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馬車
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「それで今日から兄様の迎えが来るんだ」
ジナルマーに状況を聞かれた。今までジナルマーとヴィオレットが一緒に帰宅していたようだったが、今日から別々になったことから不思議に思ったらしく、俺に尋ねてきたのだ。
「うーん…それでランディが引いてくれるのかな?」
「…引いてくれないと困る。ぶっちゃけヴィオレットも困っていそうだった」
「兄様が困ってるのはノエルのことだと思うよ」
よく意味が分からなくて首を傾げてジナルマーを見る。ジナルマーの王子様のような顔の眉が下がっていた。
「俺?」
「そうだよ。指一本触れない約束のまま守ってくれてるんだから。物理的なことからは結構難しいと思うよ?」
「…物理的」
「ランディに迫られたり、チンピラに絡まれたり。ノエルの問題行動から守るのって結構骨が折れてると思うなー。僕たちも子供だけど、兄様だってまだ子供だし」
言われて、確かにと思ってしまった。いくら大人びていようとも、まだ十四のガキだ。そこらの大人より頼りになるのでつい甘えてしまっていた。
「…問題行動って言ったって。問題が向こうからやってくるんだから仕方ないだろ」
「そうかもしれないけど、多少は兄様の苦労も分かってあげてよって言いたいの」
ぐ。今まで溺愛されていた弟だからこそ分かる何かがあるのだろうか。
だからって俺も引くわけにはいかない。ここでそうだよな…なんて理解を示した日にはBL展開待ったなしだ。
「…いや、お前もしかして結構ブラコ」
「何?ノエル。なんか言いたいことでもある?」
「…あ、ありません…」
王子様スマイルが全く笑っていない。目が笑っていない。
「とにかく、放課後は待ってるんだね。僕も一緒に待とうか?」
「いや。待たせるの悪いし、先に帰ってくれ。ヴィオ様もなるべく早く来るって言ってたしな」
「…まるで姫みたいだね」
「やめてくれ!」
ジト…とした目で見られたが、想像すら本気でやめて欲しくて俺は叫んだ。
そして放課後になるとライとテーヴ、ジナルマーと別れ、学園の馬車停留所で待っていた。色んなやつの迎えの馬車が来るのでそれをボーッと眺めていた。
そして俺はようやく周りの雰囲気に気づいた。
…馬車には乗合していることが多かった。おそらく婚約者か恋人を乗せている。だってエスコートしているのだ。なぜ今まで気づかなかったのか…いや、見たくなかったから気づかないふりをしていたんだと思う。
あ、あっちも男同士…え、女性少なくないか?あそこも男同士…
「え?やっぱこの世界の俺詰んでる?」
「なんの話をしているんだ」
「うわ!」
ポツリと呟いた俺の後ろから突然声がかかる。驚いて飛び上がって後ろを振り返ると、そこには元凶、ランディが立っていた。
「馬車待ちか。来ないのか?」
「い、いや…!来る!ヴィオ様が迎えに来る!」
「…これまで迎えに来なかったのに、急に?」
なんで知ってるんだよ!怖い!
「あ、あー…やっぱり心配だからって…俺が迎えは良いってずっと言ったから今までなかっただけで…」
「脅されたのか」
「脅されてない!」
ただ単にエスコートすると契約を破ることになるから、ヴィオレットが遠慮していただけだったとはとてもじゃないが言えない!約束自体は脅しだが、その脅しに俺は現在守られている。この守りがランディにバレた暁には一体何をされるか分かったものじゃない!
「俺は脅されてない!それはずっと言ってる!」
「じゃあ望んで婚約したのか」
「うぐ」
ああ。俺の素直で正直な一面が勝手に顔を出す。
そういえば、転生する前の日本の母さんにも「あんたのいい所は素直なところだけどダメなところはすぐに顔に出すところよね。ほんと詰めが甘いっていうか……」と言われた気がする。
俺って全く成長してなくないか?
詰めが甘いのもヴィオレットに散々してやられてきてるしな。
そう思って居ると、ランディの顔がグッと近くにあって思わず仰け反る形になる。
「ちょ……!」
近い近い!
