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第1章
第3話(採卵)
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申込書を提出したあと佐紀は産婦人医の診察を受けることになった。
医師「なにか分からないことはなかったですか?申込書を提出された後でも、いつでも中止することができます」
佐紀「だいじょうぶです。このまま進めてください。よろしくお願いします」
自宅でも案内書をシッカリ確認して来ていた佐紀は即座に医師に答えた。看護ロボに案内され隣の内診室に移る。
ロボ「下着を脱いで内診台に腰掛けてください。スカートは着たままでよいです」
慣れた口調で看護ロボが案内する。紙シートの上に腰掛ける。これで良いのか身動ぎせずにいると
ロボ「腰掛けましたね。それでは台が動きますね」
内診台が上昇し、背中が倒れ、同時に両足が開脚されていく。お尻の台が引っ込んで大腿部と背中で支えられる体勢になり医師の診察が始まった。経膣超音波検査を医師が行う。細い棒状の探触子(プローブ)を膣に挿入して耳には聞こえない高周波の音波を送り、その反射波を探知して子宮や卵巣の画像を得る。
内診が終わって診察室に戻った。定期健診の結果やウエアラブル端末データも医師は確認していた。診察室で医師から説明を聞く。
医師「採卵にあたって特に問題はないです。このまま、さらに進められますか?」
佐紀「進めます。よろしくお願いします」
医師「それでは、これから採血検査を受けて帰ってくださいね。こんどは月経が始まって3日目を目標に受診してください。また不明なことや不安なことがある場合は、いつでも配偶子センターを受診してくださいね」
採卵のためには大きさの揃った複数の卵胞が発育してくることが目標だ。また、採卵する前に排卵が起こってしまっては卵子が採れなくなってしまう。このため、排卵誘発剤で卵巣を刺激すると伴に、排卵を抑制する必要もある。
排卵抑制方法として佐紀にはPPOS法が選ばれた。黄体ホルモンの薬剤を月経3日目から採卵決定日まで継続服用する予定だ。
月経3日目に配偶子センターを受診し超音波検査を受けた。年齢相応の胞状卵胞数で大きさも揃っており、まずまずのスタート状態のようだ。その日から連日の卵胞刺激ホルモンFSHの自己注射を開始した。
4日間注射した後に受診し、採血検査と超音波検査を受けた。卵胞数は増加し大きくなってきている。血液検査での卵胞ホルモン__・__#も増加し、すでに通常の排卵期より高い値になっている。さらに今日から3日間、点鼻薬とFSH注射を続けることになった。
それから3日後、月経開始からは12日目に受診した。卵胞数は、左18個、右12個で、まずまず大きさも揃っており、2番目に大きい卵胞の最大径が18㎜以上になっていた。卵胞ホルモン も増加して卵胞数相応の値だそうだ。2日後の採卵が決まった。
夜に性腺刺激ホルモン放出ホルモンGnRH作用をもつ点鼻薬と、黄体形成ホルモンLHと同様の作用をもつ絨毛性・性腺刺激ホルモンhCG注射をした。1日半後(36~40時間後)には排卵することになるので、その直前の2日後の朝に採卵することになる。
佐紀は採卵するときに麻酔を希望したので、採卵当日の朝、絶食で配偶子センターを訪れた。看護師に当日の体調などを確認された。更衣室で術衣に着替えた後、採卵室に案内された。採卵室には、採卵担当医、採卵介助看護師、麻酔担当看護師、看護ロボがいた。点滴の側管から静脈麻酔薬が注射され、採卵前に意識がなくなった。
超音波で卵胞や採卵針の方向や位置を確認しながら、膣壁から卵巣に採卵針が穿刺され、卵胞液が吸い取られた。この採卵室の壁を隔てたところに培養室があり、採卵で吸引された卵胞液がパスボックスを通して胚培養士に渡され、卵子が採取できているか確認される。
卵子は、ヒトでは最も大きな細胞で1㎜の約十分の一の大きさである。顆粒膜細胞層に包まれている卵子を見逃してはいけないと、二人の胚培養士が検卵する。
痛いのではないかと心配していたが、目が覚めた時には既に佐紀の採卵は終わっていた。約15分間で14個の卵子が採取できたという。医師の診察後、佐紀は一人で帰宅した。
