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ワイヤーワーク・3
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レイチェルの婚約者・ヘンドリックスも、リリィとは関わりがあるがそもそも本人剣を振っていれば幸せな脳筋剣士なので、『何やらわちゃわちゃした子どもがいた』程度にしか認識していなかった。リリィ本人は、『とても頼り甲斐のある人で、守ってくれるっていうのー』と例によってくねくねしていたらしいが、その本人は『迂闊で危なっかしくてほっといたら死にそうな幼子だから』と宣った。要は完全に子ども扱いである。ので、レイチェルもとがめなかったし、周囲も納得した。
ただ、当の本人リリィはそれを知らないし知ったらむくれるだろう。己の子どもじみたマナー違反や無礼を棚に上げ、自分が他の者より低く扱われることに敏感で、特に見目のいい男性にはちやほやされたがるマウントをとりたがる、というのだそうだ。
幸か不幸か、大概の男子学生は己の身を弁えている。婚約は家同士の契約であって自分一人の感情でどうこうできるものではないし、通すべき筋やつながりがあることをわかっているのだ。
ヘンドリックスはその点、例外と言えば例外だが。リリィが望むものとは大幅に方向性が異なる、というのがレイチェルの判断だ。
「ヘンドリックス、今日は鍛錬を休んでも大丈夫だろうか。少し父上が相談があるのだそうだ」
「俺にか?珍しいな」
レイチェルの父は騎士団の要職に就いている。ヘンドリックスの父兄もだが、職域が異なり仕事上の接点はあまりない。
端的に言えば、とりあえず体を鍛えろ剣を振れ、と言う根っから体育会系のヘンドリックスの親族に対し、レイチェルの父は状況の判断力も大事、過去の事例を検証し同じ過ちを犯すな、という頭脳派だ。実際レイチェルの父は騎士団では参謀職に就いている。
その父も今学園内で起こっている事態について耳に入ったらしく、それについてヘンドリックスと話したいという。
正直なところ、レイチェルとしては彼の話を聞いてもあまり実にはならないと思っている。ヘンドリックスは悪い人間では無いのだが、はっきり言って頭は良くない。周囲の空気を読む能力も無いので、今の学園の状態もあまりわかっていないと思う。
もっとも男子学生の中では最高位の第一王子が事態を静観している以上、男子の間には何らかの噂など流れているのかもしれないが。それも彼にはとどいているかどうか。
「まあ、隊長殿にはしばらくお会いしていないし。ご挨拶も兼ねて顔を見せてくるか」
「よろしくお願いします」
「それと、レイチェル。この前もらったこの剣飾り、いいな。派手ではないが他に無いのが気に入った」
ふと思い出したように言って自分が佩いている剣の鞘を示す。なめし革のその表面に絡まる蔦のような金属線は、滑らかな流線を描き、同時に力強い。
元々性別に関わらず身につけられそうな品だが、明らかにこれは男性向けだ。実際、ごく実用的で他に飾り気の無いヘンドリックスの剣にもよく似合っている。
「これは特注の一点ものですからね。気に入っていただいたなら良かった。……ついでにヘンドリックス、お父様に伝えてもらえますか」
「ん、何をだ?」
「この材料になる、『妖精の罠』を送っていただくように。……魔女と約束しているんです」
「……その、魔女とやらがこれを作ったのか?」
「はい。……ほんの少しだけ、私も手を出してはいますが」
後半そっと呟いたレイチェルの言葉は、あいにく女心などというものには疎いヘンドリックスの耳には入らなかったらしい。
ただ、当の本人リリィはそれを知らないし知ったらむくれるだろう。己の子どもじみたマナー違反や無礼を棚に上げ、自分が他の者より低く扱われることに敏感で、特に見目のいい男性にはちやほやされたがるマウントをとりたがる、というのだそうだ。
幸か不幸か、大概の男子学生は己の身を弁えている。婚約は家同士の契約であって自分一人の感情でどうこうできるものではないし、通すべき筋やつながりがあることをわかっているのだ。
ヘンドリックスはその点、例外と言えば例外だが。リリィが望むものとは大幅に方向性が異なる、というのがレイチェルの判断だ。
「ヘンドリックス、今日は鍛錬を休んでも大丈夫だろうか。少し父上が相談があるのだそうだ」
「俺にか?珍しいな」
レイチェルの父は騎士団の要職に就いている。ヘンドリックスの父兄もだが、職域が異なり仕事上の接点はあまりない。
端的に言えば、とりあえず体を鍛えろ剣を振れ、と言う根っから体育会系のヘンドリックスの親族に対し、レイチェルの父は状況の判断力も大事、過去の事例を検証し同じ過ちを犯すな、という頭脳派だ。実際レイチェルの父は騎士団では参謀職に就いている。
その父も今学園内で起こっている事態について耳に入ったらしく、それについてヘンドリックスと話したいという。
正直なところ、レイチェルとしては彼の話を聞いてもあまり実にはならないと思っている。ヘンドリックスは悪い人間では無いのだが、はっきり言って頭は良くない。周囲の空気を読む能力も無いので、今の学園の状態もあまりわかっていないと思う。
もっとも男子学生の中では最高位の第一王子が事態を静観している以上、男子の間には何らかの噂など流れているのかもしれないが。それも彼にはとどいているかどうか。
「まあ、隊長殿にはしばらくお会いしていないし。ご挨拶も兼ねて顔を見せてくるか」
「よろしくお願いします」
「それと、レイチェル。この前もらったこの剣飾り、いいな。派手ではないが他に無いのが気に入った」
ふと思い出したように言って自分が佩いている剣の鞘を示す。なめし革のその表面に絡まる蔦のような金属線は、滑らかな流線を描き、同時に力強い。
元々性別に関わらず身につけられそうな品だが、明らかにこれは男性向けだ。実際、ごく実用的で他に飾り気の無いヘンドリックスの剣にもよく似合っている。
「これは特注の一点ものですからね。気に入っていただいたなら良かった。……ついでにヘンドリックス、お父様に伝えてもらえますか」
「ん、何をだ?」
「この材料になる、『妖精の罠』を送っていただくように。……魔女と約束しているんです」
「……その、魔女とやらがこれを作ったのか?」
「はい。……ほんの少しだけ、私も手を出してはいますが」
後半そっと呟いたレイチェルの言葉は、あいにく女心などというものには疎いヘンドリックスの耳には入らなかったらしい。
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