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お酒
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夜になって歓迎会の会場である村の中心にやってくると、そこは既にお酒で出来上がった村人やら騎士たちが仲良さげに肩を組んだり、話していたりとかなり自由な感じだった。
ボドワールからも『降臨祭やら豊穣祭を想像するな。パーティーっていっても馬鹿騒ぎしとるだけだ』と言われていた。まさかここまで無法地帯だとは思わなかった。だって突然筋肉自慢のために騎士や村人の男が脱ぎ始めたり、女性は舞台に立って踊ったり、酒の飲み比べをしていたりなんて想像もできなかった。
ちなみにボドワールには疲れたから寝る、とだけ言われてリーシャは行けと教会を追い出された。
「リーシャ、ここに居たのか」
「れ、レオナルド様…!」
小さくホッと息を吐いて胸を抑えた。自分で思っているより何倍も不安だったらしい。レオナルドの顔を見て、リーシャは安心したように微笑んだ。
「……驚いただろ。辺境なんていつ何時何があるか分からんからな。こうやってたまには己を解放しないとやってられない奴らが多いんだ」
「なる、ほど……」
だからと言って、突然池に身を投げだすのはどうかと思うが。リーシャはそれは言わないことにした。
「それより、ほら」
「え?」
「酒だよ。リーシャも少しでいいから飲め。主役だぞ」
「あ……でも僕、お酒は」
飲めない。飲めないというか、飲んだことがない。アルコールにはあまり興味もなかった。
「飲んだことねぇのか。なら一口飲んでみろ。ダメならやめとけ」
「あ……は、はい」
そう言って、レオナルドは飲み物を提供している屋台の店主に声を掛け、何かを頼んでいた。リーシャにはアルコールの種類もよく分からないので手渡された飲み物を両手で持った。
冷たく、水滴がついたグラスになんだか透明な部分と鮮やかなブルーが混ざり合わずに不思議に二つに分かれていた。こんな綺麗な飲み物があるのかと感心していると、レオナルドにほら、と促された。
ごくり、と緊張を飲み込む。初めての飲酒だ。えい、ままよ、とリーシャは少しだけ口に含んだ。
「……あれ、美味しい」
「ジュースみたいなもんだろ。飲みやすいやつ選んどいたんだよ」
「そうなのですか…、ありがとうございます」
レオナルドを見上げてお礼をしながら微笑む。やはりレオナルドは優しい。今もリーシャを見て慈しむように微笑んでくれている。
リーシャはこの村に来て良かったと思った。辺境にいても皆、とても幸せそうだった。水の王都ルーシアも別に不幸せという訳では無いが、神に祈りを捧げ、祈りを支えに生きている人がとても多い。それはそれで、スラーナディア神への信仰が厚い証拠となり得るので良いことではある。けれど、辺境ヴァレンテインはそれとはまた違った幸福を感じるのだ。
リーシャはどちらも美しいと感じた。ルーシアにはルーシアの。ヴァレンテインにはヴァレンテインの良いところが沢山ある。ここに来て本当に良かったとリーシャは思う。
「お、イケるねぇ。美味いか」
「はい。とても。レオナルド様…いつもありがとうございます」
リーシャは踊っている女性と、それを踊りに合わせて追いかける男性を見て微笑み、レオナルドを見上げた。
レオナルドの優しさに幾度となく支えられた。今もこうやって隣で暖かく支えるように立ってくれている。一人だったらきっと、リーシャは居場所を探せずとぼとぼと帰宅していただろうと想像した。
そう考えるからこそ、余計にレオナルドの優しさが嬉しかった。ふわふわとする中、漠然とそう思った。
「……口だけの礼じゃぁ、満足出来ねぇなぁ」
「え?」
どういう意味か分からず、リーシャは首を傾げようとしたが、リーシャのそれは失敗に終わる。
