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婚約破棄第一弾、あほの子王太子とクールな令嬢の場合
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「グロリア・オルグ・メシス!お前との婚約を破棄する。金輪際、顔も見たくない」
朝の清々しい空気を切り裂く声が大学院に響き渡った。
私の名前はグロリア、グロリア・オルグ・メシス。
ギルズ王国の貴族、オルグ侯爵家の長女で、この国の王太子である、レイン・ギルズ・オーク様の婚約者だ。
オルグ侯爵家は地位こそ侯爵だが、何度も王族を降嫁させようと王が考えるほどにこの国での立ち位置が高い。
例をあげるなら、当代の当主はこの国の宰相で実質、国の裏の支配者のようなものだ。
(本人は国の安寧と民の生活向上に努めている。好人物)
侯爵家は何人も宰相を輩出している。
それだけでも価値のある家だが、建国以来王を裏切らない忠誠心から、忠義の一族とまで言われている。(彼らが忠義を向けた王はただの一人も愚王と呼ばれていない)
それでもかの家が侯爵家の地位なのはいろいろと訳があった。
その一つは王家と侯爵家の間に歳が釣り合う男女ができなかったからである。
一言で言えばタイミングが合わなかったのだ。
例えば王家に男児が生まれたら侯爵家にも男児しか生まれなかった。
あるいは侯爵家に念願の女児が生まれたら王家も女児しか生まれなかった。
そういったことを何度も繰り返してしまったことが侯爵家が侯爵家たる所以である。
しかしこのたび晴れて念願の歳の近い男女がそれぞれに生まれ、王家はすぐに婚約話を打診した。
侯爵家としては、王家ほど婚姻に積極的ではなかったが、仕える主が望むのならと,生まれたばかりの侯爵家の長女である、グロリアと王家の嫡男である、レインの婚約が決まった。
彼らの間は良好とは言えないがそれなりな関係ではあったと思う。
しかしこの関係も、十五歳から十八歳の間、通う大学院で崩れてしまった。
理由は王太子であるレインが大学院に通い始めた時に、同じクラスにいた、子爵令嬢に懸想してしまったからだ。
侯爵令嬢であるグロリアは、侯爵家の権力を傘にきることもなく、未来の王妃として様々な教育を弱音も吐かずに淡々とこなしてきた、素晴らしい人格者として、認知されている。
このかたならば王妃として、申し分ないと。
反対勢力のはの字も見あたらなかったくらいなのだから。
しかし王太子は理解していなかったようだ。
だからこそ、大学院に通いはじめて同級生の子爵令嬢に恋してしまった。
そして、王にとっては最悪の事態になってしまった。
王太子は大学院の創立記念パーティーで、婚約破棄すると大々的に公表してしまった。
もう後戻りはできないのだ。
王太子に婚約破棄を言い渡された私ことグロリアは、微妙な顔になった。
私としては、この婚約破棄を受け入れることになんら不満はない。
正直言って、王太子はバカだった。
かかわりたくないほどにはバカだった。
私の役目はそんなバカな王太子の舵取りだと思っていたし、父の口振りからもそうだと判断できる。
この国の民のためだと思えば多少の不満は抑えようと、私も思っている。
あちらから破棄してくるとは思わなかったが。
こちらに落ち度は無いので、放っておこう。
私はそう結論づけ、元婚約者に向き直り、
「分かりましたわ、婚約破棄の件慎んでお受けいたします。それでは私はこれで失礼いたします」
私は言い終わるとさっさとお辞儀をして、この場から去った。
私はこの後大学院で何が起きたかは知らない。
グロリアが、退室した後の大学院。
王太子が、彼女の去ったドアを見ながら、
「これで忌々しいお前を虐めた奴に罰を与えられるな」
と傍らにいる、ふわふわした茶色の髪に黒の瞳をした、愛らしい顔の女性に安心させるかのような、優しげな声色で話しかけた。
女性は王太子の言葉に涙目になりながら、
「ありがとうございます。私怖かったの」
と言葉が終わると同時に、目にたまる涙が溢れ、パーティー会場の床を水滴で濡らした。
女性が泣き出してしまい、王太子は慌てて自分の服の袖で女性の涙を拭い、
「泣くなもう大丈夫だ、お前は私が守ってやる」
と言っています。
しかし、この場に残る他の生徒たちは、先ほどのやり取りをおかしいと感じていました。
王太子が今、傍らにいる女性を愛しているのは、どうでもいいとしても、婚約者であるグロリアは泣いている彼女を虐めたと王太子が言っているが、誰一人としてグロリアが彼女を虐めているところを見たこともなければ、聞いたこともない。
生徒たちは自分が見ていないだけなのかと思って、他の生徒の様子も伺っています。
ですが、皆が同じ反応をしていて誰も見ていないことを、証明しているようです。
誰も見ていないところで虐めていた、そういう可能性も無くはないですが、そもそもグロリアが、他人を虐めるような人ではないのです。
彼女の評価は、女性でありながら、剣に秀で父である侯爵の代わりに他国との外交もこなす、優秀な人物で、身分の高い低いで人を差別することもなく、平民にも愛されている、そんな人物だった。ただ1つ欠点があるとするならば、無表情が標準装備なところか。
そんな人物がはたして、王太子の傍らにいるあの女性を虐めるだろうか?
