時間を楽しむためだけにここに来ている。
一通り魔法を楽しんで屋敷に戻ってくると、フレディが私も転移魔法が使えるのか聞いてきた。おそらくカームリーヒルで転移魔法を使っていたのではないかと考えているのだと思う。
フレディがずっと私を陰ながら護衛をしていたことは知っている。申し訳ない気持ちもあるし、そろそろ種明かしをしよう。
「えぇ、転移魔法は短距離ならできるわ。」
おもむろに、フレディの目の前から上空に転移する。
下ではフレディがキョロキョロして私を探している。
「ここよ。」
やっと上を見たフレディは信じられないと開いた口が塞がっていない。
「すごい!本当に転移魔法を使えるとは……!」
「私はこのくらいしかできないけど、シドは長距離を転移することができるの。」
「いや、転移魔法など使えるだけで凄い事だと思いますよ。私もお嬢様の護衛としてもっと精進します!」
「私は魔法は得意だけど、体術は全くダメなの。だから接近戦は期待しているわよ?」
そう言うとフレディは少しだけ嬉しそうに顔を綻ばせた。
◆
後期が始まると、ユリウス様は授業が同じ時には常に私の隣りにいてニコニコ話しかけてくる。
それ自体はいつものことだけど、この人少し雰囲気が変わったわね。
まぁ2ヶ月もあれば変わるわよね。私だってこの2ヶ月でけっこう変わったと思うし。
ランチは前期ずっと行けなかったからと、ヴィークと二人のことが多くなった。
最初は少し気まずかったけど、誤解が溶けたのとジュエル王女がいなくなったことで私達の関係は元通りに近い形になっていった。
違うのはいつもヴィークが口説いてくることだ。
カイルは相変わらずだったけど、最近妙に優しい。
何か心境の変化でもあったのかしら?
そしてレイはこの国に少し滞在することになり、たまに屋敷に来てくれるようになった。
どうやら王都で会いたい人というのは、お父様だったようだ。
そんなある日、待ちに待ったニュースが舞い込んできた。
騎士団長をしているお父様やお兄様達に、
「そういえばブルーワイバーンを倒した冒険者が王都に来るそうね?」
と話を振った時に、
「あぁ、彼らなら明日王都に着くそうだ。レイノルド殿も興味津々でな。なかなか倒せない魔物だから、こっちでは大々的に取り上げられるだろうな。」
完全に丸投げしてしまったブルーワイバーンの件がこんな大事になってしまうとは予想外だった。このままシラを切り通せるかしら?
レイにも知られてしまったし、面倒なことになったらどうしよう。
そんな不安を抱えながらも、翌日私は学園が終わると動きやすい服装に着替えて冒険者ギルドへ向かったのだった。
ギルドの中は人で溢れかえっていた。どうやらブルーワイバーンを討伐した冒険者を一目見ようと集まってきたようだ。
ケイト達に会えないかな?と思い、私は全体を見渡せるところに立っていた。
暫くすると上階からケイト達が来るのが見えた。そっち側に行きたいけど、人が多くて行けなそうだ。
「ケイト!!」
呼んでみるものの、私は小さいので埋もれてしまっていた。しかし、突然私の前に道ができた。というか道を開けてくれた。
「「「リナ!!!」」」
ケイト達だ!
「みんな!3ヶ月ぶりね。元気だった?」
「リナも元気そうじゃん!」
「聞いたぜ?モテモテじゃないか!俺の嫁になるって話はどうなっちゃったのよ?」
とアイザックは何のことかわからないことを言ってくる。うん、これはスルーしていいやつね。
「ところでちょっと話があるんだけどいいか?」
「えぇ、私もそのつもりで来たのよ。」
ケイト達が泊まる宿屋へ場所を移す。
「ここなら誰にも話は聞かれないだろう。」
「密談にはもってこいね。」
「例の件、かなり大事になっちまったんだ。」
「本当にゴメンね。どうしよう?」
「俺らは魔法が使えないのになんで氷漬けにされてるんだ、とか倒した時の状況とかいろいろ聞かれてさ。今後ボロが出ることもあると思うんだ。」
「だからやっぱり本当のことを言わないか?」
「でも……」
「何でそんなに隠したがるんだ?」
「お父様達にバレたら心配されるどころの騒ぎじゃなくなっちゃうもの。」
「あぁ、そういうことか……」
「バレずに本当のことを言うのは無理なの?」
確かに、これ以上ケイト達に丸投げというわけにもいかないだろう。
もし後から本当のことがわかったら、彼らの立場も悪くなってしまう。
だったら今本当の事を言った方がいいに決まってる。私が怒られる程度で彼らの誇りが保てるならそうしよう。
「わかったわ。ちょっと相談してみるわね。明日また会える?」
「あぁ。明日もギルドに行くことになってるんだ。昼過ぎに呼び出し受けてるんだけど、来られるか?」
「わかったわ。じゃあお昼くらいにここに来るわね。」
「そうだな、一緒に行こうぜ。」
「うん、なんかごめんね。面倒なことに巻き込んじゃって。」
「いや、それは全然いいよ。それより久しぶりに会ったんだ、ちょっと付き合えよ!」
その日は少しだけお酒を飲んで、屋敷へ戻ったのだった。
レイノルド殿がいなければ上手くいったかもしれないのに。
