婚約破棄される令嬢の話

ライ

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婚約破棄第二弾、不憫な王子と勘違い令嬢の場合

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カース王国
そこは、豊かな大地と堅固な自然の要塞を要する平和な国。
その国の王の五番目の息子であるカイル・シルト・カースは婚約者がいた。
その婚約者の名は、レンカ・ドイル・オルセー。辺境を治めるオルセー伯爵の長女である。
レンカは父親の領政を手伝うほど頭がよく、オルセー伯爵は爵位は低いが当代の夫人は元公爵令嬢であり、血筋的な価値も高い。
だからこそ、カイルはオルセー伯爵の長女であるレンカとの政略結婚が予定されていた。
そう、予定されていたのだ。
過去形で表されているのは、カイルが他の女性に懸想し、レンカとの婚約を破棄したいと願いでたからだった。
カイルのこの申し出にレンカは、瞼をふせてわかりましたと了承してしまった。
カイルはレンカとの婚約破棄がなされた日から、およそ二週間ほど寝込んでしまった。
彼は他の女性に懸想などしていなかった。 
レンカはカイルとの結婚を政略的な意味にしかとらえず、カイルとの間に恋愛感情がなかった。(政略結婚なので珍しくはない)
しかしカイルはレンカのことを愛していた。
カイルは自分が離れることで、レンカに自分と離れたくないと言わせたかったのだ。
だが彼の願いは見事に打ち砕かれ、レンカはカイルとの婚約破棄を受け入れてしまった。
そのショックにより、二週間も彼は寝込んだのだった。
この時、彼は知らなかった。
他国がこれを待っていたのを。

カイル王子とレンカ伯爵令嬢の婚約破棄は、すぐにカース王国内に広まり、その情報は自国内
だけに留まらず、瞬く間に他国にも広まった。
その情報をいち早く知ったカース王国と隣接する、レガス王国の第一王子はこれ幸いと、オルセー伯爵とカース王に書状を送った。
書状の内容は、オルセー伯爵の長女であるレンカ・ドイル・オルセー伯爵令嬢と、レガス王国第一王子、レオン・レガスとの婚約話だった。
カース王はこの話を受け入れ、オルセー伯爵もこの政略結婚を受ける方向で話が進んでいた。
レンカ嬢本人も国のためになるのならばかまわないと思っており、レガス王国への輿入れ準備を行っていた。
カイル王子はそのことを知り、急いでオルセー伯爵家の屋敷を訪問した。
だか彼の目に写った光景は旅支度を終えた、自分にとって最愛の女性の姿だった。

カイル王子がオルセー伯爵の屋敷に向かっている同時刻。
「お嬢様、本当にお一人でレガス王国に行かれるおつもりなのですか?」
「もう決めたことなんだ。シェリー、君の気持ちは嬉しいがレガスの印象を悪くしないためにも、花嫁である私は一人で行った方がいいんだ。それに何も本当に一人で行くわけではないよ。レガスの王宮までは護衛を連れていく。レガスは大国だ。その大国と縁を繋げられれば民の暮らしも良くなる」
「お嬢様、そんなにも民のことを思って。私はあなた様の侍女であったことを誇りに思います」
レガス王国への輿入れ準備を行っていたレンカと、その侍女であるシェリーは、手を動かしながら話していた。
内容はレンカ嬢がレガスに行くメンバーのことだった。
レンカは護衛に数人を連れていくだけで、侍女を一人も連れていかないと言った。
その言葉を聞いたシェリーは、お嬢様の考えを聞いてほろりと涙を流し、感動していた。
そんなこんなで、レガス王国へ出発するための準備がすべて終わったとき。

カイル王子はオルセー伯爵の屋敷についた。
挨拶もそこそこに、目的であるレンカの自室に向かい、ドアをノックした。

コンコンというノック音がレンカとシェリーのいる部屋に響いた。
シェリーはすぐにドアに向かい、誰が来たのか問うた。
「どなたですか?」
「カイルだ。開けてくれ。レンカと話がしたい」
相手が王族であるとわかった、シェリーはすぐさま、ドアを開け、
「どうぞ、お入り下さい。カイル王子殿下」
恭しくカイルを招いた。
カイルは部屋に入るなり、レンカの前に詰めより、土下座をした。
「頼むから、レガスに嫁ぐのを考え直してくれ。俺は君に愛して欲しかったからあんなことをしてしまった。君は俺との婚約を義務としか考えていなかったようだけど、俺は君を心の底から愛している。お願いだ、俺にもう一度チャンスをくれ。君の心をつかむためのチャンスを」
カイルは王族の矜持を投げ捨て、跪きながら懇願してきた。
レンカはカイルの姿に感情が揺れ動くように、目に苦しみに歪ませていた。
カイル本人には見えない。(頭が下を向いているから)
苦しみに歪む自分を叱咤し、冷静な顔に戻ったレンカはカイルにこう答えた。
「殿下のお気持ちも解りますが、もうすでにこれは決まったことなのです。レガスの印象を悪くするわけにも参りません。わざわざご足労いただいて恐縮ですが、どうかお引き取りを。すぐに私は出発しなくてはならないので」
レンカのこの言葉に、頭を下げたままのカイルは、目を強く閉じて、
「わかった。君の気持ちも考えずにすまなかった。道中は気をつけて」
そう言い、レンカ達に自分の顔が見られないように、すぐにドアに向かい出ていった。