いや、皆が心の中に問い、皆の心は否であると結論づけた。
生徒たち皆の総意であった。
王太子たちの近くだけが、桃色空間であった。
そうして、大学院の創立記念パーティーの翌日、宰相でもある当代オルグ侯爵が王宮に来なくなった。
大事件である。
宰相はこの国の柱である。
つまり、宰相が出仕拒否をしている今の状況は王宮の仕事が滞ってしまうことを意味する。
大事なことなので、もう一度、大事件である。
王は、王都にあるオルグ侯爵の屋敷に使いを送った。
数時間で戻ってきた使いは侯爵の言葉をそのまま伝えた。
1つ、そちらからの婚約話を一方的に破棄するのは、臣下を侮辱する行為である。
1つ、身に覚えの無い言いがかりで愛する娘を侮辱された。しかも公衆の面前での行為である。
1つ、何かしらの理由があっての行為であろうが、未来に国という大きなものを背負うものが、証拠を探さずに断罪しようとする行為は上に立つものとしてあってはならない最低の行為である。
以上のことから、我がオルグ侯爵は次代の国王であるレイン・ギルズ・オーク王太子には、仕えないことをここに表明することとする。
使いのものの言葉が終わると、王は衝撃が強すぎたのか、その場に倒れてしまった。
この後、王は医務官に手当てをされながらも、王太子を呼ばせた。
呼ばれた王太子が王の前に現れた。
王は開口一番に
「お前はなんてことをしたんだ!」
そう怒鳴った。
王太子はいきなり怒鳴られて、意味が理解できていないようだ。目をぱちくりさせて戸惑いを表している。
王はこの態度にさらに激怒した。
「その顔はなんだ!お前はわかっていないのか!お前がしたことの重大性を!」
父の剣幕に気圧されながらも、自分が怒られる理由が分からない王太子はまた戸惑った。
「父上、何故そのように怒っているのです。
いくら父上といえど理由もなく、怒鳴られる謂れはありません」
王太子は怒る父にそう言って、なぜ自分が怒られるのかを聞いた。
この言葉に王は開いた口がふさがらない状態に陥った。
王は自分の息子が何を言ったのか、一瞬理解できなかった。
まさか息子がこんなにも無能であるとは認めたくなかったからだ。
当然であろう。息子は絶対に敵に回してはいけない侯爵を、敵に回しあまつさえ侯爵が溺愛する娘に、証拠もない罪をきせたのだ。
このようなことをしておいて、怒られる理由が分からないなど、愚かすぎて涙がでそうだ。
その上婚約破棄をしてすぐに他の女性と婚約しようなど、侯爵と娘を虚仮にしているようなものだ。
この国は代々オルグ侯爵が宰相につき、支えてもらっていた。
そのオルグ侯爵が宰相を辞めてしまえば国は、大袈裟かもしれないが、他国からの信用を無くしてしまうだろう。
オルグ侯爵はこの国の柱なのだ。
気休めにしかならないだろうが、侯爵に謝るしかないか。
国王が頭を下げるのは前代未聞だが、背に腹は代えられん。
王はそう決めた。
「お前は、早くグロリア嬢に詫びの手紙を書け。私はすぐに侯爵領に行く準備をする。お前もついてきて、グロリア嬢に土下座でもして、許しを得よ」
「なっ、父上は何を言っているのです。何故私が罪人に頭を下げなければいけないのです。そんな事をしては、王族の威信が地に落ちます」
王の命令に王太子は驚愕したような顔になって、そう進言しました。
まるで、間違えを正すような言葉ですが、この場合間違っているのは、確実に王太子でした。
王はこれ以上ないほどに怒りを表し、
「王族の威信などと言っている場合ではない。それともお前は侯爵を敵にまわして我が国が、滅んでもいいとそう言っているのか?」
