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しおりを挟む時間にすると数十秒のことだけれど、感覚的には途方もなく長く思える、間があった。いくら待っても痛みは訪れず、むしろ身体の拘束が解けていることに気づいたエリザベートは、恐る恐る目を開け、視界からの情報を受け入れ始める。
正面に見える瞳は、いつもと変わらない静かな青をたたえていた。
「俺は、今……」
シリルは、とっくに正気には戻っていたが、いかにも混乱している様子だった。
「リジーから血の匂いがして、それで……」
1人で頭の中を整理しようとしているらしいけれど、放置するのはやめて欲しい。
「血……!リジー、出血しているのか?大丈夫か」
心配そうにそう言われたエリザベートが、月のもので……と伝えると、シリルは気まずそうにしながら僅かに頬を染めた。
「シリル様、以前言っていたこと……冗談じゃなかったんですね?」
そう聞いた時の声は、ごくわずかに震えていた。
「はー……」
大きくため息をついて、シリルは片手で髪をぐしゃりとかきあげた。そして、すぐさま態度を直すと、エリザベートと向き合った。誠実そうで穏やかな青が、エリザベートを捉えている。
「……俺は、その……俗に言う、所謂ヴァンパイアだ」
隠していて悪かった、とものすごく苦しそうな顔で言われる。
「リジーと出会った時も、最初は血の匂いにつられて、つい出てきてしまったんだ」
「ああ、だからなんですね……」
いくら賑やかで人が多い夜会といっても、広く暗い庭園にわざわざ出ていく人など普通は居ず、さらに、偶然に鉢合わせてしまうなんてありえなかったのだ。
「最初は驚きました。いきなり現れたかと思ったら私の指を舐めるんですから……それに、傷が綺麗に塞がっていました」
「ああ、それは……驚かせて申し訳なかった。傷は……ヴァンパイアに吸血されると、その痕は塞がってさらに失われた分の血を造るのを助ける作用があるんだ」
なるほど、とエリザベートは、いままでに浮上してきては複雑に絡まっていた疑問の糸がするすると解けていくような感覚になった。
「……俺が、怖くないのか?」
エリザベートの様子を見て、シリルは唐突に言う。
「どうしてですか?」
驚かされたことはあっても、恐ろしい目にあったことなんてないのに。
「俺がヴァンパイアだから」
伺いを立てるようなシリルの態度は、いままでに見た事がないくらい萎縮していた。それがどうにもおかしく思えてしまい、エリザベートは小さく笑った。
「その人自身のことを見ようともせず、ヴァンパイアだから怖いなんて直結させてしまうのは、私は変だと思います。それを言うなら、私だっておかしな体質を持って産まれているので敬遠されても不思議じゃないのに」
「体質……血が止まりにくいことか?」
今までにエリザベートから吸血をしたシーンのことを思い出しながらシリルは聞く。
「ええ。些細な傷でも血が流れ始めるとしばらく止まらないので、厄介なんです。この体質は父方の血筋の特徴だそうです。稀にこういう子どもが産まれるようで。だから今日調子が良くないと言っていたのも『月のもの』の出血のせいなのです。もう終わりがけなのですが失った血はそうすぐには造られませんから」
「そうか……」
エリザベートから聞いたシリルは、何かを考えている様子であった。思案する穏やかな青の瞳は月の光に照らされた薄暗い部屋の中で宝石のように輝いて見えた。
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