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第4章 21代目の剣聖
第90話 余命半年の剣聖
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――半年前
レグルスの部屋に呼ばれた医者は一通りの診察を終え、彼にこう告げた。
「残念ですが、症状からみてあと1年もてば……」
異変を感じたのは祖人との戦争の後だった。その時は少し咳がでているとしか思っていなかった。しかしその咳は長く続き、やがて血が混じるようになった。
医者の説明によれば肺の中に腫れ物ができているらしくそれが原因だとのことだった。
最初はそんな馬鹿なと医者の言うことは信じていなかった。体力も気力も十分だったし、息が切れることもなかった。しかし1ヶ月、2ヶ月が立ってくると、体力が急激に衰え、息が続かない。
この頃の医者に言わせると片方の肺はすでに機能していないと言われた。そして半年後には動くこともままならなくなると……
死と向かい合うようになるとやり残したことばかりが気になってくる。それはラグウェルと戦うこと。あいつと最初に合ったときから奴は必ず俺の前に立ち塞がり、剣聖を賭けて戦うことになると確信していた。
意識をしていたわけでない。恐らく無意識にラグウェルと戦うことを避けてきたのだろう。今の今までラグウェルと対峙することが無くここまできた。
まだ体が動くうちにラグウェルと戦わなければ……数分でも全盛の動きができるうちにラグウェルと戦うこと。それが剣聖、いや剣士としてやり残したたった一つの使命。
そして俺は筆を取ったやり残したことを残さないために。アルファルドへの手紙には自分に残された時間が少ないこと、まだ身体が動くうちにラグウェルと戦いたいということを包み隠さずに伝えた。
彼はラグウェルを剣聖にはさせたくないと言っていたが、ラグウェルが俺と戦うことを決めたならば立会うと言ってくれた。
真剣での戦いを選択したのは、命のやり取りの中でこそ分かり合えるものがある。それがラグウェルに剣聖としての最後の役割、次世代の剣聖へのメッセージ。
勝負が始まって何分程が立った? 5分か?それとも3分か?
剣がやたら重く感じる。昔なら何時間でも戦っていられたのにな……
あの打ち合い、余裕をみせたあの打ち合いをしなければ、まだ俺は立っていられたのかもしれない。しかしそれはなんの意味がある? ラグウェルには俺を完全に超えてほしい。
息が苦しい、手が重い、足が重い。そして体が重い……それでも俺は平静を装う。目の前に対峙するラグウェルに剣聖いや剣士としての最高の一撃を繰り出すまで、俺は折れないし倒れない。
ラグウェルは俺の意図を汲み、俺の突きを受けることを選択した。ならば俺は最高の突き、一撃を繰り出すのみ。
◇◆◇
ニヤリとレグルスが笑った瞬間、片足をつき倒れこむ。
「え?」
なにが起きた? 今まで涼しい顔をしながら戦っていたレグルスは苦悶の表情を浮かべ、息切れとは無縁と言わんばかりに整っていた呼吸は荒く肩ではぁはぁとなんとか息をしているように見える。
「あんたまさか……」
俺が話し掛けるが何も答えず、剣を杖がわりに立ち上がる。
「まだ、だ、まだ、最高の一撃には届かない」
熱秒に侵されだようにフラフラとしながらうわ言のように繰り返し剣を鞘に収め、居合のように剣を構える。
身体はフラフラで息も絶え絶え……そんな状態にも関わらず、レグルスの目には光が宿り、俺を見据えている。
これはレグルスの最後の一撃だ。俺はその一撃を超える必要がある。
鞘に剣を収めレグルスの向かい側に立つ。そして右手で剣の柄を持ち、お互いの斬撃の間合いに入る。
俺は自然に目を閉じる。まるでそれが当たり前のように。
すると真っ白な空間にレグルスと二人だけになるような感覚となる。
清々しい表情のレグルスが俺に話し掛ける。
「やっと来たな。俺はお前がここにくるのを待っていた」
「ああ、やっと追いついた。あんたの世界に」
「ならば俺を超えていけ」
「分かってる。言われなくても超えていくさ」
そして目を開き右手の剣を抜きながら駆け抜ける。レグルスも同時に右手の剣を抜きながら駆け抜け交差するような形になる。