怒りの沸点を越えた王は底冷えするような声音で王太子に問います。
この時、王は心の中でがっかりしていた。
王太子であるはずの息子はこんなにも無能だった。無能が国の頂点にいては民が苦しむ。
王である彼はどんなことがあっても、国を優先しなくてはならない。
そう、それが肉親の情であっても。
王は侯爵領に足を運んだ。
理由は侯爵令嬢に対する謝罪である。
侯爵は王の訪問に難色を示したが、娘の言葉によって迎い入れた。
オルグ侯爵領アールアにある領主の館に招かれた王は、侯爵と娘が入室してすぐに、
「この度は息子が貴殿の娘に大変失礼なことをした。誠に申し訳ない」
そう言い、頭を下げた。
侯爵はその姿を痛ましいものを見るような目で見ていた。
この言葉に最初に口を開いたのは、被害者である侯爵令嬢グロリアだった。
「陛下、頭を上げてください。婚約破棄の件で陛下が謝る必要はございません」
グロリアはそう言葉をきり、
「しかし、王太子様に婚約破棄を言い渡された理由に私は心当たりがないのです。王太子様は何か誤解をされているのではないのでしょうか?」
その言葉に王が答える前に、王太子が間に割って入ってきた。
「何を虚言を言っている!ユリアはお前に虐められたと私に言ったのだ。被害者であるユリアがお前を名指ししているのだ。嘘を吐くのも大概にしろ!」
この言葉を聞いた面々の反応は、王は顔面蒼白になり、オルグ侯爵は、王太子を射殺すような視線で見ています。視線で人が殺せるのならば、軽く千回は死んでいそうです。
そして最後にグロリアは「なるほど」と小声で言って納得したようです。
被害者である彼女は一歩引いた位置で、この中で一番冷静なようです。
グロリアは王太子の前に進み出て、
「レイン様、質問を失礼いたします。まず、私がユリア様を虐めたというのは、本当にユリア様本人が仰ったのですか?」
「まだしらを切るつもりか!自分の罪を認めずあまつさえ私が聞き間違っていたとでも言うのか!」
グロリアは王太子の言葉を無視して、
「なるほど、そうですか。ユリア様本人がそう仰ったのですか。ですがレイン様、私はあのパーティーに出席するまでユリア様とは会ったこともユリア様の存在を聞いたこともないのです。ですから私がユリア様を虐めることなど不可能なのです」
独り言の後に王太子に自分ができるわけがないのだと主張した。
「貴様はいくら嘘をつけば気がすむのか!ユリアが私に嘘をつくはずない!貴様が嘘を吐いているのは明白だ!」
この時、王は顔面蒼白で押せば倒れそうなほどな状態でした。
しかし息子の今の言葉に、そんな場合ではないと思ったようです。
「もういい!レイン!お前を王太子からおろす、お前はもうこの国の王族ではない。グロリア嬢あなたの気持ちを思えばこの程度では気がすまないかもしれないが、これで許してもらえないだろうか?」
王は本当に申し訳なさそうにグロリアに謝罪をし、王太子の廃嫡を言い渡した。
その言葉を聞いた王太子は王に信じられないといった視線をよこし、
「父上!何を言っているんですか!王である父上が嘘をつくこんな女に謝る必要ありません!大体、この女はユリアを虐めたのです。この女は罰をうけるべきです!」
王の謝罪が意味をなさないほどの暴言を吐き、あまつさえグロリアを罪人にしようとした。
その言葉にオルグ侯爵が口を開こうとしたところをグロリアが、口を抑え、
「陛下、私はこの度の婚約破棄を気にしていません。ですから陛下が私に謝罪をされる必要はございません。ですが先ほども申したとおり、私はユリア様を虐めていません。きちんとした調査をお願いしたいのです」
