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2度目の吸血
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あれから何日経っただろう。エリザベートはぼんやりとバルコニーに立っていた。夜の風が薄い夜着の裾から侵入してきては脚を冷やしていく。彫刻の施された石の手すりに前腕をつくと冷たさが体の芯まで侵入してくる気がする。暗く沈んだ心は夜の闇に溶けて同化するように感じた。
叔父にあの宣告をされてから、一度も夜会には参加することができていなかった。けれど世の中では、毎日変わらず夜会は開催されていて。もう何回欠席したかも分からなかった。
きっと、シリルは自分のことを待ってくれているだろう。何があったのか伝える機会すらなく、自分ばかりが欠席し続けていたら、きっとそう遠くないうちに彼に見放されてしまう。
婚約者であるジャックとの縁談は、叔父によってここ数日で大きく進み、とうとう結婚式の日取りも決定してしまった。それも、ほんの3ヶ月先に、だ。叔父は相当に焦っているみたいだ。
もう、この結婚を覆すことは難しいのかもしれない。薄暗い部屋の中に戻ったエリザベートは、ぼんやりとテーブルの上を見つめる。陶器の水差しの水面に、月明かりが映されていた。つい、それを触ろうと手を伸ばしたエリザベートは、直後に足元から聞こえたガシャン、という音にびくりと肩を震わせた。音のした方を見ると、ガラスのコップが盛大に割れていた。大きな破片をいくつか残しつつも原型を留めないほどに割れたそれは、エリザベートがテーブルに近づいた時に夜着の袖が引っかかって落ちたと推測された。
「大変……いたっ!」
手を伸ばしたエリザベートが破片を触った瞬間、ちくりとした痛みに襲われ、床にぽたぽたと赤い雫が垂れる。
エリザベートは自分の行動を後悔した。掃除なんてメイドを呼べば良かった。普段ならきっとそうしていたのに、思わず自分で破片を触ってしまった。けれど、エリザベートは傷を作ってしまったことに対する後悔の中に、ほんの少しだけ期待が混じっていたことに気づいていた。
そうしている間にも雫は零れ続け、床に小さな水溜まりを作っていく。赤黒いそこにも月明かりが射し込んでいた。つい、ぼんやりと眺めていると、ふいに光が途切れる。
「……?」
目を瞬かせて顔を上げると、そこには。
「シリル……様……?」
月明かりを背景にして、いつも夜会で会う時より簡素な黒いシャツに黒いスラックスに身を包んだ彼は、静かにバルコニーに佇んでいた。
どうして、とかどうやって、とか頭の中では質問が浮かんでくるけれど言葉にできずにいると、シリルは音も立てずに部屋の中へと入ってきた。そして、驚きと緊張に固まっているエリザベートの、出血し続けている指を取るとそのまま口の中へと導いたのだった。
シリルの長めの犬歯が当たり、舌が傷をなぞると、青いはずの瞳が一瞬真っ赤に染まったように見えた。けれど、瞬きをした次の瞬間には、もういつもと同じ落ち着いた青があって。シリルの口から指が開放されて、エリザベートがそこを見ると、もう傷は跡形もなく消えていた。
「これ、なんで……」
ようやく絞り出せたのは、そんな質問だった。
「……俺がヴァンパイアだといったらどうする?」
「え……」
それは、あまりにもしっくりくるような答えだった。シリルの真意が分からず、戸惑ったエリザベートは言葉を失う。
「冗談だ」
エリザベートの様子を見てか、シリルは茶化したように笑った。
「シリル様の言うことは、冗談に思えないです」
「そうだな……まあ、そのうち分かるだろう」
その言葉によって、シリルは強制的に話題を締めくくった。エリザベートの中に浮上した数多くの疑問は、心の内に残されてしまったのだった。
叔父にあの宣告をされてから、一度も夜会には参加することができていなかった。けれど世の中では、毎日変わらず夜会は開催されていて。もう何回欠席したかも分からなかった。
きっと、シリルは自分のことを待ってくれているだろう。何があったのか伝える機会すらなく、自分ばかりが欠席し続けていたら、きっとそう遠くないうちに彼に見放されてしまう。
婚約者であるジャックとの縁談は、叔父によってここ数日で大きく進み、とうとう結婚式の日取りも決定してしまった。それも、ほんの3ヶ月先に、だ。叔父は相当に焦っているみたいだ。
もう、この結婚を覆すことは難しいのかもしれない。薄暗い部屋の中に戻ったエリザベートは、ぼんやりとテーブルの上を見つめる。陶器の水差しの水面に、月明かりが映されていた。つい、それを触ろうと手を伸ばしたエリザベートは、直後に足元から聞こえたガシャン、という音にびくりと肩を震わせた。音のした方を見ると、ガラスのコップが盛大に割れていた。大きな破片をいくつか残しつつも原型を留めないほどに割れたそれは、エリザベートがテーブルに近づいた時に夜着の袖が引っかかって落ちたと推測された。
「大変……いたっ!」
手を伸ばしたエリザベートが破片を触った瞬間、ちくりとした痛みに襲われ、床にぽたぽたと赤い雫が垂れる。
エリザベートは自分の行動を後悔した。掃除なんてメイドを呼べば良かった。普段ならきっとそうしていたのに、思わず自分で破片を触ってしまった。けれど、エリザベートは傷を作ってしまったことに対する後悔の中に、ほんの少しだけ期待が混じっていたことに気づいていた。
そうしている間にも雫は零れ続け、床に小さな水溜まりを作っていく。赤黒いそこにも月明かりが射し込んでいた。つい、ぼんやりと眺めていると、ふいに光が途切れる。
「……?」
目を瞬かせて顔を上げると、そこには。
「シリル……様……?」
月明かりを背景にして、いつも夜会で会う時より簡素な黒いシャツに黒いスラックスに身を包んだ彼は、静かにバルコニーに佇んでいた。
どうして、とかどうやって、とか頭の中では質問が浮かんでくるけれど言葉にできずにいると、シリルは音も立てずに部屋の中へと入ってきた。そして、驚きと緊張に固まっているエリザベートの、出血し続けている指を取るとそのまま口の中へと導いたのだった。
シリルの長めの犬歯が当たり、舌が傷をなぞると、青いはずの瞳が一瞬真っ赤に染まったように見えた。けれど、瞬きをした次の瞬間には、もういつもと同じ落ち着いた青があって。シリルの口から指が開放されて、エリザベートがそこを見ると、もう傷は跡形もなく消えていた。
「これ、なんで……」
ようやく絞り出せたのは、そんな質問だった。
「……俺がヴァンパイアだといったらどうする?」
「え……」
それは、あまりにもしっくりくるような答えだった。シリルの真意が分からず、戸惑ったエリザベートは言葉を失う。
「冗談だ」
エリザベートの様子を見てか、シリルは茶化したように笑った。
「シリル様の言うことは、冗談に思えないです」
「そうだな……まあ、そのうち分かるだろう」
その言葉によって、シリルは強制的に話題を締めくくった。エリザベートの中に浮上した数多くの疑問は、心の内に残されてしまったのだった。
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