34 / 77
4章 肉の都に向かって、三千里(誇張)
漁業の街と、おっさんです
しおりを挟む
ホルス湖に面した街、ケリーウォル。旅行ガイドブックによれば昔からホルス湖での漁業が盛んな街、らしい。ホルス湖にどんな魚がいるかは知らないが美味い魚であることを祈ろう。
どうも、おっさんです。コーエケッグを朝に出立してから4日ほど移動してますから、そろそろケリーウォルに到着すると思うんですよね。ほら、ジャガイモ畑も見えてきた。
決して綺麗に舗装されているわけでない道を何台もの馬車と騎士たちが移動していく。騎士の行進なんぞ、この長閑な光景に似つかわしくないものだろう。練度が高いから画にはなるだろうが俺の好きな風景ではないな。
それはそうと王族の乗る馬車は魔導具だから相当に揺れが抑制されるはずなんだがなぁ……ガタガタと馬車が揺れる、こりゃ相当に道が荒れてるな。
共和国はホルス湖を用いた水運が盛んな国であるから、問題ないのかもしれないが、それにしても随分使われてないんだろう。
道が悪いせいで、やたらとガタゴトと跳ねる馬車に揺られながら俺は周りを見渡していた、それも何時間もの間ずっとだ。
先ほど空高く飛んでいる鷹に偵察を依頼したし、多少気を抜いても良いよな? そろそろゆっくりしたい。
今のところ相変わらず監視の人間は3人。どうやら1日交代で別の人間に入れ替わっているようだ。獣人らしく、類稀な身体能力で素早く街の方へ移動していくのを確認している。
そういえばネコ系の獣人にマタタビって効くのかな? 機会があったら試してみるか。何ならケイ君に振りかけておくのもありか。帰ったら試してみよ。
「はぁ……ハインリヒ、お前も歩いたらどうだ?」
「今、警戒中」
「寝転がってか? お前みたいなおっさんが乗ってたら重くて馬車の馬も疲れるだろうが。歩け」
何を言う、俺はちゃんと体重を軽くして屋根上に寝転がってるぞ。だから馬の疲れ具合に影響は出ない、つまり俺が寝転がってても問題ない。
「今の俺の体重はりんご3個分だから問題ない」
「どんな身体の構造してるんだよ」
長閑な道を進むことしばし。ケリーウォルへの旅程で襲撃やら馬車の車輪が壊れる、なんていうハプニングは起きず無事に到着することができた。
そうそう、野営の飯で食ったコロッケが普通に美味かった。騎士のくせに料理の特性をそこそこのレベルまで習得してるやつがいるようだ。本当にありがとうございます。是非、また作ってください。
いや~、あのコロッケはマジで美味かったんだよ。鶏肉のジュレというべきか煮凝りというべきか、そんな醤油ベースの味付けをした肉を、すりつぶしたジャガイモで包んでから衣をつけて揚げたコロッケだ。むさ苦しい騎士団の男が作ったとは思えない絶品だったね。
噛んだ瞬間にサクっと音が鳴る……そこから噛みしめればじゃがいものほくほくした感じと濃厚な味付けの肉が混ざり合ってちょうど良い味の濃さになる。鶏肉は共和国のものを使っていたようで、肉の旨みが醤油に負けずハッキリしていて美味かった。
強いていうならばソースだな。ソースがなかったのが悔しいところだ。無くても十分美味かったが、ソースはあった方が美味いよな?
何はともあれ、今日は魚だな。湖の魚って言ったら……何がいたかな。マスとかヤマメとかかな。あまり食ったことがないんだが、塩焼きとかにして食べるのかな。
街に入り宿に向かう。その途中で俺の鼻が嗅ぎ慣れた美味そうな匂いをキャッチした。俺の鼻は誤魔化せないぞ、これはうなぎだ。……しかもタレの匂いがする。白焼きももちろん美味いんだけど、蒲焼きだよな。タレが美味いんだよ。
今日は宿で食べようと思ってたけど、最近食べてなかったしうなぎにしちゃおうかなぁ!大体の場所は分かったし、ささっと行って食って帰れば怒られないだろ。
宿に入りしばらくすると夕飯の時間になった。よしよし、今日はうなぎだ。うなぎの油、香ばしい匂い、楽しみだ。財布に金が入っていることを確認し、扉を開けると殿下がいた。
よし、今日は宿で食おう。
「やぁ、ハインリヒ。これから何処へ行くんだい」
「?……宿で飯食って寝ますけど?」
「え? お主が?」
何で信じられないって顔して人のこと見てるの? 俺だって宿で食う時もあるよ。ところで殿下は出かける準備万端のようですけど……殿下ともあろうお方がまさかね? 断りもなしに何処かに食べに行くつもりではありませんよね?