「んっ……!?」
レオナルドの顔が近い。目と鼻の先、という比喩が比喩でなくなるほどにすぐ近くなのだ。と思えば唇には温かく柔らかい感触がする。
アルコールのせいか、頭の回転が鈍くこれがキスだと気づいた時には既にレオナルドに押さえつけられていた。
リーシャとレオナルドの後ろに大きな木があった。その木はリーシャの背中に。そして前からはレオナルドか囲うように立っている。騎士服を着たレオナルドのマントのおかげで、恐らく周囲からは見えていないだろう、とまでは頭をなんとか考えさせた。けれど、リーシャの考察はそこまでだ。
「ぁ、ん……っ、ん、ぅ、んんっ……!」
レオナルドの唇が、リーシャの唇を食べてしまう。抵抗する間もなく、レオナルドの舌は暴挙に出る。リーシャの唇をこじ開けるように割り入って、ぴちゃぴちゃと音をわざとらしく立てながらリーシャの逃げる舌を追いかけてくる。時折口内のどこかに当たると身体が勝手にピクピクと反応してしまい、レオナルドは気を良くするのか更に厚い舌で暴れ回った。
「んっ、ふ、んぅ。ん……っ!」
呼吸が出来ない。苦しくてレオナルドの服をギュッと掴む。掴んだ手が勝手に力を失っていく。息も絶え絶えになって来た頃、ようやくレオナルドの唇はリーシャの唇を名残惜しそうに離した。
「ぁ……」
「潤んだ眼が色っぽいな。やっぱり普段禁欲的な姿だから余計にクるわ。その酒、美味いだろ?甘くて酒っぽくない味だけど立派な酒だよ。初心者や女子にはつよーい、お酒だ」
レオナルドのいつもの優しい笑顔じゃなかった。悪そうな笑顔だと頭のどこかで視認して、唇をもう一度塞がれて考えられなくなった。くちゅくちゅと唾液の混じる音が耳に響く。レオナルドの舌技で口腔内の全てが犯されていく。呼吸すら食べられてしまう感覚に、リーシャは身震いした。
「ぁ……れ、お……なるど、さま」
「かーぁいいねぇ。酒と酸欠と性欲でポヤポヤの顔してるよ」
レオナルドにマントで隠すように抱えられながら、皆の騒ぐ声がどこか遠くに聞こえていた。
ボドワールからも『降臨祭やら豊穣祭を想像するな。パーティーっていっても馬鹿騒ぎしとるだけだ』と言われていた。まさかここまで無法地帯だとは思わなかった。だって突然筋肉自慢のために騎士や村人の男が脱ぎ始めたり、女性は舞台に立って踊ったり、酒の飲み比べをしていたりなんて想像もできなかった。
ちなみにボドワールには疲れたから寝る、とだけ言われてリーシャは行けと教会を追い出された。
「リーシャ、ここに居たのか」
「れ、レオナルド様…!」
小さくホッと息を吐いて胸を抑えた。自分で思っているより何倍も不安だったらしい。レオナルドの顔を見て、リーシャは安心したように微笑んだ。
「……驚いただろ。辺境なんていつ何時何があるか分からんからな。こうやってたまには己を解放しないとやってられない奴らが多いんだ」
「なる、ほど……」
だからと言って、突然池に身を投げだすのはどうかと思うが。リーシャはそれは言わないことにした。
「それより、ほら」
「え?」
「酒だよ。リーシャも少しでいいから飲め。主役だぞ」
「あ……でも僕、お酒は」
飲めない。飲めないというか、飲んだことがない。アルコールにはあまり興味もなかった。
「飲んだことねぇのか。なら一口飲んでみろ。ダメならやめとけ」
「あ……は、はい」
そう言って、レオナルドは飲み物を提供している屋台の店主に声を掛け、何かを頼んでいた。リーシャにはアルコールの種類もよく分からないので手渡された飲み物を両手で持った。
冷たく、水滴がついたグラスになんだか透明な部分と鮮やかなブルーが混ざり合わずに不思議に二つに分かれていた。こんな綺麗な飲み物があるのかと感心していると、レオナルドにほら、と促された。
