婚約破棄される令嬢の話

ライ

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婚約破棄第三弾、色欲王太子と腹黒令嬢の場合

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スナノ王国、そこは砂漠に位置する大国の名である。
砂漠にありながら、オアシスも数多く存在するこの国は、水が豊富で、砂漠が自然の要塞となり、他国から攻められることもない、そんな恵まれた国である。
その国の現在の王太子には、ある噂が流れていた。
そして、それは詳しく調べていくと事実であるとわかった。
それは、王になる前であるにも関わらず、後宮を所持しているというものだ。
後宮とは、王の妃たちが住まう所である。
この国では、一夫多妻制が通常だ。
特に跡継ぎ問題のある王族はこれが顕著で、王の後宮はだいたい平均すると10人くらいの妃が存在している。
当代の王の妃は5人で平均よりは少ないが。
王太子が持つ後宮は王が持つ後宮とは違う場所に造られている。
当然といえば、当然だろう。
この国は、一夫多妻制ではあるが、王以外の貴族は通常2人から3人の妻を持っている。
そして、王太子は王に即位するまでは、結婚はできない。
これはスナノ王国独自の風習である。
つまり、王太子の位では妻を持つことは、通常やってはいけないことだった。王太子が色欲に溺れるまでは。

スナノ王国の経済を担う、シーゲイル侯爵邸で、メイド服を着た小柄な少女が広い庭を駆ける姿が見えた。
「お嬢様!どこにいらっしゃいますか?」
「ここにいる、メアリー、そんなに大きな声で呼ばなくても聞こえる」
3メートルくらいの高さの木から声が聞こえ、その言葉が終わった後、木の真下に、漆黒の長い髪を後ろで束ねる、少女がふわっと落ちてきた。
「ここにいらっしゃったのですね。お嬢様、ご当主様がお嬢様をお呼びです」
「わかった、父上は執務室か?」
「はい、お供いたします」
会話が終わると、黒髪の少女はメイド服の少女をつれて、執務室へ向かった。
執務室の前に着いた。
「父上、お呼びと聞き参りました」
「ああ、来たか。入ってくれ」
「失礼します」
入室の許可が出るのと同時のタイミングで黒髪の少女は部屋に入った。
「まず、お前に知らせなければならないことがある」
そう前置きした、父はとても疲れていた。
「父上、いえ当主様、とても疲れていらっしゃるようですが、何か大変なことでも起きているのですか?」
呼び方を改め、表情を真面目なものに変えながら、当主に問うた。
「ふむ、実はお前と婚約している王太子がな、問題を起こしたようなんだ」
「問題とはなんですか?」
「その、あのな‥‥」
当主は娘の問いに、非常に答えにくそうになっています。
「知らせなければならないことがあると言ったのは当主様でしょう。言いにくそうですが、もしかして王太子の性犯罪がばれでもしましたか?」
娘のその言葉に当主は机に置いていた、手を滑らせた。
「なっ何故それを知っている」 
娘はため息をつきながら、
「別に知っていたわけではありません。ただ、あの王太子ならそれくらいやっているだろうと思っていたので、そう言っただけです」
当主はぽかんと口をあけながら、あの王太子は、婚約者である娘の前で一体どんな態度をとっていたのかと、怒りを覚えたようだ。
いくら政略結婚だとしても、性犯罪をして当たり前と相手に思わせる、そんな態度をとっているなんて、高位貴族それも侯爵に対しての侮辱でしかない。
「我が娘よ、何故それを早く言わない。いくら王族が相手でも、そのようなことが罷り通ってはいかんぞ」
「そう言われましても、私としてはどうでも良かったので、放置していましたから。まあ、王太子がそれほどまでのバカなのは想定外でしたが」
当主の詰問に本当にどうでもよさそうに、答えながら、困ったな(まったく困ったように見えない無表情)と言った。
仮にも一国の王太子について話している口調ではない。
「まあ、確かにそうだ。こちらとしては、抗議することしかできんな」
当主の言葉にまったくもって同意だと娘は答え、
「本当になんてことをしてるのかあのバカ王太子は。いっそ、王太子の座から降ろさせましょうか」
無表情で一国の王太子を罵り、とんでもない爆弾発言をした。
「待て待て、クラリス。少し落ち着け。いや…出来るのか?」
当主は最初はクラリスを止めましたが、少しだけ考え、出来るか否かを問う。
「まあ、は良識ある貴族や国民からいい印象を得ていないから、可能だと思いますよ」
クラリスは父である当主の問いに是と答えた。
ついに一国の王族を呼ばわりしている。
娘の怒りは相当なものなのだろう。
まあ、当然なのかもしれない。
娘は、自身の事に関しては無頓着で、悪口などを言われてもあまり気にしない性格をしているが、自身の周りの者や大事な者たちの悪口などにはかなり反応する。
この時は、父親による軽い説得により、クラリスは諦めることにしたのだった。

