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見切り処分・2
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学園は、ゲームでも描写された通りの風景だ。建物や調度品には品格があり庭にも季節の花が咲き、いずれも手入れが行き届いている。
ゲームの背景としては、廊下や前庭、表玄関など『絵になる』光景揃いだ。そしてその一方、あまり人目にはつかないが主人公が攻略対象と愛を囁き合う裏庭のベンチなど、隠れた名所もある。
「……何あいつ等……」
リリィが蔑みと怒りを込めて呟いた相手は、その裏庭のベンチの一つに座っている一組のカップルだ。
ゲームの少なくとも名前が出る登場人物ではないだろう、どちらもぱっとしない見た目で背格好も制服も目立ったところのない、リリィ自身の言葉で言えば『絵に描いたようなモブ』だ。
女の方はリリィもうっすら見覚えがある、おそらく同じクラスのつまり下級貴族の令嬢だ。身綺麗にしてはいても中肉中背で顔立ちも目立つところのない、可もなく不可もない容姿。
男には見覚えはないが、こちらも似たり寄ったりの地味で普通の外見だ。
だがリリィにとって忌々しいのは、その二人が互いに頬を染め、睦言を交わしている様子だったことだ。主人公たる自分が思うように相手から声もかけられずイライラしているのに、モブが勝手にいちゃいちゃしているなんて、と理不尽な怒りに駆られる。そして彼女は、そういう時我慢ができるような性格ではなかった。
ずかずかと足音荒くそちらに踏み出すと、気づいた二人がさっと距離をとる。どちらもうっすら頬を染めているのが、本来なら初々しい印象を与えるのに、リリィにとっては単に忌々しいだけだ。
素知らぬ顔で(と本人は思っているが、実際には悪感情がにじみ出る表情に二人は警戒を覚えていた)歩み寄り、通り過ぎるその刹那にわざとらしくよろけてみせる。
「きゃああ」
思わず腰を浮かせかけた女生徒を突き飛ばすように、その手に持っていた「もの」を地面にはたき落とすとそれを狙って踏みつけた。
「ああら、ごめんあそばせ」
ぱきぱき、と堅く小さな物が砕ける感触を靴底で感じながら、リリィはわざとらしく口先だけで詫びてみせる。
「でもどうせ安物ですもの、壊れたってべつにいいでしょ」
「んな……っ!!」
これには男の方が激高する。恋人を咄嗟に抱きとめてリリィをにらみつける、その視線に彼女はふん、と鼻を鳴らした。
この二人が何をいちゃいちゃしているのか、むかつくと同時に気になったので覗いていたのだ。何やらビーズの指輪らしいものを男が渡し、女の方はそれに感激して泣きそうになっていた。ちゃちいビーズの指輪でそんなに感激できる辺り、揃ってどちらも安っぽい、と大声で嘲ってやりたい。
「何をするんだ、きみは!いきなり乱暴な振る舞いの上に、失礼過ぎる!」
「あぁら、そんな安物しか女性に贈れない殿方が何を仰るのやら」
リリィの認識では、ちゃっちいビーズの指輪など子どものおもちゃだ。それも、冴えない暗い連中がちまちま趣味で作るようなくだらないお遊びの産物、と見なしている。
だがそれは彼女の思い込みでしかない。この世界には、そもそもビーズという装飾品が極めて希少なかつ新奇なものなのだ。当然ながら、彼女が勝手に思い込んでいるような安物ではない。
「……『安物』というなら、弁償してもらおう!」
ゲームの背景としては、廊下や前庭、表玄関など『絵になる』光景揃いだ。そしてその一方、あまり人目にはつかないが主人公が攻略対象と愛を囁き合う裏庭のベンチなど、隠れた名所もある。
「……何あいつ等……」
リリィが蔑みと怒りを込めて呟いた相手は、その裏庭のベンチの一つに座っている一組のカップルだ。
ゲームの少なくとも名前が出る登場人物ではないだろう、どちらもぱっとしない見た目で背格好も制服も目立ったところのない、リリィ自身の言葉で言えば『絵に描いたようなモブ』だ。
女の方はリリィもうっすら見覚えがある、おそらく同じクラスのつまり下級貴族の令嬢だ。身綺麗にしてはいても中肉中背で顔立ちも目立つところのない、可もなく不可もない容姿。
男には見覚えはないが、こちらも似たり寄ったりの地味で普通の外見だ。
だがリリィにとって忌々しいのは、その二人が互いに頬を染め、睦言を交わしている様子だったことだ。主人公たる自分が思うように相手から声もかけられずイライラしているのに、モブが勝手にいちゃいちゃしているなんて、と理不尽な怒りに駆られる。そして彼女は、そういう時我慢ができるような性格ではなかった。
ずかずかと足音荒くそちらに踏み出すと、気づいた二人がさっと距離をとる。どちらもうっすら頬を染めているのが、本来なら初々しい印象を与えるのに、リリィにとっては単に忌々しいだけだ。
素知らぬ顔で(と本人は思っているが、実際には悪感情がにじみ出る表情に二人は警戒を覚えていた)歩み寄り、通り過ぎるその刹那にわざとらしくよろけてみせる。
「きゃああ」
思わず腰を浮かせかけた女生徒を突き飛ばすように、その手に持っていた「もの」を地面にはたき落とすとそれを狙って踏みつけた。
「ああら、ごめんあそばせ」
ぱきぱき、と堅く小さな物が砕ける感触を靴底で感じながら、リリィはわざとらしく口先だけで詫びてみせる。
「でもどうせ安物ですもの、壊れたってべつにいいでしょ」
「んな……っ!!」
これには男の方が激高する。恋人を咄嗟に抱きとめてリリィをにらみつける、その視線に彼女はふん、と鼻を鳴らした。
この二人が何をいちゃいちゃしているのか、むかつくと同時に気になったので覗いていたのだ。何やらビーズの指輪らしいものを男が渡し、女の方はそれに感激して泣きそうになっていた。ちゃちいビーズの指輪でそんなに感激できる辺り、揃ってどちらも安っぽい、と大声で嘲ってやりたい。
「何をするんだ、きみは!いきなり乱暴な振る舞いの上に、失礼過ぎる!」
「あぁら、そんな安物しか女性に贈れない殿方が何を仰るのやら」
リリィの認識では、ちゃっちいビーズの指輪など子どものおもちゃだ。それも、冴えない暗い連中がちまちま趣味で作るようなくだらないお遊びの産物、と見なしている。
だがそれは彼女の思い込みでしかない。この世界には、そもそもビーズという装飾品が極めて希少なかつ新奇なものなのだ。当然ながら、彼女が勝手に思い込んでいるような安物ではない。
「……『安物』というなら、弁償してもらおう!」
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