【完結】身代わり皇妃は処刑を逃れたい

マロン株式

文字の大きさ
118 / 127
第3章

闇落ちにはさせない4

しおりを挟む
 あっという間に、夜になった。
 今日は下弦の月でほんのりとした僅かな月明かりが、優しく大地を照らしていた。


 私はカルロと約束をしていたとおり、仕事を終えるのを部屋で待っていた。

 何故かユラが今夜はこの服を着てくださいと、着せて来た肩出しの白いワンピースを着用し、肌や髪も綺麗に見えるようにと念入りに手入れされた。
 
 ワンピースは、胸元からくびれにかけて美しくラインが出るようになっているが、裾はヒラヒラと広がっているので、存外身動きが取りやすい。

 テリアはバルコニーの手摺りに座って、空を見上げていた。

 

「居るなら、室内の灯りをつけろよ」

 後ろから声をかけられて、振り返ると、風に揺られているカーテンの向こう側に、カルロが立っていた。

「お疲れ様。灯りは消していた方が星が綺麗に見えるから」   
 
 そう言うと、カルロは蝋に日を灯そうとしていた手を止めた。


「そうか」


 一言だけ呟いて、上着を脱ぎ、タイを外している姿を見て、テリアは思わず顔をパッと空に戻すと、後ろからは思いの外早くバルコニーへと出てくる物音がする。


「おまえ、またそんな所に乗ってーー…」

 着替えないのだろうかと疑問に思い、もう一度後ろを向くと、顔が見えるまで近寄って来ていたカルロと目が会った。

 
 言葉を途切れさせて、口を薄く開けたまま、食い入る様に見てくるので、〝どうしたんだろう?〟と首を傾げるも、反応が無いまま固まってしまっている。

 テリアは手摺から降りて近寄り、カルロの腕を引っ張った。


「そんなところに立ってないで、早くこっちに来なよ」
「…ぁ、あぁ」
「ほら、空を見てよ。今日は半月だけれど星の輝きが一等美しく見える日なの。
綺麗でしょう?」

 空を指差している、テリアの横顔から視線を逸らさないまま、カルロは同意の言葉を述べた。

「───・ぁあ、本当に。こんな日に限って一等綺麗に見えるな」
「?何かあったの?」

 テリアの問いかけには答えず、カルロは胸ポケットへ手を入れてから、拳を目の前に突き出した。

「これ、おまえに返しておくよ」


 
 テリアはその拳の下に、両手で皿をつくって差し出すと、開かれた掌からアリスティナ姫からテリアが貰ったネックレスが落ちて来た。


「ありがとう、でも…どうして今?」
「これ以上持っていると、返すタイミングを突然失いそうだと思ったからな」
「?」


 そよそよと髪を揺らす風が2人の間に心地よく優しく国吹き抜ける。

 隣に居るカルロは、テリアから視線を逸らすように、空を仰いだ。

「これから、俺が皇帝として成そうとしていることを、おまえにも説明をしておく」
「私も、何か手伝えるってこと?」

「ぁあ───・手伝いと言うよりも…」

 言いかけて、口をつぐんだカルロは、意を決した様にテリアへと向き直った。

 その瞳は真剣そのもので、高潔な光を宿している。それは、意図せずテリアの胸の鼓動を高鳴らせた。


「俺はこの国に血の雨を降らせ、残酷無慈悲な皇帝となる。
おまえは、残虐の限りを尽くしたカルロ・デ•クワムントへ天誅を下し、その力を国民に知らしめろ」

 
 
しおりを挟む
感想 110

あなたにおすすめの小説

【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました

佐倉穂波
恋愛
 転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。  確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。 (そんな……死にたくないっ!)  乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。 2023.9.3 投稿分の改稿終了。 2023.9.4 表紙を作ってみました。 2023.9.15 完結。 2023.9.23 後日談を投稿しました。

見た目の良すぎる双子の兄を持った妹は、引きこもっている理由を不細工だからと勘違いされていましたが、身内にも誤解されていたようです

珠宮さくら
恋愛
ルベロン国の第1王女として生まれたシャルレーヌは、引きこもっていた。 その理由は、見目の良い両親と双子の兄に劣るどころか。他の腹違いの弟妹たちより、不細工な顔をしているからだと噂されていたが、実際のところは全然違っていたのだが、そんな片割れを心配して、外に出そうとした兄は自分を頼ると思っていた。 それが、全く頼らないことになるどころか。自分の方が残念になってしまう結末になるとは思っていなかった。

残念な顔だとバカにされていた私が隣国の王子様に見初められました

月(ユエ)/久瀬まりか
恋愛
公爵令嬢アンジェリカは六歳の誕生日までは天使のように可愛らしい子供だった。ところが突然、ロバのような顔になってしまう。残念な姿に成長した『残念姫』と呼ばれるアンジェリカ。友達は男爵家のウォルターただ一人。そんなある日、隣国から素敵な王子様が留学してきて……

