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惹かれる side カシミール
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カシミール=グランティーノの日常に久しぶりに花が咲いた。
クラークとエメに相談した時には、辟易としていた。
イヴがどういうつもりで自分に治癒しているか分からない上に、下手くそな愛想笑いしかしない奴を信用なんか出来なかった。
けれど、彼はその時ばかりは真剣な顔をしたのだ。
『……私が、カシミールさんを好きだと言ったら、引きますか』
彼の真剣な顔を初めて見た。愛想笑いなんかではなく、真っ直ぐ見つめてくるイエローダイアモンドが煌めいていた。
いつもの軽薄そうな雰囲気などどこにもなかった。
覚悟を決めた眼をしていた。
それでも信じられなかった。
若干の人間不信が、俺にそうさせてくる。
しかし彼は、その上でさらに見返りを必要としないと言ったのだ。
付き合って欲しいから治癒した訳では無いのだと。
男だから引いたとかいう嫌悪感は不思議と感じなかった。
彼の顔がどちらかと言うと女性らしいこともあったのかもしれない。
彼が真剣ならば、私もそれを真剣に返す必要があると思った。
「イヴ、君のことがちゃんと知りたい」
手を繋ぎながらそう言うと、イヴは赤くなった頬を耳まで赤くしてしまっていた。
プラチナブロンドに朱はよく映えていた。
「あ、あの……、何を教えれば」
「そうだな。なんでもいいんだが、仕事は?」
「し、仕事……」
イヴは少しホッとしていた。案外普通の内容で安心しているようだった。
「騎士団の経理部です。今年から配属されました」
「それまでは学園の文官コースに?」
「は、はい。そうです…、去年卒業して、そのまま」
ゆっくりと話すがイヴの視線は定まらない。居た堪れないといった雰囲気が離れていかないようだった。
「治癒はいつから?」
「あ、えと。多分、小さい時から……? あんまり良く覚えてません。いつの間にかやってました」
「……小さい時から働かされてたのか」
カシミールが不機嫌な声色に変わったのが伝わったのか、イヴは慌てて首を横に振る。
「さ、最初は家族だけでした! 頭痛とかも治せると知ったのは十五、六くらいの時だったので。その辺から父の知り合いから広まって行きました」
「教会には行かなかったのか」
「……私はむしろ、怪我とかを治すのは得意ではないんです。内側に効かせる方が得意で。治療院に行っても稼げないだろうと、父に言われて、家で治癒をするようになりました」
イヴは俯いて話し始めた。
それは治癒することを誇りに思っている顔ではなかった。
「文官には、どうして」
「治癒師としては半端者です。 やはり戦場では役に立ちませんから。だから何か職についていないとダメだと思って文官になったのです」
「こんなすごいのに、片手間に治癒しているのか」
「……そうですね。スターム家では落ちこぼれの部類ですし。兄弟で1番治癒が上手いのは私の一つ上の兄です。彼は臓器の再建や骨折も簡単に治してみせます。治療院では有名人で、神の手と呼ばれています」
「ああ、そういえば一度世話になったことがあったな」
カシミールがそう言うと、イヴは突然こっちを見た。顔面が蒼白している。
「兄様に治療されるというのは、よっぽどの重症のはずです!」
「……訓練中、パックリ綺麗に切れた部分を、家の者が勝手に依頼したんだ。そんな凄い人物だと知らなかった」
傷自体は大したことはなかった。スターム家から来たというのは知っていたが、あまり治癒に興味はなかったため高名だとは知らなかった。
そういえば、どことなくイヴの面影に似ている人物だった。
「そ、そうですか……」
「君は、心配性なのか?」
明らかにホッとしている姿に尋ねる。
「え?心配性という程では……兄様が治療する人々は凄惨な姿のことが多いと伺っていたので……」
「じゃあ俺を心配したのか?」
「え?」
「……なんでもない」
イヴは意図に気づいたのか、また耳まで真っ赤に顔を染めていた。
今までの愛想笑いは一体なんだったのか。
イヴはとても分かりやすい表情にコロコロ変わる人だった。
「聞かれたくなかったら、悪いが。君は男が好きなのか?」
「うーん…男も女も大丈夫です。どっちともお付き合いしたことがあります」
イヴはケロッとした顔で言う。
カミングアウトはイヴにとってそこまで重要なことでは無いのだろう。
「女の子と付き合うと、癒されるし可愛いなーって思うんですけど、男と付き合うと楽なんですよね。言ってることが伝わりやすいというか…ほら、女の子って突然理由も分からず機嫌が悪くなるでしょう?」
「ああ……あれは困るな。機嫌が悪い理由を聞いても察しろと言ってくる」
「そうそう。その点、男はそういうのがあんまり無いんですよね。要求されることも分かりやすいですし、面倒がないというか。まぁ、ただ…男だと先は見えてますよね」
何かを思い出したように、へら、と笑って困ったように笑っていた。
「……結婚ということか」
「ええ、そうです。幸いこの国はその辺も寛容ではありますけど。それでも大体は子供が欲しい、って話になって終わりますね」
「君は子供が欲しくて女と付き合うのか?」
「……私はそんなに子供が好きじゃないので、別にって感じですかね。出来たら出来たってくらいです。まぁそういうのが伝わって長続きしないんでしょうねだから、あんまり恋愛には向いてないんです」
イヴは遠くを見る。イエローダイアモンドは空を映す。
「いつか、私と一生共に居てくれる人が現れるのを待ってるんですけどね」