「はい。ところで殿下は何処で食べるんですか?」
「着いてきてくれはしないか?」
んんんー? 何を言ってるんだ、この警護対象は。
「アルベルトには相談しましたか?」
「いや、してないが……」
「良いですか、殿下。殿下は一国の王子のなのですからそうそう気軽に外出されていただいては困ります」
全く困っちゃうよなぁ。アルベルトがせっかく立てた警備計画も練り直しになるんだからな。全く、付き合わされる人の身にもなって欲しいもんだよ。
「それをお主が言うか?」
「ささ、殿下も夕食をお召し上がりください。明日の明朝に出立いたしますから、よくお身体をお休めください」
訳: 飯食って寝ろ。
「むぅ……」
殿下は少し悩んだ後、天啓を得たかのような顔をした。
おい、1人で街に繰り出そう、なんて考えるんじゃねぇ! 『1人でこっそり行ってバレないように帰ってくれば皆が幸せになるのでは』じゃねぇんだよ!
俺が着いていかなくちゃいけなくなるだろ……そうだ、こう言う時のためにアルベルトがいるんじゃないか。全部あいつに任せよう。多分どうにかしてくれるだろ。
「どうしてもと言うのでしたらアルベルトにご相談ください。可能であればアルベルトがどうにかしてくれるでしょう」
「確かにそうか、アルベルトは優秀だからな」
副音声で『お前とは違ってな』という声が聞こえたんですけど……どう言うことですかね。ま、いいや。俺は宿屋で飯を食うぞ。
さてさて、今日の夜飯は……ホルスマスの塩焼き定食だ! 定食の内容はホルスマスの塩焼きと、蕎麦粉のガレットに加えて漬物と味噌汁だ。なかなかいいじゃないか。美味そうな組み合わせだ。
俺がメニュー表を見て夜飯に思いを馳せていた時、何やら上の方から人の話し声、それもやたら大きい話し声が聞こえてきた。
「殿下? お待ちを殿下!」
「護衛の騎士など1人でいいではないか。行くぞアルベルト!」
んー、騒がしいな。ここは宿屋だぞ。常識ってものがないんですかね。
「常識的に考えて1人では問題が生じます。再考を」
「常識を疑え! 行くぞ!」
常識知らずがなんか言ってるな。全くこれだから王族は……アルベルトに丸投げしてよかったな。
ドタドタと階段を降りてきたのは殿下、そしてアルベルトだ。アルベルトは殿下に触れずに言葉だけでどうにかしようとしている。言葉でそいつが止まるわけないだろ。
「それは疑ってはいけない常識です、殿下」
「誰が何と言おうと私は行くぞ」
え、マジ? どうすんの。アルベルトが俺に着いていけって目配せをやたら送ってくるけど……嫌だよ。俺は養豚とか牛の街でステーキ食いたいもん。そのための金を殿下に浪費させるわけにはいかんでしょ。
「はぁ……失礼、これも御身の安全の為」
「な、何をする!」
何をする、じゃないんだよなぁ。認識阻害フード被ってるしあまり怪しまれないのだけは幸運か。綺麗に簀巻きにされた殿下はアルベルトに担がれて部屋の中へ消えていった。
よし、飯食うぞ。注文は宿屋のおばあちゃんに言えばいいかな?
「すいません。ホルスマス定食ください」
「ガレットは大盛りにする?」
え、ガレットって大盛りとかできるの? そりゃするでしょ! だったら味噌汁も大盛りにしたいな。
「はい、大盛りで。味噌汁も大盛りにできます?」
「出来るよぉ。いやぁ、よく食べるねぇ。出来上がるまで時間がかかりますからちょっとお待ちになってね」
大きめの宿屋とは言え、食べる為のスペースはそこまで大きくはない。近くの宿屋は全て貸切に近い状態だ。俺達ってもしかしなくてもかなり良いお客様なんじゃないか? めちゃくちゃ金使ってるよな。
こう言うのって普通は領主館に泊めさせてもらうものじゃないの?
