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「それにしても、あのシリルが結婚するなんて思ってもいなかったわ。だって貴方、とっても綺麗な見た目をしているくせに昔から朴念仁で、言い寄ってくる女の子は沢山いたのに取り付く島もなかったじゃない」
「ひねくれて可愛げのない息子で悪かったな」
「その顔は悪いとは思っていないようね。……貴方がひねくれた原因は、私にもあると思ってはいるわよ。青い瞳で産んだから……」
カーミラの瞳が、刹那、さっと曇った。
「でも、私は貴方の瞳、好きだったわ。この目で直接拝むことが出来ない昼間の空のようで……うん、今となっては、赤くなったのが惜しい気もするわね」
続く言葉をそう述べたカーミラは、もう元の調子に戻っていた。
「本当に、貴女は調子の良い人だ……」
シリルは額に手を当てやれやれといった仕草をした。


「ねえ、貴方の髪の色、とても素敵ね。こんな綺麗な金色は“初めて見た”かもしれないわ」
室内に導かれソファーに座ると、いの一番にそう言われる。そこには、何か含みのようなものがあった。
「“初めて”だと?しらばっくれても無駄だぞ」
「あら?やっぱりシリルには隠せないのね」
くくく、と笑ったカーミラは、エリザベートに向き直る。エリザベートよりも深い深紅の瞳は楽しそうに細められていた。
「私、貴女と会ったことがあるわよ」
分かるかしら?カーミラは言うが、エリザベートの記憶にはなかった。こんな印象的な美人に出会っていたら、きっと忘れられないと思うのだけれど……。
「こんな姿に、見覚えはない?」
首を傾げるエリザベートを見たカーミラが言うと、その言葉とともに輪郭がぼやけ、一瞬で見た目が変わる。
「どうだい?」
老いを感じさせるような声を聞いて、エリザベートはハッとする。
「ガラス細工の……」
それは、いつかジャックと街に出た時にバラのガラス細工を売っていた露店の老女であった。赤い瞳と声が、エリザベートの記憶を呼び起こしてくれた。
「分かったようね」
そう言うカーミラは、既に元の美しい姿に戻っていた。
「あのガラスのバラは……」
「ええ、私が作ったの。まあ、長いこと生きていると芸が身につくものね。暇つぶしにああやって作っては売ったりしているの」
「そうだな、責務を早々に放棄したせいで暇だものな」
「そう言われると聞こえが悪いわね。譲ったのよ、ヴィル……ああ、シリルの弟に、ね。」
カーミラのその口ぶりに、エリザベートは違和感を覚えた。今、この人はシリルの弟に“責務を譲った”と言っていた。ならば、今のシリルの公爵としての立場は、一体何処から来ているのか。それに、カーミラは家名をラフェスキア、と名乗った。息子であるシリルと家名が違うのには何か理由があるのか……。
「あの、ブラッドリー家、って……」
おずおずと質問すると、シリルはあぁ、と合点がいったような顔をした。
「そういえば、最初からちゃんと話さないとな」
「シリル、貴方まだ何も説明していなかったの?」
「しょうがないだろ。いろいろとあったんだ」
軽い言い合いをしながら、シリルとカーミラは、順序立てて説明を始める。

それは、長い長いヴァンパイアの歴史だった。
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