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騎士団長、レオナルド
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一ヶ月かけて辺境へと辿り着いて、更にそこから一ヶ月が経った。辺境のヴァレンテインには小さな教会が一つと、そこにいる年老いた侍祭一人だけだった。水の王都ルーシアでは教会と治療院は別の建物であったが、ヴァレンテインでは二つは一緒くたにされていて、祈りを捧げる時間はほぼ無いに等しかった。何せ、治療が追いつかないのだ。
「ふぅ……」
「リーシャ様ー!こっちもお願いしますー!」
「は、はい!」
朝から晩まであっちにこっちにと駆けずり回り、魔物を討伐し怪我をした騎士たちを治療していく。幸いなのはあまり重傷者が出ないことだ。騎士たちもかすり傷程度では来ないことが多いが、やはり魔物の爪や牙によっては毒が入る可能性もあるため、こうやって何度も治療にやってくる。
治癒を使うのは大変だがやり甲斐もある。そうは思っても、リーシャはクタクタになるほど忙しかった。これを本当にあの年老いた侍祭一人でこなしていたのだとしたら、リーシャは今までの自分はぬるま湯に浸かっただけの人間だったのだと恥じた。
「リーシャ」
魔物の爪で腕を裂かれた騎士の傷を癒し、額の汗を行儀悪くも袖で拭った辺りで声をかけられた。肩を叩かれ、振り向くと、そこに居たのはヴァレンテイン騎士団の団長、レオナルドだった。
彼は騎士団長の名に恥じぬ猛者であった。体躯に恵まれ、リーシャとは比べるのも恥ずかしい筋肉に覆われた肢体。そして顔も甘いマスクにどこか野性味を帯びていて女性が放っておかないだろうなと感じさせた。
「レオナルド様! どうしたんですか、怪我でも」
「いや、俺は平気だ。食事でもどうかと思ってな」
「あ……いえ、僕はまだ…」
ちらりと沢山いる怪我をした騎士たちを見る。リーシャの手がまだまだ必要で、食事をとる時間はなさそうだった。
「レオナルド様、また今度でもよろしいでしょ…」
「いやいやいや!リーシャさん!俺たちもうバッチリクッキリハッキリ治ったんで!!大丈夫っす!」
「そ、そーっすよ! もう全員このとおり!元気ですから!!」
「え…?でも、まだ血が」
「こんなん唾でもつけときゃ治るっす!!」
騎士たちは全員スザザザザと後退りをする。リーシャの方を向いておらず、皆何故かリーシャの後ろにいるレオナルドを見ているようだった。
不思議に思ったリーシャがレオナルドへ振り返ると特に変わった様子はなく、目が合ったリーシャを見て、ふ、と微笑んだ。
「みんなこう言ってる事だし、どうだ?」
「ですが…やっぱり怪我が……」
「り、りりり、リーシャさん! 俺らはあのジーさんにやってもらうんで!平気っすから!!」
そーそー!と全員が口を揃えて言う。ジーさん、とはここに元々配属されていた侍祭の事だ。確かに彼は元々一人でここを回していたわけだし、無理ではないのかもしれないが、お年寄りに負担をかけるのは申し訳ない。そもそも侍祭の負担が大きいからリーシャがここに出向してきたはず。なので本当にこのまま食事に行っても良いか分からなくなって、騎士を見てはレオナルドを見て、キョロキョロとしてしまう。
「ジーさんもリーシャが来てからラクしすぎてる。まだピンピンしてるからたまには働かせた方がいいんだ。ボケるぞ」
「なんじゃと、聞き捨てならんな。レオナルド」
どこからともなく現れたのは、話の中心であった年老いた侍祭、ボドワールだ。
「リーシャに働かせて自分は楽してんの知ってんだぞ」
「今まで死ぬほど働いとったんだぞ!少しくらい休ませろ!」
「パワハラ上司かよ」
「お前に言われたくないわい」
テンポの良いやり取りを聞いていると、思わずリーシャはクスクスと笑った。この二人はこんな感じの喧嘩はしょっちゅうだ。最初はオロオロして聞いていたリーシャも、一ヶ月もすれば周囲と同じで、またかー、なんて思ってしまう。
「ボドワール様はお食事はとられましたか?」
「ワシはもう喰った。お主がまだじゃろ。ここはもうやるから、ほれ、行け行け」