グロリアは王と王太子に見えないように、父親であるオルグ侯爵の口を抑えています。
「その事に関してはグロリア嬢の言葉を疑うような事をこやつが言ってしまい誠にすまない。できる限りの調査をし、グロリア嬢の無実を証明させよう」
王はこの言葉を実行し、自分の側近たちに命じて大学院の情報を調べさせた。
その結果、でてきた真実は単純なものだった。
元王太子が懸想している、ユリア・クラース子爵令嬢が言ったグロリア嬢に虐められたという言葉はすべて嘘であった。
大学院の全ての生徒たちは、揃ってグロリア嬢がユリア・クラース子爵令嬢を虐めた現場を見ていないと証言をした。
生徒たちの中には、ユリア・クラース子爵令嬢に虐められたと証言する者がいた。
虐められたと証言する者の大半が平民の女生徒たちで、虐められ泣いていた所をグロリア嬢に慰められたとの証言もあった。
ここまでくれば言い逃れのしようもないだろう。
この事実を王はオルグ侯爵に伝え、ユリア・クラースを罰する旨を伝え、王太子であるレイン・ギルズ・オークの王位継承権を剥奪し、元王太子の婚約者であったグロリア・オルグ・メシス嬢を自分の養女として迎え、グロリア嬢の婿に王位を譲りたいと申し出た。
オルグ侯爵は渋ったが、忠誠を誓った主の言葉と娘の「国のためになるのならば私はかまいません」その言葉に折れ王の申し出を受けた。
そして、二年の時が経ち、当代の王が隠居し、次代の王の戴冠式と結婚式が行われた。
この時の戴冠式及び結婚式は全ての国民が喜び、祝いとても華々しい式となった。
次代の王は、ギルラ公爵の嫡男ハワード・ギルラ・オーク、彼は元王太子と同い年であったが、元王太子よりも頭がよく聡明で、王にふさわしい器であったが、王国の法により王の直系が王になる予定であった。
元王太子が廃嫡され、王の養女となったグロリア嬢が彼を選ぶことにより彼は王になることが決まった。
グロリア王妃は王との間に四人の子を産み、その人脈をフルに活用し、ハワード王を支えた。
ハワード王の治世は後世に語り継がれたとさ。
朝の清々しい空気を切り裂く声が大学院に響き渡った。
私の名前はグロリア、グロリア・オルグ・メシス。
ギルズ王国の貴族、オルグ侯爵家の長女で、この国の王太子である、レイン・ギルズ・オーク様の婚約者だ。
オルグ侯爵家は地位こそ侯爵だが、何度も王族を降嫁させようと王が考えるほどにこの国での立ち位置が高い。
例をあげるなら、当代の当主はこの国の宰相で実質、国の裏の支配者のようなものだ。
(本人は国の安寧と民の生活向上に努めている。好人物)
侯爵家は何人も宰相を輩出している。
それだけでも価値のある家だが、建国以来王を裏切らない忠誠心から、忠義の一族とまで言われている。(彼らが忠義を向けた王はただの一人も愚王と呼ばれていない)
それでもかの家が侯爵家の地位なのはいろいろと訳があった。
その一つは王家と侯爵家の間に歳が釣り合う男女ができなかったからである。
一言で言えばタイミングが合わなかったのだ。
例えば王家に男児が生まれたら侯爵家にも男児しか生まれなかった。
あるいは侯爵家に念願の女児が生まれたら王家も女児しか生まれなかった。
そういったことを何度も繰り返してしまったことが侯爵家が侯爵家たる所以である。
しかしこのたび晴れて念願の歳の近い男女がそれぞれに生まれ、王家はすぐに婚約話を打診した。
