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第1章

迎え5

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(今世では絶対フェリミアを連れて行かせないわ。)

 当時の事はあまり覚えていなかったけど、乗り気な父が使者に『では是非フェリミアをお連れください』みたいな事を言っていた気がする。



 王宮からの使者に紹介されたテリアは、父が使者と話をしている間に考えていた。フェリミアを連れて行かれないようにするにはどうしたら良いのかを。

 そんなテリアを、部屋の隅でユラはハラハラしながらも表情には出さずに(何ごともありませんように)と心の中で祈っていた。

 テリアは静かに座って使者と父の話に耳をすませながら、目の前にある紅茶を眺めていた。

「…。」

 今回もやはり父は会話の中でフェリミアを押している。

 私の話をする時よりもかなり冗舌だ。
 だが父の意向は前世でも理解できた。

 田舎の子爵という一般貴族の令嬢として生きるには私のように恋愛小説1日中読みふけったり、勉強が嫌いで優雅にお茶だけ飲んだり、習い事抜け出したりちょっとおてんばでいても差し支えないだろう。(多分)

 国母になる皇妃になる人がそれでは話にならないだろうけど。


 父がチャンスを前に強気にこう言い切れるのは、フェリミアの評価がそれだけ高いからだ。

 このままでは、またフェリミアを、連れて行かれてしまう。しかも今は、あんなにも怯えきって震えているあの子をー…
服の上に置いた手に、力を込めた。

「フェリミアは普段からも勤勉で、ですから必ずや厳しい皇妃教育に耐え抜き、立派な皇妃となるでしょう。」

 父の言葉に、ある事を閃いた。


(そうだわ、この手がある。

いや寧ろ、この手しかない。)



「私が皇妃になりたいです。」



 扉付近に待機していた、ユラの顔が目端に入る。

 衝撃を受けたように真っ青な顔をして、今にも何か言いたそうに口をパクパクさせている。

(…ふっ、心配は無用よ。ユラ。
これには考えがあるのだから!

 良く考えたら私は厳しい皇妃候補教育に耐えられないし、そもそも数多いる令嬢と比べられたら脱落してしまうわ。

という事は、私は皇妃にはならないのよ。)

 そう、フェリミアが皇妃になれたのは父の言うようにフェリミアが優秀だからに他ならない。

(完璧だわ。)

 口元がニヤリと笑いそうになるのを堪えている私に、父は慌てふためいてオロオロしていた。
 此処で強く反対も出来るわけないだろう。 
 私を貶める意図は父にないのだから。

「ま、まぁこの話はまたフェリミアの体調が戻り次第両方の意見をだな…」

「いいえお父様、フェリミアにこのチャンスを渡したくありませんわ。
使者様、後悔はさせません。だからどうか今!私を選んでいただけませんか?」


 使者は見据える私の目を、晒す事なく見返してきた。

「ー…成る程、余程の野心があるのですね。

その方が、王宮では過ごしやすいかもしれません。良いでしょう。

貴方を皇妃候補として3日後改めてお迎えにあがります。

それまでに身支度が出来ますか?」

 今日のご挨拶も急ならやっぱり連れて行くのも急だわね…
 でも良いわ。これには小難しい作戦もいらないだろうし。ぱっと行って、ぱっと脱落してくれば良いのだから。


「ええ、構いませんわ。」




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