カイルが出ていったあと。
レンカの瞳には大粒の涙が溢れていた。
「お嬢様、これを」
涙で服を汚す前に、シェリーがそっとハンカチを差し出した。
レンカは黙ってそれを受け取り、乱暴に目を拭って、「ありがとう」と礼を言った。
レンカが涙を流していた理由は、カイルにあった。
レンカもカイル王子のことを愛していた。
しかし、彼女はカイルが自分のことを好きでないと思い込んでいた。
そのため、婚約破棄をされたときも何も言わず引き下がった。
自身の我が儘で国を混乱させたくなかった彼女は、レガス王国の申し出を受け、自分からカイルと離れることを決意してしまった。
同じ国にいて、自分の気持ちがばれて、カイルに迷惑をかけてはいけない、そう考えての行動であった。
それでも本人を前にして、その決意を言うことは、彼女にとって苦痛しか与えなかった。
覚悟をしていても、本人がいなくなった途端に涙腺が壊れ、痛ましいほどに涙を流した。

涙を拭ったあと、レンカはすぐに馬車の用意をシェリーに頼んだ。
その指示にシェリーは「わかりました」と答えて、馬車の用意をするために外に出ていった。
シェリーが出ていった後、レンカは声を殺して泣き続けた。

馬車の用意が整い、レンカはレガス王国へ向かった。
馬車が国境を越える手前で、一騎の騎馬がレンカが乗る馬車を追いかけた。
その騎馬に乗っているのはカイルだ。
馬車に声が届く距離まで近寄ったカイルは、ありったけの大声で、
「レンカ!そのまま聞いてくれ!民のために君が犠牲になるのは間違ってる!君が犠牲になることなんて民も願っていない!君は君の幸せを掴んでくれ!俺はどんな時も君の幸せを願っている!だから!俺のためにも!幸せになってくれ!」
声が届くぎりぎりの距離であったため、周りの護衛たちにも聞こえていたが、護衛たちは聞こえないふりをした。
カイルが泣きながら叫んでいたことを。
その言葉を聞いていた、レンカもカイルと同じくらいに涙を流し、「ごめんなさい。あなたのいない世界に幸せなんて感じられない。本当にごめんなさい」
そう言いながら、ポタポタと馬車の座席を涙で濡らした。

レガス王国へ到着したオルセー伯爵の馬車は、すぐにレガスが用意した馬車に乗り換え、レンカ以外のものはすべてカース王国に帰国した。

レンカはレガスが用意した馬車でレガスの王都ドールに到着し、休息もそこそこに王へ輿入れの挨拶をした。
その後はトントン拍子に、レンカ・ドイル・オルセー伯爵令嬢とレガス王国の第一王子レオン・レガスは婚約を飛ばして、結婚式を挙げた。
王族の式なので、派手な演出と国民すべてからの祝福が彼女たちを待っていた。
第一王子レオン・レガスは結婚式と同時に王太子就任式を行った。
国民は、立派な王太子を得たと大歓迎をした。

三年後。 レガス王国の王都のとある酒場
「聞いたか?レオン殿下とお妃様の間にお子様が生まれたって」 
「聞いた聞いた。すげーおめでたいよな」
「ああ、これで未来も安泰だな」
「だよなー、レオン殿下もすげー優秀で、俺ら平民のこともちゃんと考えてくれるから、子供もそういうやつに育つよな」
「そうだな、そうなって欲しいもんな」
これは、とある酒場にいた若者たちの会話であった。

それからまた三年後。
レガス王国で、王が死去した。
この国の法では、王が死去すると一年間の喪がある。
その喪が過ぎてから、王太子の即位式が行われる。
王が死去して、早一年。
王太子である、レオン・レガスの国王即位式が行われた。
即位式は問題なく終わり、王太子妃であるレンカ・ドイル・オルセーは王妃となりました。

レオン・レガスが王となり、六年後。
「父上、母上はどこにいますか?」
ドール城の執務室にパタパタと駆け込んだ、今年六歳になる、ルーグ・レガスは執務机で仕事をしている、父にそう聞いてきた。
六歳になったばかりのルーグ少年は、母である王妃に一日中べったりくっついています。
しかし、王妃が公務で離れる時は乳母に世話をされますが、たまにこうやって母を探すルーグ少年の姿が見られます。
ですが、父でありまた王妃を心の底から愛している夫は、とても複雑な気持ちを抱いていた。
子を可愛がる気持ちは王も持っている。
しかし、それとこれとは別の話と言うものだろう。
そして、今日の王は少し意地悪をした。
「さあ私は知らないよ。まだ仕事中ではないか?」
「そんなはずはないです。乳母が言ってました。今日は午前にだけ仕事があるって」 
そういってルーグ少年は王の執務室から出ていった。
「まったく、たらしな女を嫁に持つと夫は大変だな。はあ」
息子が出ていった扉を見ながら、父はため息まじりの言葉がでていた。

王の執務室から出たルーグ少年は、母がいるであろう、薬草園に向かった。
ルーグ少年の考えはあたっていて、王妃は薬草園でお茶会をしていた。
「母上!」
ルーグ少年が王妃に駆け寄ってきたので、王妃は我が子を抱き締めました。
「ルーグどうしたの。そんなに慌てて」
「母上に会いたかったんです」
「そう」
王妃は短くそういって、我が子の頭を撫でました。

王妃であるレンカ・ドイル・オルセーは、幸せとは言えないが、自分を愛してくれる夫と、自分にべったりな我が子がいるこの人生に少しだけの安息を得ていた。
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