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第2章
室長の知っていること3
しおりを挟む「そんなまさか。
王の子がーー奴隷だなんて」
〝俄には信じられない〟というのがリディアの率直な感想だ。
王の知らないところで出来た子なら何かの間違いでそうなることもあるかもしれない。
だが王宮内で生ませた子を奴隷にするなど聞いたこともない。
けれども、室長は馬鹿みたいなことを嘘や冗談で言う人でもないことを知っている。そう言った無駄で不毛な会話を嫌がる人だ。
だからきっと本当のことを今私に話している。そしてそれには理由がある。
「どうして、そんなことに?」
「もう聞いたんだろ?おまえがここへ来ることになった原因…好色王がセレイア王国に押し付けた半魔のことを」
室長の言う半魔とはミミルのことだ。
さっきバンリがセレイア王国で何があったのか説明してくれた。
好色王の〝お願い〟で始まった悲劇のことを仄めかす。
「俺達はそれを生み出した母親を召喚するために生まれたんだ」
「ミミルの…母親を?」
「召喚には必ず生贄が必要だ。
悪魔を召喚できるのは禁術に特化した魔力を持つ一族のみ。
召喚に必要な生贄は5人」
室長は淡々と悪魔の召喚に必要な条件を述べてゆく。
「そしてーー召喚した悪魔を従えるためには、己の血縁を生贄にする必要がある」
「血縁って…まさか!」
口の中で、悲鳴にも近い声がでる。
「そうだーー
母も、俺と俺の兄弟達も。
悪魔を召喚する瞬間のために用意された物でしかない。
俺の奴隷紋は生贄のさい、手間もなく大人しく自害させるためにつけられたものだ」
「そんな…じゃあ。室長に残された家族は室長とお母様をのぞいてもう……」
「俺の母も既に自害させられている。
好色王は自分以外に悪魔が従う人間を生かしておかない。
それくらい徹底した男だ。
自分が欲する物は手段を選ばず、だからこそ戦さで負けたことがなく、一代でトラビア王国を大きく繁栄させ、好色王に逆らう者は誰もいない」
沈黙の間ーー
語られた内容に動揺しながらも、室長がこの話を自分にするには、意味があるように思えていた。
まず、その内容の残酷さもそうだけど、禁術が絡む話はところ構わず語れることではないものだ。
煌びやかで豪奢な建造物の中、数多の兄弟姉妹達が王族として傅かれている傍ら、同じ血を受け継ぐはずなのに家畜のような生活を送り、収穫時期に己の手で潔く自害することを初めから決められていたなんて、想像しただけでも、身の毛がよだつ。
そんなことが罷り通ってしまうのが、この国であり王宮なのだ。
だから、ここに住む人々はどこか歪みを感じるのだろうか。
どうかしているーー
そう思えるのは、私が平和の続いたセレイア王国に生まれ育つことが出来たからだ。
セレイア王国では到底考えられないことばかり。
それは私が国に守られていたのだと、此処へきて嫌と言うほど経験したつもりでいて、けれどまだ自分の認識が甘かったことを悟る。
そして、セレイア王国を出た今ーーこれは私の身近なもので、無関係な話ではなくなったのだろう。
リディアは気が遠くなりそうで耳を塞ぎたい言葉を、それでも一言一句逃さずに聞こうとしていた。
そして、あまりの内容に絶句しながらも、さりげなく羅列された事実の中に、一つの疑問が浮かんだ。
「…待って…ください。
さっき、召喚には〝必ず〟生贄がいるっていいましたよね?」
「ぁあ」
「私がここへきた時、室長が用意していた魔法陣に逆〝召喚〟しました、よね?」
鼓動が激しく脈打ち、額から汗が伝う。
知らなかったではすまされない。
私はこのトラビア王国へくるときに、誰かを犠牲にしているのではという不安。
そしてーー
「私は、一体誰を生贄に逆召喚できたんですか?」
「おまえの召喚に使った生贄は好色王だ。あいつを悪魔の奴隷として地獄に送った」
「どうやって、そんなことが?」
「あいつは中にも外にも自分の遺伝情報を撒き散らしていた。
つまり好色王が外で作った子らの血を集めて、遺伝情報から生贄にする者を指定した」
ハビウス・ウィルデンは禁術の天才である。
これは魔塔にいたころから知っている気でいた。けれど、理解していた以上の天才であることにこの時気付いた。
「どうして今になって、そんな大事な話を私に話す気になったんですか?」
「この部屋には敗戦国から奪い取った戦利品がある。
その中には3つの神器があったが、そのうち2つが無くなっている」
「ん、え?…神器?ということは。どう言うことですか?」
神器というのが何か、王太子妃教育を受けてきたリディアは知っている。
この世に3つしかない神の力が宿るとされる代物である。
3つの国にわかれて点在していたらしいが、好色王が攻め滅ぼして、それぞれの王家から奪い取りあつめたそうだ。
現在のトラビア王国の王、ヨゼフ陛下の母はその滅ぼされ神器を奪われた国の1つで王女をされていた。
そう言ったことは知っているが、今リディアがした質問の返事としては逸れてるように感じて、疑問符が並ぶ。
「地獄に送ったはずの好色王が神器の1つを使い、まだこの世にとどまっていると言うことだ」
「え?」
「自分の代わりに地獄送りにできる存在ーー
つまり、逆召喚をした大元の原因である俺か、おまえを探しているだろうな」
不意に指を刺されたリディアは目を丸くした。
「は?」
「安心しろ。まだおまえが生きていることは半魔も好色王も知らないだろう。
誰が自分を地獄送りにしようとしているのかも知らない、だから身を隠して探しているんだ」
「探して…いる?私を?」
「おまえと、俺だな。
1つの召喚に2人の魔力が関わってることも相手は知らんだろうな」
一通り話し終えたと言わんばかりに、口に咥えたタバコをフーっと吐き出した室長へ、色々と苛立ちも感じることがある一方で、聞いた生い立ちの残酷さがそれをなだめた。
それよりも知らない間に、どうかしていると思った相手が、自分を狙っていることに心臓が縮みそうだ。
「そうだ、言い忘れていたが十中八九、好色王は半魔と一緒にルア王国にいる」
ルア王国…私を必要としている司祭がいると聞いたところだ。
「おまえのかわりに1人の侯爵令嬢を処刑するらしい」
「私の かわり?」
「何故か知らんが、おまえ、半魔に恨まれてるようだな」
私の中の記憶では、恨まれる要素は何ひとつ彼女にしたことはない。むしろ、やられてばかりだった気がするのだがーー
「無いと思うが、万が一おまえがルア王国に行くと言うのなら
俺もついていく」
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