ま、そんなことはどうでもいいか。俺が気にする問題じゃない。注文してから椅子に座ってのんびり待つ。音楽がない生活に慣れていたから、やはり音楽がない空間の方が落ち着くな。やっぱり飯は静かに食いたい。
木材のテーブルに木材の壁、木材の天井。視界に占める木材の割合がかなり多い為か、温かみのある空間のように感じられる。何というかリラックスできる空間だ。静かで、リラックスできる空間に料理の音だけが響く。
そう、こうやって耳を澄ませていると料理の音が食欲を……
チッ、何だ? 上の階がうるさいな。
「アルベルトぉ! 今日の私はその共和国ガイドブックの25ページにある騒ぐ蛙亭に行かねばならんのだ」
何だ、殿下か。大して体力があるわけじゃないんだから、さっさと飯食って寝ろ。
「何ですかそれ。……ヘビーメタルって書いてありますけど貴重な金属かなんかですか?」
「そうか、ヘヴィメタルを知らないのか。では説明しよう」
「いえ、結構です。お早く夕食を召し上がってください。明日の朝早くに出立しますので、お身体をお休めください」
「はぁ……お主もハインリヒと同じことを言うのだな」
なんか、やたら嫌そうな感情がアルベルトから俺に向けられている。俺がなんか悪いことしたか?
その後も殿下はアルベルト相手に説得を試みていたようだが、アルベルトが説得を聞き入れることは一度もなかった。声がバカデカすぎるだろ、黙って寝てろよ。
「待たせてごめんねぇ。ホルスマス定食です」
「いえいえ、そんな待ってないですよ」
「ごゆっくり。食べ終わったら片付けますから声かけてくださいね」
そう言って宿屋のおばあちゃんは、カウンターの奥の椅子に座ると、うとうとし始めた。……宿屋の人、誰か変わってやれよ。
それよりも飯だ。暖かいうちに食ってやらないとな。
見た目はかなりいい。ホルスマスの塩焼きは想像してた塩焼き通りの見た目で非常に食欲をそそる。蕎麦粉のガレットは、ガレットの上にチーズと玉ねぎ、ピーマン、じゃがいもが乗っているちょっとしたピザみたいな料理だった。これはなかなかボリューミーな感じだし、まずいわけがない。
きゅうりの漬物は色が少し茶色っぽいから味付けしてある奴だな。ゴマが振ってあって美味しそうだ。味噌汁は具材に何が入ってるのか不明だが、魚っぽい匂いがするから魚のあらで出汁をとった味噌汁なんじゃないかと思う。
では、いざ実食。
まずはホルスマスの塩焼きにナイフを入れる。フワッと身が綺麗に切れた。食べてみるとフワフワとしていながら弾力がある食いごたえのある食感だ。
美味い。塩が振ってあるだけなのだがそれで十分だ。魚の旨みを濃いめの塩が引き立たせる。丁寧に下処理されているのか、そもそも臭いがあまりしない魚なのか臭みはあまり感じられない。
川魚や湖の魚特有の臭みや苦味といったものも感じられず、ほんのり甘いような気さえする。ホルス湖の環境がよほどいいのかもしれない。
うん、美味いな。1番最初に食べて正解だった。チーズが乗ったガレットを食べた後だったら100%に旨みを感じ取ることはできなかったかもしれないな。
皮も美味い。パリパリで塩がガッツリかかってるからほぼ塩味みたいなもんだけどこれが堪らないんだよなぁ。塩と香ばしさが美味い。
ここで味噌汁を一口。あったかい、身に沁みる。やはり、味噌汁はいいね。具材は大根とにんじんだけだが、強く魚の旨みを感じる。やはり、魚の骨などから出汁をとってるのだろう。
ガレットを食う前に漬物を食べて口直しといこう。うん、パリパリとした食感が楽しい。生姜か何か入っているのか口の中がスッとサッパリする爽快感がある。口の中がリセットされたような気分だ。これでガレットをしっかり味わえるな。
肝心のガレットだが、その見た目はピザだ。生地の色が黒っぽいピザ、というのが見た目を表現するのに適した言葉だろう。1口食べてみると、想像と少し違う。
生地は思ったよりもちもちしている。もっとパサついてるイメージだったのだがそうでもないらしい。チーズは伸びるのかと思いきや、ほとんど伸びないタイプのチーズのようだ。チーズ特有の匂いは結構する。
これは、結構いけるな。思ってるより美味いぞ、これ。
食べた感想だが、やっぱりピザなんじゃないか? トマトソースかけたらこれほぼほぼピザだぞ。まるでピザだ。トマトソースがないせいか少し物足りないと感じてしまうが、そういう料理だと割り切れば普通に美味い料理だった。
蕎麦粉の香りが香ばしく、外はカリッ、中が少しもちっとした生地が特徴的でチーズとの相性も非常に良いものだった。欲を出すと、肉。やっぱ肉を乗せたいよね。共和国のハムなんかを乗せたら最高だと思う。卵とかでもいいな、チーズon卵とか絶対美味いだろ?
