銀翼のシャリオ ―転生盗賊団長、ホワイト改革で破滅エンドを回避する―

白猫商工会

文字の大きさ
80 / 163
第5章

第13話 組織の旗

しおりを挟む
アーサーと、そしてクラリスも同じ志を抱いている──
その事実に、アリサは勇気づけられた。

本当に、変えられるかもしれない。
……ううん、変えてみせるんだ。

──だが。

「でもな……」
目の前のアーサーが口を開く。

「現実的に言えば、俺たち数人が寄り集まったところで、できることは限られてる。
本気でこの国を変えたいなら、“組織の力”が必要だ」

──組織。

アリサはきょとんとした表情を浮かべる。
そんな視点で考えたことは、一度もなかった。

アーサーは続ける。

「でだ。俺たちがいる騎士団ってのは、今の王国体制を守るための組織だ。
……俺の言いたいこと、わかるか?」

アリサは額に手を当てて、うーん……と少し考え込む。

数秒後。ぱっと顔を上げ、両手のこぶしを胸の前でグッと握った。

「つまりっ! 騎士団のみんなで頑張って、ホワイトな国にしていきましょうってことですよね!」

にこっとスマイル。

アーサーは、ため息をついた。深く、長く。

「アホかお前」

その一言に、アリサはしょんぼりした。

やはり、こいつでは無理かもしれない──
そんな考えが頭をよぎったが、アーサーは軽く首を振ってアリサに向き合った。

「今の王国の体制じゃ、もうどうにもならねえ。だったら、それをひっくり返して、新しい体制を作らなきゃならねえ。俺たちがやろうとしてるのは、そういう話だ」

そして、少し声のトーンを落とす。

「体制を守る騎士団から見りゃ──俺たちは、“反逆者”なんだよ」

アーサーの言葉に、アリサは、はっと息を呑んだ。

ミレーヌの言葉が脳裏をよぎる。

──団長の正義と、あなたの正義が同じなら……いいけど

あれは、そういう意味だったんだ。

心の奥で、何かがざわつく。

私は──国を良くしたい。
契約労働者なんてなくして、世界に誇れる国にしたいと思ってる。

でも……それって、騎士団では“間違い”なの?

