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タイゾウさん
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夫の祖父、つまりおマサさんの伴侶は床屋を営んでいました。
彼も故人なので、遺影の顔しか知りませんが、どこかネプチューンの原田泰造さんに似ています。それにちなんで、このエッセイでは彼を『タイゾウさん』と呼ばせていただきます。
さて、タイゾウさんは自他共に認める大酒飲みでした。なにせ葬式で参列者全員に「酒さえ飲まなきゃいい人だった」と言われたそうです。暇さえあれば飲み、あればあるだけ飲み、そんな人がよくハサミを使えたものだと思いますが、当時、周辺に理美容店はタイゾウさんの店舗だけで、繁盛していたようです。
おマサさんは幼かった夫にこう話したことがありました。
「見合いだったんだけどよ、嫁いでみたら馬みてぇな男だった」
「なんで馬なの? 顔が長いから?」
「ちげぇよ、アソコがよ、バカみたいにでかくて、まるで馬だったんだよ」
子ども相手に何を話しているんだと思いましたが、おマサさんには下ネタとか不謹慎という概念がありません。
二人は賑やかな夫婦で、お互い文句を言いながらもずっと添い遂げました。
タイゾウさんが危篤状態に陥ったとき、おマサさんに電話で伝えたのは夫でした。
「じいちゃんが危篤だよ。早く来て!」
しかし、おマサさんは面倒くさそうにこう言ったのです。
「明日行くからいいんだ!」
「何言ってんの、危篤だってば!」
「父ちゃんには明日行くって言ってあるからいいんだ!」
夫はあまりのインパクトに、そのあと記憶がないそうです。
現在、居間には二人の遺影が仲良く並んでいます。
おマサさんは「なんでお前が隣なんだよ」とでも言いたげな仏頂面で、一方のタイゾウさんは「そう言うなよ」とおどけているように見えます。というのも、彼の遺影は右斜め上を見てにやけているのです。
妻からは口汚く罵られてばかりいたそうですが、割れ鍋に綴じ蓋で案外いい夫婦だったのかもしれないと思える遺影なのでした。
彼も故人なので、遺影の顔しか知りませんが、どこかネプチューンの原田泰造さんに似ています。それにちなんで、このエッセイでは彼を『タイゾウさん』と呼ばせていただきます。
さて、タイゾウさんは自他共に認める大酒飲みでした。なにせ葬式で参列者全員に「酒さえ飲まなきゃいい人だった」と言われたそうです。暇さえあれば飲み、あればあるだけ飲み、そんな人がよくハサミを使えたものだと思いますが、当時、周辺に理美容店はタイゾウさんの店舗だけで、繁盛していたようです。
おマサさんは幼かった夫にこう話したことがありました。
「見合いだったんだけどよ、嫁いでみたら馬みてぇな男だった」
「なんで馬なの? 顔が長いから?」
「ちげぇよ、アソコがよ、バカみたいにでかくて、まるで馬だったんだよ」
子ども相手に何を話しているんだと思いましたが、おマサさんには下ネタとか不謹慎という概念がありません。
二人は賑やかな夫婦で、お互い文句を言いながらもずっと添い遂げました。
タイゾウさんが危篤状態に陥ったとき、おマサさんに電話で伝えたのは夫でした。
「じいちゃんが危篤だよ。早く来て!」
しかし、おマサさんは面倒くさそうにこう言ったのです。
「明日行くからいいんだ!」
「何言ってんの、危篤だってば!」
「父ちゃんには明日行くって言ってあるからいいんだ!」
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現在、居間には二人の遺影が仲良く並んでいます。
おマサさんは「なんでお前が隣なんだよ」とでも言いたげな仏頂面で、一方のタイゾウさんは「そう言うなよ」とおどけているように見えます。というのも、彼の遺影は右斜め上を見てにやけているのです。
妻からは口汚く罵られてばかりいたそうですが、割れ鍋に綴じ蓋で案外いい夫婦だったのかもしれないと思える遺影なのでした。
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