12 / 38
叙勲式後、公爵に聞いた娘の話 勇者side
しおりを挟む「申し訳ございませんレイヴン殿!あの婚約成立後に娘が押し掛けているようで…」
叙勲式後、王宮にある一室で、ユウフェの父であるヴィクレシア公爵に頭を下げられ、謝られた。
どうやら俺の邸宅にユウフェが滞在している事を知ったのはユウフェが公爵家を出ていった後みたいだ。
(ヴィクレシア公爵は知らなかったのか…じゃあ、屋敷の事はユウフェの独断。
それはそうか。貴族の令嬢が結婚していない婚約者の1人住まいに住まわせるなんて、指示する親はいないよな)
「俺は凄く助かっているんです。
あのように大きな邸宅の管理をどうしたら良いのか、誰に頼んで良いのか、俺には分からなかったので…」
俺がそう言って頭をかくと、公爵は頭を上げてホッとしたようで、息を深く吐いた。
「いやそう言っていただけて良かった。
あの子は一見淑やかそうなんですが、いや、普段も基本的にはちゃんと礼節ある子なのですが。
たまに突拍子もない事をするのです」
公爵はコーヒーに写る自分の姿を見つめて、何処か遠い目をしている。何か色々気苦労したのだろう。
「…ですが、ユウフェ殿がそういう事をする時は何か意味がある気がします」
その瞬間、俺の言葉に、公爵の目つきが変わって真剣なものになった。
「やはり、勇者様もそう思いましたか。
あの子が突拍子もない事をする時は、いつも何か意味を持つのです」
「前にも何かあったのですか?」
「ええ、まずはあの子がまだ5歳にも満たない頃、
急に治癒師の勉強がしたい、先生を付けて欲しいと、それは熱心にわたしに頼んで来ました。貴族の令嬢には手に職についての勉学は要らないと言うのに。…それが、突拍子もない行動の始まりだった様に思います」
「そんな幼い頃から治癒師の技術を学んでいたんですね」
「はい…色々、それからほんとーに色々!他にも令嬢らしからぬ行動はありましたが…中でもある日の事、〝旅に出たい〟と言いました」
「旅に?」
「そうです。〝旅に出てある村を見つけたい〟…と」
…前に渡された治癒師の評価が書かれたチラシに、様々な村の名前があったので可笑しいなとは思ってたけど、そういう事か。
「村を回って旅をしていたんですね」
「はい。娘は言っていました。
〝村の名前はわからない。けれど勇者様を見つけなければ〟と。言われた時は、何の冗談かと思いましたが、そのまま娘は本当に旅に出ました。
そして…それから一年した後に、暗い顔で娘は帰って来ました」
「俺が、見つけられなかったんですね」
(…そんなことがあったのか。
俺を探してーー)
「多分…そうでしょう。泣きながら何かに向かって何度も謝っていました。
ですが後日、今度は大きな救護所の作成を始めました。旅をした際に稼いだお金を全て使い、出来るだけ多くの救護所を」
「その後、西の魔王に目を付けられ公爵領が攻撃を受けたのですね」
「!…そうです。娘の作った救護所はあっという間に怪我人で溢れかえりました。
もし、救護所が無ければ数多の怪我人が野ざらしのまま数日、いや何十日もの間、雨風にさらされ、疲弊し、大半が治療も受けられずに死んでしまった事でしょう。
だが、救護所の清潔な環境で、適切な治療を受けられた。
そして娘が治癒師として活躍したお陰で更に多くの者が救われました。
ですからレイヴン殿、娘が突拍子もない事をした時は信じて見守ってやってください」
「公爵……」
「ですが!だからと言って、まだ未婚の男女ですからーー清い交際を!絶対にです!」
(1番言いたかったのはそこか)
「…はぁ…」
「いいですか?指一本も触れてはいけませんからね?」
「いや。それは流石に…」
「貴族の令嬢とはそういうものなんです!
婚約者として許されるのは本来、一緒にお茶をするとか、デートをするとかです。くれぐれも清い、真っ白な交際でお願いしますね!ね!?」
「は…はい……(指一本は治療されてるから無理だけど…)」
♢♢♢
こうして公爵に同居を認められたものの、清い交際を約束させられた勇者は、帰路に着くべく王宮を後にした。
(だよなぁ…。おかしいとは思ってたけど。まさか公爵に黙って来てたとはな)
馬車の中でふいに、マントの裾を持つと、紋章が刻まれた布地を親指で擦り、ユウフェと共に繕って完成させた時の光景が蘇る。
『〝旅に出てある村を見つけたい〟…と』
『泣きながら何かに向かって何度も謝っていました』
勇者は顔を上げて、馬車の窓から見える夕日に、目を細めた。
(そうか…ユウフェは、あの事を知っていたのか)
118
あなたにおすすめの小説
遡ったのは君だけじゃない。離縁状を置いて出ていった妻ーー始まりは、そこからだった。
沼野 花
恋愛
夫と子供たちに、選ばれなかったイネス。
すべてを愛人に奪われ、彼女は限界を迎え、屋敷を去る。
だが、その先に待っていたのは、救いではなかった。
イネスを襲った、取り返しのつかない出来事。
変わり果てた現実を前に、
夫はようやく、自分が何を失ったのかを思い知る。
深い後悔と悲しみに苛まれながら、
失ったイネスの心を取り戻そうとする夫。
しかし、彼女の心はすでに、外の世界へと向かっていた。
贖罪を背負いながらもイネスを求め続ける夫。
そして、母の心を知っていく子供たち。
イネスが求める愛とは、
そして、幸せとは――。
虚弱体質?の脇役令嬢に転生したので、食事療法を始めました
たくわん
恋愛
「跡継ぎを産めない貴女とは結婚できない」婚約者である公爵嫡男アレクシスから、冷酷に告げられた婚約破棄。その場で新しい婚約者まで紹介される屈辱。病弱な侯爵令嬢セラフィーナは、社交界の哀れみと嘲笑の的となった。
仕事で疲れて会えないと、恋人に距離を置かれましたが、彼の上司に溺愛されているので幸せです!
