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第1章
第2話(卵子凍結保存)
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18歳になった佐紀のところにも妊孕性温存センターから『卵子凍結保存の希望確認書』が届いた。
卵子は 胎生期に第1 減数分裂の中頃まで発育したものが休眠状態となって 原始卵胞 という単位で 卵巣に貯えられている。妊娠4ヶ月頃の最大数700万程度から次第に減少し、出生時には200万程度、思春期頃には数10万程度に減少し、50歳頃までには卵巣は残るが卵子は無くなってしまう。
この原始卵胞の数十個が順次目覚めて活動を再開し、約6ヶ月かけて月経頃の胞状卵胞にまで発育する。このあとは 脳下垂体から分泌される 性腺刺激ホルモンの影響を受けて、通常、1つだけが成熟卵胞に発育し。その中の卵子が第1減数分裂を完了し、第2減数分裂を開始した状態となって卵巣から放出(排卵)される。
精子は、1つの細胞から2回の減数分裂で4つ造られるが、卵子は減数分裂で2つに分かれるとき1つは発育しない極体になる。このため受精能をもつ卵子は1つしかできない。
個人差はあるが、加齢によって卵子数は減少し、減数分裂の過程で異常をきたすことが多くなる。このため女性は35 歳くらいから次第に、妊娠しずらく、流産しやすく、児の染色体異常の発生頻度が高くなっていく。加齢に伴う妊孕性低下は男性より女性の変化ほうが早い。また、年齢だけでなく、ほかにも妊娠困難な状況になる可能性がある。このため将来の妊孕性を広げる意味で卵子凍結保存が国家プロジェクトとして推奨されているのだ。
1つの卵子の凍結保存ではなかなか妊娠に結びつかないため、10数個の成熟卵子を凍結保存することが目標になる。このため多くの卵子が同時に発育するよう排卵誘発剤を使用する。また卵子を取り出すためには、膣から卵巣に針を穿刺(採卵)する必要があり、ある程度のリスクを伴うことになる。
佐紀は予約して妊孕性温存センターを訪れた。ロボに案内され、個室に案内された。
ロボ「卵子凍結保存は10数個が目標となるため排卵誘発剤を使用します。排卵誘発剤は卵巣過剰刺激症候群の発症リスクがあります」
佐紀「卵巣過剰刺激症候群はどんな病気ですか?」
ロボ「卵巣過剰刺激症候群は腹水が溜まる病気ですが、血管の中で血液が固まる血栓症のリスクがあると考えられます。万一発症した場合には入院治療が必要になります」
佐紀「わかりました」
ロボ「卵子を採取する採卵は、超音波検査で卵巣を確認しながら行います。血管損傷や内臓損傷や感染症発症など一般的な手術のリスクを伴います」
佐紀「はい」
ロボ「卵胞を穿刺吸引しても卵子が採取できないことがあります」
佐紀「採卵したからといって必ず卵子がと採れるとは限らないのですね」
ロボ「また」卵子が採取できていても成熟していないこともあります」
佐紀「そうなんですね」
ロボ「こういった場合には凍結保存できないことがあります」
佐紀「わかりました」
ロボ「凍結保存した卵子を融解して使用する際には、体外受精で卵子細胞質に1つの精子を注入する顕微授精が必要になります」
佐紀「はい」
ロボ「顕微授精を行っても受精しないことが30 %程度あります」
佐紀「受精するとは限らないのですね」
ロボ「受精しても移植できる胚盤胞 にまで発育しないことが40%程度あります」
佐紀「受精しても移植できないこともあるのですね」
ロボ「胚盤胞を移植しても妊娠できる可能性は70%程度です」
佐紀「わかりました」
ロボ「このように卵子凍結保存は将来の妊孕性を広げるために行うもので、必ず妊娠出産できるというものではないのですが、このまま進められますか?いつでも中止することはできます」
佐紀「わかりました。進めてください」
ロボ「なにか確認されたいことはありませんか?」
佐紀「ありません」
ロボ「それでは卵子凍結保存の申込書にサインをお願いします」
【脚注】
胎生期:胎児の時期
原始卵胞:卵巣にある卵子が入った単位。卵子、透明帯、顆粒膜細胞層、莢膜細胞層で構成されている
卵巣:卵子の保管や発育だけでなく、卵巣では卵子の変化によって卵胞で卵胞ホルモンが造られる。さらに排卵があるようになると排卵後の卵胞にできる黄体から、卵胞ホルモンだけでなく黄体ホルモンも造られるようになる。これら女性ホルモンによって女性の二次性徴が起こってくる
脳下垂体:視床下部の下方に位置する。この脳下垂体の前葉からは性腺刺激ホルモンだけでなく、副腎皮質刺激ホルモン、甲状腺刺激ホルモン、プロラクチンなども産生分泌される。