「お前は、“王都騎士団”のアリサなのか?」

戸惑うアリサの胸に、アーサーの声が、鋭く響いた。

「それとも──“騎士”のアリサなのか。どっちなんだ?」

アリサは、目の奥がじんわりと熱くなるのを感じた。

──そういう、ことなんだ。
私は、何も分かっていなかったんだ。

震える指先をぎゅっと握りしめる。
胸の奥で何かが静かに、でも確かに形を持ちはじめる。

そして、アリサはゆっくりと口を開いた。

「……私は、一人の“騎士”として戦います。
“騎士アリサ”として──自分の正義に、誇りを持って」

その言葉に、アーサーは満足げに笑みを浮かべた。

「そういうことだ。何かをやりたいなら、自分で“旗”を掲げるんだ。
その旗のもとに人を集める──それが、組織ってもんだ」

アリサは静かにうなずいた。

「でもまあ……」とアーサーが口の端をゆがめる。どこか照れ隠しのようだった。

「お前は俺の旗につどった“第三号”だけどな。一号がカインで、二号がクラリスだ」

アリサは一瞬きょとんとしてから、ふっと笑った。

「私、アーサーさんの手下になった覚えないんですけど?」

「まったくだな」

そのとき──静かな声が割り込んできた。

振り返ると、そこにはカインが立っていた。いつの間に現れたのか、気配もなく。

アーサーは肩をすくめ、おどけて言う。

「なんだよ。リーダーはどう見ても俺だろ? 無口に脳筋、アホな子とくりゃあな……」

最後の“アホな子”は、自分のことだろうか。

アリサは小さく笑い、カインに向き直る。

「仕方のないリーダーですね。カインさん、一緒に“ホワイト”頑張りましょう」

カインの瞳が、わずかに揺れたように見えた。

「ホワイト……?」

アリサは少し胸を張って言う。

「そうです。人が人らしく生きる世界に必要なもの──それが“ホワイト”。
私、“ホワイトな騎士”になるんです!」

すかさずアーサーが茶々を入れる。

「お前、さっきからそれ言ってるけど、絶対よくわかってないだろ?」

「えへへ……」

アリサは照れたように笑う。

けれど、カインはその言葉を真剣に受け止めていた。

「ホワイト……か」

アーサーが「おい、真に受けんなよ」と声をかけるが、カインの耳には届いていなかった。

***

ロイは、気づいていた。
最近のアリサの様子が、どこかおかしいことに。

もっとも、王国の現実を知って平静でいられる者など、そうはいない。
自分もまた、同じだ。

けれど、以前のアリサとは何かが違っていた。
最近は、何かを抱え込んでいるように見える。

あの契約労働者の少年──セロと出会ったときに見せた、あの不可解な現象。
自分にはさっぱり理解できなかったが、あれは……きっと、何か特別な力。

アリサには、何かがある。

それに比べて、自分には──これといって誇れるものがない。
魔法の素養も平凡、剣の腕も、先輩たちには到底及ばない。

──中途半端だ。

だが、それで腐っていても何も変わらない。
問題の本質は、きっとそこじゃない。

アリサが悩んでいるのなら、共有してほしい。
頼りにされたい。自分も、彼女と同じ場所に立っていたい。

あの日。
王国の現実を突きつけられたとき、頭の中が真っ白になった。
絶望に顔を歪めるアリサやリュシアンを前にしても、何もできなかった。

──心も、弱い。
それが、悔しかった。

***

ロイは、いま巡回任務にあたっていた。
一緒なのは、アリサとアーサー。
東区の商業街を担当するのは、この三人の組み合わせだ。

ふとアリサに目をやると──
あのかげりが、ない。
何かを吹っ切ったような顔をしている。

……何があったんだろう。

そんなことを考えていると、不意に声が飛んできた。

「どうしたの? ロイ」

アリサだった。
彼女も、ロイの様子に気づいていたらしい。
いつもなら、商店の人に声をかけたり、もっと街の様子に気を配っているはずなのに……。

ロイは我に返って、アリサを見る。
いつの間にか、アーサーの姿はなく、ふたりきりになっていた。

少しだけ迷った。
けれど、この機を逃したら、もう言えないような気がして──
思い切って、口を開く。

「なあ、アリサ。最近……どうなんだよ」

言ってから、自分でも曖昧すぎると苦笑した。

「どうって……?」
アリサは首をかしげる。意味がよく分からなかったようだ。

しばしの沈黙のあと、ロイはふうっと息を吐いた。
あれこれ細かく考えるのは、得意じゃない。

「俺たち、同期だろ?
そりゃあ俺じゃ頼りにならないかもしれないけどさ……困ってるときは、力になりたいって思ってるんだぜ」

アリサは一瞬、きょとんとした。
けれどすぐに、ぱあっと花が咲いたような笑顔を見せた。

「困ってる? うん、すごく困ってるよ!
だって、組織つくらなきゃいけないんだもん!」

……は?

予想外すぎる言葉に、ロイの思考が止まる。

アリサはずいっと距離を詰めてきた。

「ロイも協力してくれると嬉しいな~。ねえ、一緒にホワイトやろ?」

ほわいと……?

アリサの空色の瞳が、やたらキラキラしててまぶしい。
何の話か分からなかったけど──とりあえず、ロイはうなずいた。

「やった! じゃあ、ロイは“四号”だね!」

会話の内容が一つも理解できない。
戸惑うロイの肩に、背後からガシッと手が置かれた。

アーサーだ。

「おい、アリサ。ベラベラ喋るなって言っただろ」

呆れたような声。
そして、ロイの耳元に顔を近づけて、低く囁く。

「……聞いちまったもんは仕方ねえな。逃げようと思うなよ?」

こうして。
組織の旗のもとに、また一人、メンバーが加わった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

妖精の森の、日常のおはなし。

華衣
ファンタジー
 気づいたら、知らない森の中に居た僕。火事に巻き込まれて死んだはずだけど、これってもしかして転生した?  でも、なにかがおかしい。まわりの物が全部大きすぎるのだ! 草も、石も、花も、僕の体より大きい。巨人の国に来てしまったのかと思ったけど、よく見たら、僕の方が縮んでいるらしい。  あれ、身体が軽い。ん!?背中から羽が生えてる!? 「僕、妖精になってるー!?」  これは、妖精になった僕の、ただの日常の物語である。 ・毎日18時投稿、たまに休みます。 ・お気に入り&♡ありがとうございます!

この度異世界に転生して貴族に生まれ変わりました

okiraku
ファンタジー
地球世界の日本の一般国民の息子に生まれた藤堂晴馬は、生まれつきのエスパーで透視能力者だった。彼は親から独立してアパートを借りて住みながら某有名国立大学にかよっていた。4年生の時、酔っ払いの無免許運転の車にはねられこの世を去り、異世界アールディアのバリアス王国貴族の子として転生した。幸せで平和な人生を今世で歩むかに見えたが、国内は王族派と貴族派、中立派に分かれそれに国王が王位継承者を定めぬまま重い病に倒れ王子たちによる王位継承争いが起こり国内は不安定な状態となった。そのため貴族間で領地争いが起こり転生した晴馬の家もまきこまれ領地を失うこととなるが、もともと転生者である晴馬は逞しく生き家族を支えて生き抜くのであった。

