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第11話
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「さて、アリク兄さまは遊撃隊を率いて、横から奇襲で少しずつ敵を殲滅させる作戦でいくようだけど、アリク兄さまといえど流石にギャラストの軍を全滅させるのは時間が足りないし骨が折れるだろう。私はどうしたものか」
アイラの発言からだと、まるで時間があれば全滅は可能であると断言しているようである。
事実、時間をかければアリクの率いる遊撃隊は、ギャラストが差し向けた軍を全滅させることは可能であろう。
しかし、それを待っていては少なくない被害を国が被り、遊撃隊にも犠牲者が出る可能性も無視できない。
それに、例えアリクと言えど体力の限界は存在する。
回復する暇を持たせずに攻められる兵力の差がある内は、反撃されない位置で少しずつ相手の兵力を削るしかできない。
黒狗の調査では、ギャラストが差し向けた軍は凡そ5000万、兵糧部隊も併せているといえど、かなりの軍隊を差し向けたようである。
この戦争の意図を理解しなければ、自国防衛のためシルヴェスター家の総力で敵を全滅させる選択しかできない。
仕掛けてきたのはあちらだが、5000万の命を刈り取るのは忍びない。
となれば、私はとりあえず、この戦争を仕掛けた奴の炙り出しと、アリク兄さまの襲撃方向を誘導しようか。
アリク兄さまもシルヴェスター家のものではあるが、戦闘特化タイプなので、頭を使う頭脳戦は苦手だ。
最初はまだ良いが時間が経てば経つほど、奇襲が雑になり、兵力の差にものを言わせた反撃をされるかもしれない。
そうならないためにも、私が兄の代わりに兵の位置などを計算し、反撃できない場所を奇襲させるようにしなければ。
ああ、でも少々面倒な問題があるな。
ギャラストがどうやって開発したかは不明だが、火縄銃は中世の時代では対策が難しい。
ああでも、そうだ、この世界には乙女ゲームが基盤になっているからか、万能と言ってもいいレベルの魔法が存在する。
それを使えば対策はできるな。
我が兄は一族の中ではそれほど魔法が得意でない部類ではあるが、それは一族基準での話である。
他国や自国内での平均的な実力に照らし合わせるならば一流と言ってもいいだろう。
それに火縄銃の対策程度であれば風と水の魔法がある程度使えれば火薬を無力化できるはず。
確か兄さまの部隊にも水魔法が得意な人物がいたはず。
対策方法はどう伝えるべきか…
アイレイシアが色々と考えている頃、アリウェルクの方はというと。
「た、隊長ーそんなに飛ばされたら俺ら追いつけなくなるんだけどー」
ものすごい速さで馬を駆けさせるアリクを必死に追いかける遊撃隊の姿があった。
発言はおちゃらけた雰囲気ではあるが、その実、言葉通りこのままのペースで進められると近いうちに彼らが騎乗する騎馬が体力の限界で力尽きるだろう。
アリクが騎乗している馬はシルヴェスター家が一族一人一人に与える自慢の駿馬で、通常軍用馬として育成されるものよりも数段上の能力を有している。
遊撃隊はシルヴェスター家の私軍扱いなのでシルヴェスター家が所有する馬に乗ってはいるが、一族が一人一人与えられる駿馬と比べると数段劣る。
彼らに与えられるほどの数がないというのもあるので、仕方ないといえば仕方ないのだが、頭に血が上ったアリクはそのことをうっかり忘れ頭から追いやっていた。
仕方ないので、隊長のことをよく理解している遊撃隊の全員は声を合わせて、こう言った。
「「あ!あそこにアイラ様が!!」」
「!」
妹バカであるアリクはその声に、一度馬を止めて部下が指さす方向に視線を向ける、のを通り越してそちらに向かって行った。
「・・・・・」
遊撃隊の皆は、声に反応して一度止まると踏んでいたが、怒りで暴走気味の妹バカを甘く見ていたようだった。
そして、彼らが当初の予定通り休憩できると安堵するのはまだ先の話である。
「で?俺の可愛いアイラはどこにいたんだ?」
アリクは彼らの願い通り、馬から降りていたが、部下全員を捕縛用として用意していた縄で縛りあげていた。
その様はまるで尋問をしているよう、いやまるで、ではなくこれは尋問していると言える光景だろう。
「隊長が悪いんですよ、俺らの馬の体力無視して全速力で走るからー」
縄でぐるぐる巻きにされた、遊撃隊副隊長カイトがそう答えた。
「それはすまなかったと思っている、早くギャラストの馬鹿どもをひねりつぶしたくて気が急いていた」
自分の非を認め謝るが、それだけでは終わらなかった。
「しかし、俺にアイラがいるというウソを言うお前らもひどくないか?お前たちの言葉で俺がどれだけアイラに会えると期待したことか」
「いやいや、俺らも止まってそっちを見るって思いましたけど、まさか止まらずそのまま向かうなんて思いませんよ」
「ああ、早くギャラストの敵将の首を片手にアイラに会いたい」
