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第2章
書籍化記念SS 消滅前の親友とリディアの出会い4
しおりを挟む「私に話とは何でしょうか?」
まわりくどいことが苦手な私は、客室に通されて、開口一番に問いかけた。
使用人をも入れない2人きりの空間で、話があるとするなら、誰にも聞かれたくないデリケートな内容だからであろうことは察しがつく。
アルレシス公爵令嬢と私がするデリケートな話など、王太子の有力な婚約者最有力候補であったことの他、思いあたらない。
(どんな牽制をしようとも、負けないわ)
勝手に想像して盛り上がっていた私に、アルレシス公爵令嬢は冷静にソファへと移動して、座るよう私へと促す。
(ふんっ)
促されるまま、鼻息荒くトスンと腰を下ろした私を見て、ふふっと笑う公爵令嬢に腹をたてた私は、「何かおかしいですか?」と勢いつけて威嚇の眼差しを向けた。
「ごめんなさい、おそらくクラリス令嬢が想像されているような内容ではありませんので、安心してください」
(…私、そこまで顔に出やすいのかしら?)
お母様からは、社交会に出る前までに感情をしまうことを覚えなさいと口煩く言われている。
聞き流していたけれど、こんなところで恥をかくくらいならば、ちゃんとまじめに聞いておけば良かったわ。
「…こほん。
まぁそれは置いときましょう。
それで、私に話とは一体何ですか?」
あからさまに話を逸らした私を、今度は笑うことなく、アルレシス公爵令嬢は真剣な面持ちになる。
「遠回しな言葉はお嫌いのようですので、単刀直入に申し上げます。
クラリス令嬢のその髪飾りは、ディンバル子爵家から盗んだ物ではありませんよね?」
一瞬ーー何を言われているかわからなかった。
「ぬ、盗んだ物ですって!?これはルドナから貰ったものですわ!先程の茶会でもそう申し上げましたでしょう!?」
「ですが、ディンバル令嬢はその髪飾りは盗まれたと申されておりました」
「…?ルドナが?」
頭に血が昇りそうになったけれど、真っ直ぐに私を見据えて話すアルレシス公爵令嬢の瞳が、あまりにも真摯に訴えかけているように見えて息を呑んだ。
この目の前にいる方が、嫌がらせや悪戯で人を傷つけるような嘘を口することはないだろう。
何らかの根拠がある話なのだ。
ただの直感だったけれど、静かに私の様子を見守る姿にそう感じた。
「ーーいつ、ルドナ…ディンバル令嬢がそのようなことを?」
「クラリス令嬢を待っている間、主催者として〝私が来る前、皆様何を話していたのですか?〟と話をふると、ディンバル令嬢の髪飾りがクラリス令嬢に盗まれた話をしていたと…」
そう言われて、私が登場した直後におかしな雰囲気になっていたことを思い出す。
あれは、私がこの髪飾りを盗んだと触れ回られたせい?何故?だってこれはルドナがくれたものだ。
ではあの場に居た皆、私が盗人であり、恥知らずにも侯爵令嬢である立場をかさにきて、盗んだものを貰ったものだと吹聴していると思っていたというの?
「この私がーーその様なことをする筈がありません!」
「わかっています。
クラリス令嬢が嬉しそうに髪飾りを得た経緯を説明していた姿に、嘘は一つもないでしょう」
アルレシス公爵令嬢にそう言われて、硬く握りしめた拳がゆるみ、肩の力がいくらか抜ける。
私が見せている侯爵令嬢としてのプライド、矜持をこの人だけは理解してくれているのだ。
あの場に居た全員が、ルドナの嘘を信じていた訳ではなかったことに幾らか冷静さを取り戻せた。
「ーー今日、会ったばかりの私…それも意地悪をして遅刻までした私を何故そこまで信じて頂けるのですか?」
そう問われた公爵令嬢は、目を丸くした後に、ふっと笑みを浮かべた。
「クラリス令嬢は、感情が物言いやお顔に出やすい方ですから」
「……」
「こう言った悪評は、放置すると誤解されたまま広がって行き、貴女の首を絞めます。
早々に今回茶会へ参加された令嬢達の誤解を解いておくのが良いでしょう」
※
私はアルレシス公爵令嬢からアドバイスを幾つか得て、早々にルドナを呼び出して、髪飾りを盗んだと吹聴したのは本当なのか、それをまず確認する。
その結果、やはり吹聴したことは本当であることを、ルドナあっさりと認め、私は思わず髪につけていた髪飾りをむしり取り、それをルドナへと投げつけた。
「…ルドナ。
貴女がこれからのことを選びなさい。
この件を私がディンバル子爵に伝えるか。
子爵には何も言わないでお茶会に参加した令嬢達へ嘘をついたと伝えてまわるか」
ルドナに選択肢を与えるのは、アルレシス公爵令嬢のアドバイスだった。
こう言う時は、こちらが行動を強制したと思わせるのではなく、自ら選択して行動したと思わせることが今後のために大事らしい。
私には理屈がよくわからなかったけれど、アドバイス通りにした方が良い気がして、ルドナに終息方法を選ばせることにした。
私の本心では、令嬢達に私が盗人だと思われた状態は嫌だったので、後者を選んで欲しいと望んでいる。
「ーー令嬢達に、嘘であったことを伝えてまわります」
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