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乙女ゲーム開始編

帰宅

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私の大声に誰かやってきた。
「お、お嬢様!?」
かなり驚いているみたいだけど、銀色の長髪に茶色の瞳のこの美人さんは誰だろうか?
ここで過ごしていた時間よりも、留学してヒオウギ国で過ごした時間のほうが長かった。
つまり何が言いたいかというと。
流石に世話をしてくれた人は覚えていると思いたいんだけど、使用人全員を覚えているとは到底思えないわけで。
うん、誰かなこの人。

「あーえっと、私リア・モルトです。マリシャっていますか?」
「ああ、お嬢様、マリシャは私です。本当に大きくなられましたね(若干育ち方が男性よりに見えますが…)」
え?今泣きそうな顔のこの美人が私の身の回りの世話をしてくれてたマリシャ?
あれあれー?思ったよりも私の記憶はポンコツなのか、わからなかった。
「えーと、ごめん、ほんとにマリシャなの?髪こんなに長くなかったよね?」
「もう、何年経っていると思っているんですか、髪は伸びますよ」
「あ、うんそうだよね、ごめん、本当にわからなかった。でもマリシャはよくわかったね、私だって」
「それは当たり前ですよ。仕える主が9年成長した程度でわからない使用人なんてこの屋敷にはおりません。といっても、お嬢様の場合は旦那様を若くして女性にしたようなお姿ですし、すぐにわかりますわ」
「あー、確かに段々父さまに似てきたなーとは思ってたけど、そんなに似てるんだ」
私の容姿は、癖のある茶髪に琥珀色の瞳で親しみやすい小動物みたいな雰囲気らしい。
各種顔のパーツは両親から均等に受け継いでいるはずなのに、一発でわかるくらいに父に似ているというのも面白いものだと思う。
「お嬢様、私は旦那様にお嬢様のご帰還をすぐにお知らせしてきます。お嬢様は屋敷にお入りになっていただきたいのですが、そちらの荷馬車は、お嬢様のものなのですか?」
「あ、うん、そうだよ、ヒオウギで買ってきたお土産とかがあって、こっちの馬は私があっちで買った馬で黒影っていうんだ。黒影を厩舎に連れてきたいんだけど、その前に玄関に荷馬車持っててからのほうがいいか」
「はい、そうですね、そうしていただいたほうがいいかと。手綱は私が引きますわ」
「え?いいよ、私がこのまま引いてく。黒影は私以外に手綱を引かせたことないから危ないかもしれないし」
「そうですか、それでは仕方ないのでこのまま行きましょう」
マリシャとの会話が一段落して、すぐ屋敷の扉が開いた。
私は黒影の手綱を引いて中に入る。
「さ、黒影行くよ、もうちょっとで休憩できるから頑張って」
黒影は私の言葉に心得たような顔で荷馬車を引いていく。
そういえばここまで連れてきてくれた衛兵はというと。
疑うような視線を送っていた罪悪感かな、マリシャとの会話中にいなくなったようだ。まあいいけど。

荷馬車を玄関に持っててから黒影と離し、そのままの足で屋敷の厩舎に連れていく。
厩舎につないで、黒影に一言言って玄関に戻る。
「ほかの馬と仲良くするんだよ」
黒影は一番近くの馬に挨拶をしていた。
本当にいい馬である。

「おかえり、リア」
「ただいま帰りました、父さま」
「うん、どうだった?ヒオウギ国は楽しかったかい?」
「そうですね、とても大変でしたが、充実した留学生活でした。父さまのほうはお変わりありませんか?あと、私に弟ができたんですよね、弟は今はどこに?」
「こっちはそんなに変わってないよ。弟はほら、あそこに隠れてる。まだリアが誰なのかわかってないんだと思うよ」
父はそう言って、柱の陰からちらちらこちらを窺っている金色の物体を指した。
へえ、弟は金髪、母さんに似たんだ。
見た感じ、気になるけど近づけないってことね。
ならお姉ちゃんなんだから私の方が行かないとね。
私は柱に近づいて弟に話しかける。
「えーと、初めましてだね。名前はなんて言うのかな?私はリア、リア・モルト」
弟は少し肩を跳ねさせたけど、しっかりとした口調で言葉を返してくる。
「あの、ぼ、ぼくはルークです、ルーク・モルト」
「ルークか、いい名前だね、急な話だけど、今から私がルークのお姉ちゃんになるんだよ。留学してて今まで一度も顔を見せてないけど」
「お姉ちゃん?」
「そう、私がお姉ちゃん、ルークは私の弟」
よく見ると、ルークの瞳は父の琥珀色と薄い赤色のオッドアイだ。
前世ではオッドアイはまあまあ珍しかったけど、こっちの世界では凄い珍しいらしい。
実際、ヒオウギ国の第一王子がオッドアイだったけど、それ以外では私は見たことない。
でも、母の瞳の色は水色だったような。
まさか、、、いやそんなわけないよね。
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