侯爵家としては、王家ほど婚姻に積極的ではなかったが、仕える主が望むのならと,生まれたばかりの侯爵家の長女である、グロリアと王家の嫡男である、レインの婚約が決まった。
彼らの間は良好とは言えないがそれなりな関係ではあったと思う。
しかしこの関係も、十五歳から十八歳の間、通う大学院で崩れてしまった。
理由は王太子であるレインが大学院に通い始めた時に、同じクラスにいた、子爵令嬢に懸想してしまったからだ。
侯爵令嬢であるグロリアは、侯爵家の権力を傘にきることもなく、未来の王妃として様々な教育を弱音も吐かずに淡々とこなしてきた、素晴らしい人格者として、認知されている。
このかたならば王妃として、申し分ないと。
反対勢力のはの字も見あたらなかったくらいなのだから。
しかし王太子は理解していなかったようだ。
だからこそ、大学院に通いはじめて同級生の子爵令嬢に恋してしまった。
そして、王にとっては最悪の事態になってしまった。
王太子は大学院の創立記念パーティーで、婚約破棄すると大々的に公表してしまった。
もう後戻りはできないのだ。
王太子に婚約破棄を言い渡された私ことグロリアは、微妙な顔になった。
私としては、この婚約破棄を受け入れることになんら不満はない。
正直言って、王太子はバカだった。
かかわりたくないほどにはバカだった。
私の役目はそんなバカな王太子の舵取りだと思っていたし、父の口振りからもそうだと判断できる。
この国の民のためだと思えば多少の不満は抑えようと、私も思っている。
あちらから破棄してくるとは思わなかったが。
こちらに落ち度は無いので、放っておこう。
私はそう結論づけ、元婚約者に向き直り、
「分かりましたわ、婚約破棄の件慎んでお受けいたします。それでは私はこれで失礼いたします」
私は言い終わるとさっさとお辞儀をして、この場から去った。
私はこの後大学院で何が起きたかは知らない。
グロリアが、退室した後の大学院。
王太子が、彼女の去ったドアを見ながら、
「これで忌々しいお前を虐めた奴に罰を与えられるな」
と傍らにいる、ふわふわした茶色の髪に黒の瞳をした、愛らしい顔の女性に安心させるかのような、優しげな声色で話しかけた。
女性は王太子の言葉に涙目になりながら、
「ありがとうございます。私怖かったの」
と言葉が終わると同時に、目にたまる涙が溢れ、パーティー会場の床を水滴で濡らした。
女性が泣き出してしまい、王太子は慌てて自分の服の袖で女性の涙を拭い、
「泣くなもう大丈夫だ、お前は私が守ってやる」
と言っています。
しかし、この場に残る他の生徒たちは、先ほどのやり取りをおかしいと感じていました。
王太子が今、傍らにいる女性を愛しているのは、どうでもいいとしても、婚約者であるグロリアは泣いている彼女を虐めたと王太子が言っているが、誰一人としてグロリアが彼女を虐めているところを見たこともなければ、聞いたこともない。
生徒たちは自分が見ていないだけなのかと思って、他の生徒の様子も伺っています。
ですが、皆が同じ反応をしていて誰も見ていないことを、証明しているようです。
誰も見ていないところで虐めていた、そういう可能性も無くはないですが、そもそもグロリアが、他人を虐めるような人ではないのです。
彼女の評価は、女性でありながら、剣に秀で父である侯爵の代わりに他国との外交もこなす、優秀な人物で、身分の高い低いで人を差別することもなく、平民にも愛されている、そんな人物だった。ただ1つ欠点があるとするならば、無表情が標準装備なところか。
そんな人物がはたして、王太子の傍らにいるあの女性を虐めるだろうか?