ぽんちゃん
恋愛
――仕事で疲れて会えない。
十年付き合ってきた恋人を支えてきたけど、いつも後回しにされる日々。
記念日すら仕事を優先する彼に、十分だけでいいから会いたいとお願いすると、『距離を置こう』と言われてしまう。
そして、思い出の高級レストランで、予約した席に座る恋人が、他の女性と食事をしているところを目撃してしまい――!?
婚約破棄で悪役令嬢を辞めたので、今日から素で生きます。
黒猫かの
恋愛
「エリー・オルブライト! 貴様との婚約を破棄する!」
豪華絢爛な夜会で、ウィルフレッド王子から突きつけられた非情な宣告。
しかし、公爵令嬢エリーの心境は……「よっしゃあ! やっと喋れるわ!!」だった。
王太子妃専属侍女の結婚事情
蒼あかり
恋愛
伯爵家の令嬢シンシアは、ラドフォード王国 王太子妃の専属侍女だ。
未だ婚約者のいない彼女のために、王太子と王太子妃の命で見合いをすることに。
相手は王太子の側近セドリック。
ところが、幼い見た目とは裏腹に令嬢らしからぬはっきりとした物言いのキツイ性格のシンシアは、それが元でお見合いをこじらせてしまうことに。
そんな二人の行く末は......。
☆恋愛色は薄めです。
☆完結、予約投稿済み。
新年一作目は頑張ってハッピーエンドにしてみました。
ふたりの喧嘩のような言い合いを楽しんでいただければと思います。
そこまで激しくはないですが、そういうのが苦手な方はご遠慮ください。
よろしくお願いいたします。
前世の記憶を取り戻した元クズ令嬢は毎日が楽しくてたまりません
Karamimi
恋愛
公爵令嬢のソフィーナは、非常に我が儘で傲慢で、どしうようもないクズ令嬢だった。そんなソフィーナだったが、事故の影響で前世の記憶をとり戻す。
前世では体が弱く、やりたい事も何もできずに短い生涯を終えた彼女は、過去の自分の行いを恥、真面目に生きるとともに前世でできなかったと事を目いっぱい楽しもうと、新たな人生を歩み始めた。
外を出て美味しい空気を吸う、綺麗な花々を見る、些細な事でも幸せを感じるソフィーナは、険悪だった兄との関係もあっという間に改善させた。
もちろん、本人にはそんな自覚はない。ただ、今までの行いを詫びただけだ。そう、なぜか彼女には、人を魅了させる力を持っていたのだ。
そんな中、この国の王太子でもあるファラオ殿下の15歳のお誕生日パーティに参加する事になったソフィーナは…
どうしようもないクズだった令嬢が、前世の記憶を取り戻し、次々と周りを虜にしながら本当の幸せを掴むまでのお話しです。
カクヨムでも同時連載してます。
よろしくお願いします。
捨てられた地味な王宮修復師(実は有能)、強面辺境伯の栄養管理で溺愛され、辺境を改革する ~王都の貴重な物が失われても知りませんよ?~
水上
恋愛
「カビ臭い地味女」と王太子に婚約破棄された王宮修復師のリディア。
彼女の芸術に関する知識と修復師としての技術は、誰からも必要性を理解されていなかった。
失意の中、嫁がされたのは皆から恐れられる強面辺境伯ジェラルドだった!
しかし恐ろしい噂とは裏腹に、彼はリディアの不健康を見逃せない超・過保護で!?
絶品手料理と徹底的な体調管理で、リディアは心身ともに美しく再生していく。
一方、彼女を追放した王都では、貴重な物が失われたり、贋作騒動が起きたりとパニックになり始めて……。
働かないつもりでしたのに、気づけば全部うまくいっていました ――自由に生きる貴族夫人と溺愛旦那様』
鷹 綾
恋愛
前世では、仕事に追われるだけの人生を送り、恋も自由も知らないまま終わった私。
だからこそ転生後に誓った――
「今度こそ、働かずに優雅に生きる!」 と。
気づけば貴族夫人、しかも結婚相手は冷静沈着な名門貴族リチャード様。
「君は何もしなくていい。自由に過ごしてくれ」
――理想的すぎる条件に、これは勝ち確人生だと思ったのに。
なぜか気づけば、
・屋敷の管理を改善して使用人の待遇が激変
・夫の仕事を手伝ったら経理改革が大成功
・興味本位で教えた簿記と珠算が商業界に革命を起こす
・商人ギルドの顧問にまで祭り上げられる始末
「あれ? 私、働かない予定でしたよね???」
自分から出世街道を爆走するつもりはなかったはずなのに、
“やりたいことをやっていただけ”で、世界のほうが勝手に変わっていく。
一方、そんな彼女を静かに見守り続けていた夫・リチャードは、
実は昔から彼女を想い続けていた溺愛系旦那様で――。
「君が選ぶなら、私はずっとそばにいる」
働かないつもりだった貴族夫人が、
自由・仕事・愛情のすべてを“自分で選ぶ”人生に辿り着く物語。
これは、
何もしないはずだったのに、幸せだけは全部手に入れてしまった女性の物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる