19 / 26
出立
しおりを挟む
それから一週間後、レオナルドはルーシアへ出立して行った。
いつも魔獣討伐に向かう騎士たちを送る時に安全を祈る気持ちとは違って、人を見送るのはこんなにも寂しいのかと思い知らされた。
帰ってくるのは少なくとも二ヶ月かかる。馬車で一ヶ月かかる距離なのだ。王都の滞在も含めると下手したら三ヶ月は帰ってこないかもしれない。
そんな風に聞かされたリーシャは出立の前日、寂しさを打ち消そうとばかりにレオナルドを求めた。
神殿生まれ、神殿育ちという環境で育った殆ど無欲に近いリーシャでも、恋人と離れ離れになるのは心細くて仕方なかった。もしかしたらレオナルドも同じ気持ちかもしれないと自惚れるくらいにはお互いに求め合ったような記憶がある。
もう一週間経つのに、自分の脳裏にその求め合った時のレオナルドの切なそうな瞳と汗ばんで重なり合う肌の温かさを思い出して恥ずかしくなった。
「リーシャさん? 風邪でも引いたかな?」
「へっ、あ、いや! だ、大丈夫です……!」
治癒をしてる最中だった。そんな最中に、恋人との最中を思い出していた事を更に恥ずかしく思い、リーシャは慌てて反省した。
「ははは。寂しいかい?」
「あはは……」
治癒をしている相手はレオナルドの腹心で副団長のディアスだ。
レオナルドの整った精悍な顔立ちも目立つが、ディアスも負けず劣らずの美しい顔立ちをしていた。男性らしさを持ちつつも美貌も兼ね備えているせいで、女性は声をかけられると全員目をハートにしていた。
「あの鬼団長が居ないだけで伸び伸び出来るんだけど、締まりがないのは困るなぁ」
「いえ、皆さん頑張って訓練してらっしゃるじゃないですか」
「うーん天使。ほんと、毒牙にかかってなきゃ私が……いや寒気がするな、なんでもないよ」
首を傾げるていると、ディアスは突然自らの身体を抱き締めるように震え出した。何かに怖がるその顔は、何かを思い出したのか恐怖に青くなっていた。
「けど国からの呼び出しに素直に王都に行っただけマシだね。今までずっと面倒だって断り続けてたんで」
「そうなんですか?」
「うん。辺境は国の防衛線だからね。ならず者に近い騎士たちをまとめあげて国を守るってことは英雄に等しい。そんな男を手放したくないんだよ」
うんうんと腕を組んで話すディアスに、改めて納得する。
水の王都、ルーシアにある神殿にいた時には辺境のことなど知りもしなかった。
魔獣討伐に向かい、帰ってくる騎士たちは多かれ少なかれ怪我をして帰ってくる。その怪我も大小様々で、リーシャが辺境ヴァレンテインに来てから死人は見ていないものの、大きな怪我で片腕が無くなった者や片足が動かなくなった者も居なくはない。
リーシャはその度に自分の今までの無知さと無力さを思い知る。ぬくぬくと神殿で育っていた裏ではこんな激しい戦いがあり、ここに来た今でも自分がやれる事など些事なのではないかと。
「褒賞与えるから国にもっと貢献しろってこと。まぁその辺はリーシャ様の方が詳しいんじゃないかな」
「……褒賞」
国から与えられるものは第一に金だ。防衛線である辺境が崩れれば、王都も危うくなる。そうならないために、何よりも必要なのは金であることは聖職者であるリーシャも理解している。
権力だって金と同意である。魔獣には意味がなくとも、ある程度の権威は時として金になる。そしてそれは剣にも盾にもなる。
「あと団長もまだまだ若いし、何より映えるし」
「映える?」
「そ。英雄らしく、モテてるでしょ」
こくり、と頷く。
辺境ヴァレンテインで最もモテるのは誰か、と聞かれたら十人中九人がレオナルドと答えるだろう。村娘も、村長の娘のフィーエも、どうやら領主の娘ですら狙っていると聞く。
それら全てに見向きもしないのは、ある意味豪胆と言うか、勿体ないとすら思ってしまったり。いや、かといって、今レオナルドの恋人と言うリーシャの地位を簡単に、はいどうぞとあげるつもりは無いのだけれど。
そんな男が王都にも名を馳せているのだ。王都でもモテないわけが無い。王都にいた頃、あまり美醜を気にしたことのなかったリーシャも、レオナルド程の整った顔は中々お目にかかれなかったと思う。いや、殆ど神殿から出てないのだけれども。
「だから、ご褒美のトップは女だね」
「……女」
上手くディアスの言葉を飲み込みきれないまま、目をぱちくりとさせて復唱した。
そんなリーシャに気づいたのか、彼は分かりやすい言葉に変えてくれる。
「つまり、結婚だね」
「結婚」
