【完結】身代わり皇妃は処刑を逃れたい

マロン株式

文字の大きさ
57 / 127
第1章

その夜は静かだった2

しおりを挟む

 暫くの間、2人は沈黙していた。別に気不味い事はなく、カルロも心無しか寛いでいるように感じた。
 テリアの見ている視界の先を辿る。

「星や月を見るのがそんなに楽しいか?」
「えぇ、星を線で繋いで形を妄想して、ついでに何故それが星になったのか考えてみると際限なく楽しめますね。
例えばあの星とあの星を繋ぐと猫になります。横にある無数の星が川で、川に魚を狩に出かけたという…」
「…そうか。」
「あんまりピンと来てなさそうですね?」
「ああ、おまえの言う事はたまに意味がわからないな。」
「皆に言われるので、慣れてます。」

  カルロはワインを口に含み、先程テリアが指し示した場所を眺めている。
 青と金に光る星々が数多川の流れのように続いており、その周りで輝く星もまた、言われてみれば何かの形に見える。

「夜空は暗いばかりと思っていたが寧ろ明るかったのか。
俺は、そうやってどれ程のものを見逃して来たんだろうな。」

「?」

 
「帰ってきて早々に、アリスが王都に孤児院を設けたいと言ってきた。
孤児の獣人や混血種、人間を分け隔てなく、何にも脅かされる事なく学べる場所を設けたいと。そこで子供達に自分が勉強を教えたいと。

そんな事を、考えてたんだなと思ったよ。ずっと、諦めていただけで。」

「そんな夢があったんですねぇ。アリスティナ姫には。めっちゃ良い!素敵!

想像つきますよ。その未来!あの年齢で古代聖書の文字読めちゃうんですよ?私未だ読めませんもん。先生して欲しいな~なんて。」


    頭をポリポリかいて笑う少女を前にして、カルロは微かに目を見開いたあと、軽く息をついた。

「現実的ではないがな。」

  獣人は人ではなく奴隷だと言うのが通常の概念で、それを平等に扱い無償で学を身につけさせるなど世の中が許されないだろう事は直ぐに想像がつく。

 10人に言えば10人が反対をする。良くて難色を示しぼかすか笑い話にする。

 だが、横に居る少女はその所を分かってないせいもあるのは分かるが、其れにしても何ら抵抗もなく事もなげに〝良い〟と肯定する。

「カルロ皇太子は反対なんですか?」

  嬉しい表情ではない事を悟り聞かれた質問に、カルロは一拍置いた後に答えた。

「俺は、アリスが未来を語ってくれるならそれを応援したい。出来る事なら手助けしたい。
だけど、今回のは無理だ。」

「え?なんで?やっぱりお金厳しい?」

「…わかるだろ、獣人は法の下に奴隷と決まっているし、ましてや混血種は神を冒涜した存在と扱われている。

その孤児が数多住まう場所など問題が起きないわけもないし、孤児院設立前に企画自体を潰されるだろうな。」

  どうして言わなければ分からないのだろうと、出来れば自分とて口には出したくないのだ。カルロにとって大切な家族であるアリスティナは獣人であり混血種だ。
 
 だからこそ、孤児院設立を言い出した時のアリスティナに何と言って良いものかわからなかった。

「よく分からないけど、直ぐには無理なんですね。」

「…話、聞いてたか?」

「聞いてましたよ、だから、取り敢えず法律を変えないとダメって事なんですよね?」

    その言葉にカルロは息を呑んだ。
 簡単に言うようだが、それはつまり奴隷制度の撤廃を示唆している。

「無理だ。それはこの国の歴史上起こりえた事がない。」

「でもこの先は起こるかもしれないですよ。」
「次の皇帝は俺だ。どう考えても俺にそんな能力はない。無難に治世を収める事で手一杯だ。」
「案外自信がないんですね…。驚きです。」