胸の部分が切れて皮膚から出血をしているが大した怪我ではない。そのまま振り返ると、レグルスは倒れこみ、床は血で染まった。
レグルスの部屋に呼ばれた医者は一通りの診察を終え、彼にこう告げた。
「残念ですが、症状からみてあと1年もてば……」
異変を感じたのは祖人との戦争の後だった。その時は少し咳がでているとしか思っていなかった。しかしその咳は長く続き、やがて血が混じるようになった。
医者の説明によれば肺の中に腫れ物ができているらしくそれが原因だとのことだった。
最初はそんな馬鹿なと医者の言うことは信じていなかった。体力も気力も十分だったし、息が切れることもなかった。しかし1ヶ月、2ヶ月が立ってくると、体力が急激に衰え、息が続かない。
この頃の医者に言わせると片方の肺はすでに機能していないと言われた。そして半年後には動くこともままならなくなると……
死と向かい合うようになるとやり残したことばかりが気になってくる。それはラグウェルと戦うこと。あいつと最初に合ったときから奴は必ず俺の前に立ち塞がり、剣聖を賭けて戦うことになると確信していた。
意識をしていたわけでない。恐らく無意識にラグウェルと戦うことを避けてきたのだろう。今の今までラグウェルと対峙することが無くここまできた。
まだ体が動くうちにラグウェルと戦わなければ……数分でも全盛の動きができるうちにラグウェルと戦うこと。それが剣聖、いや剣士としてやり残したたった一つの使命。
そして俺は筆を取ったやり残したことを残さないために。アルファルドへの手紙には自分に残された時間が少ないこと、まだ身体が動くうちにラグウェルと戦いたいということを包み隠さずに伝えた。
彼はラグウェルを剣聖にはさせたくないと言っていたが、ラグウェルが俺と戦うことを決めたならば立会うと言ってくれた。
真剣での戦いを選択したのは、命のやり取りの中でこそ分かり合えるものがある。それがラグウェルに剣聖としての最後の役割、次世代の剣聖へのメッセージ。
勝負が始まって何分程が立った? 5分か?それとも3分か?
剣がやたら重く感じる。昔なら何時間でも戦っていられたのにな……
あの打ち合い、余裕をみせたあの打ち合いをしなければ、まだ俺は立っていられたのかもしれない。しかしそれはなんの意味がある? ラグウェルには俺を完全に超えてほしい。
息が苦しい、手が重い、足が重い。そして体が重い……それでも俺は平静を装う。目の前に対峙するラグウェルに剣聖いや剣士としての最高の一撃を繰り出すまで、俺は折れないし倒れない。
ラグウェルは俺の意図を汲み、俺の突きを受けることを選択した。ならば俺は最高の突き、一撃を繰り出すのみ。
◇◆◇
ニヤリとレグルスが笑った瞬間、片足をつき倒れこむ。
「え?」
なにが起きた? 今まで涼しい顔をしながら戦っていたレグルスは苦悶の表情を浮かべ、息切れとは無縁と言わんばかりに整っていた呼吸は荒く肩ではぁはぁとなんとか息をしているように見える。
「あんたまさか……」
俺が話し掛けるが何も答えず、剣を杖がわりに立ち上がる。
「まだ、だ、まだ、最高の一撃には届かない」
熱秒に侵されだようにフラフラとしながらうわ言のように繰り返し剣を鞘に収め、居合のように剣を構える。
身体はフラフラで息も絶え絶え……そんな状態にも関わらず、レグルスの目には光が宿り、俺を見据えている。
これはレグルスの最後の一撃だ。俺はその一撃を超える必要がある。
鞘に剣を収めレグルスの向かい側に立つ。そして右手で剣の柄を持ち、お互いの斬撃の間合いに入る。
俺は自然に目を閉じる。まるでそれが当たり前のように。
すると真っ白な空間にレグルスと二人だけになるような感覚となる。
清々しい表情のレグルスが俺に話し掛ける。
「やっと来たな。俺はお前がここにくるのを待っていた」
「ああ、やっと追いついた。あんたの世界に」
「ならば俺を超えていけ」
「分かってる。言われなくても超えていくさ」
そして目を開き右手の剣を抜きながら駆け抜ける。レグルスも同時に右手の剣を抜きながら駆け抜け交差するような形になる。
胸の部分が切れて皮膚から出血をしているが大した怪我ではない。そのまま振り返ると、レグルスは倒れこみ、床は血で染まった。
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