出血令嬢はヴァンパイア公爵様に愛される

茉莉花 凛

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エピローグ

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太陽が地平線の向こうに身を隠し、その光を受けた月が輝き出そうとする時間。エリザベートはとある場所に、1人で佇んでいた。西の空の暮れなずむ赤を視界に入れ、形の良い瞳を僅かに歪ませる。変わってしまったこの体は、陽の光を好まなかった。夜目が効くだけあって、自然光は眩しすぎて頭が痛くなってしまうのだ。 
目深に被った帽子の下から上を見上げる。そこにあるのは、幾度となく通った協会だった。大きなバラ窓のあるここは、昔は父と、父が亡くなってからは、幸せだった頃の思い出の欠片を拾いに来た場所だった。

あのバラ窓が恋しかった。けれど。エリザベートはもう建物の中に入ることは叶わなかった。それも、体が変わった影響によるものだった。
十字架が、苦手になったのだ。それを見ると本能的に体が拒否し、調子が悪くなってしまうのだ。
無理すれば入ることも出来なくはないけれど、今のエリザベートには、それをしない理由があった。

人としての生を手放した自分には、もう父との思い出を振り返ることが許されていないのかと思うと寂しいような苦しいような気分になり、自然と体が震えた。
中からは見ることは叶わないけれど、せめて外からだけでも。そう思ったエリザベートが、外からではかろうじて色の違いぐらいしか分からないバラ窓を見ながら立ち尽くしていると。

「リジー」
ふわりと後ろから覆いかぶさられ、腕の中に閉じ込められる。
「やっぱりここだった」
落ち着いたしっとりとした声は、愛する夫のものだった。
「シリル」
エリザベートは、胸の前にまわされたシリルの手に自らの手を重ねる。
「リジーは目を離すとすぐにどこかに行ってしまうな」
鳥籠の中に閉じめこておきたくなる、と言われエリザベートはふふ、と笑った。
「そんな……ほんの少しの時間じゃありませんか」
シリルは日を追うごとに過保護になりつつある気がする。屋敷でもそうで、シリルはいつでもエリザベートを、執務室に設えた専用のソファに居させたがった。それが少しばかり息苦しかったのと、久しぶりに町に下りたくて。そうしてエリザベートは今この場所にいたのだ。

「……お父様のことを思い出して寂しくなってしまいました」
もう一度バラ窓を見上げて、エリザベートは小さくため息をついた。
「俺がいる……じゃだめか?」
「ううん。充分です」
それに、この子もいますから。そう言って、ゆったりとした黒のドレスの上から大きくなりつつあるお腹を撫でる。一度、子が流れてしまったことがあるから、妊娠が分かったばかりの頃は恐ろしかったけれど、いまのところ順調に育ってくれている。ヴァンパイアの子どもとして産まれるから出産の時や子育てを思うと不安は尽きないけれど、でも。シリルとなら大丈夫だという確信が、エリザベートにはあった。

「シリル、愛しています」
「俺もだ。エリザベート、愛している。永遠に」

見つめあい、そして微笑む。
黒を纏った二人の影はひとつとなり、そして、月の僅かな光すら届かない場所で、暗闇に溶け込んでいった。 

あとに残されたのは、仄かなバラの残り香のみであった。

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