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第一章
第二十話〜捕縛、そして教導開始〜
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テイラーの森を出てウィドスの外縁部に着地したアヤトは、街の出入り口である門の警備を任されている衛兵に捕まっていた。プレートアーマーで全身が覆い尽くされているが顔だけを露出させ、希望に満ちた瞳をした若い衛兵はアヤトに呆れたような視線を向けている。
「なんであなたはこう突拍子のない行動とりますかね」
「仕事奪っちまったのは悪かったけど、こいつらがおいたしてたのが原因だからな」
「そこが一番の問題なんですよ。よりによってゲットン盗賊団だなんて」
衛兵は頭を抱え、いかにも無法者といったような厳つく毛が伸び放題な風貌の頭領ゲットンは、拘束され口枷を付けられて尚憎悪の限りを尽くしアヤトを睨む。その部下達も二十数人全てが拘束されているが、ゲットン程の胆力はないのだろう、大半が顔を青くして震えていた。
——ゲットン盗賊団っていうと確か冒険者崩れの集まりで生死問わずの賞金首だったな。朝っぱらから街を襲おうなんてこいつら馬鹿なのか?
アヤトは衛兵の言葉でようやく自らが捕らえた不審な集まりの正体に気付いたが、略奪や殺人の他に誘拐や強姦など非道な行いの数々を行ってきた相手に同情するほど優しくはない。
落ちぶれた理由はそれぞれ違うのだろう。けれど、盗賊の道を選んだ結果が今なのだ。犯した罪は償わなければいけない。
彼等にとって不幸だったのは普段街中でしか活動していなかったアヤトが街の外に出た事だろう。テイラーの森からの帰り道、ウィドスから程近い茂みに明らかな敵意を持った武装集団を見つけてしまえば放っておくなどできるわけもなく、一瞬で無力化し糸を用いた捕縛術で拘束したのだ。
街を襲うことで罪が重くなる事を避けられたことは、唯一の救いだったのかもしれない。
「元冒険者ということで功労者は大々的に公表されますよ。良いんですか?」
衛兵を悩ませているのはその言葉に尽きる。盗賊団の襲撃前に全て解決してくれた事には感謝しかないが、それ以上に常日頃から裏方に回ろうとしている人の行動の後始末をしなくてはいけないからだ。
「全部グランの手柄で頼む」
「そう言うと思いました」
グランと呼ばれた衛兵はさも当たり前のように隠れ蓑にされる事を受け入れていた。慣れてしまった、そう言えるぐらいにアヤトとの付き合いは長い。
だが今回はゲットン盗賊団の規模が大きい為、とてもではないが一衛兵でしかないグラン一人の手柄にするわけにはいかなかった。
落ちぶれたとはいえ元冒険者の経験がなくなるわけもなく、そんな相手を一網打尽にしたとなれば一躍有名人となるだろう。
「何人かの同僚と共同で捕らえたことにしますね。悪目立ちするのは変わりそうにないですけど少しはましでしょう」
「誰がとかどこでとか細かいことは適当に決めてくれ。そういうわけで、お前ら俺の事は内緒な」
口止めをするアヤトだが、無法者が素直に従うわけもない。絶えず睨みつけてくるゲットンは意趣返しですぐにでも口にするだろう。
「死ぬより辛い思いしたければ好きにして良いんじゃないか」
もっとも従わないのなら従いたくなるようにするだけだ。濃厚な殺気を盗賊団へのみ叩きつけると、あれだけ反抗心が表立っていたゲットンも顔面蒼白となり首を何度も縦に振り出した。部下の中には失禁してしまった者もいるようだ。
「これで抵抗はしないだろうから後は頼むな」
「わかりました。今更になりますが、街の危機を事前に防いでいただきありがとうございます。ほら、お前も」
「あっ、ああ。ありがとうございます」
「やめてくれ、その分面倒ごと押し付けてるから感謝されるのも複雑なんだよ。まあこれからも仲良くよろしく」
今まで驚きから全く会話に入ってこなかったもう一人の衛兵と共に敬礼するグランへ、軽く手を振り冒険院へ向かうアヤト。だが、ふと立ち止まり気になった事を伝える。
「俺が襲撃した時にそこのボスが言ってたんだけど『あいつ裏切りやがったな』だとさ。同じ衛兵なのか上の奴らなのかはわからないけど、手引きしようとした輩がいるのは間違い無いだろうぜ」
後ろで二人が息を呑んでいるのがわかるが振り返らない。街の中心に近い位置に大きな膿があるのかもしれないが、これ以上踏み込めば表舞台の役者になってしまいそうなので気にはなりつつも自重することにしたのだ。
