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第2章
最終話
「リディア・ホーキンス男爵はこの度の魅了事件解決にあたり、多大なる貢献をした。
よって、二階級昇進で伯爵位とし、トラビア王国のレルブ領を授与する」
諸々のことから落ち着いた頃ーートラビア王国の謁見の間で、私は叙勲を真摯に受け止め跪いた。
「ありがたく頂戴いたします」
共に呼ばれて、横に控えているバンリは、口元に微笑みを浮かべている。
レルブ領は、セレイア王国に国境を接しており、魔塔からも近い。
正直、領地経営など荷が重いようにも感じて、本来なら断りたいけれど、セレイア王国とトラビア王国の今回の不和を解消する為に必要なことだと事前に聞かされていたので、受け入れない訳にもいかなかった。
詳細は、叙勲が終わった後に話すと言われたので、やり方が何ともヨゼフ陛下らしい。
私の叙勲を確認したヨゼフ陛下は、満足気に大きく頷いた。
「よし。
では残るはーートラビア王国の王室の解体を宣言する」
唐突すぎて、謁見の間の空気が一瞬止まった。
理解が追いつかないまま、ざわめきだけが広がっていく。
「はい?」
突然の宣言に、リディアは不敬にも顔をあげてしまった。
ヨゼフ陛下は、戸惑いの色を隠せない王室重鎮達を見渡しながら、面白いものを見物しているかの様な笑みを浮かべて、堂々たる宣言をした。
「本日をもって、トラビア王国はその王統を終焉し、王室はこれを解体する。
長きにわたりこの地を治めた歴代王に連なる者として、我らは国を呪いと混乱に陥れた責を免れぬ。
よって、全ての権能を放棄し、隣国セレイア王国との統合を選ぶ。
今後の政治・行政の一切は、セレイア王国と共同で設けるセレイア統治移行評議会 代表アルレシス公爵に委ねる。
我ら旧王家の者は、臣籍に降り、いかなる特権も保持しない。
ここに、トラビアは新たな歩みを始める。
第六代トラビア国王 ヨゼフ・トラビアがこれを宣言する」
謁見の間は突然の宣言に阿鼻叫喚もいいところである。
おそらく、このことを聞いていない重鎮もいた様で、難色の色を示す。
それは正常な反応と言える。
ぽかんとしているリディアを見て、ヨゼフ陛下はくくっと笑った。
「卿へ下賜した領地は、セレイア王国とトラビア王国の要だ。
励めよ」
「え? 待ってください。
もう少しちゃんと説明してもらえませんか?」
リディアは思わず声を上げてしまった。
唐突すぎて、頭が全く追いつかない。
「セレイア王国からバンリ・セレイアに公爵位とセレイア王国のオルレ領地を下賜したのは知っているか?」
バンリが元々王族であるのと、今回の騒動による功績で下賜された爵位と領地だ。
「はい…それも今後の和平に重要だと」
「オルレ領とレルブ領は隣接している。
まずは両名の土地から文化、価値観、法律を統一して、ゆくゆくはトラビア王国とセレイア王国を一つの国とする。
二人はどうせ、同じ邸宅に住むのだろう?
本当に丁度良かった、適任者の選別が難しくてな。
礼を言う」
「ま、まだそこまでの話に進んでませんから!」
そうーーお互い割と大きな領地や爵位を持ってしまったから、まだそう言うものは先の話だと思っていたのだが。
どうやら、ヨゼフ陛下とセレイア王国の間で決められたことは、私とバンリの持つ領地を一つにすることが前提らしい。
悪魔騒動を起こしたトラビア王国が、何のお咎めも無く終わるとは思わなかったけれど。
後処理に付き合わされるとは思わなかった。
「はははっ!実に巧妙に外堀を埋められたな!!」
「?」
ヨゼフ陛下がバンリに目配せをするので、リディアが振り返ると視線を逸らされた。
「でも、そうしたらヨゼフ陛下は…」
「俺は元よりなりたくて王になった訳ではないからな。
やるべき仕事はやったから、後は任せる。
そもそも俺は人間が苦手なんだ。
他種族が共存する環境を整えたいからーーまぁ一人くらいはここからも連れていくが」
謁見の間で静かに控えていたレベッカ殿下をちらりと見て、咳払いした。
「ではこれにて、謁見を終了とする」
言いたいことを全て述べてから、リディアとバンリの隣を颯爽と過ぎ去り、歩いてゆく。
謁見の間から退出していくヨゼフ陛下を、ただ呆然と見ているしか無かった。
♢♢♢
謁見の後、魔塔に戻ったリディアは疲労感で机に突っ伏した。
「ボクも領地経営お手伝いするー♪」
「……うん、お願いね。
助かるわ」
今後ーー切実に人手が足りない。
ーートン
そんなリディアが突っ伏している机の上に、紅茶とクッキーを置いてくれたのはバンリだ。
暫くは奴隷時代に仕えていたスタンスが抜けないらしい。
でも、バンリはあの後、王になることは断ったが、ならば代わりにとセレイア王国から公爵位を叙された。
アンリ殿下がまだ幼く、王族に口伝される魔法を教えられるのがバンリしかいないせいもある。
セレイア王国の王室はそれはもう繋ぎ止めるのに必死だったが、公爵位を受けると責任を伴い、トラビア王国へ泊まりずらいと断っていたがーー
同時期に私にも爵位授与の話が来ると、バンリも公爵位をありがたく受け取ったのは、後から聞いた話だ。
「ありがとう、丁度甘いもの食べたかったの。
バンも一緒に食べよう」
「うん」
「今日はもう、アンリ殿下の授業はいいの?」
実は、バンリが公爵位を貰う条件として、飛竜を一体譲ってもらい、トラビア王国とセレイア王国の国家間を自由に行き来しているらしい。
普通なら半日がかかる距離なのに、飛龍で空を使えば十分程度である。
「うん、アンリは覚えが良いから。近いうちにわたしが居なくても、魔法を身に付けることができるだろう」
〝わたしが居なくても〟という言葉に、心が締め付けられる。私も、バンリにこんな想いをさせて来てしまったのだろう。
「ならーーもし教育が落ち着いたら、結婚しよう」
疲れた脳で、深く考えもせず思わず口から滑り出た言葉。
口にした後に、ことの重大さを理解して、片手で口を覆う。言い終わった瞬間、全身が一気に熱くなる。
バンリは固まっていたが、徐に片手で顔を覆った。
「リディは本当に、不意打ちでそう言うことを言うからーー心の準備なんて、まるでさせてくれないんだ。狡いよね」
(狡い??)
「ごめんなさいーー今のは聞かなかったことにして。こう言うのはもっと段階を踏んでからよね…」
リディアが手を合わせて謝ると、顔を覆っていた手が退く。バンリの頬がほんのりあからんでいた。
そうして私の右手を取ると、そっと甲に口つけた。
「無理だよ、口にしたからには実行してくれないと。
そもそも、わたし達は元々婚約者だったしーーそれに段階なんて既に踏んでいるよね」
艶のある笑みに、今度は私がぼっと赤面する番だった。
まだこれから、私達の周囲は色々と問題が山積みだけれど、不思議とバンリは。
これから先も一緒に居てくれる気がした。
それは一度離れ離れになって、傷付いてすれ違ってもこうして安穏と笑い合えるようになれたからこその自信だろうか…
こうして、私たちの恋はまた静かに歩み出す。
新しい土地で、新しい肩書きで。
けれど隣にいるのは、昔と変わらない大切な人だ。
「ずっと好きだよ、リディ」
窓の外で、春の風がそっと塔を撫でた。
それはーーまだ誰も知らない新しい物語の始まりを告げる風だった。
end
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