「ノエル。婚約者がいるのは分かってる。けど俺ならノエルを脅したりしないし、守ってもやれる」
ランディは俺の手首を掴むと、キリッと眉を持ち上げて言った。
「……つまり?」
「婚約破棄して俺と婚約して欲しい。でなければ今すぐここからノエルを攫う」
「脅してんじゃねぇか!」
つい俺が我慢できずに叫ぶと、俺の横に馬車が停車した。
あ、と思った瞬間にはもう遅かった。ランディが掴む腕を振り払うことも出来なかったのは、この憎いまでに筋肉のつきにくい腕力のせいだ。
馬車のドアが開くのが、スローモーションのように感じる。
そしてカツッと靴の音を響かせてドアから姿を現す。
「俺の婚約者に何してんだこのクソガキ」
ランディと共に何故か俺も顔を真っ青にしたのは、あのチンピラから守ってくれた時の魔王が降臨したからだった。
ジナルマーに状況を聞かれた。今までジナルマーとヴィオレットが一緒に帰宅していたようだったが、今日から別々になったことから不思議に思ったらしく、俺に尋ねてきたのだ。
「うーん…それでランディが引いてくれるのかな?」
「…引いてくれないと困る。ぶっちゃけヴィオレットも困っていそうだった」
「兄様が困ってるのはノエルのことだと思うよ」
よく意味が分からなくて首を傾げてジナルマーを見る。ジナルマーの王子様のような顔の眉が下がっていた。
「俺?」
「そうだよ。指一本触れない約束のまま守ってくれてるんだから。物理的なことからは結構難しいと思うよ?」
「…物理的」
「ランディに迫られたり、チンピラに絡まれたり。ノエルの問題行動から守るのって結構骨が折れてると思うなー。僕たちも子供だけど、兄様だってまだ子供だし」
言われて、確かにと思ってしまった。いくら大人びていようとも、まだ十四のガキだ。そこらの大人より頼りになるのでつい甘えてしまっていた。
「…問題行動って言ったって。問題が向こうからやってくるんだから仕方ないだろ」
「そうかもしれないけど、多少は兄様の苦労も分かってあげてよって言いたいの」
ぐ。今まで溺愛されていた弟だからこそ分かる何かがあるのだろうか。
だからって俺も引くわけにはいかない。ここでそうだよな…なんて理解を示した日にはBL展開待ったなしだ。
「…いや、お前もしかして結構ブラコ」
「何?ノエル。なんか言いたいことでもある?」
「…あ、ありません…」
王子様スマイルが全く笑っていない。目が笑っていない。
「とにかく、放課後は待ってるんだね。僕も一緒に待とうか?」
「いや。待たせるの悪いし、先に帰ってくれ。ヴィオ様もなるべく早く来るって言ってたしな」
「…まるで姫みたいだね」
「やめてくれ!」
ジト…とした目で見られたが、想像すら本気でやめて欲しくて俺は叫んだ。
そして放課後になるとライとテーヴ、ジナルマーと別れ、学園の馬車停留所で待っていた。色んなやつの迎えの馬車が来るのでそれをボーッと眺めていた。
そして俺はようやく周りの雰囲気に気づいた。
…馬車には乗合していることが多かった。おそらく婚約者か恋人を乗せている。だってエスコートしているのだ。なぜ今まで気づかなかったのか…いや、見たくなかったから気づかないふりをしていたんだと思う。
あ、あっちも男同士…え、女性少なくないか?あそこも男同士…
「え?やっぱこの世界の俺詰んでる?」
「なんの話をしているんだ」
「うわ!」
ポツリと呟いた俺の後ろから突然声がかかる。驚いて飛び上がって後ろを振り返ると、そこには元凶、ランディが立っていた。
「馬車待ちか。来ないのか?」
「い、いや…!来る!ヴィオ様が迎えに来る!」
「…これまで迎えに来なかったのに、急に?」
なんで知ってるんだよ!怖い!
「あ、あー…やっぱり心配だからって…俺が迎えは良いってずっと言ったから今までなかっただけで…」
「脅されたのか」
「脅されてない!」
ただ単にエスコートすると契約を破ることになるから、ヴィオレットが遠慮していただけだったとはとてもじゃないが言えない!約束自体は脅しだが、その脅しに俺は現在守られている。この守りがランディにバレた暁には一体何をされるか分かったものじゃない!
「俺は脅されてない!それはずっと言ってる!」
「じゃあ望んで婚約したのか」
「うぐ」
ああ。俺の素直で正直な一面が勝手に顔を出す。
そういえば、転生する前の日本の母さんにも「あんたのいい所は素直なところだけどダメなところはすぐに顔に出すところよね。ほんと詰めが甘いっていうか……」と言われた気がする。
俺って全く成長してなくないか?
詰めが甘いのもヴィオレットに散々してやられてきてるしな。
そう思って居ると、ランディの顔がグッと近くにあって思わず仰け反る形になる。
「ちょ……!」
近い近い!
「ノエル。婚約者がいるのは分かってる。けど俺ならノエルを脅したりしないし、守ってもやれる」
ランディは俺の手首を掴むと、キリッと眉を持ち上げて言った。
「……つまり?」
「婚約破棄して俺と婚約して欲しい。でなければ今すぐここからノエルを攫う」
「脅してんじゃねぇか!」
つい俺が我慢できずに叫ぶと、俺の横に馬車が停車した。
あ、と思った瞬間にはもう遅かった。ランディが掴む腕を振り払うことも出来なかったのは、この憎いまでに筋肉のつきにくい腕力のせいだ。
馬車のドアが開くのが、スローモーションのように感じる。
そしてカツッと靴の音を響かせてドアから姿を現す。
「俺の婚約者に何してんだこのクソガキ」
ランディと共に何故か俺も顔を真っ青にしたのは、あのチンピラから守ってくれた時の魔王が降臨したからだった。
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