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友人セティ
しおりを挟む「ただいまぁ。久しぶり、カッツェ」
「久しぶりです。おかえりなさい、セティ」
カッツェより若干低い身長で明るい栗色の髪をした可愛らしい友人はセティ。
学院での友人でもあり、兄の護衛の弟でもある。
カッツェたちは二人兄弟なのに対し、セティは兄弟が多い。レゲンデーアは侯爵の爵位であり、セティの家族は子爵領である。跡継ぎはもちろんセティやその護衛の兄でもない。
「フレイ兄様にね、『カッツェ様にくれぐれも迷惑はかけないこと』って念を押されちゃった」
「迷惑なわけないですよ。旅行は楽しかったですか?」
寛げるようにソファへ誘導しながら話すと、セティは可愛らしく大きく身振り手振りをしながら興奮した様子で話し始めた。
「あのね、こーんな大きな雪の塊がね、あったの。すごいよ、こーんな大きいの。ぼくの倍の倍の倍くらいあったの」
「それは盛ってませんか?」
「むむっ、盛ってないよ。本当に大きかったの。それがね、ドラゴンの形しててね……」
それからセティは興奮した様子でやはり身振り手振りを加えて一生懸命カッツェに伝えてくれる。
セティは少しだけ幼い。二十歳で同い年だが教育が行き届いていないところがあるせいだ。けれど心根は純粋無垢で優しさそのもので、カッツェはまるで絵本の中に入り込んだ気分になれる。
セティの真ん丸な大きな瞳がキラキラと輝いている。本当に素敵な旅行だったのが伝わってきた。
「でね、でね。フレイ兄様が…また行こうって言ってくれたの」
「そうなんですね。良かったですね」
「うん…。嬉しい。早く次の旅行にならないかなぁ」
「フレイにとったら休みではなく、遠征だったのでしょう?そんなすぐには行きませんよ」
クスリと笑いながらメイドが準備した紅茶を口に含んだ。
フレイとは、さっきも説明した通りセティの兄であり、兄のレーヴェの護衛という立場だ。
今回はレーヴェと共に治水工事の遠征に行ってきた帰りだ。セティは別の馬車で帰ってきたようでレーヴェよりも後に到着したようだ。
「楽しかったようで何よりです。セティ、フレイとは進展しましたか?」
「あっ…………うん。す、少し…少しだけね」
カッツェの問いかけに真っ赤にモジモジと答えるセティは、フレイと兄弟であるが血は繋がっていない。母親が違うのだ。セティの母は踊り子で、フレイの母は男爵家である。
セティの母はセティを産んで直ぐに亡くなり、その後子爵はセティを自分の子だと認めた。そのおかげでセティは貴族の身分となっている。
そこまではなんの憂いもなく穏やかに過ごせていたようだったが、セティはフレイに兄以上の感情を抱いてしまった。
その日から穏やかな日常は、脆くも崩れ去ってしまったとセティは泣きながら話したのを覚えている。
「不躾で下品な事を聞いてしまいますが…どこまで?」
「どっ……!ど、どこも……ないよ……ううう……」
「セティ?」
「………………ちゅー、した」
さっきまで大袈裟なくらい元気よく話していたのに、ウブなセティは頭のてっぺんまで真っ赤になってボソボソと話す。
可愛いとはセティのような人のことを指すのだなと思う。
「うふふふふ」
「うううう……恥ずかしいよぉ」
カッツェは耐えきれずニヤけてしまう。
セティは熱く火照る顔を抑えながらプシューっと頭から湯気を出していた。
「セティの告白が上手くいって本当に良かったです」
「フレイ兄様は…本当に優しいんだ。ぼくなんかにも」
「セティ?」
「あう」
セティの悪い癖だ。
セティは踊り子の母のことを悪くは言わない。けれど周囲はそうでは無い。セティは穏やかな日々を過ごしてはいたものの、やはり心無い言葉に何度も傷つけられてきた。『ぼくなんか』というのは最早口癖になってしまっていた。
「フレイにまた言っておかないとですね」
「や、やだ…もう言わないから、フレイ兄様には言っちゃやだ……」
「……今回は聞かなかった事にしましょう」
ホッと胸を撫で下ろすセティ。
フレイは無口で基本的に表情を動かすことは無い。周囲の人間たちも何を考えているのか分からないと愚痴をこぼすほどだ。けれどそんなフレイが唯一感情を大きく表す時がある。それが、セティ自身が自分を卑下する時だ。
死ぬほど悲しい顔をして静かに怒るらしい。怖いのと辛いので胸がぐちゃぐちゃになるほど苦しくなるとセティは話した。
「セティは僕の自慢の友人ですよ?そんな風に言っては僕も悲しくなります」
「……ごめんなさい」
「それで。キス以外はしましたか?」
「し、ししししてない。してない……っ
っ」
落ち込んだと思いきやすぐに顔を真っ赤にしたセティを見て、やっぱり可愛いなと思うのだった。
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