いや、違うな。私がもたもたしていたからか。
あぁエリィ!今日会って愛してるって改めて実感したよ。湧き出る感情が抑えきれない。
会場に戻り覚悟を決めて、公爵の元へ行く。
「リフレイン公爵殿。ちょっとお時間よろしいでしょうか?」
「これはヴィークグラン殿下。どうされました?」
「エリィのことなのですが。」
「エリィがなにか?」
分かっているくせに本当に狸だな。
「率直に申し上げます。リフレイン公爵殿、エリィを私の妻にすることをお許し下さい。」
周りがざわつく。
その場にはレイノルド殿もいるが関係ない。それにこうすれば、もはや揉み消す事などできまい。覚悟を持っての行動だった。
「それは私が許すことではございません。
エリィの選ぶ者こそが私の許す者なのですよ。
エリィの前では皆公平です。
ですから殿下がエリィに選ばれたならば、私はあなたを歓迎しますよ。」
静かに見守っていた周囲だったが、
「では私にも立候補させていただけませんか?」
とレイノルドが横から入ってくる。
「では私にもその機会を。」
「私も立候補させていただきたいです。」
とカイルとユリウスもここぞとばかりに声をあげる。
この国の第二王子と公爵家の者、そして隣国の将軍と、錚々たるメンバーだ。
周りの者は皆興味津々である。
「……エリィは大人気だな。私は父として誇り高い。さて、誰がエリィの心を射止められるかな?」
と面白そうな顔をした公爵は続けた。
「私はこの件に関しては何もしない。射止めたければ自分でなんとかせよ。言っておくがエリィはもう儚いお嬢様などではないぞ!昔のままの可哀想なお嬢様ではないのだ。
皆の者も聞くがよい。
エリィは誰よりも努力をしている。エリィの幼少からの努力を甘く見るな。エリィは強い。さっきの歌が全てを物語っている。それを覚えておけ。」
リフレイン公爵のその言葉はその場にいた者の心に重く響いたのだった。
そしてこの出来事はすぐに貴族の間に知れ渡り、この件を知らないのは当事者であるエリナリーゼだけだった。
◆
パーティーの翌日、私は訓練場で土魔法の練習をしながらシドを待っていた。
先日土魔法で作った箱が少し歪なものだったのでもっと綺麗にできるようにしたいと思っていたのだ。
「お嬢、今日は土魔法の練習ですか?」
「シド!久しぶり!元気そうね。会いたかったわ!」
シドはいつもよりも顔色も良く、少し機嫌が良さそうだ。
「カームリーヒルはどうでした?」
「とっても楽しかったわ!シドにお土産を買ってきたのよ。はいこれどうぞ。」
「私にですか?」
アイテムボックスからシドに買ってきたお土産を渡す。ダークグレーの生地に白や金の上品な刺繍の入ったシドに似合いそうなローブを見かけて、一目惚れして購入したのだ。
気に入ってもらえたら嬉しい。
「シドにはお世話になってるからね。是非着てもらえると嬉しいわ。」
早速そのローブに腕を通したシドは、どことなく嬉しそうだ。
「どうです?似合いますか?」
「えぇ、とっても素敵よ。思った通りとても似合うわ。良かった。」
「ふっ、ありがとうございます、お嬢。では久しぶりに行きましょうか。」
そのロープに着替えたシドと共にいつもの山岳地帯へ来た。
ここに来たのは約3ヶ月ぶりだ。
もはや魔法の授業というよりも、シドとの時間を楽しむためだけにここに来ている。
一通り魔法を楽しんで屋敷に戻ってくると、フレディが私も転移魔法が使えるのか聞いてきた。おそらくカームリーヒルで転移魔法を使っていたのではないかと考えているのだと思う。
フレディがずっと私を陰ながら護衛をしていたことは知っている。申し訳ない気持ちもあるし、そろそろ種明かしをしよう。
「えぇ、転移魔法は短距離ならできるわ。」
おもむろに、フレディの目の前から上空に転移する。
下ではフレディがキョロキョロして私を探している。
「ここよ。」
やっと上を見たフレディは信じられないと開いた口が塞がっていない。
「すごい!本当に転移魔法を使えるとは……!」
「私はこのくらいしかできないけど、シドは長距離を転移することができるの。」
「いや、転移魔法など使えるだけで凄い事だと思いますよ。私もお嬢様の護衛としてもっと精進します!」
「私は魔法は得意だけど、体術は全くダメなの。だから接近戦は期待しているわよ?」
そう言うとフレディは少しだけ嬉しそうに顔を綻ばせた。
◆
後期が始まると、ユリウス様は授業が同じ時には常に私の隣りにいてニコニコ話しかけてくる。
それ自体はいつものことだけど、この人少し雰囲気が変わったわね。
まぁ2ヶ月もあれば変わるわよね。私だってこの2ヶ月でけっこう変わったと思うし。
ランチは前期ずっと行けなかったからと、ヴィークと二人のことが多くなった。
最初は少し気まずかったけど、誤解が溶けたのとジュエル王女がいなくなったことで私達の関係は元通りに近い形になっていった。
違うのはいつもヴィークが口説いてくることだ。
カイルは相変わらずだったけど、最近妙に優しい。
何か心境の変化でもあったのかしら?