部下たちのドン引き視線を無視して、この場にいない妹へ思いを馳せるアリクを放置し、カイトは早々に縄を抜けてほかの者たちの縄を解き、小休止の準備を指示するのだった。
アイラの発言からだと、まるで時間があれば全滅は可能であると断言しているようである。
事実、時間をかければアリクの率いる遊撃隊は、ギャラストが差し向けた軍を全滅させることは可能であろう。
しかし、それを待っていては少なくない被害を国が被り、遊撃隊にも犠牲者が出る可能性も無視できない。
それに、例えアリクと言えど体力の限界は存在する。
回復する暇を持たせずに攻められる兵力の差がある内は、反撃されない位置で少しずつ相手の兵力を削るしかできない。
黒狗の調査では、ギャラストが差し向けた軍は凡そ5000万、兵糧部隊も併せているといえど、かなりの軍隊を差し向けたようである。
この戦争の意図を理解しなければ、自国防衛のためシルヴェスター家の総力で敵を全滅させる選択しかできない。
仕掛けてきたのはあちらだが、5000万の命を刈り取るのは忍びない。
となれば、私はとりあえず、この戦争を仕掛けた奴の炙り出しと、アリク兄さまの襲撃方向を誘導しようか。
アリク兄さまもシルヴェスター家のものではあるが、戦闘特化タイプなので、頭を使う頭脳戦は苦手だ。
最初はまだ良いが時間が経てば経つほど、奇襲が雑になり、兵力の差にものを言わせた反撃をされるかもしれない。
そうならないためにも、私が兄の代わりに兵の位置などを計算し、反撃できない場所を奇襲させるようにしなければ。
ああ、でも少々面倒な問題があるな。
ギャラストがどうやって開発したかは不明だが、火縄銃は中世の時代では対策が難しい。
ああでも、そうだ、この世界には乙女ゲームが基盤になっているからか、万能と言ってもいいレベルの魔法が存在する。
それを使えば対策はできるな。
我が兄は一族の中ではそれほど魔法が得意でない部類ではあるが、それは一族基準での話である。
他国や自国内での平均的な実力に照らし合わせるならば一流と言ってもいいだろう。
それに火縄銃の対策程度であれば風と水の魔法がある程度使えれば火薬を無力化できるはず。
確か兄さまの部隊にも水魔法が得意な人物がいたはず。
対策方法はどう伝えるべきか…
アイレイシアが色々と考えている頃、アリウェルクの方はというと。
「た、隊長ーそんなに飛ばされたら俺ら追いつけなくなるんだけどー」
ものすごい速さで馬を駆けさせるアリクを必死に追いかける遊撃隊の姿があった。
発言はおちゃらけた雰囲気ではあるが、その実、言葉通りこのままのペースで進められると近いうちに彼らが騎乗する騎馬が体力の限界で力尽きるだろう。
アリクが騎乗している馬はシルヴェスター家が一族一人一人に与える自慢の駿馬で、通常軍用馬として育成されるものよりも数段上の能力を有している。
遊撃隊はシルヴェスター家の私軍扱いなのでシルヴェスター家が所有する馬に乗ってはいるが、一族が一人一人与えられる駿馬と比べると数段劣る。
彼らに与えられるほどの数がないというのもあるので、仕方ないといえば仕方ないのだが、頭に血が上ったアリクはそのことをうっかり忘れ頭から追いやっていた。
仕方ないので、隊長のことをよく理解している遊撃隊の全員は声を合わせて、こう言った。
「「あ!あそこにアイラ様が!!」」
「!」
妹バカであるアリクはその声に、一度馬を止めて部下が指さす方向に視線を向ける、のを通り越してそちらに向かって行った。
「・・・・・」
遊撃隊の皆は、声に反応して一度止まると踏んでいたが、怒りで暴走気味の妹バカを甘く見ていたようだった。
そして、彼らが当初の予定通り休憩できると安堵するのはまだ先の話である。
「で?俺の可愛いアイラはどこにいたんだ?」
アリクは彼らの願い通り、馬から降りていたが、部下全員を捕縛用として用意していた縄で縛りあげていた。
その様はまるで尋問をしているよう、いやまるで、ではなくこれは尋問していると言える光景だろう。
「隊長が悪いんですよ、俺らの馬の体力無視して全速力で走るからー」
縄でぐるぐる巻きにされた、遊撃隊副隊長カイトがそう答えた。
「それはすまなかったと思っている、早くギャラストの馬鹿どもをひねりつぶしたくて気が急いていた」
自分の非を認め謝るが、それだけでは終わらなかった。
「しかし、俺にアイラがいるというウソを言うお前らもひどくないか?お前たちの言葉で俺がどれだけアイラに会えると期待したことか」
「いやいや、俺らも止まってそっちを見るって思いましたけど、まさか止まらずそのまま向かうなんて思いませんよ」
「ああ、早くギャラストの敵将の首を片手にアイラに会いたい」
部下たちのドン引き視線を無視して、この場にいない妹へ思いを馳せるアリクを放置し、カイトは早々に縄を抜けてほかの者たちの縄を解き、小休止の準備を指示するのだった。
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