高校生の俺、異世界転移していきなり追放されるが、じつは最強魔法使い。可愛い看板娘がいる宿屋に拾われたのでもう戻りません

下昴しん
ファンタジー
高校生のタクトは部活帰りに突然異世界へ転移してしまう。 横柄な態度の王から、魔法使いはいらんわ、城から出ていけと言われ、いきなり無職になったタクト。 偶然会った宿屋の店長トロに仕事をもらい、看板娘のマロンと一緒に宿と食堂を手伝うことに。 すると突然、客の兵士が暴れだし宿はメチャクチャになる。 兵士に殴り飛ばされるトロとマロン。 この世界の魔法は、生活で利用する程度の威力しかなく、とても弱い。 しかし──タクトの魔法は人並み外れて、無法者も脳筋男もひれ伏すほど強かった。

異世界転生したらたくさんスキルもらったけど今まで選ばれなかったものだった~魔王討伐は無理な気がする~

宝者来価
ファンタジー
俺は異世界転生者カドマツ。 転生理由は幼い少女を交通事故からかばったこと。 良いとこなしの日々を送っていたが女神様から異世界に転生すると説明された時にはアニメやゲームのような展開を期待したりもした。 例えばモンスターを倒して国を救いヒロインと結ばれるなど。 けれど与えられた【今まで選ばれなかったスキルが使える】 戦闘はおろか日常の役にも立つ気がしない余りものばかり。 同じ転生者でイケメン王子のレイニーに出迎えられ歓迎される。 彼は【スキル:水】を使う最強で理想的な異世界転生者に思えたのだが―――!? ※小説家になろう様にも掲載しています。

異世界翻訳者の想定外な日々 ~静かに読書生活を送る筈が何故か家がハーレム化し金持ちになったあげく黒覆面の最強怪傑となってしまった~

於田縫紀
ファンタジー
 図書館の奥である本に出合った時、俺は思い出す。『そうだ、俺はかつて日本人だった』と。  その本をつい翻訳してしまった事がきっかけで俺の人生設計は狂い始める。気がつけば美少女3人に囲まれつつ仕事に追われる毎日。そして時々俺は悩む。本当に俺はこんな暮らしをしてていいのだろうかと。ハーレム状態なのだろうか。単に便利に使われているだけなのだろうかと。

異世界に転生したら?(改)

まさ
ファンタジー
事故で死んでしまった主人公のマサムネ(奥田 政宗)は41歳、独身、彼女無し、最近の楽しみと言えば、従兄弟から借りて読んだラノベにハマり、今ではアパートの部屋に数十冊の『転生』系小説、通称『ラノベ』がところ狭しと重なっていた。 そして今日も残業の帰り道、脳内で転生したら、あーしよ、こーしよと現実逃避よろしくで想像しながら歩いていた。 物語はまさに、その時に起きる! 横断歩道を歩き目的他のアパートまで、もうすぐ、、、だったのに居眠り運転のトラックに轢かれ、意識を失った。 そして再び意識を取り戻した時、目の前に女神がいた。 ◇ 5年前の作品の改稿板になります。 少し(?)年数があって文章がおかしい所があるかもですが、素人の作品。 生暖かい目で見て下されば幸いです。

能力値カンストで異世界転生したので…のんびり生きちゃダメですか?

火産霊神
ファンタジー
私の異世界転生、思ってたのとちょっと違う…? 24歳OLの立花由芽は、ある日異世界転生し「ユメ」という名前の16歳の魔女として生きることに。その世界は魔王の脅威に怯え…ているわけでもなく、レベルアップは…能力値がカンストしているのでする必要もなく、能力を持て余した彼女はスローライフをおくることに。そう決めた矢先から何やらイベントが発生し…!?

『異世界ガチャでユニークスキル全部乗せ!? ポンコツ神と俺の無自覚最強スローライフ』

チャチャ
ファンタジー
> 仕事帰りにファンタジー小説を買った帰り道、不運にも事故死した38歳の男。 気がつくと、目の前には“ポンコツ”と噂される神様がいた——。 「君、うっかり死んじゃったから、異世界に転生させてあげるよ♪」 「スキル? ステータス? もちろんガチャで決めるから!」 最初はブチギレ寸前だったが、引いたスキルはなんと全部ユニーク! 本人は気づいていないが、【超幸運】の持ち主だった! 「冒険? 魔王? いや、俺は村でのんびり暮らしたいんだけど……」 そんな願いとは裏腹に、次々とトラブルに巻き込まれ、無自覚に“最強伝説”を打ち立てていく! 神様のミスで始まった異世界生活。目指すはスローライフ、されど周囲は大騒ぎ! ◆ガチャ転生×最強×スローライフ! 無自覚チートな元おっさんが、今日も異世界でのんびり無双中!

処理中です...