採卵から3日後に受診して超音波検査と採血検査を受けた。卵巣過剰刺激症候群の心配もなく通常の生活に復帰してよいということであった。成熟卵子12個が凍結保存できていた。
【脚注】
採卵:超音波検査下に、腟から卵巣に針を刺し、卵胞の卵胞液を吸引することによって卵子を体外に採り出そうとする体外受精における技術操作
排卵誘発剤:脳下垂体から分泌される卵胞刺激ホルモンFSHと黄体形成ホルモンLH (または代用として絨毛性・性腺刺激ホルモンhCG)を組合せた注射液が用いられる。このほか低刺激法として、クロミフェンや卵胞ホルモン合成酵素阻害剤などの内服薬が用いられることがある
排卵抑制剤:視床下部で産生される性腺刺激ホルモン放出ホルモンの作動薬である点鼻薬や、非作動薬である注射や内服薬が用いられる
血栓症:血管内で血液が固まる病態
顆粒膜細胞層:卵子を包んでいる細胞層。卵子の発育に合わせ、この細胞で女性ホルモンの1つである卵胞ホルモンが造られる
第1極体:第1減数分裂を完了し2つの細胞に分かれるが片方の細胞は発育しない極体になる
卵巣過剰刺激症候群:排卵誘発剤の使用によって一時的に卵巣が腫大し腹水が溜まる病態
卵胞刺激ホルモンFSH:調節卵巣刺激法で使用される排卵誘発剤
卵胞ホルモン:卵胞の顆粒膜細胞層が作る女性ホルモンの1つ。このホルモンの作用で、女性の第二次性徴が起こり、さらに精子を迎えられやすくするため子宮頚管粘液の増加・性状変化が起こり、また受精卵を迎える子宮内膜が増殖して厚くなる
絨毛性・性腺刺激ホルモンhCG注射:下垂体で造られる黄体形成ホルモン。LHと同様の作用をもつホルモンで、現状ではLH注射剤は発売されていないため、同じ作用をもつ絨毛性・性腺刺激ホルモンが使用されている。このホルモンの急激な増加サージによって卵子は第一減収分裂を完了して第二減数分裂を開始した状態となって排卵される
静脈麻酔:一番簡便な麻酔方法で血管(静脈)に麻酔薬を注射する。意識はなくなるが筋肉の動きは抑制されない
検卵:1㎜の十分の一程度の大きさでヒトで最も大きな細胞で、顆粒膜細胞層で包まれている卵子が採取できているかどうか確認すること
医師「なにか分からないことはなかったですか?申込書を提出された後でも、いつでも中止することができます」
佐紀「だいじょうぶです。このまま進めてください。よろしくお願いします」
自宅でも案内書をシッカリ確認して来ていた佐紀は即座に医師に答えた。看護ロボに案内され隣の内診室に移る。
ロボ「下着を脱いで内診台に腰掛けてください。スカートは着たままでよいです」
慣れた口調で看護ロボが案内する。紙シートの上に腰掛ける。これで良いのか身動ぎせずにいると
ロボ「腰掛けましたね。それでは台が動きますね」
内診台が上昇し、背中が倒れ、同時に両足が開脚されていく。お尻の台が引っ込んで大腿部と背中で支えられる体勢になり医師の診察が始まった。経膣超音波検査を医師が行う。細い棒状の探触子(プローブ)を膣に挿入して耳には聞こえない高周波の音波を送り、その反射波を探知して子宮や卵巣の画像を得る。
内診が終わって診察室に戻った。定期健診の結果やウエアラブル端末データも医師は確認していた。診察室で医師から説明を聞く。
医師「採卵にあたって特に問題はないです。このまま、さらに進められますか?」
佐紀「進めます。よろしくお願いします」
医師「それでは、これから採血検査を受けて帰ってくださいね。こんどは月経が始まって3日目を目標に受診してください。また不明なことや不安なことがある場合は、いつでも配偶子センターを受診してくださいね」
採卵のためには大きさの揃った複数の卵胞が発育してくることが目標だ。また、採卵する前に排卵が起こってしまっては卵子が採れなくなってしまう。このため、排卵誘発剤で卵巣を刺激すると伴に、排卵を抑制する必要もある。
排卵抑制方法として佐紀にはPPOS法が選ばれた。黄体ホルモンの薬剤を月経3日目から採卵決定日まで継続服用する予定だ。
月経3日目に配偶子センターを受診し超音波検査を受けた。年齢相応の胞状卵胞数で大きさも揃っており、まずまずのスタート状態のようだ。その日から連日の卵胞刺激ホルモンFSHの自己注射を開始した。