王太子が後宮を作ったと噂されて、数日経った王都の城下町にある、とある酒場。
「聞いたか、あの話?」
「ああ聞いた聞いた、王太子様が後宮作った話だろ?信じらんねぇよ。クラリス様がいるってのにな」
「だよな。クラリス様の何が不満だってんだよ」
「やっぱそう思うよな」
「王太子様ってあんまいい話聞かねーしこんなことなら第二王子様が王になった方がいいんじゃないか?」

王都の城下町にある酒場でこのような噂が流れていた。
王太子である、ドクス・スナノは第一王子であることから、王太子の位についている。
しかし、この国の歴史は長いがそれほど伝統に縛られる国ではない。
つまりは、愚か過ぎて王の資質なしと判断されれば、第一王子であろうとも、王太子から下ろすことは可能である。
しかし、それをするには手順があり、まず、貴族の7割以上がその意見に賛成し、なおかつ、国印(当代王の紋章)が推された、命令書が必要になる。
大前提として、第一王子以外の後継者がいる場合に限るが、後継者は王族の血が入っていれば問題ない。
シーゲイル侯爵が難しいと考えたのは、この、貴族の賛成7割のところだ。
シーゲイル侯爵家が考える、貴族のありかたは
・民の模範となれ・民を守る。この2つになる。しかし、貴族の中で、そのありかたを理解している家は多くはない。
大半の貴族は、その地位に胡座をかき、貴族として、民を守ることをせず、あまつさえ、民を自分たちよりも下に見るものたちだ。
親がそういった考えを持つと、子にも影響する悪循環ができ、シーゲイル侯爵の頭を悩ませていた。
シーゲイル侯爵家は、建国当初からこの国の貴族筆頭として、あり続け、国民からも慕われている。
今現在の当主である、サイラス・シーゲイル侯爵もその素晴らしい経済手腕で、国が匙を投げた領地を拾い上げ、貧しい領地の民たちを救ってきた。
サイラスは他国との貿易も行っており、他国の商人で彼の名を知らぬものはいないといわれるほどだ。
そして現在、シーゲイル侯爵家には娘であるクラリスの他に、三人の息子がいる。
その三人の息子のうちの一人(次男)は、学者が集って作り上げられた、学芸国家シラスに留学しており、優秀な学者となっている。
長男は、侯爵家を継ぐために当主としてのあれこれを学び終えている。
そして、三男は家を出て商人になる旅に出ている。
三男から不定期で連絡があり、様々な国の土産がに届く。
長男と次男は妹であるクラリスと関わっていないように振る舞っているが、妹を盲目的に溺愛している。
溺愛の理由は本人にしかわからないが、彼らが妹を溺愛していることは家族や、親しい友人たちには一目瞭然のことであり、クラリスの婚約者という立場である王太子も、それは重々承知のはずであった。
三人の兄たちは、それぞれの分野で突出した才能を持っており、怒らせることは得策ではないであろう。
長男のライン・シーゲイルは父であるサイラスの才を、余すことなく受け継いでいる。
そして次男のレイス・シーゲイルは頭が良く、学問を学ぶことが好きだったことから、シラスに行くことを決意し、今では確固たる立場を築いている。
残る三男のロスト・シーゲイルは、商人を目指しながらあちらこちらに飛び回り、見聞を広げている。
そんな三兄弟の末に産まれたクラリスは、それはもううんざりするほどに3人の溺愛を受けている。
そしてそんな溺愛を受けながらも、クラリスは傲ることなく、兄たちを見習い自分も切磋琢磨し、クラリスは武芸の天才として侯爵の私兵たるシーゲイル騎士団の長をしている。
シーゲイル騎士団はスナノ王国でも最強といっていいほどの強さを誇り、彼女自身もシーゲイル騎士団の名に恥じぬ実力を有している。
文武両道、才色兼備、非の打ち所のない完璧と言っていいほど、素晴らしい人格者それが、クラリス・シーゲイルである。
彼女の素晴らしさは、妻にしたいと国中、いや他国からも男達が集まってしまうほどだ。
だが、彼女は国を混乱させないため、ひいては未来のスナノ王国のために、人格に多大な問題あり王太子の婚約者をしている。
しかし、多大な問題ありであっても、一線を越えなければいいだろうと皆考えていたが、王太子はその一線を自ら越えてしまった。
素晴らしい人格者であるクラリスも流石にこれを許すわけにもいかない。
だからこそ彼女は決意した。
王太子をその地位から引きずり落とすことを。
幸い(その理由がなければこんなことにはならないが)王太子は無能と呼べる馬鹿であり、人望もない。
そのような次代であれば、貴族としての義務を怠るあほ貴族が私利私欲の傀儡として操ろうとするため、そういう国の膿と呼べるものたちが支持している。
つまりは、現王太子の地位を奪えば必然的にそういった、いらない貴族もまとめて一掃することができる機会ということに他ならない。
そう考えた現シーゲイル侯爵が第四子であるクラリス・シーゲイルは、穏便にドクス・スナノを王太子の座からおろすことを画策した。
まず必要になるのは、ドクス・スナノをおろした後の王太子の後釜である。
現王には、8人の息子と3人の娘がおり、ドクスは正妃の地位にいる、元公爵家の令嬢の第一子である。
王位継承権は正妃腹が優先されることから、ドクスが第一位となるが、出生は五番目で上に兄が2人、姉が2人と微妙な順番になっている。
これならば、ドクスが王太子から退いても、問題ないだろう。
誰を王にするかはおいおい決めるとして、まずはドクスを廃嫡させることが先決である。

