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第1章

悲しき物語3

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 それまで2人の会話を見守っていたアレンはテリアの手に持っているカップの僅かな揺れに気付いていた。

 そして一歩進み出る。

「テリアお嬢様、わたしからもお伝えしたい事があります。」

「どうしたの?アレン。」

「わたしをテリアお嬢様仕えの執事になれるよう、申請してください。」

「貴方を?
でも、そんな事したらフェリミアを1人にしてしまうわ。」

 アレンの申し出を却下しようとしたテリアに、フェリミアが慌てて付け加える。

「テリアお姉様、私からもお願いします。

信用出来るものを多くその身の近くに置いてください。」

「でも……。」

(フェリミアはまだ前世で受けた仕打ちを忘れられていない。誰かが側にいた方が私も安心だわ。)


 尚も拒否しようと、口を開きかけると、目の前には、その瞳に涙をいっぱい溜めて今にも縋り付きそうな勢いのフェリミアがいた。

「わ、わかったわ。でもアレン、貴方は本当に良いの?
王宮はとても危険な場所なのよ。」

「だからこそ、テリアお嬢様をこのままには出来ないでしょう。

わたしは貴方の、執事なのですから。」

 久々に真剣で誠実な眼差しに、前世のアレンを思い出す。子爵家が落ちぶれて断罪されるも、最後まで仕えてくれた忠臣。

 いつも小馬鹿にしてきたり、主人に対して毒舌な事を言ってくるが、本当に困った時にこの執事が頼りになる事は知っている。
 
 だからこそ、ユラにもアレンにも王宮にはきて欲しくなかったけれど、自分が何も出来なかったと言う焦燥感も知っているだけに拒否をしきれない…。

「わかったわ、私は絶対生きて此処を出る。
勿論貴方達を守る為にも力をつけるわ。

だから、貴方も力を貸してくれる?」

 そう言って首を傾けるテリアに、アレンは右手を左胸にあて、唇の両端をあげるとお辞儀をして答えた。

「仰せのままに。」


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