【完結】消滅した悪役令嬢

マロン株式

文字の大きさ
64 / 67
第2章

最終話

 
「リディア・ホーキンス男爵はこの度の魅了事件解決にあたり、多大なる貢献をした。

よって、二階級昇進で伯爵位とし、トラビア王国のレルブ領を授与する」
 


 諸々のことから落ち着いた頃ーートラビア王国の謁見の間で、私は叙勲を真摯に受け止め跪いた。



「ありがたく頂戴いたします」



 共に呼ばれて、横に控えているバンリは、口元に微笑みを浮かべている。

 レルブ領は、セレイア王国に国境を接しており、魔塔からも近い。
 
 正直、領地経営など荷が重いようにも感じて、本来なら断りたいけれど、セレイア王国とトラビア王国の今回の不和を解消する為に必要なことだと事前に聞かされていたので、受け入れない訳にもいかなかった。

 詳細は、叙勲が終わった後に話すと言われたので、やり方が何ともヨゼフ陛下らしい。

 私の叙勲を確認したヨゼフ陛下は、満足気に大きく頷いた。



「よし。
では残るはーートラビア王国の王室の解体を宣言する」


 唐突すぎて、謁見の間の空気が一瞬止まった。


 理解が追いつかないまま、ざわめきだけが広がっていく。


「はい?」



 突然の宣言に、リディアは不敬にも顔をあげてしまった。

 ヨゼフ陛下は、戸惑いの色を隠せない王室重鎮達を見渡しながら、面白いものを見物しているかの様な笑みを浮かべて、堂々たる宣言をした。



「本日をもって、トラビア王国はその王統を終焉し、王室はこれを解体する。

長きにわたりこの地を治めた歴代王に連なる者として、我らは国を呪いと混乱に陥れた責を免れぬ。

よって、全ての権能を放棄し、隣国セレイア王国との統合を選ぶ。

今後の政治・行政の一切は、セレイア王国と共同で設けるセレイア統治移行評議会 代表アルレシス公爵に委ねる。

我ら旧王家の者は、臣籍に降り、いかなる特権も保持しない。 

ここに、トラビアは新たな歩みを始める。

第六代トラビア国王 ヨゼフ・トラビアがこれを宣言する」




 謁見の間は突然の宣言に阿鼻叫喚もいいところである。

 おそらく、このことを聞いていない重鎮もいた様で、難色の色を示す。

 それは正常な反応と言える。


 ぽかんとしているリディアを見て、ヨゼフ陛下はくくっと笑った。

「卿へ下賜した領地は、セレイア王国とトラビア王国の要だ。
励めよ」


「え? 待ってください。
もう少しちゃんと説明してもらえませんか?」



リディアは思わず声を上げてしまった。

唐突すぎて、頭が全く追いつかない。


「セレイア王国からバンリ・セレイアに公爵位とセレイア王国のオルレ領地を下賜したのは知っているか?」


 バンリが元々王族であるのと、今回の騒動による功績で下賜された爵位と領地だ。



「はい…それも今後の和平に重要だと」


「オルレ領とレルブ領は隣接している。
まずは両名の土地から文化、価値観、法律を統一して、ゆくゆくはトラビア王国とセレイア王国を一つの国とする。

二人はどうせ、同じ邸宅に住むのだろう?
本当に丁度良かった、適任者の選別が難しくてな。

礼を言う」



「ま、まだそこまでの話に進んでませんから!」



 そうーーお互い割と大きな領地や爵位を持ってしまったから、まだそう言うものは先の話だと思っていたのだが。

 どうやら、ヨゼフ陛下とセレイア王国の間で決められたことは、私とバンリの持つ領地を一つにすることが前提らしい。

 悪魔騒動を起こしたトラビア王国が、何のお咎めも無く終わるとは思わなかったけれど。

 後処理に付き合わされるとは思わなかった。



「はははっ!実に巧妙に外堀を埋められたな!!」



「?」



 ヨゼフ陛下がバンリに目配せをするので、リディアが振り返ると視線を逸らされた。


「でも、そうしたらヨゼフ陛下は…」


「俺は元よりなりたくて王になった訳ではないからな。
やるべき仕事はやったから、後は任せる。