シッシッとジェスチャーされてしまい、リーシャが戸惑っているとグイッと腰を強く引き寄せられてしまう。誰が、なんて見なくても分かる。レオナルドの大きくて筋のある腕で腰を掴まれればリーシャにもう逃げる術はない。
そのまま食堂の方へと向かって歩かれてしまうと、リーシャは苦笑しながら連れられていくしかないのだ。
「ふぅ……」
「リーシャ様ー!こっちもお願いしますー!」
「は、はい!」
朝から晩まであっちにこっちにと駆けずり回り、魔物を討伐し怪我をした騎士たちを治療していく。幸いなのはあまり重傷者が出ないことだ。騎士たちもかすり傷程度では来ないことが多いが、やはり魔物の爪や牙によっては毒が入る可能性もあるため、こうやって何度も治療にやってくる。
治癒を使うのは大変だがやり甲斐もある。そうは思っても、リーシャはクタクタになるほど忙しかった。これを本当にあの年老いた侍祭一人でこなしていたのだとしたら、リーシャは今までの自分はぬるま湯に浸かっただけの人間だったのだと恥じた。
「リーシャ」
魔物の爪で腕を裂かれた騎士の傷を癒し、額の汗を行儀悪くも袖で拭った辺りで声をかけられた。肩を叩かれ、振り向くと、そこに居たのはヴァレンテイン騎士団の団長、レオナルドだった。
彼は騎士団長の名に恥じぬ猛者であった。体躯に恵まれ、リーシャとは比べるのも恥ずかしい筋肉に覆われた肢体。そして顔も甘いマスクにどこか野性味を帯びていて女性が放っておかないだろうなと感じさせた。
「レオナルド様! どうしたんですか、怪我でも」
「いや、俺は平気だ。食事でもどうかと思ってな」
「あ……いえ、僕はまだ…」
ちらりと沢山いる怪我をした騎士たちを見る。リーシャの手がまだまだ必要で、食事をとる時間はなさそうだった。
「レオナルド様、また今度でもよろしいでしょ…」
「いやいやいや!リーシャさん!俺たちもうバッチリクッキリハッキリ治ったんで!!大丈夫っす!」
「そ、そーっすよ! もう全員このとおり!元気ですから!!」
「え…?でも、まだ血が」
「こんなん唾でもつけときゃ治るっす!!」
騎士たちは全員スザザザザと後退りをする。リーシャの方を向いておらず、皆何故かリーシャの後ろにいるレオナルドを見ているようだった。
不思議に思ったリーシャがレオナルドへ振り返ると特に変わった様子はなく、目が合ったリーシャを見て、ふ、と微笑んだ。
「みんなこう言ってる事だし、どうだ?」
「ですが…やっぱり怪我が……」
「り、りりり、リーシャさん! 俺らはあのジーさんにやってもらうんで!平気っすから!!」
そーそー!と全員が口を揃えて言う。ジーさん、とはここに元々配属されていた侍祭の事だ。確かに彼は元々一人でここを回していたわけだし、無理ではないのかもしれないが、お年寄りに負担をかけるのは申し訳ない。そもそも侍祭の負担が大きいからリーシャがここに出向してきたはず。なので本当にこのまま食事に行っても良いか分からなくなって、騎士を見てはレオナルドを見て、キョロキョロとしてしまう。
「ジーさんもリーシャが来てからラクしすぎてる。まだピンピンしてるからたまには働かせた方がいいんだ。ボケるぞ」
「なんじゃと、聞き捨てならんな。レオナルド」
どこからともなく現れたのは、話の中心であった年老いた侍祭、ボドワールだ。
「リーシャに働かせて自分は楽してんの知ってんだぞ」
「今まで死ぬほど働いとったんだぞ!少しくらい休ませろ!」
「パワハラ上司かよ」
「お前に言われたくないわい」
テンポの良いやり取りを聞いていると、思わずリーシャはクスクスと笑った。この二人はこんな感じの喧嘩はしょっちゅうだ。最初はオロオロして聞いていたリーシャも、一ヶ月もすれば周囲と同じで、またかー、なんて思ってしまう。
「ボドワール様はお食事はとられましたか?」
「ワシはもう喰った。お主がまだじゃろ。ここはもうやるから、ほれ、行け行け」
シッシッとジェスチャーされてしまい、リーシャが戸惑っているとグイッと腰を強く引き寄せられてしまう。誰が、なんて見なくても分かる。レオナルドの大きくて筋のある腕で腰を掴まれればリーシャにもう逃げる術はない。
そのまま食堂の方へと向かって歩かれてしまうと、リーシャは苦笑しながら連れられていくしかないのだ。
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