決めた後のクラリスの行動は速かった。
廃嫡に関して、正式な取り決めはこの国にはないが、次代の王にふさわしくないことを証明出来れば廃嫡することは可能だろう。
善は急げとばかりに、クラリスは懇意にしている貴族たちに連絡をする。
連絡を受けた貴族たちは、クラリスの提案に諸手を挙げて賛同した。
クラリスと懇意にしている貴族たちは、皆一様に優秀であり、貴族として自分たちの役割を理解しているものたちばかりだからだ。
現状のままでは、自分たちの治める領にも被害が出るかもしれない。
そう考えれば、クラリスの提案は願ってもないことだ。
だからこそ、計画はすぐに動きだす。
まず始めに行ったことは、辺境の領主たちへの根回し、他国への根回しである。
クラリスは自国の外交官と懇意にしており、本人も元々他国と外交を行っていたので、話はすんなり(他国の使者は泣いていた)片付く。


外堀を埋められ、逃げ道を無くされた王太子は、そんなことなど露知らず(隠してあるのだから当たり前)に今日も自分が作った後宮に通っていた。

「王子というのは勝ち組だな、最高に良い気分だ」
実に短絡的な発言をして、自身が作り上げた後宮から退出した、ドクス。
しかし、彼の幸福はここで終了することになる。

ドクスが後宮から王宮へ戻った知らせを受けた、現王太子を廃嫡しようとしている者たちは。
「さあ、国を正すときがきた」
廃嫡を始動したクラリスがそう言うと、皆が動きだす。

ドクスはとても良い気分で王宮の廊下を歩いていた。
そこに、クラリスを先頭にした重臣たちが現れる。
「ご機嫌いかがですか、殿下」
「クラリスか、私は今とても気分がいい」
「作用ですか、しかし、その機嫌もいつまで続くことか」
クラリスが矢面に立ち、ドクスを立ち止まらせる。
そして、後ろに控えている宰相補佐が、書類を広げ、ドクスの罪状をつらつらと述べる。
いきなりそのようなことを言われたドクスは、驚いたあとすぐに、
「き、貴様らはなんだ!わ、私は王子だぞ!」
実にあほ丸出しな発言をしていた。
既にクラリスたちから逃れる術を持たないドクスは、王子だぞと騒ぎながら、王直属の近衛たちに捕まえられていった。

「クラリスよ、大義であった、あやつの態度は目に余る行為ではあったが、王妃の手前何も出来ずにいたのだ、主が受けた屈辱は推し測れぬが、余を許してほしい」
ドクスの廃嫡後、国王自らがクラリスに頭を下げ、謝罪をしていた。
「陛下、私ごときが陛下の想いを理解できるわけありませんが、貴方様が私に謝る必要はありません、全て、ドクス様がいけないのです、そしてドクス様は重臣方の努力により廃嫡されていきました、私にはそれだけで十分でございます」
クラリスは王の謝罪に対し、最大限の敬意を表して謝辞を述べる。
「感謝する、主の忠節があったからこそ、次代も安心することができるであろう、そこで頼みがある、次代たる我が息子の正妃になってはくれまいか?このようなことが起きたのだ、無礼を承知した上で主以上に正妃足りえるものが、余には思いつかぬ」
王の提案に、否やはなく、クラリスは次代の王の正妃に決まったのだった。

そして、数年の時が経ち、クラリスは次代の王の傍で、外交という武器を利用し他国への抑止力として、スナノ王国を平和に導く素晴らしい国母になった。
彼女の息子たちも、優秀でそのあと10代以上の時を平和に導き、黄金時代として語りつがれたのだった。
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