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第15話 莉菜子 一人暮らしを検討するため不動産屋へ行く の巻
しおりを挟む「もう無理! 本当に無理!」
鹿取莉菜子は、団地の狭いリビングで叫んでいた。
その向かいには、彼女の母親。仕事帰りで疲れ切った顔をしているが、莉菜子の怒りには微塵も動じる様子がない。
「アンタね、いい加減現実を見なさいよ。一人暮らし? どこにそんなお金があるの?」
母親の冷静な言葉に、莉菜子はさらに苛立った。確かに、お金の問題はある。でも、それよりも彼女にとって重要なのは、この家にいたくないということだった。
「もうあんたと一緒に暮らすの限界なの! こっちは完璧な美少女なのに、こんなボロ団地に住んでるせいで人生の価値が下がるのよ!」
母親はため息をつき、雑誌をめくりながら、「はいはい、好きにすれば?」と投げやりに言った。その態度が莉菜子の怒りにさらに火をつけた。
「……いいわ! 本当に一人暮らしするから!」
その勢いのまま、莉菜子はスマホを手に取り、最寄りの不動産屋を検索した。
*
翌日。
莉菜子は、駅前の不動産屋のドアを開けた。
「いらっしゃいませー!」
カウンターの奥から若い男性スタッフがにこやかに声をかける。彼は一瞬、莉菜子を見て目を丸くした。無理もない。この世のものとは思えないほどの美少女が、突然不動産屋にやって来たのだから。
「えっと、お部屋をお探しですか?」
「そう。一人暮らしをしようと思ってるの。」
莉菜子は堂々と宣言した。しかし、スタッフはどこか困った顔をしている。
「ちなみに、ご予算はどのくらいで?」
「……三万円以内で。」
スタッフの顔が一瞬凍りついた。都内で三万円以内の物件なんて、ほぼ存在しない。いや、存在はするが、間違いなく“住めるレベル”ではない。
「えっと、その……都内だと、かなり厳しいですね……。地方だと可能性はありますが……」
「じゃあ、六畳で風呂トイレ付きで、駅から徒歩五分で三万円の物件はある?」
「……ないです。」
莉菜子はため息をついた。現実は厳しい。
「じゃあ、安くて、住めるレベルのところってどんなのがあるの?」
スタッフは申し訳なさそうにパソコンを操作し、数件の物件を提示した。
「こちらだと、家賃3万5千円で、風呂なし、駅徒歩20分、築50年のアパートがあります。」
「……ボロじゃん。」
「すみません。都内だとこれが限界で……。」
莉菜子は考え込んだ。彼女は美少女であり、普通の高校生とは違う。しかし、現実問題として、金がないと理想の生活はできない。
「じゃあ、審査ってどうなってるの?」
「基本的には、親御さんの同意が必要です。高校生の単独契約は難しいですね……」
「……無理じゃん。」
莉菜子はまたため息をついた。
「お客様、バイトとかはされていますか?」
「してないわ。」
「そうなると、保証人なしでの契約はさらに厳しいですね……」
無理。完全に無理。
莉菜子は、ため息をつきながら店を出た。
(やっぱり、現実は甘くない……)
帰り道、母親の言葉が脳裏によぎる。
「だから言ったでしょ。」
悔しい。めちゃくちゃ悔しい。でも、いつか絶対に自分で自由に暮らせる生活を手に入れる。
莉菜子は決意を固め、スマホで「稼げるバイト」を検索しながら、団地へと帰っていった。
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