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第一章
第二十四話〜冒険者体験④〜
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草原をひたすら歩きようやくテイラーの森が見えたのは、ちょうど生徒達の小腹が空くような時間帯であった。
「大体予定通りの時間につきそうだな」
「だったら休憩しましょ。私、もうヘトヘトだよ」
「賛成です。姉上もお疲れでしょうが……メッサーラを見てください」
「……」
「メッサ君!?」
「こんな感じで干からびてるんです」
体力のなさが直に影響したのか、メッサーラの目は虚でフラフラとただ前へ前へと進む機械のようになっていた。最後尾をなんとか着いてきていたもののいつ倒れてもおかしくない状況だ。
そんな悲惨な様子を今しがた偶然後ろを振り向いたテルムは見てしまった。アルム至上主義の彼女ですら心配するほどにメッサーラの顔色は悪い。
「大丈夫!?」
「疲れた……もう眠くてたまらない」
迷う事なくメッサーラを支えるように横に寄り添うアルムと、それに追従するようにもう片方に寄り添うテルムの姉妹二人はアヤトへ責めるような視線を向ける。
「教官、この状態でまだ歩けというのはさすがに酷ではないか?」
「だね。休憩しましょうよ」
「さすがに限界そうだし別に構わないぞ。丁度木陰もあるな。メッサは俺が連れてくから二人は先に行っててくれ、重いだろ?」
「う~ん、確かに重たいですけど……じゃあお願いしますね」
「メッサーラ、先に行っているがもし教官が乱雑に扱ったら後で教えてくれ。冒険院に報告するからな」
「うん……ちゃんと伝えて」
「怖いな、おい」
力が抜けた状態の同世代の男の子を抱えるには二人の力を合わせても辛いものがあったようだ。アヤトに任せて良いものかと、ほんの少しの葛藤はあったようだがすぐにメッサーラを任せ先を歩いていく。
アヤトは二人に託されたメッサーラを背負うと、呆れたように話しかける。
「おいおい、頑張りすぎだ。倍率、最大まで上げてるだろ?」
「うん……予想以上に辛い」
「そりゃそうだ。自分の体重がそのままのしかかってるようなもんだからな」
「どうりで……」
「その分効率は良いけどな。視たとこ魔力も根こそぎもっていかれてるし、身体もボロボロ。旅先だからまともな休憩も取りにくいときた。これなら超回復も期待大ってなわけだ」
「良いことなんだろうけど……もう、ねむくて……」
「サービスで今日はずっと運んでやるから寝てろ。明日からは倍率落として最後まで自分で歩けよ?」
「わかった……ありが……と」
「早っ……まあ元々体力ないし仕方ないか」
すぐに聞こえてきた寝息を確認するとアヤトは基礎能力向上の為の呪縛——修験の錠を解呪するべくメッサーラに施された発動状態の術式に魔力を流し強制的に中断させた。すると、背中に感じる重みが途端に軽くなるのがわかる。
「まさか昨日の今日でやるなんてな。こういう後先関係なく突っ走れるのも若さなのかね」
昨日テイラーの森に出発する前。メッサーラと昼食を一緒にとっていた際に先行して教えてしまったトレーニング方法、それが修験の錠だ。
己の成長限界を嘆き悔やんだ一人の男性が、自らを痛めつけることで存在するかもわからない殻を破るべく開発した術式と言われている。自分に負荷を与えるというそこまで難しい魔術ではなく、術式を覚えてしまえば誰でも行使できるのは魔術の素人でしかないメッサーラが証明している。
ただ、冒険者の活動を初めて体験する今日から実践するとはアヤトも思わなかった。更には移動の途中にメッサーラが修験の錠を行使したのは魔力の感知ですぐにわかったので気にかけていたが、ここまであっさり倒れるとは予想外にも程がある。時間にして三十分も耐えれていないのだ。
アルムとテルムにも近いうちに教えるつもりではあったが、少なくともティリエル達と合流するまでは教えるべきではないだろうと判断する。多少の違いはあれどメッサーラと変わらない基礎能力の二人が修験の錠を行使すれば短時間で倒れる可能性が高い。
仮に三人を抱えることになろうと苦ではなく、そもそも二人がすぐに試すかどうかなどもわからないが、合流時に生徒の内誰かと救助したという事実が欲しいのだ。
——色々と面倒だ……けど退屈よりはマシか。こう、下から上に駆け上がっていくのを見るのは爽快なんだよな。
威張り散らした成人している先輩冒険者よりも大きな功績を挙げる新人三人組。確実に力をつけていく子供達に焦る熟練者も出始め、パーティーに勧誘する輩も増えてくるだろう。三人の性格上、一時的な協力はあり得てもパーティー入りはしない可能性が高い。その後も着実に成果を残し徐々に子供ではなく有力な冒険者として認められていく。
そんなありきたりな成り上がりの想像は、けれど王道であるからこそ心躍るものがある。しかし、これは物語ではなく現実なのだ。想像はあくまでも想像でしかないが、いつどこで誰が何が困難として立ち塞がってくるかわからない。それを打開できるだけの力を付けさせなければ危なかっしいにも程があるだろう。
耳元で聞こえてくる穏やかな寝息も、木陰から元気よく手を振りこちらを見ている笑顔も、その横で腕を組み不満気ながらも心配しているようにも見える複雑な顔も曇らせたくはない。決心というほど強くはないが、教導へのやる気を若干向上させるアヤトの心境は幼い弟妹を想う兄のようなものであった。
——あっちの二人はすぐに有名になるだろうな。裏切ったやつらの動きも気になるし、そっちはそっちで楽しみだ。
今から救助に向かうティリエルとシャールには当然ながら兄という感覚はない。だが、上級冒険者となってからの快進撃には期待はしている。
