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第16話 莉菜子 カワイイ捨て犬を見つける の巻
しおりを挟む「はぁ……最悪。」
不動産屋からの帰り道、莉菜子は深いため息をついた。
彼女の望むような物件など存在しなかった。いや、そもそも、高校生が親の同意なしに一人暮らしできるわけがない。現実は残酷だった。
(この美貌をもってしても、金がなければどうにもならないなんて、世の中腐ってるわ。)
イライラしながら団地へ向かう道を歩いていたとき、ふと電柱の下にうずくまる小さな影が目に入った。
「……え?」
近づいてみると、それは小さな子犬だった。白い毛並みの雑種で、痩せ細っている。ボロボロのダンボールに入れられ、冷たい夜風に震えていた。
「……捨て犬?」
莉菜子は足を止めた。
「なんでこんなところに……?」
あたりを見回しても、犬の持ち主らしき人はいない。ダンボールには「拾ってください」と雑に書かれた紙が貼られていた。
(は? こんな可愛い犬を平気で捨てるとか、どういう神経してるの?)
莉菜子は思わず歯ぎしりした。人間はどこまでも愚かだ。自分の都合で生き物を捨てるなんて、最低すぎる。
「……かわいそうに。」
子犬は震えながら莉菜子を見上げ、かすかに尻尾を振った。その姿があまりにも健気で、心が痛む。
(私が拾ってあげたい。でも……)
莉菜子の脳内で、すぐに現実が突きつけられる。
家は団地。ペット禁止。母親とは喧嘩中で、今すぐ家を出たいくらいなのに、こんな状態で犬を飼う余裕などない。
「……飼えない。」
ポツリと呟いた瞬間、喉の奥がきゅっと締めつけられるようだった。こんなに可愛い命を前にして、何もしてやれないなんて。
子犬は、そんな莉菜子の気持ちを察したのか、しょんぼりとうつむいた。まるで、「また見捨てられるのか」とでも言うように。
「……違うのよ。私だって、本当は助けたい。でも……」
莉菜子は拳を握りしめた。どうにかして、この子を救う方法はないのか?
(ペットショップや動物病院に連れて行く? いや、そんなお金はない。友達に相談? でも、こんな時間だし、すぐに飼える人が見つかる保証もない。)
焦りながらも考え続ける。しかし、解決策はなかなか見つからない。
そのとき——
「……あれ? 何してるの?」
不意に背後から声がした。
振り向くと、同じ団地に住む幼馴染の篠原悠真(しのはら ゆうま)が立っていた。クラスメイトで、莉菜子とは小さい頃からの付き合いがある。
「え、犬?」
悠真は莉菜子の足元の子犬を見て、目を丸くした。
「……捨てられてたの。」
莉菜子が静かに答えると、悠真の表情が曇った。
「ひどいな……。こんな小さな犬を放り出すなんて。」
悠真はしゃがみ込み、そっと子犬の頭を撫でた。すると、子犬は小さく鳴いて、嬉しそうに尻尾を振った。
「……なぁ、俺んちで預かれないかな。」
「え?」
莉菜子は思わず悠真を見つめた。
「うちは一応ペットOKだし、親も動物好きだから、相談すればいけるかもしれない。」
「……本当?」
莉菜子の胸に、一筋の希望が差し込んだ。
「とりあえず、親に聞いてみるよ。もしダメでも、知り合いで飼える人を探してみる。」
悠真はそう言って、子犬を優しく抱き上げた。子犬は安心したように、彼の腕の中で目を細める。
「……助かる。」
莉菜子は小さく呟いた。
(この子が幸せになれるなら、それでいい。)
「じゃあ、俺んちで様子見るから、また連絡する。」
悠真が微笑みながら言うと、莉菜子は小さく頷いた。
「お願い。」
それだけ言って、莉菜子は踵を返した。
夜風が冷たく吹く。さっきまでとは違う、少しだけ優しい気持ちを抱えながら、莉菜子は家へと向かった。
——誰かが、ほんの少しの思いやりを持てば、救われる命もある。
そんなことを、莉菜子は初めて実感した夜だった。
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