出血令嬢はヴァンパイア公爵様に愛される

茉莉花 凛

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周囲を見渡すと仄明かりに照らされて真っ白なガゼボが浮かび上がって見えた。指を押さえながら近づいていき、誰もいないことを確認すると大理石のベンチに座る。圧迫していたハンカチを一度取って、傷口を薄光に照らして見てみると、期待に反してふたたび血液が丸い玉を作る。
「久しぶりにやってしまったわ……」
ため息混じりに呟いて、ふと指から視線を外すと、視界の端に人影が見えた。驚いてばっ、と顔を上げると薄暗い闇の中で揺らぐ深い青の瞳とかち合った。ミディアム丈の黒髪に、軍服をモチーフにした漆黒のジャケットを身につけているせいで暗闇に溶け込みそうな彼は無表情でこちらを見下ろしている。恐ろしく整ったその顔からは何を考えているのか読めず、ただ瞳孔の開いた瞳だけが闇の中で幾度か瞬きをしていた。
「あ、あの…?」
幼なじみや婚約者以外の、年の近い男性と話したことのないエリザベートはこういった時にどうすべきかが分からず、戸惑った。それに、目の前の男からはどことなく野生じみた何かを感じて、思わず身構えてしまう。
「大丈夫か」
「へ……?」
発せられた声は、想像していたよりも柔らかかった。思わず拍子抜けして間抜けな反応をしてしまった。
「血の匂いが、したから」
「こうしていればそのうち止まるので……大丈夫です」
そう言いながらも、血の匂いが分かるだなんてまるで獣のようだわ、と思う。
「…………」
「……あの?」
こちらを見つめる男は無言で何かを考えているようだった。沈黙が気まずくなったエリザベートは再び指からハンカチを外し、その瞬間赤い玉が出来るのを見て顔を顰めた。
「貸してみろ」
「えっ……」
男から声が掛かると同時に少々強引に手をとられ、抵抗する間もなく指を口に含まれる。驚いたエリザベートが固まっていると、一瞬青の瞳がとろりと赤みを帯びたように見えた。
温かい舌がぬるりと指を這うと引き攣れるような小さな痛みが走ったけれど、次第にそれがなくなっていく。ほんの十数秒後、男が口を離すとそこにはもう傷なんてなかった。
「え……」
「秘密な」
絶句するエリザベートに男は淡々と言う。
「あの、あなたは」
上手く働かない頭で男に問う。聞きたいことは山ほどあるけれど、まずは素性について、だ。
「シリルだ。貴女は?」
「エリザベート、です……」
ファーストネームのみ教えられたため、エリザベートもそれに倣う。いかにも混乱した様子のエリザベートを後目に、シリルは今しがた知ったばかりの名前を小さく復唱して満足げな笑みを浮かべた。
「そうか。じゃあ、また」
そう言って、彼は会場とは正反対の灯りもない方に歩いていき、暗闇に溶け込んでいったのだった。

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