そもそも俺は人間が苦手なんだ。

他種族が共存する環境を整えたいからーーまぁ一人くらいはここからも連れていくが」


 謁見の間で静かに控えていたレベッカ殿下をちらりと見て、咳払いした。


「ではこれにて、謁見を終了とする」



 言いたいことを全て述べてから、リディアとバンリの隣を颯爽と過ぎ去り、歩いてゆく。

 謁見の間から退出していくヨゼフ陛下を、ただ呆然と見ているしか無かった。





♢♢♢








 謁見の後、魔塔に戻ったリディアは疲労感で机に突っ伏した。
 

「ボクも領地経営お手伝いするー♪」

「……うん、お願いね。

助かるわ」




 今後ーー切実に人手が足りない。
     
 

ーートン


 
 そんなリディアが突っ伏している机の上に、紅茶とクッキーを置いてくれたのはバンリだ。 
 暫くは奴隷時代に仕えていたスタンスが抜けないらしい。
 
 でも、バンリはあの後、王になることは断ったが、ならば代わりにとセレイア王国から公爵位を叙された。

 アンリ殿下がまだ幼く、王族に口伝される魔法を教えられるのがバンリしかいないせいもある。
 セレイア王国の王室はそれはもう繋ぎ止めるのに必死だったが、公爵位を受けると責任を伴い、トラビア王国へ泊まりずらいと断っていたがーー

 同時期に私にも爵位授与の話が来ると、バンリも公爵位をありがたく受け取ったのは、後から聞いた話だ。


「ありがとう、丁度甘いもの食べたかったの。
バンも一緒に食べよう」

「うん」

「今日はもう、アンリ殿下の授業はいいの?」


 実は、バンリが公爵位を貰う条件として、飛竜を一体譲ってもらい、トラビア王国とセレイア王国の国家間を自由に行き来しているらしい。

 普通なら半日がかかる距離なのに、飛龍で空を使えば十分程度である。


「うん、アンリは覚えが良いから。近いうちにわたしが居なくても、魔法を身に付けることができるだろう」

 
 〝わたしが居なくても〟という言葉に、心が締め付けられる。私も、バンリにこんな想いをさせて来てしまったのだろう。




「ならーーもし教育が落ち着いたら、結婚しよう」



 疲れた脳で、深く考えもせず思わず口から滑り出た言葉。

 口にした後に、ことの重大さを理解して、片手で口を覆う。言い終わった瞬間、全身が一気に熱くなる。


 バンリは固まっていたが、徐に片手で顔を覆った。


「リディは本当に、不意打ちでそう言うことを言うからーー心の準備なんて、まるでさせてくれないんだ。狡いよね」

(狡い??)
「ごめんなさいーー今のは聞かなかったことにして。こう言うのはもっと段階を踏んでからよね…」

 リディアが手を合わせて謝ると、顔を覆っていた手が退く。バンリの頬がほんのりあからんでいた。

 そうして私の右手を取ると、そっと甲に口つけた。


「無理だよ、口にしたからには実行してくれないと。

そもそも、わたし達は元々婚約者だったしーーそれに段階なんて既に踏んでいるよね」


 

 艶のある笑みに、今度は私がぼっと赤面する番だった。 


 まだこれから、私達の周囲は色々と問題が山積みだけれど、不思議とバンリは。

 これから先も一緒に居てくれる気がした。

 それは一度離れ離れになって、傷付いてすれ違ってもこうして安穏と笑い合えるようになれたからこその自信だろうか…

 



 こうして、私たちの恋はまた静かに歩み出す。
 新しい土地で、新しい肩書きで。



 けれど隣にいるのは、昔と変わらない大切な人だ。







 「ずっと好きだよ、リディ」








 窓の外で、春の風がそっと塔を撫でた。

 それはーーまだ誰も知らない新しい物語の始まりを告げる風だった。


 




  


end




感想 536

あなたにおすすめの小説

もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?

冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。 オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。 だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。 その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・ 「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」 「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」

夫が妹を第二夫人に迎えたので、英雄の妻の座を捨てます。

Nao*
恋愛
夫が英雄の称号を授かり、私は英雄の妻となった。 そして英雄は、何でも一つ願いを叶える事が出来る。 そんな夫が願ったのは、私の妹を第二夫人に迎えると言う信じられないものだった。 これまで夫の為に祈りを捧げて来たと言うのに、私は彼に手酷く裏切られたのだ──。 (1万字以上と少し長いので、短編集とは別にしてあります。)

初夜に暴言を吐いた夫は後悔し続ける──10年後の償い【完結】

星森 永羽(ほしもりとわ)
恋愛
王命により、辺境伯ロキアのもとへ嫁いだのは、金髪翠眼の美しき公爵令嬢スフィア。 だが、初夜に彼が告げたのは、愛も権限も与えないという冷酷な宣言だった。噂に踊らされ、彼女を「穢れた花嫁」と罵ったロキア。 しかし、わずか一日でスフィアは姿を消し、教会から届いたのは婚姻無効と慰謝料請求の書状──。 王と公爵の怒りを買ったロキアは、爵位も領地も名誉も奪われ、ただの補佐官として生きることに。 そして十年後、運命のいたずらか、彼は被災地で再びスフィアと出会う。 地位も捨て、娘を抱えて生きる彼女の姿に、ロキアの胸に去来するのは、悔恨と赦しを乞う想い──。 ⚠️本作はAIの生成した文章を一部に使用しています。

私が死んで満足ですか?

マチバリ
恋愛
王太子に婚約破棄を告げられた伯爵令嬢ロロナが死んだ。 ある者は面倒な婚約破棄の手続きをせずに済んだと安堵し、ある者はずっと欲しかった物が手に入ると喜んだ。 全てが上手くおさまると思っていた彼らだったが、ロロナの死が与えた影響はあまりに大きかった。 書籍化にともない本編を引き下げいたしました

婚約破棄された令嬢が記憶を消され、それを望んだ王子は後悔することになりました

kieiku
恋愛
「では、記憶消去の魔法を執行します」 王子に婚約破棄された公爵令嬢は、王子妃教育の知識を消し去るため、10歳以降の記憶を奪われることになった。そして記憶を失い、退行した令嬢の言葉が王子を後悔に突き落とす。

側妃は捨てられましたので

なか
恋愛
「この国に側妃など要らないのではないか?」 現王、ランドルフが呟いた言葉。 周囲の人間は内心に怒りを抱きつつ、聞き耳を立てる。 ランドルフは、彼のために人生を捧げて王妃となったクリスティーナ妃を側妃に変え。 別の女性を正妃として迎え入れた。 裏切りに近い行為は彼女の心を確かに傷付け、癒えてもいない内に廃妃にすると宣言したのだ。 あまりの横暴、人道を無視した非道な行い。 だが、彼を止める事は誰にも出来ず。 廃妃となった事実を知らされたクリスティーナは、涙で瞳を潤ませながら「分かりました」とだけ答えた。 王妃として教育を受けて、側妃にされ 廃妃となった彼女。 その半生をランドルフのために捧げ、彼のために献身した事実さえも軽んじられる。 実の両親さえ……彼女を慰めてくれずに『捨てられた女性に価値はない』と非難した。 それらの行為に……彼女の心が吹っ切れた。 屋敷を飛び出し、一人で生きていく事を選択した。 ただコソコソと身を隠すつもりはない。 私を軽んじて。 捨てた彼らに自身の価値を示すため。 捨てられたのは、どちらか……。 後悔するのはどちらかを示すために。

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

【完結】20年後の真実

ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。 マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。 それから20年。 マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。 そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。 おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。 全4話書き上げ済み。