ディアスはニコニコと美しい顔を更に美しく、ハッキリと言った。
「結婚だよ。そりゃ、優秀な血は残せってなるよ。あと、女子供は国から出ていかないようにする為の一番簡単な方法だからね」
いつの間にか治癒をしていた手は止まり、ディアスの言葉に頭は混乱を極めていた。
ディアスの腕の傷はもう殆ど消えかけている。
「意地悪を言ってごめんね。私の勝手な想像だから、アイツは全部断るだろうし。気にしないで」
そう言われても、とても良い笑顔で言い放つ言葉はリーシャの頭をここまで混乱させたのに。
ニコニコしたまま席を立って、「治療ありがとう。またね」と手を振って去っていくディアスの背中をぼんやりと見つめるしか出来なかった。
いつも魔獣討伐に向かう騎士たちを送る時に安全を祈る気持ちとは違って、人を見送るのはこんなにも寂しいのかと思い知らされた。
帰ってくるのは少なくとも二ヶ月かかる。馬車で一ヶ月かかる距離なのだ。王都の滞在も含めると下手したら三ヶ月は帰ってこないかもしれない。
そんな風に聞かされたリーシャは出立の前日、寂しさを打ち消そうとばかりにレオナルドを求めた。
神殿生まれ、神殿育ちという環境で育った殆ど無欲に近いリーシャでも、恋人と離れ離れになるのは心細くて仕方なかった。もしかしたらレオナルドも同じ気持ちかもしれないと自惚れるくらいにはお互いに求め合ったような記憶がある。
もう一週間経つのに、自分の脳裏にその求め合った時のレオナルドの切なそうな瞳と汗ばんで重なり合う肌の温かさを思い出して恥ずかしくなった。
「リーシャさん? 風邪でも引いたかな?」
「へっ、あ、いや! だ、大丈夫です……!」
治癒をしてる最中だった。そんな最中に、恋人との最中を思い出していた事を更に恥ずかしく思い、リーシャは慌てて反省した。
「ははは。寂しいかい?」
「あはは……」
治癒をしている相手はレオナルドの腹心で副団長のディアスだ。
レオナルドの整った精悍な顔立ちも目立つが、ディアスも負けず劣らずの美しい顔立ちをしていた。男性らしさを持ちつつも美貌も兼ね備えているせいで、女性は声をかけられると全員目をハートにしていた。
「あの鬼団長が居ないだけで伸び伸び出来るんだけど、締まりがないのは困るなぁ」
「いえ、皆さん頑張って訓練してらっしゃるじゃないですか」
「うーん天使。ほんと、毒牙にかかってなきゃ私が……いや寒気がするな、なんでもないよ」
首を傾げるていると、ディアスは突然自らの身体を抱き締めるように震え出した。何かに怖がるその顔は、何かを思い出したのか恐怖に青くなっていた。
「けど国からの呼び出しに素直に王都に行っただけマシだね。今までずっと面倒だって断り続けてたんで」
「そうなんですか?」
「うん。辺境は国の防衛線だからね。ならず者に近い騎士たちをまとめあげて国を守るってことは英雄に等しい。そんな男を手放したくないんだよ」
うんうんと腕を組んで話すディアスに、改めて納得する。
水の王都、ルーシアにある神殿にいた時には辺境のことなど知りもしなかった。
魔獣討伐に向かい、帰ってくる騎士たちは多かれ少なかれ怪我をして帰ってくる。その怪我も大小様々で、リーシャが辺境ヴァレンテインに来てから死人は見ていないものの、大きな怪我で片腕が無くなった者や片足が動かなくなった者も居なくはない。
リーシャはその度に自分の今までの無知さと無力さを思い知る。ぬくぬくと神殿で育っていた裏ではこんな激しい戦いがあり、ここに来た今でも自分がやれる事など些事なのではないかと。
「褒賞与えるから国にもっと貢献しろってこと。まぁその辺はリーシャ様の方が詳しいんじゃないかな」
「……褒賞」
国から与えられるものは第一に金だ。防衛線である辺境が崩れれば、王都も危うくなる。そうならないために、何よりも必要なのは金であることは聖職者であるリーシャも理解している。
権力だって金と同意である。魔獣には意味がなくとも、ある程度の権威は時として金になる。そしてそれは剣にも盾にもなる。
「あと団長もまだまだ若いし、何より映えるし」
「映える?」
「そ。英雄らしく、モテてるでしょ」
こくり、と頷く。
辺境ヴァレンテインで最もモテるのは誰か、と聞かれたら十人中九人がレオナルドと答えるだろう。村娘も、村長の娘のフィーエも、どうやら領主の娘ですら狙っていると聞く。
それら全てに見向きもしないのは、ある意味豪胆と言うか、勿体ないとすら思ってしまったり。いや、かといって、今レオナルドの恋人と言うリーシャの地位を簡単に、はいどうぞとあげるつもりは無いのだけれど。