でも無いものは無いから仕方ないな。このガレット、めちゃくちゃ惜しいな。あと一歩が足りない、そんな印象を受ける料理でした。
……ごちそうさまでした。今日はよく食ったなぁ。じゃ、もう寝るか。次の街は養豚が盛んな街だからな。ハムステーキにソーセージ、他にも食いたいものが沢山ある。楽しみで仕方ないんだよな。トンカツとかどうよ、絶対美味いぞ。
あぁ、ダメだ。豚肉のこと考えてたらなんか腹減ってきた。
なんかまだ食いたいけど、もうどこの店も店じまいの時間だよな。大人しく寝るか。……帰りにまたこの街に寄るだろうし、うなぎはその時に食べよう。魚が凄い美味しかったし、これは凄い期待できるぞ。
あっ、おばあちゃんに声かけないと。
「ごちそうさまでした。美味しかったです」
「ンガッ!? ……あら、食べ終わったの。飴ちゃんいる?」
「あー、遠慮しときます。料理美味しかったです」
「いえいえ、こちらこそ綺麗に食べてくれてありがとうねぇ」
どうも、おっさんです。コーエケッグを朝に出立してから4日ほど移動してますから、そろそろケリーウォルに到着すると思うんですよね。ほら、ジャガイモ畑も見えてきた。
決して綺麗に舗装されているわけでない道を何台もの馬車と騎士たちが移動していく。騎士の行進なんぞ、この長閑な光景に似つかわしくないものだろう。練度が高いから画にはなるだろうが俺の好きな風景ではないな。
それはそうと王族の乗る馬車は魔導具だから相当に揺れが抑制されるはずなんだがなぁ……ガタガタと馬車が揺れる、こりゃ相当に道が荒れてるな。
共和国はホルス湖を用いた水運が盛んな国であるから、問題ないのかもしれないが、それにしても随分使われてないんだろう。
道が悪いせいで、やたらとガタゴトと跳ねる馬車に揺られながら俺は周りを見渡していた、それも何時間もの間ずっとだ。
先ほど空高く飛んでいる鷹に偵察を依頼したし、多少気を抜いても良いよな? そろそろゆっくりしたい。
今のところ相変わらず監視の人間は3人。どうやら1日交代で別の人間に入れ替わっているようだ。獣人らしく、類稀な身体能力で素早く街の方へ移動していくのを確認している。
そういえばネコ系の獣人にマタタビって効くのかな? 機会があったら試してみるか。何ならケイ君に振りかけておくのもありか。帰ったら試してみよ。
「はぁ……ハインリヒ、お前も歩いたらどうだ?」
「今、警戒中」
「寝転がってか? お前みたいなおっさんが乗ってたら重くて馬車の馬も疲れるだろうが。歩け」
何を言う、俺はちゃんと体重を軽くして屋根上に寝転がってるぞ。だから馬の疲れ具合に影響は出ない、つまり俺が寝転がってても問題ない。
「今の俺の体重はりんご3個分だから問題ない」
「どんな身体の構造してるんだよ」
長閑な道を進むことしばし。ケリーウォルへの旅程で襲撃やら馬車の車輪が壊れる、なんていうハプニングは起きず無事に到着することができた。
そうそう、野営の飯で食ったコロッケが普通に美味かった。騎士のくせに料理の特性をそこそこのレベルまで習得してるやつがいるようだ。本当にありがとうございます。是非、また作ってください。
いや~、あのコロッケはマジで美味かったんだよ。鶏肉のジュレというべきか煮凝りというべきか、そんな醤油ベースの味付けをした肉を、すりつぶしたジャガイモで包んでから衣をつけて揚げたコロッケだ。むさ苦しい騎士団の男が作ったとは思えない絶品だったね。
噛んだ瞬間にサクっと音が鳴る……そこから噛みしめればじゃがいものほくほくした感じと濃厚な味付けの肉が混ざり合ってちょうど良い味の濃さになる。鶏肉は共和国のものを使っていたようで、肉の旨みが醤油に負けずハッキリしていて美味かった。
強いていうならばソースだな。ソースがなかったのが悔しいところだ。無くても十分美味かったが、ソースはあった方が美味いよな?
何はともあれ、今日は魚だな。湖の魚って言ったら……何がいたかな。マスとかヤマメとかかな。あまり食ったことがないんだが、塩焼きとかにして食べるのかな。
街に入り宿に向かう。その途中で俺の鼻が嗅ぎ慣れた美味そうな匂いをキャッチした。俺の鼻は誤魔化せないぞ、これはうなぎだ。……しかもタレの匂いがする。白焼きももちろん美味いんだけど、蒲焼きだよな。タレが美味いんだよ。
今日は宿で食べようと思ってたけど、最近食べてなかったしうなぎにしちゃおうかなぁ!大体の場所は分かったし、ささっと行って食って帰れば怒られないだろ。
宿に入りしばらくすると夕飯の時間になった。よしよし、今日はうなぎだ。うなぎの油、香ばしい匂い、楽しみだ。財布に金が入っていることを確認し、扉を開けると殿下がいた。
よし、今日は宿で食おう。
「やぁ、ハインリヒ。これから何処へ行くんだい」
「?……宿で飯食って寝ますけど?」
「え? お主が?」
何で信じられないって顔して人のこと見てるの? 俺だって宿で食う時もあるよ。ところで殿下は出かける準備万端のようですけど……殿下ともあろうお方がまさかね? 断りもなしに何処かに食べに行くつもりではありませんよね?