 目を瞬かせているテリアを殴りたい気持ちに駆られたが、カルロは深呼吸をして自分を落ち着かせる。

 そんなカルロを尻目に、夜空を見上げ始めたテリアは無言になって、2人の間には再び沈黙が訪れた。

 そして、テリアがポツリと呟いた。


「皇帝が諦めたなら難しいか…」


  色々な方法を沈黙の最中考えてみた結果呟いた事だというのはわかったが、それはカルロの胸を鋭く突きさす感覚を抱かせるものだった。

 その後身動ぎしないテリアに、カルロは立ち上がって正面から見ると、目を閉じてスヤスヤ眠っている。

「…こんな所で寝る事もあるのかこいつは。おいこら、こんな所で寝たら風邪引くぞ。」

  声を掛けても目を覚さないテリアを見て、深いため息をつく。

 仕方がないので、横抱きしてベッドまで運ぶことにした。
 

(…想像通り軽いなこいつ。)

 ベッドに横たえて布団をかけると、眠るテリアの横に立ち、顔をじっと見下ろす。
 縁に両手をついて、身を屈めるとテリアの耳元でポツリと言った。



「ー…有難う。すまなかった。」


 こうして夜は静かに更けていった。


しおりを挟む
感想 110

あなたにおすすめの小説

【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました

佐倉穂波
恋愛
 転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。  確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。 (そんな……死にたくないっ!)  乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。 2023.9.3 投稿分の改稿終了。 2023.9.4 表紙を作ってみました。 2023.9.15 完結。 2023.9.23 後日談を投稿しました。

見た目の良すぎる双子の兄を持った妹は、引きこもっている理由を不細工だからと勘違いされていましたが、身内にも誤解されていたようです

珠宮さくら
恋愛
ルベロン国の第1王女として生まれたシャルレーヌは、引きこもっていた。 その理由は、見目の良い両親と双子の兄に劣るどころか。他の腹違いの弟妹たちより、不細工な顔をしているからだと噂されていたが、実際のところは全然違っていたのだが、そんな片割れを心配して、外に出そうとした兄は自分を頼ると思っていた。 それが、全く頼らないことになるどころか。自分の方が残念になってしまう結末になるとは思っていなかった。

残念な顔だとバカにされていた私が隣国の王子様に見初められました

月(ユエ)/久瀬まりか
恋愛
公爵令嬢アンジェリカは六歳の誕生日までは天使のように可愛らしい子供だった。ところが突然、ロバのような顔になってしまう。残念な姿に成長した『残念姫』と呼ばれるアンジェリカ。友達は男爵家のウォルターただ一人。そんなある日、隣国から素敵な王子様が留学してきて……

前世の記憶が蘇ったので、身を引いてのんびり過ごすことにします

柚木ゆず
恋愛
 ※明日(3月6日)より、もうひとつのエピローグと番外編の投稿を始めさせていただきます。  我が儘で強引で性格が非常に悪い、筆頭侯爵家の嫡男アルノー。そんな彼を伯爵令嬢エレーヌは『ブレずに力強く引っ張ってくださる自信に満ちた方』と狂信的に愛し、アルノーが自ら選んだ5人の婚約者候補の1人として、アルノーに選んでもらえるよう3年間必死に自分を磨き続けていました。  けれどある日無理がたたり、倒れて後頭部を打ったことで前世の記憶が覚醒。それによって冷静に物事を見られるようになり、ようやくアルノーは滅茶苦茶な人間だと気付いたのでした。 「オレの婚約者候補になれと言ってきて、それを光栄に思えだとか……。倒れたのに心配をしてくださらないどころか、異常が残っていたら候補者から脱落させると言い出すとか……。そんな方に夢中になっていただなんて、私はなんて愚かなのかしら」  そのためエレーヌは即座に、候補者を辞退。その出来事が切っ掛けとなって、エレーヌの人生は明るいものへと変化してゆくことになるのでした。