そしてレイはこの国に少し滞在することになり、たまに屋敷に来てくれるようになった。
どうやら王都で会いたい人というのは、お父様だったようだ。
そんなある日、待ちに待ったニュースが舞い込んできた。
騎士団長をしているお父様やお兄様達に、
「そういえばブルーワイバーンを倒した冒険者が王都に来るそうね?」
と話を振った時に、
「あぁ、彼らなら明日王都に着くそうだ。レイノルド殿も興味津々でな。なかなか倒せない魔物だから、こっちでは大々的に取り上げられるだろうな。」
完全に丸投げしてしまったブルーワイバーンの件がこんな大事になってしまうとは予想外だった。このままシラを切り通せるかしら?
レイにも知られてしまったし、面倒なことになったらどうしよう。
そんな不安を抱えながらも、翌日私は学園が終わると動きやすい服装に着替えて冒険者ギルドへ向かったのだった。
ギルドの中は人で溢れかえっていた。どうやらブルーワイバーンを討伐した冒険者を一目見ようと集まってきたようだ。
ケイト達に会えないかな?と思い、私は全体を見渡せるところに立っていた。
暫くすると上階からケイト達が来るのが見えた。そっち側に行きたいけど、人が多くて行けなそうだ。
「ケイト!!」
呼んでみるものの、私は小さいので埋もれてしまっていた。しかし、突然私の前に道ができた。というか道を開けてくれた。
「「「リナ!!!」」」
ケイト達だ!
「みんな!3ヶ月ぶりね。元気だった?」
「リナも元気そうじゃん!」
「聞いたぜ?モテモテじゃないか!俺の嫁になるって話はどうなっちゃったのよ?」
とアイザックは何のことかわからないことを言ってくる。うん、これはスルーしていいやつね。
「ところでちょっと話があるんだけどいいか?」
「えぇ、私もそのつもりで来たのよ。」
ケイト達が泊まる宿屋へ場所を移す。
「ここなら誰にも話は聞かれないだろう。」
「密談にはもってこいね。」
「例の件、かなり大事になっちまったんだ。」
「本当にゴメンね。どうしよう?」
「俺らは魔法が使えないのになんで氷漬けにされてるんだ、とか倒した時の状況とかいろいろ聞かれてさ。今後ボロが出ることもあると思うんだ。」
「だからやっぱり本当のことを言わないか?」
「でも……」
「何でそんなに隠したがるんだ?」
「お父様達にバレたら心配されるどころの騒ぎじゃなくなっちゃうもの。」
「あぁ、そういうことか……」
「バレずに本当のことを言うのは無理なの?」
確かに、これ以上ケイト達に丸投げというわけにもいかないだろう。
もし後から本当のことがわかったら、彼らの立場も悪くなってしまう。
だったら今本当の事を言った方がいいに決まってる。私が怒られる程度で彼らの誇りが保てるならそうしよう。
「わかったわ。ちょっと相談してみるわね。明日また会える?」
「あぁ。明日もギルドに行くことになってるんだ。昼過ぎに呼び出し受けてるんだけど、来られるか?」
「わかったわ。じゃあお昼くらいにここに来るわね。」
「そうだな、一緒に行こうぜ。」
「うん、なんかごめんね。面倒なことに巻き込んじゃって。」
「いや、それは全然いいよ。それより久しぶりに会ったんだ、ちょっと付き合えよ!」
その日は少しだけお酒を飲んで、屋敷へ戻ったのだった。
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