「はい。ところで殿下は何処で食べるんですか?」
「着いてきてくれはしないか?」
んんんー? 何を言ってるんだ、この警護対象は。
「アルベルトには相談しましたか?」
「いや、してないが……」
「良いですか、殿下。殿下は一国の王子のなのですからそうそう気軽に外出されていただいては困ります」
全く困っちゃうよなぁ。アルベルトがせっかく立てた警備計画も練り直しになるんだからな。全く、付き合わされる人の身にもなって欲しいもんだよ。
「それをお主が言うか?」
「ささ、殿下も夕食をお召し上がりください。明日の明朝に出立いたしますから、よくお身体をお休めください」
訳: 飯食って寝ろ。
「むぅ……」
殿下は少し悩んだ後、天啓を得たかのような顔をした。
おい、1人で街に繰り出そう、なんて考えるんじゃねぇ! 『1人でこっそり行ってバレないように帰ってくれば皆が幸せになるのでは』じゃねぇんだよ!
俺が着いていかなくちゃいけなくなるだろ……そうだ、こう言う時のためにアルベルトがいるんじゃないか。全部あいつに任せよう。多分どうにかしてくれるだろ。
「どうしてもと言うのでしたらアルベルトにご相談ください。可能であればアルベルトがどうにかしてくれるでしょう」
「確かにそうか、アルベルトは優秀だからな」
副音声で『お前とは違ってな』という声が聞こえたんですけど……どう言うことですかね。ま、いいや。俺は宿屋で飯を食うぞ。
さてさて、今日の夜飯は……ホルスマスの塩焼き定食だ! 定食の内容はホルスマスの塩焼きと、蕎麦粉のガレットに加えて漬物と味噌汁だ。なかなかいいじゃないか。美味そうな組み合わせだ。
俺がメニュー表を見て夜飯に思いを馳せていた時、何やら上の方から人の話し声、それもやたら大きい話し声が聞こえてきた。
「殿下? お待ちを殿下!」
「護衛の騎士など1人でいいではないか。行くぞアルベルト!」
んー、騒がしいな。ここは宿屋だぞ。常識ってものがないんですかね。
「常識的に考えて1人では問題が生じます。再考を」
「常識を疑え! 行くぞ!」
常識知らずがなんか言ってるな。全くこれだから王族は……アルベルトに丸投げしてよかったな。
ドタドタと階段を降りてきたのは殿下、そしてアルベルトだ。アルベルトは殿下に触れずに言葉だけでどうにかしようとしている。言葉でそいつが止まるわけないだろ。
「それは疑ってはいけない常識です、殿下」
「誰が何と言おうと私は行くぞ」
え、マジ? どうすんの。アルベルトが俺に着いていけって目配せをやたら送ってくるけど……嫌だよ。俺は養豚とか牛の街でステーキ食いたいもん。そのための金を殿下に浪費させるわけにはいかんでしょ。
「はぁ……失礼、これも御身の安全の為」
「な、何をする!」
何をする、じゃないんだよなぁ。認識阻害フード被ってるしあまり怪しまれないのだけは幸運か。綺麗に簀巻きにされた殿下はアルベルトに担がれて部屋の中へ消えていった。
よし、飯食うぞ。注文は宿屋のおばあちゃんに言えばいいかな?
「すいません。ホルスマス定食ください」
「ガレットは大盛りにする?」
え、ガレットって大盛りとかできるの? そりゃするでしょ! だったら味噌汁も大盛りにしたいな。
「はい、大盛りで。味噌汁も大盛りにできます?」
「出来るよぉ。いやぁ、よく食べるねぇ。出来上がるまで時間がかかりますからちょっとお待ちになってね」
大きめの宿屋とは言え、食べる為のスペースはそこまで大きくはない。近くの宿屋は全て貸切に近い状態だ。俺達ってもしかしなくてもかなり良いお客様なんじゃないか? めちゃくちゃ金使ってるよな。
こう言うのって普通は領主館に泊めさせてもらうものじゃないの?
