「史上まれにみる美少女の日常」

綾羽 ミカ

文字の大きさ
16 / 21

第16話  莉菜子 カワイイ捨て犬を見つける の巻

しおりを挟む


 「はぁ……最悪。」

 不動産屋からの帰り道、莉菜子は深いため息をついた。

 彼女の望むような物件など存在しなかった。いや、そもそも、高校生が親の同意なしに一人暮らしできるわけがない。現実は残酷だった。

 (この美貌をもってしても、金がなければどうにもならないなんて、世の中腐ってるわ。)

 イライラしながら団地へ向かう道を歩いていたとき、ふと電柱の下にうずくまる小さな影が目に入った。

 「……え?」

 近づいてみると、それは小さな子犬だった。白い毛並みの雑種で、痩せ細っている。ボロボロのダンボールに入れられ、冷たい夜風に震えていた。

 「……捨て犬?」

 莉菜子は足を止めた。

 「なんでこんなところに……?」

 あたりを見回しても、犬の持ち主らしき人はいない。ダンボールには「拾ってください」と雑に書かれた紙が貼られていた。

 (は? こんな可愛い犬を平気で捨てるとか、どういう神経してるの?)

 莉菜子は思わず歯ぎしりした。人間はどこまでも愚かだ。自分の都合で生き物を捨てるなんて、最低すぎる。

 「……かわいそうに。」

 子犬は震えながら莉菜子を見上げ、かすかに尻尾を振った。その姿があまりにも健気で、心が痛む。

 (私が拾ってあげたい。でも……)

 莉菜子の脳内で、すぐに現実が突きつけられる。

 家は団地。ペット禁止。母親とは喧嘩中で、今すぐ家を出たいくらいなのに、こんな状態で犬を飼う余裕などない。

 「……飼えない。」

 ポツリと呟いた瞬間、喉の奥がきゅっと締めつけられるようだった。こんなに可愛い命を前にして、何もしてやれないなんて。

 子犬は、そんな莉菜子の気持ちを察したのか、しょんぼりとうつむいた。まるで、「また見捨てられるのか」とでも言うように。

 「……違うのよ。私だって、本当は助けたい。でも……」

 莉菜子は拳を握りしめた。どうにかして、この子を救う方法はないのか?

 (ペットショップや動物病院に連れて行く? いや、そんなお金はない。友達に相談? でも、こんな時間だし、すぐに飼える人が見つかる保証もない。)

 焦りながらも考え続ける。しかし、解決策はなかなか見つからない。

 そのとき——

 「……あれ? 何してるの?」

 不意に背後から声がした。

 振り向くと、同じ団地に住む幼馴染の篠原悠真(しのはら ゆうま)が立っていた。クラスメイトで、莉菜子とは小さい頃からの付き合いがある。

 「え、犬?」

 悠真は莉菜子の足元の子犬を見て、目を丸くした。

 「……捨てられてたの。」

 莉菜子が静かに答えると、悠真の表情が曇った。

 「ひどいな……。こんな小さな犬を放り出すなんて。」

 悠真はしゃがみ込み、そっと子犬の頭を撫でた。すると、子犬は小さく鳴いて、嬉しそうに尻尾を振った。

 「……なぁ、俺んちで預かれないかな。」

 「え?」

 莉菜子は思わず悠真を見つめた。

 「うちは一応ペットOKだし、親も動物好きだから、相談すればいけるかもしれない。」

 「……本当?」

 莉菜子の胸に、一筋の希望が差し込んだ。

 「とりあえず、親に聞いてみるよ。もしダメでも、知り合いで飼える人を探してみる。」

 悠真はそう言って、子犬を優しく抱き上げた。子犬は安心したように、彼の腕の中で目を細める。

 「……助かる。」

 莉菜子は小さく呟いた。

 (この子が幸せになれるなら、それでいい。)

 「じゃあ、俺んちで様子見るから、また連絡する。」

 悠真が微笑みながら言うと、莉菜子は小さく頷いた。

 「お願い。」

 それだけ言って、莉菜子は踵を返した。

 夜風が冷たく吹く。さっきまでとは違う、少しだけ優しい気持ちを抱えながら、莉菜子は家へと向かった。

 ——誰かが、ほんの少しの思いやりを持てば、救われる命もある。

 そんなことを、莉菜子は初めて実感した夜だった。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

不思議な夏休み

廣瀬純七
青春
夏休みの初日に体が入れ替わった四人の高校生の男女が経験した不思議な話

付き合う前から好感度が限界突破な幼馴染が、疎遠になっていた中学時代を取り戻す為に高校ではイチャイチャするだけの話

頼瑠 ユウ
青春
高校一年生の上条悠斗は、同級生にして幼馴染の一ノ瀬綾乃が別のクラスのイケメンに告白された事を知り、自身も彼女に想いを伝える為に告白をする。 綾乃とは家が隣同士で、彼女の家庭の事情もあり家族ぐるみで幼い頃から仲が良かった。 だが、悠斗は小学校卒業を前に友人達に綾乃との仲を揶揄われ、「もっと女の子らしい子が好きだ」と言ってしまい、それが切っ掛けで彼女とは疎遠になってしまっていた。 中学の三年間は拒絶されるのが怖くて、悠斗は綾乃から逃げ続けた。 とうとう高校生となり、綾乃は誰にでも分け隔てなく優しく、身体つきも女性らしくなり『学年一の美少女』と謳われる程となっている。 高嶺の花。 そんな彼女に悠斗は不釣り合いだと振られる事を覚悟していた。 だがその結果は思わぬ方向へ。実は彼女もずっと悠斗が好きで、両想いだった。 しかも、綾乃は悠斗の気を惹く為に、品行方正で才色兼備である事に努め、胸の大きさも複数のパッドで盛りに盛っていた事が発覚する。 それでも構わず、恋人となった二人は今まで出来なかった事を少しずつ取り戻していく。 他愛の無い会話や一緒にお弁当を食べたり、宿題をしたり、ゲームで遊び、デートをして互いが好きだという事を改めて自覚していく。 存分にイチャイチャし、時には異性と意識して葛藤する事もあった。 両家の家族にも交際を認められ、幸せな日々を過ごしていた。 拙いながらも愛を育んでいく中で、いつしか学校では綾乃の良からぬ噂が広まっていく。 そして綾乃に振られたイケメンは彼女の弱みを握り、自分と付き合う様に脅してきた。 それでも悠斗と綾乃は屈せずに、将来を誓う。 イケメンの企てに、友人達や家族の助けを得て立ち向かう。 付き合う前から好感度が限界突破な二人には、いかなる障害も些細な事だった。

むっつり金持ち高校生、巨乳美少女たちに囲まれて学園ハーレム

ピコサイクス
青春
顔は普通、性格も地味。 けれど実は金持ちな高校一年生――俺、朝倉健斗。 学校では埋もれキャラのはずなのに、なぜか周りは巨乳美女ばかり!? 大学生の家庭教師、年上メイド、同級生ギャルに清楚系美少女……。 真面目な御曹司を演じつつ、内心はむっつりスケベ。

鐘ヶ岡学園女子バレー部の秘密

フロイライン
青春
名門復活を目指し厳しい練習を続ける鐘ヶ岡学園の女子バレー部 キャプテンを務める新田まどかは、身体能力を飛躍的に伸ばすため、ある行動に出るが…

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

処理中です...