銀翼のシャリオ ―転生盗賊団長、ホワイト改革で破滅エンドを回避する―

白猫商工会

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第4章

第18話 作り直し

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俺は思わず聞き返していた。

「反乱!?」

ヴィオラは答える。

「まあ、今のところは契約労働者同志のゆるかな連帯……といったところね。でも、火種は育ちつつある。そういう情報が入っているわ」

低く冷静な声。だがその裏には、わずかな危惧の色がにじんでいるようにも聞こえた。

ヴィオラが話を続けた。

「とはいえ、魔力印で縛られている彼らにどれだけのことができるか。下手に騒いでも、すぐに鎮圧されて終わりじゃないかしら」

確かに、ヴァルトのような手段を選ばないやつらは、何をしでかすかわからないからな。

しかし──。

彼らの気持ちはわかる。わかるが……。

そもそも契約労働者で私腹を肥やしている連中をなんとかすれば良い、という話ではないはずだ。

仮に成功して一部貴族が打倒されたとしても、根本原因である“食っていけない”問題を解決しない限りは次の不満が生まれるだけ……必要なのは、産業基盤だ。

俺は椅子に背を預け、腕を組んだまま問いを投げる。

「なあ、ヴィオラ。この国は封建貴族の連合なんだろ? つまり一枚岩じゃないってことだよな」

俺のいた国もかつてはそうだった。

「一部貴族の問題でWSOと関係が悪化したといっても、案外まともな貴族も中にはいるんじゃないか?」

ヴィオラは俺の真意を図りかねるような表情で見ている。

俺の考えとしては──

まず。これから立ち上げようとしている、ドワーフ商工会と共同の魔導ギアビジネスを、良識的な封建貴族の領地に根付かせ産業を興す。WSOとの関係改善は魔王カンパニーの協力も必要だろうが、ゼファスは話が分かる相手だ。

成功モデルをつくれば、国内で味方を増やせるはずだ。 そうやって緩やかに王国を変えていけないだろうか。血で血を洗う革命は望むところじゃない。

けれど。

現在の歪んだ構造でも既得権益者はいる。そいつらが襲い掛かってくるなら、そのときは戦うまでだ。

──そこまでの考えを一気にヴィオラに語ると、しばしの沈黙。

そして、信じられないものを見るような視線が返ってきた。

「盗賊団が……ね。まともじゃないわ」

まあ、そうだろうな。俺だってそう思う。
最初は極悪集団の更生のつもりだったが、いつの間にかスケールの大きな話になっている。

「でも、面白そうね」

一拍置いて、小さく笑った。

「大バカは嫌いじゃないの」

俺はわずかに肩の力を抜いた。

ホワイト改革、忙しくなってきそうだな。

***

「この国を……作り直す?」

アリサと対峙するライネルは確かにそう言った。

ライネルはうなずく。

「ああ。契約労働者なんてまともな制度じゃない……分かるだろう?」

アリサはこくりと首をふる。

「いまは仲間を集めているんだ。魔力印がある限り表立って活動することはできない。けど、魔力印だって永遠じゃない。それが切れたとき……僕は立ち上がる」

ライネルは空を見上げた。

いつの間にか薄暗くなってきている。空は重たい雲に覆われ、星はひとつも見えなかった。
まるで彼らの未来そのもののように。

視線をアリサに戻して話を続ける。

「もちろん、今すぐにでも解放されたいさ。だから、義賊の耳に入る可能性が少しでも上がるならと、噂を仲間同士で広げたりはしている。まあ、気休めかな」

気休め……。

「気休め、だなんてそんな……」

アリサは胸に手を当て、首を横に振った。
あるかないか分からない希望にもすがる思いは、自分だってそうだった。

そして思う。
つらい境遇にあっても諦めてなんかいなかった。
本当に強い人なんだ。

アリサは姿勢を正した。

「話していただき、ありがとうございます。私も変えたいです」

そして、ライネルの勇気に敬意を表した。

「私、ライネルさんのことを言ったりしませんから!」

そこにレイラが口を挟む。

「アリサさんが誠実なのは分かりますけど。でも、そういうわけにはいかないんじゃないですか?」

そう言って肩をすくめる。

「特に、あの気の強そうな赤髪の彼女。ダンマリが通用する相手とは思えませんね」

アリサの心臓がねた。
確かに……ミレーヌの追求をかわせる自信が全然ない。
セリーナだって、あの静かな圧で迫られたら泣いてしまいそうだ。

「アリサさん、すぐに顔に出るし。無理ですね、ぜったいムリ」

その断言に少し傷つくが、認めるしかなかった。

アリサは、おどおどした目でレイラに助けを乞う。

「あの……どうしたらいいでしょうかね? えへへ」

レイラは呆れた。
さっきまで放たれていた圧倒的な“何か”が今はまるで感じない。

(……こうしていると、本当に子どもにしか見えないんだけどな)

レイラは、ふぅと軽く息をついた。

「何も話さない、というわけにはいかないでしょうから。ある程度は仕方ないでしょうね。ライネルさんも、今後はアリサさんが協力してくれるということで、少しアリサさんの立場も配慮してくれるとありがたいんですけど?」

そういってライネルの方向を見る。

「僕に、どうしろと?」

レイラは続ける。

「仲間内で義賊の話はしたことがあるけれど、扇動なんてする気はない。そもそも義賊なんて地方で活動しているんだから、騎士団のいる王都に来るはずもない。単なる軽口だって……誰に何を聞かれてもそう言い張ればいいんです。アリサさんも、そういう報告でお願いしますね」

アリサは力強くうなずいた。

「そして、今後は契約労働者の間で義賊の話は出さないこと。噂が立ち消えれば、騎士団だってそれ以上は追求してこないんじゃないですか?」

ライネルは顎に手を当てて一瞬逡巡しゅんじゅんしたが、やがて静かに決めたようだった。

「わかった。僕の名前は出していい。だけど一つだけ約束して欲しい」

アリサの目をまっすぐ見据えた。

「アリサさん……だったかな? 君みたいな騎士がいるって分かっただけでも、少し希望が持てる。
いつか、本当にその時が来たら、その時は──僕たちの側に立ってほしい」

アリサは即座に、ハッキリ返した。

「はい。必ず」

その言葉に、ライネルはふっと肩の力を抜き、微笑した。

「じゃあ、信じることにするよ。アリサさんを」

──この国にはまだ希望がある。
ライネルが自分を信じてくれたように、アリサも信じることにした。

そして、ホワイトの物語は加速していく。
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