前世の記憶が蘇ったので、身を引いてのんびり過ごすことにします

柚木ゆず
恋愛
 ※明日(3月6日)より、もうひとつのエピローグと番外編の投稿を始めさせていただきます。  我が儘で強引で性格が非常に悪い、筆頭侯爵家の嫡男アルノー。そんな彼を伯爵令嬢エレーヌは『ブレずに力強く引っ張ってくださる自信に満ちた方』と狂信的に愛し、アルノーが自ら選んだ5人の婚約者候補の1人として、アルノーに選んでもらえるよう3年間必死に自分を磨き続けていました。  けれどある日無理がたたり、倒れて後頭部を打ったことで前世の記憶が覚醒。それによって冷静に物事を見られるようになり、ようやくアルノーは滅茶苦茶な人間だと気付いたのでした。 「オレの婚約者候補になれと言ってきて、それを光栄に思えだとか……。倒れたのに心配をしてくださらないどころか、異常が残っていたら候補者から脱落させると言い出すとか……。そんな方に夢中になっていただなんて、私はなんて愚かなのかしら」  そのためエレーヌは即座に、候補者を辞退。その出来事が切っ掛けとなって、エレーヌの人生は明るいものへと変化してゆくことになるのでした。

ご褒美人生~転生した私の溺愛な?日常~

紅子
恋愛
魂の修行を終えた私は、ご褒美に神様から丈夫な身体をもらい最後の転生しました。公爵令嬢に生まれ落ち、素敵な仮婚約者もできました。家族や仮婚約者から溺愛されて、幸せです。ですけど、神様。私、お願いしましたよね?寿命をベッドの上で迎えるような普通の目立たない人生を送りたいと。やりすぎですよ💢神様。 毎週火・金曜日00:00に更新します。→完結済みです。毎日更新に変更します。 R15は、念のため。 自己満足の世界に付き、合わないと感じた方は読むのをお止めください。設定ゆるゆるの思い付き、ご都合主義で書いているため、深い内容ではありません。さらっと読みたい方向けです。矛盾点などあったらごめんなさい(>_<)

ストーカー婚約者でしたが、転生者だったので経歴を身綺麗にしておく

犬野きらり
恋愛
リディア・ガルドニ(14)、本日誕生日で転生者として気付きました。私がつい先程までやっていた行動…それは、自分の婚約者に対して重い愛ではなく、ストーカー行為。 「絶対駄目ーー」 と前世の私が気づかせてくれ、そもそも何故こんな男にこだわっていたのかと目が覚めました。 何の物語かも乙女ゲームの中の人になったのかもわかりませんが、私の黒歴史は証拠隠滅、慰謝料ガッポリ、新たな出会い新たな人生に進みます。 募集 婿入り希望者 対象外は、嫡男、後継者、王族 目指せハッピーエンド(?)!! 全23話で完結です。 この作品を気に留めて下さりありがとうございます。感謝を込めて、その後(直後)2話追加しました。25話になりました。

ブサイク令嬢は、眼鏡を外せば国一番の美女でして。

みこと。
恋愛
伯爵家のひとり娘、アルドンサ・リブレは"人の死期"がわかる。 死が近づいた人間の体が、色あせて見えるからだ。 母に気味悪がれた彼女は、「眼鏡をかけていれば見えない」と主張し、大きな眼鏡を外さなくなった。 無骨な眼鏡で"ブサ令嬢"と蔑まれるアルドンサだが、そんな彼女にも憧れの人がいた。 王女の婚約者、公爵家次男のファビアン公子である。彼に助けられて以降、想いを密かに閉じ込めて、ただ姿が見れるだけで満足していたある日、ファビアンの全身が薄く見え? 「ファビアン様に死期が迫ってる!」 王女に新しい恋人が出来たため、ファビアンとの仲が危ぶまれる昨今。まさか王女に断罪される? それとも失恋を嘆いて命を絶つ? 慌てるアルドンサだったが、さらに彼女の目は、とんでもないものをとらえてしまう──。 不思議な力に悩まされてきた令嬢が、初恋相手と結ばれるハッピーエンドな物語。 幸せな結末を、ぜひご確認ください!! (※本編はヒロイン視点、全5話完結) (※番外編は第6話から、他のキャラ視点でお届けします) ※この作品は「小説家になろう」様でも掲載しています。第6~12話は「なろう」様では『浅はかな王女の末路』、第13~15話『「わたくしは身勝手な第一王女なの」〜ざまぁ後王女の見た景色〜』、第16~17話『氷砂糖の王女様』というタイトルです。

私は既にフラれましたので。

椎茸
恋愛
子爵令嬢ルフェルニア・シラーは、国一番の美貌を持つ幼馴染の公爵令息ユリウス・ミネルウァへの想いを断ち切るため、告白をする。ルフェルニアは、予想どおりフラれると、元来の深く悩まない性格ゆえか、気持ちを切り替えて、仕事と婚活に邁進しようとする。一方、仕事一筋で自身の感情にも恋愛事情にも疎かったユリウスは、ずっと一緒に居てくれたルフェルニアに距離を置かれたことで、感情の蓋が外れてルフェルニアの言動に一喜一憂するように…? ※小説家になろう様、カクヨム様にも掲載しております。

処理中です...