ま、そんなことはどうでもいいか。俺が気にする問題じゃない。注文してから椅子に座ってのんびり待つ。音楽がない生活に慣れていたから、やはり音楽がない空間の方が落ち着くな。やっぱり飯は静かに食いたい。
木材のテーブルに木材の壁、木材の天井。視界に占める木材の割合がかなり多い為か、温かみのある空間のように感じられる。何というかリラックスできる空間だ。静かで、リラックスできる空間に料理の音だけが響く。
そう、こうやって耳を澄ませていると料理の音が食欲を……
チッ、何だ? 上の階がうるさいな。
「アルベルトぉ! 今日の私はその共和国ガイドブックの25ページにある騒ぐ蛙亭に行かねばならんのだ」
何だ、殿下か。大して体力があるわけじゃないんだから、さっさと飯食って寝ろ。
「何ですかそれ。……ヘビーメタルって書いてありますけど貴重な金属かなんかですか?」
「そうか、ヘヴィメタルを知らないのか。では説明しよう」
「いえ、結構です。お早く夕食を召し上がってください。明日の朝早くに出立しますので、お身体をお休めください」
「はぁ……お主もハインリヒと同じことを言うのだな」
なんか、やたら嫌そうな感情がアルベルトから俺に向けられている。俺がなんか悪いことしたか?
その後も殿下はアルベルト相手に説得を試みていたようだが、アルベルトが説得を聞き入れることは一度もなかった。声がバカデカすぎるだろ、黙って寝てろよ。
「待たせてごめんねぇ。ホルスマス定食です」
「いえいえ、そんな待ってないですよ」
「ごゆっくり。食べ終わったら片付けますから声かけてくださいね」
そう言って宿屋のおばあちゃんは、カウンターの奥の椅子に座ると、うとうとし始めた。……宿屋の人、誰か変わってやれよ。
それよりも飯だ。暖かいうちに食ってやらないとな。
見た目はかなりいい。ホルスマスの塩焼きは想像してた塩焼き通りの見た目で非常に食欲をそそる。蕎麦粉のガレットは、ガレットの上にチーズと玉ねぎ、ピーマン、じゃがいもが乗っているちょっとしたピザみたいな料理だった。これはなかなかボリューミーな感じだし、まずいわけがない。
きゅうりの漬物は色が少し茶色っぽいから味付けしてある奴だな。ゴマが振ってあって美味しそうだ。味噌汁は具材に何が入ってるのか不明だが、魚っぽい匂いがするから魚のあらで出汁をとった味噌汁なんじゃないかと思う。
では、いざ実食。
まずはホルスマスの塩焼きにナイフを入れる。フワッと身が綺麗に切れた。食べてみるとフワフワとしていながら弾力がある食いごたえのある食感だ。
美味い。塩が振ってあるだけなのだがそれで十分だ。魚の旨みを濃いめの塩が引き立たせる。丁寧に下処理されているのか、そもそも臭いがあまりしない魚なのか臭みはあまり感じられない。
川魚や湖の魚特有の臭みや苦味といったものも感じられず、ほんのり甘いような気さえする。ホルス湖の環境がよほどいいのかもしれない。
うん、美味いな。1番最初に食べて正解だった。チーズが乗ったガレットを食べた後だったら100%に旨みを感じ取ることはできなかったかもしれないな。
皮も美味い。パリパリで塩がガッツリかかってるからほぼ塩味みたいなもんだけどこれが堪らないんだよなぁ。塩と香ばしさが美味い。
ここで味噌汁を一口。あったかい、身に沁みる。やはり、味噌汁はいいね。具材は大根とにんじんだけだが、強く魚の旨みを感じる。やはり、魚の骨などから出汁をとってるのだろう。
ガレットを食う前に漬物を食べて口直しといこう。うん、パリパリとした食感が楽しい。生姜か何か入っているのか口の中がスッとサッパリする爽快感がある。口の中がリセットされたような気分だ。これでガレットをしっかり味わえるな。
肝心のガレットだが、その見た目はピザだ。生地の色が黒っぽいピザ、というのが見た目を表現するのに適した言葉だろう。1口食べてみると、想像と少し違う。
生地は思ったよりもちもちしている。もっとパサついてるイメージだったのだがそうでもないらしい。チーズは伸びるのかと思いきや、ほとんど伸びないタイプのチーズのようだ。チーズ特有の匂いは結構する。
これは、結構いけるな。思ってるより美味いぞ、これ。
食べた感想だが、やっぱりピザなんじゃないか? トマトソースかけたらこれほぼほぼピザだぞ。まるでピザだ。トマトソースがないせいか少し物足りないと感じてしまうが、そういう料理だと割り切れば普通に美味い料理だった。
蕎麦粉の香りが香ばしく、外はカリッ、中が少しもちっとした生地が特徴的でチーズとの相性も非常に良いものだった。欲を出すと、肉。やっぱ肉を乗せたいよね。共和国のハムなんかを乗せたら最高だと思う。卵とかでもいいな、チーズon卵とか絶対美味いだろ?