悲嘆しているようには見えない。
ただありのままを言っただけのイヴに、どうしようもなく惹かれていくのが分かった。
クラークとエメに相談した時には、辟易としていた。
イヴがどういうつもりで自分に治癒しているか分からない上に、下手くそな愛想笑いしかしない奴を信用なんか出来なかった。
けれど、彼はその時ばかりは真剣な顔をしたのだ。
『……私が、カシミールさんを好きだと言ったら、引きますか』
彼の真剣な顔を初めて見た。愛想笑いなんかではなく、真っ直ぐ見つめてくるイエローダイアモンドが煌めいていた。
いつもの軽薄そうな雰囲気などどこにもなかった。
覚悟を決めた眼をしていた。
それでも信じられなかった。
若干の人間不信が、俺にそうさせてくる。
しかし彼は、その上でさらに見返りを必要としないと言ったのだ。
付き合って欲しいから治癒した訳では無いのだと。
男だから引いたとかいう嫌悪感は不思議と感じなかった。
彼の顔がどちらかと言うと女性らしいこともあったのかもしれない。
彼が真剣ならば、私もそれを真剣に返す必要があると思った。
「イヴ、君のことがちゃんと知りたい」
手を繋ぎながらそう言うと、イヴは赤くなった頬を耳まで赤くしてしまっていた。
プラチナブロンドに朱はよく映えていた。
「あ、あの……、何を教えれば」
「そうだな。なんでもいいんだが、仕事は?」
「し、仕事……」
イヴは少しホッとしていた。案外普通の内容で安心しているようだった。
「騎士団の経理部です。今年から配属されました」
「それまでは学園の文官コースに?」
「は、はい。そうです…、去年卒業して、そのまま」
ゆっくりと話すがイヴの視線は定まらない。居た堪れないといった雰囲気が離れていかないようだった。
「治癒はいつから?」
「あ、えと。多分、小さい時から……? あんまり良く覚えてません。いつの間にかやってました」
「……小さい時から働かされてたのか」
カシミールが不機嫌な声色に変わったのが伝わったのか、イヴは慌てて首を横に振る。
「さ、最初は家族だけでした! 頭痛とかも治せると知ったのは十五、六くらいの時だったので。その辺から父の知り合いから広まって行きました」
「教会には行かなかったのか」
「……私はむしろ、怪我とかを治すのは得意ではないんです。内側に効かせる方が得意で。治療院に行っても稼げないだろうと、父に言われて、家で治癒をするようになりました」
イヴは俯いて話し始めた。
それは治癒することを誇りに思っている顔ではなかった。
「文官には、どうして」
「治癒師としては半端者です。 やはり戦場では役に立ちませんから。だから何か職についていないとダメだと思って文官になったのです」
「こんなすごいのに、片手間に治癒しているのか」
「……そうですね。スターム家では落ちこぼれの部類ですし。兄弟で1番治癒が上手いのは私の一つ上の兄です。彼は臓器の再建や骨折も簡単に治してみせます。治療院では有名人で、神の手と呼ばれています」
「ああ、そういえば一度世話になったことがあったな」
カシミールがそう言うと、イヴは突然こっちを見た。顔面が蒼白している。
「兄様に治療されるというのは、よっぽどの重症のはずです!」
「……訓練中、パックリ綺麗に切れた部分を、家の者が勝手に依頼したんだ。そんな凄い人物だと知らなかった」
傷自体は大したことはなかった。スターム家から来たというのは知っていたが、あまり治癒に興味はなかったため高名だとは知らなかった。
そういえば、どことなくイヴの面影に似ている人物だった。
「そ、そうですか……」
「君は、心配性なのか?」
明らかにホッとしている姿に尋ねる。
「え?心配性という程では……兄様が治療する人々は凄惨な姿のことが多いと伺っていたので……」
「じゃあ俺を心配したのか?」
「え?」
「……なんでもない」
イヴは意図に気づいたのか、また耳まで真っ赤に顔を染めていた。
今までの愛想笑いは一体なんだったのか。
イヴはとても分かりやすい表情にコロコロ変わる人だった。
「聞かれたくなかったら、悪いが。君は男が好きなのか?」
「うーん…男も女も大丈夫です。どっちともお付き合いしたことがあります」
イヴはケロッとした顔で言う。
カミングアウトはイヴにとってそこまで重要なことでは無いのだろう。
「女の子と付き合うと、癒されるし可愛いなーって思うんですけど、男と付き合うと楽なんですよね。言ってることが伝わりやすいというか…ほら、女の子って突然理由も分からず機嫌が悪くなるでしょう?」
「ああ……あれは困るな。機嫌が悪い理由を聞いても察しろと言ってくる」
「そうそう。その点、男はそういうのがあんまり無いんですよね。要求されることも分かりやすいですし、面倒がないというか。まぁ、ただ…男だと先は見えてますよね」
何かを思い出したように、へら、と笑って困ったように笑っていた。
「……結婚ということか」
「ええ、そうです。幸いこの国はその辺も寛容ではありますけど。それでも大体は子供が欲しい、って話になって終わりますね」
「君は子供が欲しくて女と付き合うのか?」
「……私はそんなに子供が好きじゃないので、別にって感じですかね。出来たら出来たってくらいです。まぁそういうのが伝わって長続きしないんでしょうねだから、あんまり恋愛には向いてないんです」
イヴは遠くを見る。イエローダイアモンドは空を映す。
「いつか、私と一生共に居てくれる人が現れるのを待ってるんですけどね」
悲嘆しているようには見えない。
ただありのままを言っただけのイヴに、どうしようもなく惹かれていくのが分かった。
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