思いがけずに巻き込まれれば致し方ないが、ウィドスでずっと取っているスタンスは今後も崩すつもりない。
「さてと……三人の面談もあるし急ぐか」
グランの前では一切慌てた素振りを見せなかったが、実はメッサーラ達との集合時間は間近に迫っていた。ゲットン盗賊団の捕縛自体はさほど時間はかからなかったが、そもそも無茶なお願いをグランにしているので急かすわけにもいかなかったのだ。
——料理好きのラトゥーニアンと勉強のできるセイロン、なんでもそつなくこなすカイネルか。怖がってるんじゃ冒険者としてやっていけないけど、こっちで定職に就いて本当に良いのかね。
国籍による職業の差別などリベリタスにはないがプロメリウムは違う。世界の中心なのだと疑わない国民性は他所者を軽視し差別する傾向にあるのだ。一度でも国外に出ようものなら冷遇されてしまうのは間違いない。
だが各国に支部のある冒険院へ所属していたとなれば一時的に国を離れていただけだとして、比較的友好な反応で迎え入れられるのだ。だからこそアヤトは三人を説得するつもりでいたのだが、その必要はなくなってしまった。
「三人ともプロメリウムに帰るつもりはないってことで良いのか?」
冒険院に着いたアヤトは面談予定の三人を連れたメッサーラ達を見つけ挨拶を済ませると、すぐにその旨を伝えられてしまったのだ。
カイネルは堂々と、セイロンは気まずそうにしているラトゥーニアンを気にしつつではあったが自らの意志で言ってのけた。冒険者になるメリットを知った上での決断ならばアヤトから言える事は何もない。
「わかった。しっかり考えて決めたんだろうから後悔がないよう頑張ってくれ」
アカネへシャールとティリエルの今朝の様子を伝えると同時に、冒険者を辞退する三人の話を通す。アヤトの管理責任はここで終了だ。
三人に対してメッサーラとアルムは手を振り、テルムはなんとか聞き取れる声量で応援の言葉をかけていた。だがその様子いつまでもそうしているわけにもいかない。
昨日購入した手荷物の確認をさせると、テイラーの森へ向かうべくグランの担当する門とは別口へ向けう。途中でやすらぎに寄って収納魔道具を回収するためだ。
「昨日三人とたくさん話してみたけど泣いてた」
「そうだろうな」
「知ってたの?」
「そりゃ目を見れば一発だろ」
「そういうものなんだ」
まだ人混み溢れる街中でのメッサーラの発言に思わず納得してしまったのは、三人共泣き腫らした目をしていたからだ。泣いていた理由はわからないし知ったところで今更関わりがないためどうしようもないが、まだ両親の保護下であるべき年齢であることを考えれば現状で泣かない方がおかしいのかもしれない。
——だとすると残った三人はメンタルを支える大きな柱があるはずだな。はっきりしてるのはメッサーラがプロメリウムの改善を望んでることぐらいか。
アルムとテルムとはまだそこまで多くの会話をしていない為、そもそもプロメリウムへの想いの丈などもわからず判断しようがない。
「きょうか~ん、今からテイラーの森で何をするの?」
「確かにまだ説明を受けていませんでしたね。戦うところを見るだけとは言っていましたが、何と戦うのでしょう。というわけで教官、説明を求める」
「言ってなかったっけか?とりあえず門抜けたら道すがら話すから待っててくれ」
「わかったが……何か騒がしくないか?」
「確かにね~。事件でもあったのかな?」
「さっきチラッと聞こえたけど、極悪盗賊団が捕まったらしい。朝から大事件なんだって」
「そりゃ大変だな」
街中を忙しそうに動き回っている衛兵を視界に入れつつ、ゲットン盗賊団の一件が思っていた以上に大事になっていることを知ったアヤトであったが、グランに任せた手前もはや他人事のような感覚であった。
「なんであなたはこう突拍子のない行動とりますかね」
「仕事奪っちまったのは悪かったけど、こいつらがおいたしてたのが原因だからな」
「そこが一番の問題なんですよ。よりによってゲットン盗賊団だなんて」
衛兵は頭を抱え、いかにも無法者といったような厳つく毛が伸び放題な風貌の頭領ゲットンは、拘束され口枷を付けられて尚憎悪の限りを尽くしアヤトを睨む。その部下達も二十数人全てが拘束されているが、ゲットン程の胆力はないのだろう、大半が顔を青くして震えていた。
——ゲットン盗賊団っていうと確か冒険者崩れの集まりで生死問わずの賞金首だったな。朝っぱらから街を襲おうなんてこいつら馬鹿なのか?