ご褒美人生~転生した私の溺愛な?日常~

紅子
恋愛
魂の修行を終えた私は、ご褒美に神様から丈夫な身体をもらい最後の転生しました。公爵令嬢に生まれ落ち、素敵な仮婚約者もできました。家族や仮婚約者から溺愛されて、幸せです。ですけど、神様。私、お願いしましたよね?寿命をベッドの上で迎えるような普通の目立たない人生を送りたいと。やりすぎですよ💢神様。 毎週火・金曜日00:00に更新します。→完結済みです。毎日更新に変更します。 R15は、念のため。 自己満足の世界に付き、合わないと感じた方は読むのをお止めください。設定ゆるゆるの思い付き、ご都合主義で書いているため、深い内容ではありません。さらっと読みたい方向けです。矛盾点などあったらごめんなさい(>_<)

ストーカー婚約者でしたが、転生者だったので経歴を身綺麗にしておく

犬野きらり
恋愛
リディア・ガルドニ(14)、本日誕生日で転生者として気付きました。私がつい先程までやっていた行動…それは、自分の婚約者に対して重い愛ではなく、ストーカー行為。 「絶対駄目ーー」 と前世の私が気づかせてくれ、そもそも何故こんな男にこだわっていたのかと目が覚めました。 何の物語かも乙女ゲームの中の人になったのかもわかりませんが、私の黒歴史は証拠隠滅、慰謝料ガッポリ、新たな出会い新たな人生に進みます。 募集 婿入り希望者 対象外は、嫡男、後継者、王族 目指せハッピーエンド(?)!! 全23話で完結です。 この作品を気に留めて下さりありがとうございます。感謝を込めて、その後(直後)2話追加しました。25話になりました。

ブサイク令嬢は、眼鏡を外せば国一番の美女でして。

みこと。
恋愛
伯爵家のひとり娘、アルドンサ・リブレは"人の死期"がわかる。 死が近づいた人間の体が、色あせて見えるからだ。 母に気味悪がれた彼女は、「眼鏡をかけていれば見えない」と主張し、大きな眼鏡を外さなくなった。 無骨な眼鏡で"ブサ令嬢"と蔑まれるアルドンサだが、そんな彼女にも憧れの人がいた。 王女の婚約者、公爵家次男のファビアン公子である。彼に助けられて以降、想いを密かに閉じ込めて、ただ姿が見れるだけで満足していたある日、ファビアンの全身が薄く見え? 「ファビアン様に死期が迫ってる!」 王女に新しい恋人が出来たため、ファビアンとの仲が危ぶまれる昨今。まさか王女に断罪される? それとも失恋を嘆いて命を絶つ? 慌てるアルドンサだったが、さらに彼女の目は、とんでもないものをとらえてしまう──。 不思議な力に悩まされてきた令嬢が、初恋相手と結ばれるハッピーエンドな物語。 幸せな結末を、ぜひご確認ください!! (※本編はヒロイン視点、全5話完結) (※番外編は第6話から、他のキャラ視点でお届けします) ※この作品は「小説家になろう」様でも掲載しています。第6~12話は「なろう」様では『浅はかな王女の末路』、第13~15話『「わたくしは身勝手な第一王女なの」〜ざまぁ後王女の見た景色〜』、第16~17話『氷砂糖の王女様』というタイトルです。

私は既にフラれましたので。

椎茸
恋愛
子爵令嬢ルフェルニア・シラーは、国一番の美貌を持つ幼馴染の公爵令息ユリウス・ミネルウァへの想いを断ち切るため、告白をする。ルフェルニアは、予想どおりフラれると、元来の深く悩まない性格ゆえか、気持ちを切り替えて、仕事と婚活に邁進しようとする。一方、仕事一筋で自身の感情にも恋愛事情にも疎かったユリウスは、ずっと一緒に居てくれたルフェルニアに距離を置かれたことで、感情の蓋が外れてルフェルニアの言動に一喜一憂するように…? ※小説家になろう様、カクヨム様にも掲載しております。

処理中です...