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6.大事な話

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 座った途端に眠ってしまったようだ。気がつくと和人の肩に頭をもたれていた。自分で目を覚ました訳ではなく、もうすぐで駅に着くから起きて、と肩を揺すぶられてようやく目覚めた次第である。

 ちゃんと目的の駅で降りて和人の家に向かった。一時期彼の家に通い詰めていた時は床に実験器具や参考資料が散乱してたっけ。あの後なかなか行かなかったため久しぶりに敷地に入ることになる。正直どうなっていることやら。精神が安定していることだし、急に私を家に招くくらいであるし多少汚いくらいなのだろう。

そんな希望的観測をよそに足は目的地へ向かう。なぜか手は繋いだままである。駅を出るまでは寝ぼけてふらふらしていたので手を離すと危険だったためまだ納得できる。が、もう覚醒して足取りもしっかりしているのに離してくれないのは何故か。

「あの…そろそろ手を離しても…」

「だって凛乃さん、手離したらまたどこか行ってしまいそうだから…」

そんなうるうるとした目でこちらを見られても困る。その目には弱いのだ。

「私は別にどこにも行かないのに…」

なんて言いつつ固く握ってくれる自分よりも大きくて温かな手が頼もしくこのまま離れなくてもいいかと思ってしまった。

 気恥ずかしいけれどこのまま歩くこと30分。ようやく目的地に辿り着いた。
 
彼の後に続いて恐る恐る家に入ると想像よりはマシであった。この段階でようやく手を離してくれた。離した瞬間に即鍵とチェーンをかけた為、一瞬「監禁する気か」と思ってしまった。そんなことはしないであろうが。

 部屋に入るとどうにか2人とも何も物をどかすことなく座れそうな空間があった。下手に触って研究に影響を及ぼすのも嫌なのでその空間に座った。和人も正座して私の正面に座った。

「凛乃さん、会社辞めた方がいいんじゃないでしょうか?」

開口一番に何をのたまっているのだろうか。というのが真っ先に生じた。

「辞めたら生活できなくなる…」

「ここで一緒に住みませんか?幸い僕の稼ぎと貯金でどうにか生活はできると思うので…」

正直、仕事はつらい。だが、そこから逃げたら何かが崩れてしまう気がした。そして和人の稼ぎだけに頼る生活をしてしまうと、もし彼に何かあった時にまた捨てられてしまうのではないか…

黙ったまま何も言えなかった。普段なら私の回答をじっくり待ってくれる和人だがこの時は違った。

「率直に言って凛乃さんは休んだ方がいいと思います。体調もあまり良くなさそうですし。療養の形でもいいかと考えましたが、早く回復しないと、と焦ってしっかり休めなさそうなので一旦キッパリ仕事辞めて休みましょう?大丈夫です、凛乃さんは優秀なのですぐにまた仕事なんて見つかりますから。」

「休むのも辞めるのも逃げるみたいで嫌だ…」

「それの何がダメなんです?凛乃さん、顔色悪いですし様子がおかしくて心配なんですよ。周りの人に心配かけたいんですか?」

その言い方はずるい。仕事できなくても捨てられる、心配かけても捨てられる,どのみち結末が同じならせめて言うこと聞いた上での方がマシなのかもしれない。

「そんなことしたくない…」

「なら次の出社日に辞める旨伝えてきてくださいね!明日は休みですよね?病院行きますよ!それから引越し準備もね。」

こうしてなし崩しに同棲と退職が決まったのである。
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