いや、皆が心の中に問い、皆の心は否であると結論づけた。
生徒たち皆の総意であった。
王太子たちの近くだけが、桃色空間であった。
そうして、大学院の創立記念パーティーの翌日、宰相でもある当代オルグ侯爵が王宮に来なくなった。
大事件である。
宰相はこの国の柱である。
つまり、宰相が出仕拒否をしている今の状況は王宮の仕事が滞ってしまうことを意味する。
大事なことなので、もう一度、大事件である。
王は、王都にあるオルグ侯爵の屋敷に使いを送った。
数時間で戻ってきた使いは侯爵の言葉をそのまま伝えた。
1つ、そちらからの婚約話を一方的に破棄するのは、臣下を侮辱する行為である。
1つ、身に覚えの無い言いがかりで愛する娘を侮辱された。しかも公衆の面前での行為である。
1つ、何かしらの理由があっての行為であろうが、未来に国という大きなものを背負うものが、証拠を探さずに断罪しようとする行為は上に立つものとしてあってはならない最低の行為である。
以上のことから、我がオルグ侯爵は次代の国王であるレイン・ギルズ・オーク王太子には、仕えないことをここに表明することとする。
使いのものの言葉が終わると、王は衝撃が強すぎたのか、その場に倒れてしまった。
この後、王は医務官に手当てをされながらも、王太子を呼ばせた。
呼ばれた王太子が王の前に現れた。
王は開口一番に
「お前はなんてことをしたんだ!」
そう怒鳴った。
王太子はいきなり怒鳴られて、意味が理解できていないようだ。目をぱちくりさせて戸惑いを表している。
王はこの態度にさらに激怒した。
「その顔はなんだ!お前はわかっていないのか!お前がしたことの重大性を!」
父の剣幕に気圧されながらも、自分が怒られる理由が分からない王太子はまた戸惑った。
「父上、何故そのように怒っているのです。
いくら父上といえど理由もなく、怒鳴られる謂れはありません」
王太子は怒る父にそう言って、なぜ自分が怒られるのかを聞いた。
この言葉に王は開いた口がふさがらない状態に陥った。
王は自分の息子が何を言ったのか、一瞬理解できなかった。
まさか息子がこんなにも無能であるとは認めたくなかったからだ。
当然であろう。息子は絶対に敵に回してはいけない侯爵を、敵に回しあまつさえ侯爵が溺愛する娘に、証拠もない罪をきせたのだ。
このようなことをしておいて、怒られる理由が分からないなど、愚かすぎて涙がでそうだ。
その上婚約破棄をしてすぐに他の女性と婚約しようなど、侯爵と娘を虚仮にしているようなものだ。
この国は代々オルグ侯爵が宰相につき、支えてもらっていた。
そのオルグ侯爵が宰相を辞めてしまえば国は、大袈裟かもしれないが、他国からの信用を無くしてしまうだろう。
オルグ侯爵はこの国の柱なのだ。
気休めにしかならないだろうが、侯爵に謝るしかないか。
国王が頭を下げるのは前代未聞だが、背に腹は代えられん。
王はそう決めた。
「お前は、早くグロリア嬢に詫びの手紙を書け。私はすぐに侯爵領に行く準備をする。お前もついてきて、グロリア嬢に土下座でもして、許しを得よ」
「なっ、父上は何を言っているのです。何故私が罪人に頭を下げなければいけないのです。そんな事をしては、王族の威信が地に落ちます」
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まるで、間違えを正すような言葉ですが、この場合間違っているのは、確実に王太子でした。
王はこれ以上ないほどに怒りを表し、
「王族の威信などと言っている場合ではない。それともお前は侯爵を敵にまわして我が国が、滅んでもいいとそう言っているのか?」
怒りの沸点を越えた王は底冷えするような声音で王太子に問います。
この時、王は心の中でがっかりしていた。
王太子であるはずの息子はこんなにも無能だった。無能が国の頂点にいては民が苦しむ。
王である彼はどんなことがあっても、国を優先しなくてはならない。
そう、それが肉親の情であっても。
王は侯爵領に足を運んだ。
理由は侯爵令嬢に対する謝罪である。
侯爵は王の訪問に難色を示したが、娘の言葉によって迎い入れた。
オルグ侯爵領アールアにある領主の館に招かれた王は、侯爵と娘が入室してすぐに、
「この度は息子が貴殿の娘に大変失礼なことをした。誠に申し訳ない」
そう言い、頭を下げた。
侯爵はその姿を痛ましいものを見るような目で見ていた。
この言葉に最初に口を開いたのは、被害者である侯爵令嬢グロリアだった。
「陛下、頭を上げてください。婚約破棄の件で陛下が謝る必要はございません」
グロリアはそう言葉をきり、
「しかし、王太子様に婚約破棄を言い渡された理由に私は心当たりがないのです。王太子様は何か誤解をされているのではないのでしょうか?」
その言葉に王が答える前に、王太子が間に割って入ってきた。