そう、二人の目的である裏切り者をどれだけ見返せるか、だ。
「大体予定通りの時間につきそうだな」
「だったら休憩しましょ。私、もうヘトヘトだよ」
「賛成です。姉上もお疲れでしょうが……メッサーラを見てください」
「……」
「メッサ君!?」
「こんな感じで干からびてるんです」
体力のなさが直に影響したのか、メッサーラの目は虚でフラフラとただ前へ前へと進む機械のようになっていた。最後尾をなんとか着いてきていたもののいつ倒れてもおかしくない状況だ。
そんな悲惨な様子を今しがた偶然後ろを振り向いたテルムは見てしまった。アルム至上主義の彼女ですら心配するほどにメッサーラの顔色は悪い。
「大丈夫!?」
「疲れた……もう眠くてたまらない」
迷う事なくメッサーラを支えるように横に寄り添うアルムと、それに追従するようにもう片方に寄り添うテルムの姉妹二人はアヤトへ責めるような視線を向ける。
「教官、この状態でまだ歩けというのはさすがに酷ではないか?」
「だね。休憩しましょうよ」
「さすがに限界そうだし別に構わないぞ。丁度木陰もあるな。メッサは俺が連れてくから二人は先に行っててくれ、重いだろ?」
「う~ん、確かに重たいですけど……じゃあお願いしますね」
「メッサーラ、先に行っているがもし教官が乱雑に扱ったら後で教えてくれ。冒険院に報告するからな」
「うん……ちゃんと伝えて」
「怖いな、おい」
力が抜けた状態の同世代の男の子を抱えるには二人の力を合わせても辛いものがあったようだ。アヤトに任せて良いものかと、ほんの少しの葛藤はあったようだがすぐにメッサーラを任せ先を歩いていく。
アヤトは二人に託されたメッサーラを背負うと、呆れたように話しかける。
「おいおい、頑張りすぎだ。倍率、最大まで上げてるだろ?」
「うん……予想以上に辛い」
「そりゃそうだ。自分の体重がそのままのしかかってるようなもんだからな」
「どうりで……」
「その分効率は良いけどな。視たとこ魔力も根こそぎもっていかれてるし、身体もボロボロ。旅先だからまともな休憩も取りにくいときた。これなら超回復も期待大ってなわけだ」
「良いことなんだろうけど……もう、ねむくて……」
「サービスで今日はずっと運んでやるから寝てろ。明日からは倍率落として最後まで自分で歩けよ?」
「わかった……ありが……と」
「早っ……まあ元々体力ないし仕方ないか」
すぐに聞こえてきた寝息を確認するとアヤトは基礎能力向上の為の呪縛——修験の錠を解呪するべくメッサーラに施された発動状態の術式に魔力を流し強制的に中断させた。すると、背中に感じる重みが途端に軽くなるのがわかる。
「まさか昨日の今日でやるなんてな。こういう後先関係なく突っ走れるのも若さなのかね」
昨日テイラーの森に出発する前。メッサーラと昼食を一緒にとっていた際に先行して教えてしまったトレーニング方法、それが修験の錠だ。
己の成長限界を嘆き悔やんだ一人の男性が、自らを痛めつけることで存在するかもわからない殻を破るべく開発した術式と言われている。自分に負荷を与えるというそこまで難しい魔術ではなく、術式を覚えてしまえば誰でも行使できるのは魔術の素人でしかないメッサーラが証明している。
ただ、冒険者の活動を初めて体験する今日から実践するとはアヤトも思わなかった。更には移動の途中にメッサーラが修験の錠を行使したのは魔力の感知ですぐにわかったので気にかけていたが、ここまであっさり倒れるとは予想外にも程がある。時間にして三十分も耐えれていないのだ。
アルムとテルムにも近いうちに教えるつもりではあったが、少なくともティリエル達と合流するまでは教えるべきではないだろうと判断する。多少の違いはあれどメッサーラと変わらない基礎能力の二人が修験の錠を行使すれば短時間で倒れる可能性が高い。
仮に三人を抱えることになろうと苦ではなく、そもそも二人がすぐに試すかどうかなどもわからないが、合流時に生徒の内誰かと救助したという事実が欲しいのだ。
——色々と面倒だ……けど退屈よりはマシか。こう、下から上に駆け上がっていくのを見るのは爽快なんだよな。
威張り散らした成人している先輩冒険者よりも大きな功績を挙げる新人三人組。確実に力をつけていく子供達に焦る熟練者も出始め、パーティーに勧誘する輩も増えてくるだろう。三人の性格上、一時的な協力はあり得てもパーティー入りはしない可能性が高い。その後も着実に成果を残し徐々に子供ではなく有力な冒険者として認められていく。
そんなありきたりな成り上がりの想像は、けれど王道であるからこそ心躍るものがある。しかし、これは物語ではなく現実なのだ。想像はあくまでも想像でしかないが、いつどこで誰が何が困難として立ち塞がってくるかわからない。それを打開できるだけの力を付けさせなければ危なかっしいにも程があるだろう。
耳元で聞こえてくる穏やかな寝息も、木陰から元気よく手を振りこちらを見ている笑顔も、その横で腕を組み不満気ながらも心配しているようにも見える複雑な顔も曇らせたくはない。決心というほど強くはないが、教導へのやる気を若干向上させるアヤトの心境は幼い弟妹を想う兄のようなものであった。
——あっちの二人はすぐに有名になるだろうな。裏切ったやつらの動きも気になるし、そっちはそっちで楽しみだ。
今から救助に向かうティリエルとシャールには当然ながら兄という感覚はない。だが、上級冒険者となってからの快進撃には期待はしている。
そう、二人の目的である裏切り者をどれだけ見返せるか、だ。
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