性腺刺激ホルモン:脳下垂体が産生する卵胞刺激ホルモンFSHと黄体形成ホルモンLHのほかに、絨毛が産生する絨毛性・性腺刺激ホルモンhCGがある
卵子は 胎生期に第1 減数分裂の中頃まで発育したものが休眠状態となって 原始卵胞 という単位で 卵巣に貯えられている。妊娠4ヶ月頃の最大数700万程度から次第に減少し、出生時には200万程度、思春期頃には数10万程度に減少し、50歳頃までには卵巣は残るが卵子は無くなってしまう。
この原始卵胞の数十個が順次目覚めて活動を再開し、約6ヶ月かけて月経頃の胞状卵胞にまで発育する。このあとは 脳下垂体から分泌される 性腺刺激ホルモンの影響を受けて、通常、1つだけが成熟卵胞に発育し。その中の卵子が第1減数分裂を完了し、第2減数分裂を開始した状態となって卵巣から放出(排卵)される。
精子は、1つの細胞から2回の減数分裂で4つ造られるが、卵子は減数分裂で2つに分かれるとき1つは発育しない極体になる。このため受精能をもつ卵子は1つしかできない。
個人差はあるが、加齢によって卵子数は減少し、減数分裂の過程で異常をきたすことが多くなる。このため女性は35 歳くらいから次第に、妊娠しずらく、流産しやすく、児の染色体異常の発生頻度が高くなっていく。加齢に伴う妊孕性低下は男性より女性の変化ほうが早い。また、年齢だけでなく、ほかにも妊娠困難な状況になる可能性がある。このため将来の妊孕性を広げる意味で卵子凍結保存が国家プロジェクトとして推奨されているのだ。
1つの卵子の凍結保存ではなかなか妊娠に結びつかないため、10数個の成熟卵子を凍結保存することが目標になる。このため多くの卵子が同時に発育するよう排卵誘発剤を使用する。また卵子を取り出すためには、膣から卵巣に針を穿刺(採卵)する必要があり、ある程度のリスクを伴うことになる。
佐紀は予約して妊孕性温存センターを訪れた。ロボに案内され、個室に案内された。
ロボ「卵子凍結保存は10数個が目標となるため排卵誘発剤を使用します。排卵誘発剤は卵巣過剰刺激症候群の発症リスクがあります」
佐紀「卵巣過剰刺激症候群はどんな病気ですか?」
ロボ「卵巣過剰刺激症候群は腹水が溜まる病気ですが、血管の中で血液が固まる血栓症のリスクがあると考えられます。万一発症した場合には入院治療が必要になります」
佐紀「わかりました」
ロボ「卵子を採取する採卵は、超音波検査で卵巣を確認しながら行います。血管損傷や内臓損傷や感染症発症など一般的な手術のリスクを伴います」
佐紀「はい」
ロボ「卵胞を穿刺吸引しても卵子が採取できないことがあります」
佐紀「採卵したからといって必ず卵子がと採れるとは限らないのですね」
ロボ「また」卵子が採取できていても成熟していないこともあります」
佐紀「そうなんですね」
ロボ「こういった場合には凍結保存できないことがあります」
佐紀「わかりました」
ロボ「凍結保存した卵子を融解して使用する際には、体外受精で卵子細胞質に1つの精子を注入する顕微授精が必要になります」
佐紀「はい」
ロボ「顕微授精を行っても受精しないことが30 %程度あります」
佐紀「受精するとは限らないのですね」
ロボ「受精しても移植できる胚盤胞 にまで発育しないことが40%程度あります」
佐紀「受精しても移植できないこともあるのですね」
ロボ「胚盤胞を移植しても妊娠できる可能性は70%程度です」
佐紀「わかりました」
ロボ「このように卵子凍結保存は将来の妊孕性を広げるために行うもので、必ず妊娠出産できるというものではないのですが、このまま進められますか?いつでも中止することはできます」
佐紀「わかりました。進めてください」
ロボ「なにか確認されたいことはありませんか?」
佐紀「ありません」
ロボ「それでは卵子凍結保存の申込書にサインをお願いします」
【脚注】
胎生期:胎児の時期
原始卵胞:卵巣にある卵子が入った単位。卵子、透明帯、顆粒膜細胞層、莢膜細胞層で構成されている
卵巣:卵子の保管や発育だけでなく、卵巣では卵子の変化によって卵胞で卵胞ホルモンが造られる。さらに排卵があるようになると排卵後の卵胞にできる黄体から、卵胞ホルモンだけでなく黄体ホルモンも造られるようになる。これら女性ホルモンによって女性の二次性徴が起こってくる
脳下垂体:視床下部の下方に位置する。この脳下垂体の前葉からは性腺刺激ホルモンだけでなく、副腎皮質刺激ホルモン、甲状腺刺激ホルモン、プロラクチンなども産生分泌される。
性腺刺激ホルモン:脳下垂体が産生する卵胞刺激ホルモンFSHと黄体形成ホルモンLHのほかに、絨毛が産生する絨毛性・性腺刺激ホルモンhCGがある
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