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第2章
貴女は笑顔が似合う人2
しおりを挟むアリスティナ姫の赤い瞳は、闇夜で見るとルビーの様に高貴な光を灯している様に見えて、その美しさに私は思わず息を呑んだ。
(私が男なら惚れている…)
「…私は、テリア義姉様が王宮へ来る前から、義姉様となる方の噂話は聞こえておりました。
その噂を総じて言えば〝優秀な妹の縁談話を、我儘で横取りしてしまう不出来で傲慢で、野心家な令嬢〟と言ったものでした…」
「そんな噂があったんですね…」
そう言えば、最初カルロと顔合わせしたとき、野心がどうのこうのと非難されていたのはその噂のせいなんだろうか?誰がそんな根も葉もない噂を??そんなの全てデタラメ…ーー…とは、ちょっと言い切れない部分がある。
元々皇妃候補になる予定だったのはフェリミアで、実際前世ではフェリミアが皇妃だった。
つまり見方によっては妹の縁談話を横取りしたということになるのかしら。いや、間違いなく事実上横取りしてるわね。…ならまぁ、そんな噂が立つのも仕方ないのかも。
噂話が間違いでないだけに、それを知って私に不快感を持つのは当然の反応だろう。
あれ?そうなると、初めてカルロと顔合わせしたしたとき、酷い態度をとられたけれども、あれはあながち間違った反応ではないのかもしれない。今更ながらそう思えてきた。
すっかり考え込んだテリアをよそに、アリスティナ姫は話を続けた。
「王宮での噂は人が面白おかしく変化させて行くものとはいえ、何処かに事実があることも多いので、少し、心配でした。また良からぬ騒動が起きるのではないかと」
「…、何だか凄く嫌な言い回しの噂にされておりますが、大体は事実なので不安に思われても仕方ありませんね」
「いいえ、出会って直ぐにわかりました。
テリア義姉様はその様なお方では無いと」
「アリスは、私を買い被り過ぎてませんか?」
何故か、アリスティナ姫は本当に初めから私を買い被り、とてもよく懐いてくれたと思う。驚くほど信用してくれて、色々頼ってくれたことは何だかんだでとても嬉しかった。アリスティナ姫は自分の妹の様に可愛くて、幸先不安だらけの王宮内で、唯一の癒しと言っても過言ではなく、不安な気持ちが幾分か和らいだ。
カルロが、アリスティナ姫を大切に思って守ろうと必死になる気持ちが、本当によくわかる。ましてや、カルロにとっては一切油断の許され無い王宮内で、アリスティナ姫は唯一の家族で、信頼できる存在なのだから。
「買い被りではありません!
私は、憎悪、善意、野心、欲望など、その人が心に抱いている強い想いは直ぐにわかります。
だから、私はテリア義姉様と出会った頃からずっと思っていました。
ーー・カルロお兄様に、とても、とても良く似ている優しい人だと」
「私が?」
カルロに、良く似ている…。…いまいちピンとこ無い。
「はい」
「私、そんなに怒りっぽいかな?」
私が、カルロに似ている…色々と想像してみたけれども、全くもって似ている要素が思い浮かばない。目の色?輪郭?そんな訳がない、外見は全くと言って良いほど似ていない。身長も最近成長期を迎えたカルロには差をつけられるばかりだし…
小首を傾げながら答えを探していると、鈴の転がる様な可愛らしい声が、答え合わせをするように、アリスティナ姫は問いかけてきた。
「怖いのに、逃げ出したいのに。
…それでも、誰かを守るために、此処に居たんですよね?」
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