【完結】消滅した悪役令嬢

マロン株式

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第2章

出立 1

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「司祭様にお会いさせていただきたく存じます」





 早朝ーーリディアはトラビア王国で世話をしてくれた侍女に頼み、ヨゼフ陛下との謁見を申請した。

 すぐに通された謁見の間で、玉座に腰掛けたヨゼフ陛下から「ルア王国へ行く決断は出来たか」と聞かれたので、リディアはその返事として冒頭の言葉を述べた。

 

 言葉の意図をさぐる視線から、目を逸らしてはいけないと感じた。



「ルア王国へは行きたくないが、司祭には会いたいと?」


 ヨゼフ陛下から確認をするように問われた。

 
「…そうです。

私のポーションだけで済むのであれば、それだけなら…ご協力させてもらうことも出来るかもしれません」


 リディアが一晩考えて出した答えだ。

 出来ればルア王国に行きたくないどころか、ミミルや好色王と関わりたくない気持ちは未だにとても強いけれど、司祭がリディアの魔力を欲する理由もわかった。

 何より、様々な事情が絡み合い、自分が全くの無関係とも言えず、好色王から狙われているという観点からいくと、リディアが知っておかなければならない情報も司祭は握っている可能性がある。

 それを知らないままにしておくのも危険だと思えた。

 今自分が知る中で司祭から必要とされているのは、リディアのポーションだ。

 なら、わざわざリディアがルア王国に行かずとも必要な数だけ司祭にポーションをわたして、かわりに司祭から情報を得られれば良いのではないかと考えた。




「なるほどーー
俺がホーキンス卿でもそう判断するな」


 ヨゼフ陛下はやや思案げに顎を撫でたあと、小さく頷いて同意する。

 リディアはほっと胸を撫で下ろして感謝をのべる。


「ご理解いただき、深謝しんしゃ申し上げます」



「だがーーそれは無理だ。

司祭は侯爵令嬢が釈放されない以上、ルア王国から出てくることはないだろうからな。

卿には、おおよそ検討がついているだろうが、司祭の魅了は解けている。

だが、彼は今、魅了が解けていないをしている」


「解けていない…ですか?」




 リディアはいまいち状況が把握できずに小さく首を傾げた。

 


「司祭はミミルの身近な存在となりすぎて、あまりに目立つ行動をとれば魅了が解けているとバレてしまう可能性が非常に高い。

ミミルの指示もなく、司祭が独断で縁のないはずのトラビア王国まで来てしまえば、諜報活動をしている容疑をかけられた状態のままルア王国へ戻ることになる。

それは命取りになり得る行為だ。

ーーつまり、司祭がトラビア王国に来るならルア王国へ戻る必要がない状態でなければならないと言うことだ。

牢に囚われている侯爵令嬢の状態もミミルの情報も一切把握出来なくても良いならこちらへ来るだろう。

それは、侯爵令嬢を見捨てる他ないが…司祭はそれをしないだろう」


「そのような事情があるのですね…

であればーー確かに、私が行くほうが、良いのでしょうね」


 
 内心困ってしまい、戸惑いをあらわすリディアを横目に、ヨゼフ陛下は側に控えていた従者へ目配せをして立ち上がった。

 従者は予め用意してあった巻物を広げて、リディアや後ろに控えていたバンリにも手渡す。


「これは…」


「ルア王国とその周辺の地形を表記した地図だ。

本来なら卿から〝ルア王国へ行く〟と歯切れの良い返答を聞いた後に手渡そうと思っていたのだがな。
ルア王国、王都の場所は説明せずともわかるな?」


 王都ーールア王国の王宮、乙女ゲームに登場するキャラクター達が通う学園があり、恐らく好色王やミミルが現在生活している場所だ。
 
 ルア王国内で1番大きな都市なので、一目でわかる。 

 王宮を中心とした城壁都市なので〝城内〟と外側の〝城下町〟にわかれており、〝城内〟には都市機能や居住区……は広大な農耕地までが城壁内におさまっているので、〝城内〟と言えども端の方はのどかな風景が広がっており、王宮からは遠く離れすぎてほぼ見えない。


 城壁の外側、つまり 〝城下町〟になるとすぐ、密林や山あり谷ありな箇所が多く存在している。


 そして地図の中で、トラビア王国よりだけれど縁もゆかりもなさそうな城壁の外側…つまり〝城下町〟に、一箇所大きな丸が付けられているのが目についた。

 




「はい、王都はわかりますが……この〝城下町〟につけてある大きな丸は?」
 


 

「それは、司祭がナイアス侯爵家に引き取られるまで住んでいた孤児院のある場所だ。
高低差の多い土地だがその分大層景色は良い様だぞ」


 是非、観光することを勧める、と言わんばかりのいい回しに疑問を抱き、そのお勧めとしている施設を念を押して確認するために復唱した。


「孤児院、ですか」

 
 すぐに「そうだ」との返事がきたので、リディアは先を聞くために口を閉じた。


「その村では年に一度、数日間祭りをする。

孤児院と教会の信徒が協力して店を出しているらしくてな。

司祭は毎年、教会の者として手伝いをしに行くらしい」


 挑戦的な眼差しをおくられたので、すぐにヨゼフ陛下の言いたいことを察した。


「……もしかして、その祭りは今行われているのですか?」


「正解だ。

ど田舎すぎて、この王宮にいる誰もそこに行ったことがない。

行ったことがない場所へ転移出来るはずも、させることも出来はしない。

だがーーならばこそ。


卿が1番危惧している好色王とミミルにバレずにルア王国内で司祭と会うことも可能だろう」

 
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