そんな男が王都にも名を馳せているのだ。王都でもモテないわけが無い。王都にいた頃、あまり美醜を気にしたことのなかったリーシャも、レオナルド程の整った顔は中々お目にかかれなかったと思う。いや、殆ど神殿から出てないのだけれども。
「だから、ご褒美のトップは女だね」
「……女」
上手くディアスの言葉を飲み込みきれないまま、目をぱちくりとさせて復唱した。
そんなリーシャに気づいたのか、彼は分かりやすい言葉に変えてくれる。
「つまり、結婚だね」
「結婚」
ディアスはニコニコと美しい顔を更に美しく、ハッキリと言った。
「結婚だよ。そりゃ、優秀な血は残せってなるよ。あと、女子供は国から出ていかないようにする為の一番簡単な方法だからね」
いつの間にか治癒をしていた手は止まり、ディアスの言葉に頭は混乱を極めていた。
ディアスの腕の傷はもう殆ど消えかけている。
「意地悪を言ってごめんね。私の勝手な想像だから、アイツは全部断るだろうし。気にしないで」
そう言われても、とても良い笑顔で言い放つ言葉はリーシャの頭をここまで混乱させたのに。
ニコニコしたまま席を立って、「治療ありがとう。またね」と手を振って去っていくディアスの背中をぼんやりと見つめるしか出来なかった。
212
あなたにおすすめの小説
竜帝陛下の愛が重すぎて身代わりの落ちこぼれ薬師は今日も腰が砕けそうです 〜呪いを解いたら一生離さないと宣言されました〜
レイ
BL
「死ぬ覚悟はできています。でも、その前に……お口、あーんしてください」
魔力を持たない「無能」として実家で虐げられていた薬師のエリアン。
彼に下されたのは、触れるものすべてを焼き尽くす「死の竜帝」ヴァレリウスへの、身代わりの婚姻だった。
氷の婚約者様に破談を申し出たら号泣された
楽矢
BL
目が覚めると、レースの牢獄のような天蓋付きベッドの上だった。
何も覚えていない出来損ない下級貴族ミラ。無能だクズだと冷酷な罵詈雑言を浴びせてくる氷の騎士セティアス。
記憶喪失から始まる、2人のファンタジー貴族ラブコメディ。
----------
※注)
かっこいい攻はいません。
タイトル通りそのうち号泣しますのでご注意!
貴族描写は緩い目で雰囲気だけお読みいただけると幸いです。
ハッピーエンドです。
激重感情をこじらせた攻→受な関係がお好きな同志の方、どうぞよろしくお願いします!
全16話 完結済み/現在毎日更新予定
他サイトにも同作品を投稿しています。
様子を見ながらそのうち統合するかもしれません。
初めての一次創作でまだよく分かっておらず、何かおかしなことをしでかしていたら申し訳ないです!
夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い
青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。
神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。
もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。
生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。
過去世と同じ轍を踏みたくない……
冤罪で堕とされた最強騎士、狂信的な男たちに包囲される
マンスーン
BL
王国最強の聖騎士団長から一転、冤罪で生存率0%の懲罰部隊へと叩き落とされたレオン。
泥にまみれてもなお気高く、圧倒的な強さを振るう彼に、狂った執着を抱く男たちが集結する。
愛してやまなかった婚約者は俺に興味がない
了承
BL
卒業パーティー。
皇子は婚約者に破棄を告げ、左腕には新しい恋人を抱いていた。
青年はただ微笑み、一枚の紙を手渡す。
皇子が目を向けた、その瞬間——。
「この瞬間だと思った。」
すべてを愛で終わらせた、沈黙の恋の物語。
IFストーリーあり
誤字あれば報告お願いします!
博愛主義の成れの果て
135
BL
子宮持ちで子供が産める侯爵家嫡男の俺の婚約者は、博愛主義者だ。
俺と同じように子宮持ちの令息にだって優しくしてしまう男。
そんな婚約を白紙にしたところ、元婚約者がおかしくなりはじめた……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる