【完結】消滅した悪役令嬢

マロン株式

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第2章

空の旅先にいたのは 2

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 飛龍はリディアが言葉を発するよりも前に脅威の速さでバンリを置いてきた場所から遠ざかってゆく。

「そんな…待って、お願い止まって!元来た場所に戻って」


 飛龍はヨゼフ陛下の言葉しか聞かないとわかっていながらも、それでも万が一答えてくれたらと言う切実な気持ちで呼びかけた。

 しかし案の定、飛龍に呼びかけてみても、目的を果たすことに集中しており、こちらの方へチラリとも視線をやらない。

 こうしている間にも、飛龍は目的地にもうすぐつくと言わんばかりに下降を進めてゆくだけだった。



 前輪を強く握りしめて、なすすべもなく戸惑うリディアを見て、モルトが話しかけてくる。

 



「りーちゃん、止めたいの?」
「ーーうん」


 リディアが頷くと、「そっかぁ」と呟いたあとに飛龍の頭へとよじ登ってゆく。



 頭のてっぺんまで登り切ると、身を屈めて龍に話しかけた。


「ねーねー、りーちゃんとまって欲しいんだって」


 モルトの声に反応して目を声の方にだけ向けたが、すぐにまた前を向く。

 身を起こしたモルトは、リディアの方に半身を向けて大きな声で言った。


「なんかね、そんなこと陛下から支持されてないから無理なんだって!」


「え、言葉がわかるの?」

「うん。頭に直接話しかけてくるよ」

「そうなんだ…すごいね」


 そう言いながらも、困った様に眉根を寄せて目を伏せたリディアを見て、モルトは風になびくだけの手綱を掴むと、龍の頭から飛び降りる。



「え、も、モルト!?え!?おちたの??」


 驚いて叫ぶと、リディアの心境もお構いなしの気楽な声が返ってきた。



「大丈夫だよ!」



 龍のハミの部分を掴んでいたモルトだったが、手綱を利用して顎下にまわり込んだ。


「何してるの?危ないから戻っておいで!」




「だいじょーぶだいじょーぶ!
すぐ終わるから♪

えっとね、えーと。あ、これかな?」





 他の鱗の流れとは逆向きになっている1枚の鱗を指の爪先でカリッとなでると、龍は目を見開いて急停止する。

 ーー次の瞬間


ギャオオオオ!!!


 雷が落ちたような悲痛な叫び声をあげて暴れ始めた。


 リディアは安全装置をつけていないモルトが危ない遊び方をやり始めたと思い、自分の腕についている腕輪だけでもモルトに渡そうと外している時のことだったので、不意をつかれた様に身体が宙に放り出される。


「……っ」



『足の方から降りるように』





(ーーヨゼフ陛下にそう言われたけど)





 外れた腕輪は空の中に吸い込まれて行き、ヨゼフ陛下のアドバイスどおりに身体を起こそうとするが、機能しているのがアンクレットのみだからなのか状態が持ち上がらない。



 それでも、落下速度は徐々に緩やかになってゆくので、パラシュートの効果はありそうだと思えた。




(ーーせめて、人のいない所に落ちます様に)





 頭から落ちると怪我をする恐れがあると言われたものの、怪我で済むならそれも良いと覚悟を決めようとしていたその時。

 落下スピードはかなり落ちたので、下にいる人がリディアを見上げているのが見えてきた。




(あぶない!このままじゃぶつかる)





 そう思った瞬間、ショック死を避けるための安全装置が発動してリディアは意識を失った。





♢♢♢







 瞼を開けると、白い天井が見えてきた。
 




(ここは…)



 ゆっくりと上体を起こして、周りを見渡そうと視線を泳がす。そこには天井と同じ白い壁に扉、そして簡素な四角いテーブルに椅子が四つ並べられていた。

 反対側を向くと、リディアの寝ているベッドの他にもベッドがいくつか並んでいる。



(誰かが、気絶して倒れている私を、ここへ運んでくれたのね)



 何処に落ちてしまったのか、早くバンリの安否も知りたくて、誰かを呼びに行こうとベッドから降りると、すぐに部屋の扉を開いたその時「わっ」と驚いた声が聞こえてきた。


 声の主を見ると、亜麻色の髪に桃色の瞳の柔らかな面立ちをしている、整った顔立ちの男性が驚いた表情をしており、その手には箱をもっていた。




「突然開けてしまい、すみません」






 危うくぶつかりそうになったことを謝ると、彼はフワリとした笑みを浮かべ、首を横に振った。





「意識を取り戻してるとも考えず、確認なしで部屋に入ろうとした僕も悪いので。

目が覚めたら飲み物と食べ物、それと他にも色々と必要かとお持ちしたのですが」



「それは…気を使っていただき有難うございます」








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