銀翼のシャリオ ―転生盗賊団長、ホワイト改革で破滅エンドを回避する―

白猫商工会

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第2章

第05話 A級冒険者

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カレンとの戦いに割って入ってきたのは──
ニヤついた薄ら笑いを顔に張りつかせた、ひとりの男だった。

レオン。
そう呼ばれたその男は、銀色に輝く高級そうな鎧に、風にたなびく真紅のマントをまとっている。
腰に下げた長剣は、柄に施された精緻な装飾から見ても、かなりの逸品だろう。

高身長で、細身ながら鍛えられた肉体。
その立ち姿だけを見れば、まるで絵に描いたような美丈夫びじょうふだった。

さらさらの金髪に、血色が良い白い肌、端正な顔立ち──
だが、下卑た薄ら笑いが、すべてを台無しにしていた。

どれだけ装いを整えようと、にじみ出る品のなさは隠せない。

そんなレオンに、カレンは苛立ちを隠すことなく、鋭く声をぶつけた。

「……何の用だい、レオン?」

レオンは、わざとらしく肩をすくめる。 張りついた笑みは崩れない。

「何って……決まってんだろ?
今、ギルドで一番ホットな話題──“1億”の首さ。
別に、あんただけが狙っていいってルールはないでしょ?」

カレンの獣のような気迫を、そよ風でも受け流すかのようにかわしてみせる。

その言葉に、カレンの唇が皮肉げに歪んだ。

「ふぅん。あんたごときが……無理だね。ケガしないうちに帰んな」

露骨な格下扱い。
だが、レオンは意に介せず笑みを深めた。

「そりゃあ手厳しい。でもねぇ、俺にもようやく“ツキ”が回ってきたんだよ」

腰の剣に手を添える。
抜くでもなく、柄をくるくると弄ぶ──その軽い仕草だけで、空気にわずかな緊張が走る。

「こんなチャンス、逃す手はないだろ?」

薄ら笑いの口から、意味深な言葉がこぼれ落ちる。

一方の俺は、状況を完全には呑み込めていなかった。
だが、レオンの物言いから察するに──こいつも、賞金首狩りだろう。

次から次に……。
唯一の救いは、やつらに共闘の意思はなさそうだということくらいか。

とはいえ、一応は探りを入れておく。
俺はカレンに声をかけた。

「知り合いか?」

「……ああ。こいつらはブラック冒険者ギルドのA級さ。半端者のくせに、言う事だけはいっちょ前でね」

カレンはレオンから目を離さぬまま、吐き捨てるように答えた。
──狩りの邪魔だ。そう言わんばかりの態度だった。

「A級?」

思わず反応した俺に、レオンが横から口を挟んでくる。

「ご紹介どうも。……“半端者”は余計だがな。
そう、俺たちは──A級冒険者パーティだ」

そう言って、尊大に胸を張る。

「よろしくはしなくてもいいぜ。俺が興味あるのは、あんたの首だけだからな」

どこまでも自信満々。
だが──盗賊団首領とカレンを相手に、その態度を貫ける時点でただ者ではない。

見栄や虚勢でできる芸当じゃない。

A級冒険者か……。
異世界における“上位実力者”。それくらいの認識は、さすがに持っている。

俺は改めて、奴らのパーティを見渡した。
レオンのほかに、男がひとり、女がふたり。

まず男は──屈強な体格に分厚い鎧、そして巨大な戦斧を携えていた。
一目で前衛職だと分かる。
茶色の短髪、日に焼けた精悍な顔つき。
口元を引き締め、まっすぐに俺を見据えている。油断はまったくない。

女たちは……制服?

ひとりは、すらりとした細身に清潔な白シャツ、赤いネクタイに紺のブレザー。
チェック柄のスカートは膝丈で、肩にかかる艶やかな黒髪が光を反射している。
目元は細く、柔らかな笑みを浮かべる美人。手には書を携えている。
おそらく、後衛職──ヒーラーか、支援術師か。

もうひとりは、スクールベストにシャツの第二ボタンまで外し、ネクタイをゆるめている。
スカートは短く、外ハネのミディアムヘアにギャル系のカチューシャ。
赤茶のシャギーが風に揺れ、メイクとネイルはやや派手め。
杖を持っていることから、魔法使いだろう。

ふたりとも、どこかのコンビニ前にたむろしていそうな出で立ち。

──このゲームは、いつからファンタジー学園ものになったんだ?

そして、レオン。
薄ら笑いを除けば、見栄えの良い美男子。A級冒険者パーティーの花形だ。

それぞれの役割分担は、見ての通り。

──なるほど。勇戦僧魔とは、古式ゆかしいやつらだ。

俺の感想をよそに、カレンが苛立ちを隠そうともせずに言い放った。

「今、取り込み中だよ。あんたたちはお呼びじゃないね」

その言葉に、レオンはおどけたように片手を上げる。

「まあまあ。見たところ、苦戦してるんじゃないか?
俺が代わってやろうかって、親切心ってやつさ」

カレンの眉がピクリとね、口元に冷たい笑みが浮かぶ。

「……苦戦? あんた、ますますバカに磨きがかかってきたようだね」

レオンは肩をすくめるだけ。
その言葉は想定内。そう言いたげだった。

そっと、腰の剣に手を伸ばす。

「……まあ、別にいいんだけどな」

レオンの声が、静かに、しかしはっきりと響いた。
そして、張り付いた笑みがかき消える。

「ブラック冒険者ギルドの心得その一」

柄を握る手が、ギリっと音を鳴らす。

「“欲しいものは、ぶっ殺してでも奪え”──ってな」

何かが来る。俺の直感が警鐘を鳴らした。

そのときだった。

「カレン!」

いつの間にかカレンの隣に現れていたレナが、彼女の腕を掴んだ。
耳元で素早く何かをささやく。

カレンの顔色が変わる。

「……その剣……正気か?」

睨みつけるようにレオンを見据える。

レオンはなおも笑みを浮かべたまま、剣に手を添えながら言う。

「これが何か、分かってるなら話は早いよな?──カレンさん。……やるかい?」

自信と確信がにじみ出る声音こわねだった。

カレンの肩がぴくりと動く。

「お前、死ぬぞ? そんなもの使ったら……」

しかし、その言葉はレオンには届かない。

「負け惜しみとはカレンさんらしくもないな。どうするか聞いてるのは俺のほうだぜ?」

カレンの目の色が変わり、今にも飛びかかりそうな気配が満ちる。

だが──

「……カレン」

レナの手が、そっと彼女の腕を引く。
ここは引くべき。そう言っていた。

カレンは目を伏せ、小さく息を吐いた。

「……わかったよ、レナ」

そしてカレンは顔を上げ、キッと俺に向かって一瞥いちべつする。

「こんな奴らにやられるんじゃないよ!」

それだけ言うと、くるりときびすを返し、レナとともに去っていった。


あれ……?

何が起きたのか、俺の頭が追いつかない。
レオンが剣を抜く素振りをしただけで、あっさり引き下がるなんて。

何なんだ一体。

カレンを見送るレオンは、勝ち誇ったように胸を張る。

「物分かりが良くて助かるぜ。俺だってな、金にならない殺しがしたいわけじゃないからな」

その言葉に込められた冷たさに、ぞくりと背筋が粟立った。

***

陽光が照りつける道を、ふたりの影が並んで進んでいた。

カレンは怒りを押し殺したまま、無言で歩き続ける。
その背を見つめながら、レナが静かに語りかける。

「……あんな奴ら、カレンの相手じゃない」

カレンは何も答えない。

「でも──」

振り返ると、視線の先には、遠ざかる銀の鎧。

「あの魔導ギア……本当に来るなんて。グレイスのことだから、きっと無茶やってるよ……」

カレンは、拳をぎゅっと握りしめた。
血が滲むほど強く。
その拳には、まだ振り下ろされなかった闘志が、静かに燃えていた。
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