ごくり、と緊張を飲み込む。初めての飲酒だ。えい、ままよ、とリーシャは少しだけ口に含んだ。
「……あれ、美味しい」
「ジュースみたいなもんだろ。飲みやすいやつ選んどいたんだよ」
「そうなのですか…、ありがとうございます」
レオナルドを見上げてお礼をしながら微笑む。やはりレオナルドは優しい。今もリーシャを見て慈しむように微笑んでくれている。
リーシャはこの村に来て良かったと思った。辺境にいても皆、とても幸せそうだった。水の王都ルーシアも別に不幸せという訳では無いが、神に祈りを捧げ、祈りを支えに生きている人がとても多い。それはそれで、スラーナディア神への信仰が厚い証拠となり得るので良いことではある。けれど、辺境ヴァレンテインはそれとはまた違った幸福を感じるのだ。
リーシャはどちらも美しいと感じた。ルーシアにはルーシアの。ヴァレンテインにはヴァレンテインの良いところが沢山ある。ここに来て本当に良かったとリーシャは思う。
「お、イケるねぇ。美味いか」
「はい。とても。レオナルド様…いつもありがとうございます」
リーシャは踊っている女性と、それを踊りに合わせて追いかける男性を見て微笑み、レオナルドを見上げた。
レオナルドの優しさに幾度となく支えられた。今もこうやって隣で暖かく支えるように立ってくれている。一人だったらきっと、リーシャは居場所を探せずとぼとぼと帰宅していただろうと想像した。
そう考えるからこそ、余計にレオナルドの優しさが嬉しかった。ふわふわとする中、漠然とそう思った。
「……口だけの礼じゃぁ、満足出来ねぇなぁ」
「え?」
どういう意味か分からず、リーシャは首を傾げようとしたが、リーシャのそれは失敗に終わる。
「んっ……!?」
レオナルドの顔が近い。目と鼻の先、という比喩が比喩でなくなるほどにすぐ近くなのだ。と思えば唇には温かく柔らかい感触がする。
アルコールのせいか、頭の回転が鈍くこれがキスだと気づいた時には既にレオナルドに押さえつけられていた。
リーシャとレオナルドの後ろに大きな木があった。その木はリーシャの背中に。そして前からはレオナルドか囲うように立っている。騎士服を着たレオナルドのマントのおかげで、恐らく周囲からは見えていないだろう、とまでは頭をなんとか考えさせた。けれど、リーシャの考察はそこまでだ。
「ぁ、ん……っ、ん、ぅ、んんっ……!」
レオナルドの唇が、リーシャの唇を食べてしまう。抵抗する間もなく、レオナルドの舌は暴挙に出る。リーシャの唇をこじ開けるように割り入って、ぴちゃぴちゃと音をわざとらしく立てながらリーシャの逃げる舌を追いかけてくる。時折口内のどこかに当たると身体が勝手にピクピクと反応してしまい、レオナルドは気を良くするのか更に厚い舌で暴れ回った。
「んっ、ふ、んぅ。ん……っ!」
呼吸が出来ない。苦しくてレオナルドの服をギュッと掴む。掴んだ手が勝手に力を失っていく。息も絶え絶えになって来た頃、ようやくレオナルドの唇はリーシャの唇を名残惜しそうに離した。
「ぁ……」
「潤んだ眼が色っぽいな。やっぱり普段禁欲的な姿だから余計にクるわ。その酒、美味いだろ?甘くて酒っぽくない味だけど立派な酒だよ。初心者や女子にはつよーい、お酒だ」
レオナルドのいつもの優しい笑顔じゃなかった。悪そうな笑顔だと頭のどこかで視認して、唇をもう一度塞がれて考えられなくなった。くちゅくちゅと唾液の混じる音が耳に響く。レオナルドの舌技で口腔内の全てが犯されていく。呼吸すら食べられてしまう感覚に、リーシャは身震いした。
「ぁ……れ、お……なるど、さま」
「かーぁいいねぇ。酒と酸欠と性欲でポヤポヤの顔してるよ」
レオナルドにマントで隠すように抱えられながら、皆の騒ぐ声がどこか遠くに聞こえていた。
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