アヤトは衛兵の言葉でようやく自らが捕らえた不審な集まりの正体に気付いたが、略奪や殺人の他に誘拐や強姦など非道な行いの数々を行ってきた相手に同情するほど優しくはない。
落ちぶれた理由はそれぞれ違うのだろう。けれど、盗賊の道を選んだ結果が今なのだ。犯した罪は償わなければいけない。
彼等にとって不幸だったのは普段街中でしか活動していなかったアヤトが街の外に出た事だろう。テイラーの森からの帰り道、ウィドスから程近い茂みに明らかな敵意を持った武装集団を見つけてしまえば放っておくなどできるわけもなく、一瞬で無力化し糸を用いた捕縛術で拘束したのだ。
街を襲うことで罪が重くなる事を避けられたことは、唯一の救いだったのかもしれない。
「元冒険者ということで功労者は大々的に公表されますよ。良いんですか?」
衛兵を悩ませているのはその言葉に尽きる。盗賊団の襲撃前に全て解決してくれた事には感謝しかないが、それ以上に常日頃から裏方に回ろうとしている人の行動の後始末をしなくてはいけないからだ。
「全部グランの手柄で頼む」
「そう言うと思いました」
グランと呼ばれた衛兵はさも当たり前のように隠れ蓑にされる事を受け入れていた。慣れてしまった、そう言えるぐらいにアヤトとの付き合いは長い。
だが今回はゲットン盗賊団の規模が大きい為、とてもではないが一衛兵でしかないグラン一人の手柄にするわけにはいかなかった。
落ちぶれたとはいえ元冒険者の経験がなくなるわけもなく、そんな相手を一網打尽にしたとなれば一躍有名人となるだろう。
「何人かの同僚と共同で捕らえたことにしますね。悪目立ちするのは変わりそうにないですけど少しはましでしょう」
「誰がとかどこでとか細かいことは適当に決めてくれ。そういうわけで、お前ら俺の事は内緒な」
口止めをするアヤトだが、無法者が素直に従うわけもない。絶えず睨みつけてくるゲットンは意趣返しですぐにでも口にするだろう。
「死ぬより辛い思いしたければ好きにして良いんじゃないか」
もっとも従わないのなら従いたくなるようにするだけだ。濃厚な殺気を盗賊団へのみ叩きつけると、あれだけ反抗心が表立っていたゲットンも顔面蒼白となり首を何度も縦に振り出した。部下の中には失禁してしまった者もいるようだ。
「これで抵抗はしないだろうから後は頼むな」
「わかりました。今更になりますが、街の危機を事前に防いでいただきありがとうございます。ほら、お前も」
「あっ、ああ。ありがとうございます」
「やめてくれ、その分面倒ごと押し付けてるから感謝されるのも複雑なんだよ。まあこれからも仲良くよろしく」
今まで驚きから全く会話に入ってこなかったもう一人の衛兵と共に敬礼するグランへ、軽く手を振り冒険院へ向かうアヤト。だが、ふと立ち止まり気になった事を伝える。
「俺が襲撃した時にそこのボスが言ってたんだけど『あいつ裏切りやがったな』だとさ。同じ衛兵なのか上の奴らなのかはわからないけど、手引きしようとした輩がいるのは間違い無いだろうぜ」
後ろで二人が息を呑んでいるのがわかるが振り返らない。街の中心に近い位置に大きな膿があるのかもしれないが、これ以上踏み込めば表舞台の役者になってしまいそうなので気にはなりつつも自重することにしたのだ。
思いがけずに巻き込まれれば致し方ないが、ウィドスでずっと取っているスタンスは今後も崩すつもりない。
「さてと……三人の面談もあるし急ぐか」