4日間注射した後に受診し、採血検査と超音波検査を受けた。卵胞数は増加し大きくなってきている。血液検査での卵胞ホルモン__・__#も増加し、すでに通常の排卵期より高い値になっている。さらに今日から3日間、点鼻薬とFSH注射を続けることになった。
それから3日後、月経開始からは12日目に受診した。卵胞数は、左18個、右12個で、まずまず大きさも揃っており、2番目に大きい卵胞の最大径が18㎜以上になっていた。卵胞ホルモン も増加して卵胞数相応の値だそうだ。2日後の採卵が決まった。
夜に性腺刺激ホルモン放出ホルモンGnRH作用をもつ点鼻薬と、黄体形成ホルモンLHと同様の作用をもつ絨毛性・性腺刺激ホルモンhCG注射をした。1日半後(36~40時間後)には排卵することになるので、その直前の2日後の朝に採卵することになる。
佐紀は採卵するときに麻酔を希望したので、採卵当日の朝、絶食で配偶子センターを訪れた。看護師に当日の体調などを確認された。更衣室で術衣に着替えた後、採卵室に案内された。採卵室には、採卵担当医、採卵介助看護師、麻酔担当看護師、看護ロボがいた。点滴の側管から静脈麻酔薬が注射され、採卵前に意識がなくなった。
超音波で卵胞や採卵針の方向や位置を確認しながら、膣壁から卵巣に採卵針が穿刺され、卵胞液が吸い取られた。この採卵室の壁を隔てたところに培養室があり、採卵で吸引された卵胞液がパスボックスを通して胚培養士に渡され、卵子が採取できているか確認される。
卵子は、ヒトでは最も大きな細胞で1㎜の約十分の一の大きさである。顆粒膜細胞層に包まれている卵子を見逃してはいけないと、二人の胚培養士が検卵する。
痛いのではないかと心配していたが、目が覚めた時には既に佐紀の採卵は終わっていた。約15分間で14個の卵子が採取できたという。医師の診察後、佐紀は一人で帰宅した。
採卵から3日後に受診して超音波検査と採血検査を受けた。卵巣過剰刺激症候群の心配もなく通常の生活に復帰してよいということであった。成熟卵子12個が凍結保存できていた。
【脚注】
採卵:超音波検査下に、腟から卵巣に針を刺し、卵胞の卵胞液を吸引することによって卵子を体外に採り出そうとする体外受精における技術操作
排卵誘発剤:脳下垂体から分泌される卵胞刺激ホルモンFSHと黄体形成ホルモンLH (または代用として絨毛性・性腺刺激ホルモンhCG)を組合せた注射液が用いられる。このほか低刺激法として、クロミフェンや卵胞ホルモン合成酵素阻害剤などの内服薬が用いられることがある
排卵抑制剤:視床下部で産生される性腺刺激ホルモン放出ホルモンの作動薬である点鼻薬や、非作動薬である注射や内服薬が用いられる
血栓症:血管内で血液が固まる病態
顆粒膜細胞層:卵子を包んでいる細胞層。卵子の発育に合わせ、この細胞で女性ホルモンの1つである卵胞ホルモンが造られる
第1極体:第1減数分裂を完了し2つの細胞に分かれるが片方の細胞は発育しない極体になる
卵巣過剰刺激症候群:排卵誘発剤の使用によって一時的に卵巣が腫大し腹水が溜まる病態
卵胞刺激ホルモンFSH:調節卵巣刺激法で使用される排卵誘発剤
卵胞ホルモン:卵胞の顆粒膜細胞層が作る女性ホルモンの1つ。このホルモンの作用で、女性の第二次性徴が起こり、さらに精子を迎えられやすくするため子宮頚管粘液の増加・性状変化が起こり、また受精卵を迎える子宮内膜が増殖して厚くなる
絨毛性・性腺刺激ホルモンhCG注射:下垂体で造られる黄体形成ホルモン。LHと同様の作用をもつホルモンで、現状ではLH注射剤は発売されていないため、同じ作用をもつ絨毛性・性腺刺激ホルモンが使用されている。このホルモンの急激な増加サージによって卵子は第一減収分裂を完了して第二減数分裂を開始した状態となって排卵される
静脈麻酔:一番簡便な麻酔方法で血管(静脈)に麻酔薬を注射する。意識はなくなるが筋肉の動きは抑制されない
検卵:1㎜の十分の一程度の大きさでヒトで最も大きな細胞で、顆粒膜細胞層で包まれている卵子が採取できているかどうか確認すること
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