「何を虚言を言っている!ユリアはお前に虐められたと私に言ったのだ。被害者であるユリアがお前を名指ししているのだ。嘘を吐くのも大概にしろ!」
この言葉を聞いた面々の反応は、王は顔面蒼白になり、オルグ侯爵は、王太子を射殺すような視線で見ています。視線で人が殺せるのならば、軽く千回は死んでいそうです。
そして最後にグロリアは「なるほど」と小声で言って納得したようです。
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「レイン様、質問を失礼いたします。まず、私がユリア様を虐めたというのは、本当にユリア様本人が仰ったのですか?」
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「なるほど、そうですか。ユリア様本人がそう仰ったのですか。ですがレイン様、私はあのパーティーに出席するまでユリア様とは会ったこともユリア様の存在を聞いたこともないのです。ですから私がユリア様を虐めることなど不可能なのです」
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「貴様はいくら嘘をつけば気がすむのか!ユリアが私に嘘をつくはずない!貴様が嘘を吐いているのは明白だ!」
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しかし息子の今の言葉に、そんな場合ではないと思ったようです。
「もういい!レイン!お前を王太子からおろす、お前はもうこの国の王族ではない。グロリア嬢あなたの気持ちを思えばこの程度では気がすまないかもしれないが、これで許してもらえないだろうか?」
王は本当に申し訳なさそうにグロリアに謝罪をし、王太子の廃嫡を言い渡した。
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「父上!何を言っているんですか!王である父上が嘘をつくこんな女に謝る必要ありません!大体、この女はユリアを虐めたのです。この女は罰をうけるべきです!」
王の謝罪が意味をなさないほどの暴言を吐き、あまつさえグロリアを罪人にしようとした。
その言葉にオルグ侯爵が口を開こうとしたところをグロリアが、口を抑え、
「陛下、私はこの度の婚約破棄を気にしていません。ですから陛下が私に謝罪をされる必要はございません。ですが先ほども申したとおり、私はユリア様を虐めていません。きちんとした調査をお願いしたいのです」
グロリアは王と王太子に見えないように、父親であるオルグ侯爵の口を抑えています。
「その事に関してはグロリア嬢の言葉を疑うような事をこやつが言ってしまい誠にすまない。できる限りの調査をし、グロリア嬢の無実を証明させよう」
王はこの言葉を実行し、自分の側近たちに命じて大学院の情報を調べさせた。
その結果、でてきた真実は単純なものだった。
元王太子が懸想している、ユリア・クラース子爵令嬢が言ったグロリア嬢に虐められたという言葉はすべて嘘であった。
大学院の全ての生徒たちは、揃ってグロリア嬢がユリア・クラース子爵令嬢を虐めた現場を見ていないと証言をした。
生徒たちの中には、ユリア・クラース子爵令嬢に虐められたと証言する者がいた。
虐められたと証言する者の大半が平民の女生徒たちで、虐められ泣いていた所をグロリア嬢に慰められたとの証言もあった。
ここまでくれば言い逃れのしようもないだろう。
この事実を王はオルグ侯爵に伝え、ユリア・クラースを罰する旨を伝え、王太子であるレイン・ギルズ・オークの王位継承権を剥奪し、元王太子の婚約者であったグロリア・オルグ・メシス嬢を自分の養女として迎え、グロリア嬢の婿に王位を譲りたいと申し出た。
オルグ侯爵は渋ったが、忠誠を誓った主の言葉と娘の「国のためになるのならば私はかまいません」その言葉に折れ王の申し出を受けた。
そして、二年の時が経ち、当代の王が隠居し、次代の王の戴冠式と結婚式が行われた。
この時の戴冠式及び結婚式は全ての国民が喜び、祝いとても華々しい式となった。
次代の王は、ギルラ公爵の嫡男ハワード・ギルラ・オーク、彼は元王太子と同い年であったが、元王太子よりも頭がよく聡明で、王にふさわしい器であったが、王国の法により王の直系が王になる予定であった。
元王太子が廃嫡され、王の養女となったグロリア嬢が彼を選ぶことにより彼は王になることが決まった。
グロリア王妃は王との間に四人の子を産み、その人脈をフルに活用し、ハワード王を支えた。
ハワード王の治世は後世に語り継がれたとさ。
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