この手が生み出すキセキ ~ハンクラ魔女のお店にようこそ~

あきづきみなと

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フェルティングニードル・3

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ジョゼフィーヌはオーリア公爵令嬢だ。同時に第一王子の婚約者でもある。
その自身の立ち位置に不満は無いし、それに相応しくあるよう努力は怠らないつもりだ。ただ、だからこそ納得のいかないことも少なからずあって。
「この前はありがとう」
声を掛ければフードが揺れる。
「お役に立てたなら良かったですよ。……お預けしたものはどうしました?」
「こうなったわ」
問われて差し出す箱の中には、先日受け取った毛の塊が、しっかりした形になって存在している。指示された通り、硬貨コインのような平たい円盤型だ。
ふわふわもこもこした塊にひたすら針を刺す、その行為は不思議とジョゼフィーヌを落ち着かせた。他愛のない単純作業が妙に心地好く、それに没頭することは少なくとも彼女の精神の安定には強く寄与した。もこもこした不定形の塊が、それらしい形になる頃にはイライラが治まり気も楽になった。
最初に渡された時は正直意味がわからなかったが、今はこの魔女に感謝してさえいる。
「このおかげで、気持ちが落ち着いて。理性的に考えられたわ」
「ではこれを、こうして」
魔女は受け取ったその塊を手元でちょいちょいといじって差し出した。見ると、ピンが取り付けられている。
「ドレスやちゃんとした服には合わないでしょうが、膝掛けや肩掛けを留めるのにはいいですよ」
「ありがとう、これなら自宅で使えるわね。……そう言えばあなたの名前も聞いていなかったけど」
「私はヴィオラと申します。どうぞこれからもご贔屓に」
「だったら少し、聞いてもらえるかしら」
ジョゼフィーヌはぽつぽつと事情を説明した。彼女は貴族子女が通う学園に通っているのだが、そこに入学した中で些か問題のある生徒がいるのだ。
低位の貴族子女は教育が行き届かない者も多い、それはジョゼフィーヌも承知しているが。普通は説明し指導すればある程度は改善されるものだ。
ところがこの女子生徒は、全く他人の話を聞かない。ジョゼフィーヌや他の上級生だけでなく、教師達の話も右から左に素通りするらしい。
どんな振る舞いかと言えば、慎みがないのだ。見た目が良い男子生徒にやたらと接触する。きゃあきゃあと高い声を張り上げ、相手の体に触れ、自分の体を相手にくっつける。
声の大きさもその行いも、まともな教育を受けた子女ならあり得ない。貴族に限らず市井の家庭でも顰蹙を買うレベルだ。
ジョゼフィーヌの婚約者である第一王子はさすがに困惑しているが、他の男子生徒の中にはすっかり骨抜きになってイチャイチャベタベタする者まで出る始末だ。
「それはまた……男性同士でもめそうですね」
「ああ、それもありそうな話だわ」
ジョゼフィーヌも自分の婚約者以外の男子生徒は良く知らないが。彼等がその女生徒に入れ込んであちこちでもめ事を起こしているらしいのは聞き及んでいる。当然彼等も婚約者がいるのにも関わらず、本来のパートナーを放置して彼女に贈り物やデート等いろいろ働きかけ、争っているとか。
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