この手が生み出すキセキ ~ハンクラ魔女のお店にようこそ~

あきづきみなと

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編み物

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毛糸を使う編み物は、前世ではやらなかった。彼女のハンドクラフトは、基本趣味であって実用性はないものが殆ど。
が、実は毛糸の編み物ならヴィオラの世界にも存在しており、メイド長のマリサが教えてくれた。ただ棒針しかなくて初心者には難易度が高かったが。
せめてかぎ針があれば、と思っていたせいか、錬金術スキルに「道具作成」が生えた。
スキルにはレベルがあがるにつれて下位スキルが発生することも多い。特に必要な道具や触媒を制作するスキルは多く、有用でもある。
棒針より難易度の下がったかぎ針編みは、マリサの口コミで魔法街の女性達に広まった。元々魔女は細かい手仕事は得意な者が多いし、男性の魔法使いもちまちましたことの好きなインドア派が珍しくない。
編み物に使う毛糸は元々あるから、このブームは魔法街の外まで波及した。そのおかげでヴィオラは、牧羊農家の連名で礼状をもらい、代わりに毛糸に縒る前の羊毛を入手する約束を取り付けた。
正直いってヴィオラにはいいことづくめで、その羊毛で元々やっていたフェルティングニードルを始められたのだ。
こちらも難しくはないのだが、時間がかかる。こつこつと形を作るのは根気が要る作業で、マリサや他の編み物が得意なおば様方には、「何でそんなしちめんどくさいことを」を呆れられたものだ。
だが、実用的な編み物はその故に身分が上の者の趣味にはなりにくい。陰でこっそり嗜む貴族女性は多かったが、公言の憚られる趣味だそうだ。
何かを生産するのは高貴なる者のすることではないというのが定説であり、だからこそ何かを生み出す職人達を保護するという建前がつく。
それはそれで悪い話ではない。職人の保護育成は、貴族の義務でもある。各領地毎にある程度の職人がいなければ技術の発達は見込めない。また各々の領地に合った技術があれば、他との競合も抑制されて共存可能だという。
ヴィオラはその辺りあまり教育を受けていなかったが、前世の知識と付き合わせて考えれば理解はできる。
領地毎に得られる素材も少しずつ異なるので、職人の保護育成は領地を盛り立てる手段でもあるのだ。
「さて、お嬢様は何がよろしいですか?襟巻、靴下や腹巻。毛糸たくさんいただきましたし、何でも作って差し上げますよ」
マリサはなかなか達者な編み手ではあるが、あまり凝った技術はない。年も年なので大物は辛いらしく、小物作りが主だ。
だが毛糸いじりは楽しいといい、こうしてヴィオラや夫に何かと作ることを楽しんでいる。
「私も、もうちょっと編み物覚えた方がいいのかしら」
「うーん、編み物はでも基本的に誰でもできることでしょう。……お嬢様は、お嬢様にしかできないことをなさいなさいな」
「……私にしかできないこと?」
「あの、紡ぐ前の毛糸を使って作るのも金属線を曲げて作るのも。ヴィオラお嬢様しか、できないことでしょう。貴族のお嬢様達だって、ずいぶんと気に入ってくださってる」
「……彼女達は、私がずいぶん年寄りの魔女だと思ってるようだけども」
言ってヴィオラは苦笑する。貴族令嬢たちが誤解しているのをわかっていて放置していたのも彼女自身だ。
正確にはヴィオラも、彼女たちと同じ貴族令嬢ではあるのだが。実家を出た時点で、貴族籍からは抜けている可能性が高い。
正直なところ、その方がいいと考えている。こうして生計を立てられる程度の職に就いてしまえば、格式張って面倒の多い貴族生活などこりごりだ。
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