でも無いものは無いから仕方ないな。このガレット、めちゃくちゃ惜しいな。あと一歩が足りない、そんな印象を受ける料理でした。
……ごちそうさまでした。今日はよく食ったなぁ。じゃ、もう寝るか。次の街は養豚が盛んな街だからな。ハムステーキにソーセージ、他にも食いたいものが沢山ある。楽しみで仕方ないんだよな。トンカツとかどうよ、絶対美味いぞ。
あぁ、ダメだ。豚肉のこと考えてたらなんか腹減ってきた。
なんかまだ食いたいけど、もうどこの店も店じまいの時間だよな。大人しく寝るか。……帰りにまたこの街に寄るだろうし、うなぎはその時に食べよう。魚が凄い美味しかったし、これは凄い期待できるぞ。
あっ、おばあちゃんに声かけないと。
「ごちそうさまでした。美味しかったです」
「ンガッ!? ……あら、食べ終わったの。飴ちゃんいる?」
「あー、遠慮しときます。料理美味しかったです」
「いえいえ、こちらこそ綺麗に食べてくれてありがとうねぇ」
10
あなたにおすすめの小説
スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜
かの
ファンタジー
世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。
スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。
偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。
スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!
冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!
盾の間違った使い方
KeyBow
ファンタジー
その日は快晴で、DIY日和だった。
まさかあんな形で日常が終わるだなんて、誰に想像できただろうか。
マンションの屋上から落ちてきた女子高生と、運が悪く――いや、悪すぎることに激突して、俺は死んだはずだった。
しかし、当たった次の瞬間。
気がつけば、今にも動き出しそうなドラゴンの骨の前にいた。
周囲は白骨死体だらけ。
慌てて武器になりそうなものを探すが、剣はすべて折れ曲がり、鎧は胸に大穴が空いたりひしゃげたりしている。
仏様から脱がすのは、物理的にも気持ち的にも無理だった。
ここは――
多分、ボス部屋。
しかもこの部屋には入り口しかなく、本来ドラゴンを倒すために進んできた道を、逆進行するしかなかった。
与えられた能力は、現代日本の商品を異世界に取り寄せる
【異世界ショッピング】。
一見チートだが、完成された日用品も、人が口にできる食べ物も飲料水もない。買えるのは素材と道具、作業関連品、農作業関連の品や種、苗等だ。
魔物を倒して魔石をポイントに換えなければ、
水一滴すら買えない。
ダンジョン最奥スタートの、ハード・・・どころか鬼モードだった。
そんな中、盾だけが違った。
傷はあっても、バンドの残った盾はいくつも使えた。
両手に円盾、背中に大盾、そして両肩に装着したL字型とスパイク付きのそれは、俺をリアルザクに仕立てた。
盾で殴り
盾で守り
腹が減れば・・・盾で焼く。
フライパン代わりにし、竈の一部にし、用途は盛大に間違っているが、生きるためには、それが正解だった。
ボス部屋手前のセーフエリアを拠点に、俺はひとりダンジョンを生き延びていく。
――そんなある日。
聞こえるはずのない女性の悲鳴が、ボス部屋から響いた。
盾のまちがった使い方から始まる異世界サバイバル、ここに開幕。
【AIの使用について】
本作は執筆補助ツールとして生成AIを使用しています。
主な用途は「誤字脱字のチェック」「表現の推敲」「壁打ち(アイデア出しの補助)」です。
ストーリー構成および本文の執筆は作者自身が行っております。
隠して忘れていたギフト『ステータスカスタム』で能力を魔改造 〜自由自在にカスタマイズしたら有り得ないほど最強になった俺〜
桜井正宗
ファンタジー
能力(スキル)を隠して、その事を忘れていた帝国出身の錬金術師スローンは、無能扱いで大手ギルド『クレセントムーン』を追放された。追放後、隠していた能力を思い出しスキルを習得すると『ステータスカスタム』が発現する。これは、自身や相手のステータスを魔改造【カスタム】できる最強の能力だった。
スローンは、偶然出会った『大聖女フィラ』と共にステータスをいじりまくって最強のステータスを手に入れる。その後、超高難易度のクエストを難なくクリア、無双しまくっていく。その噂が広がると元ギルドから戻って来いと頭を下げられるが、もう遅い。
真の仲間と共にスローンは、各地で暴れ回る。究極のスローライフを手に入れる為に。
帰って来た勇者、現代の世界を引っ掻きまわす
黄昏人
ファンタジー
ハヤトは15歳、中学3年生の時に異世界に召喚され、7年の苦労の後、22歳にて魔族と魔王を滅ぼして日本に帰還した。帰還の際には、莫大な財宝を持たされ、さらに身につけた魔法を始めとする能力も保持できたが、マナの濃度の低い地球における能力は限定的なものであった。しかし、それでも圧倒的な体力と戦闘能力、限定的とは言え魔法能力は現代日本を、いや世界を大きく動かすのであった。
4年前に書いたものをリライトして載せてみます。
やさしい異世界転移
みなと
ファンタジー
妹の誕生日ケーキを買いに行く最中 謎の声に導かれて異世界へと転移してしまった主人公
神洞 優斗。
彼が転移した世界は魔法が発達しているファンタジーの世界だった!