グランの前では一切慌てた素振りを見せなかったが、実はメッサーラ達との集合時間は間近に迫っていた。ゲットン盗賊団の捕縛自体はさほど時間はかからなかったが、そもそも無茶なお願いをグランにしているので急かすわけにもいかなかったのだ。
——料理好きのラトゥーニアンと勉強のできるセイロン、なんでもそつなくこなすカイネルか。怖がってるんじゃ冒険者としてやっていけないけど、こっちで定職に就いて本当に良いのかね。
国籍による職業の差別などリベリタスにはないがプロメリウムは違う。世界の中心なのだと疑わない国民性は他所者を軽視し差別する傾向にあるのだ。一度でも国外に出ようものなら冷遇されてしまうのは間違いない。
だが各国に支部のある冒険院へ所属していたとなれば一時的に国を離れていただけだとして、比較的友好な反応で迎え入れられるのだ。だからこそアヤトは三人を説得するつもりでいたのだが、その必要はなくなってしまった。
「三人ともプロメリウムに帰るつもりはないってことで良いのか?」
冒険院に着いたアヤトは面談予定の三人を連れたメッサーラ達を見つけ挨拶を済ませると、すぐにその旨を伝えられてしまったのだ。
カイネルは堂々と、セイロンは気まずそうにしているラトゥーニアンを気にしつつではあったが自らの意志で言ってのけた。冒険者になるメリットを知った上での決断ならばアヤトから言える事は何もない。
「わかった。しっかり考えて決めたんだろうから後悔がないよう頑張ってくれ」
アカネへシャールとティリエルの今朝の様子を伝えると同時に、冒険者を辞退する三人の話を通す。アヤトの管理責任はここで終了だ。
三人に対してメッサーラとアルムは手を振り、テルムはなんとか聞き取れる声量で応援の言葉をかけていた。だがその様子いつまでもそうしているわけにもいかない。
昨日購入した手荷物の確認をさせると、テイラーの森へ向かうべくグランの担当する門とは別口へ向けう。途中でやすらぎに寄って収納魔道具を回収するためだ。
「昨日三人とたくさん話してみたけど泣いてた」
「そうだろうな」
「知ってたの?」
「そりゃ目を見れば一発だろ」
「そういうものなんだ」
まだ人混み溢れる街中でのメッサーラの発言に思わず納得してしまったのは、三人共泣き腫らした目をしていたからだ。泣いていた理由はわからないし知ったところで今更関わりがないためどうしようもないが、まだ両親の保護下であるべき年齢であることを考えれば現状で泣かない方がおかしいのかもしれない。
——だとすると残った三人はメンタルを支える大きな柱があるはずだな。はっきりしてるのはメッサーラがプロメリウムの改善を望んでることぐらいか。
アルムとテルムとはまだそこまで多くの会話をしていない為、そもそもプロメリウムへの想いの丈などもわからず判断しようがない。
「きょうか~ん、今からテイラーの森で何をするの?」
「確かにまだ説明を受けていませんでしたね。戦うところを見るだけとは言っていましたが、何と戦うのでしょう。というわけで教官、説明を求める」
「言ってなかったっけか?とりあえず門抜けたら道すがら話すから待っててくれ」
「わかったが……何か騒がしくないか?」
「確かにね~。事件でもあったのかな?」
「さっきチラッと聞こえたけど、極悪盗賊団が捕まったらしい。朝から大事件なんだって」
「そりゃ大変だな」
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