元の世界に帰るまでの間優斗は学園に通い平穏に過ごす事にしたのだが……?
この時の優斗は気付いていなかったのだ。
己の……いや"ユウト"としての逃れられない定めがすぐ近くまで来ている事に。
この物語は 優斗がこの世界で仲間と出会い、共に様々な困難に立ち向かい希望 絶望 別れ 後悔しながらも進み続けて、英雄になって誰かに希望を託すストーリーである。
裏切られ続けた負け犬。25年前に戻ったので人生をやり直す。当然、裏切られた礼はするけどね
魚夢ゴールド
ファンタジー
冒険者ギルドの雑用として働く隻腕義足の中年、カーターは裏切られ続ける人生を送っていた。
元々は食堂の息子という人並みの平民だったが、
王族の継承争いに巻き込まれてアドの街の毒茸流布騒動でコックの父親が毒茸の味見で死に。
代わって雇った料理人が裏切って金を持ち逃げ。
父親の親友が融資を持ち掛けるも平然と裏切って借金の返済の為に母親と妹を娼館へと売り。
カーターが冒険者として金を稼ぐも、後輩がカーターの幼馴染に横恋慕してスタンピードの最中に裏切ってカーターは片腕と片足を損失。カーターを持ち上げていたギルマスも裏切り、幼馴染も去って後輩とくっつく。
その後は負け犬人生で冒険者ギルドの雑用として細々と暮らしていたのだが。
ある日、人ならざる存在が話しかけてきた。
「この世界は滅びに進んでいる。是正しなければならない。手を貸すように」
そして気付けは25年前の15歳にカーターは戻っており、二回目の人生をやり直すのだった。
もちろん、裏切ってくれた連中への返礼と共に。
『召喚ニートの異世界草原記』
KAORUwithAI
ファンタジー
ゲーム三昧の毎日を送る元ニート、佐々木二郎。
ある夜、三度目のゲームオーバーで眠りに落ちた彼が目を覚ますと、そこは見たこともない広大な草原だった。
剣と魔法が当たり前に存在する世界。だが二郎には、そのどちらの才能もない。
――代わりに与えられていたのは、**「自分が見た・聞いた・触れたことのあるものなら“召喚”できる」**という不思議な能力だった。
面倒なことはしたくない、楽をして生きたい。
そんな彼が、偶然出会ったのは――痩せた辺境・アセトン村でひとり生きる少女、レン。
「逃げて!」と叫ぶ彼女を前に、逃げようとした二郎の足は動かなかった。
昔の記憶が疼く。いじめられていたあの日、助けを求める自分を誰も救ってくれなかったあの光景。
……だから、今度は俺が――。
現代の知恵と召喚の力を武器に、ただの元ニートが異世界を駆け抜ける。
少女との出会いが、二郎を“召喚者”へと変えていく。
引きこもりの俺が、異世界で誰かを救う物語が始まる。
※こんな物も召喚して欲しいなって
言うのがあればリクエストして下さい。
出せるか分かりませんがやってみます。
エリクサーは不老不死の薬ではありません。~完成したエリクサーのせいで追放されましたが、隣国で色々助けてたら聖人に……ただの草使いですよ~
シロ鼬
ファンタジー
エリクサー……それは生命あるものすべてを癒し、治す薬――そう、それだけだ。
主人公、リッツはスキル『草』と持ち前の知識でついにエリクサーを完成させるが、なぜか王様に偽物と判断されてしまう。
追放され行く当てもなくなったリッツは、とりあえず大好きな草を集めていると怪我をした神獣の子に出会う。
さらには倒れた少女と出会い、疫病が発生したという隣国へ向かった。
疫病? これ飲めば治りますよ?
これは自前の薬とエリクサーを使い、聖人と呼ばれてしまった男の物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる