【完結】辺境伯は元王子妃に恋をしている

マロン株式

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数枚の釣書 マーガレットside

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 私の名はマーガレット。この国の王子妃をしている。

 先日、庭園にて迂闊にも涙を流している所を人に見られた。

 あの日私は、会場にいる皆の視線に疲れて休憩をする為、庭園へ行き椅子に座っていた。

 1人で思い出深い庭園を前にした事で、見守り支えてきた王子の成長を実感し、〝あの赤子が。泣いてばかりだった子が…〟と言う感傷と感動による寂しさと嬉しさ、そして切なさの入り混じった親心が流させたものだった。

 噂の火に油を注いでしまいかね無い所を人に見られてしまい、思わず慌ててしまったけれど…。

(でも。あのお方は、私が泣いていた事は誰にも言わ無いのでしょうね。)
 
 私が涙を流しているのを見かけて、話かけてくれたのは優しげなペリドットの瞳をした男性。

 私が涙を流している姿に、涙の理由を勘違いしたであろうその人は、話た事も無い私を励ます為、片膝をついてプロポーズ紛いのことまでしてくれた。

(噂の渦中である女性が泣いてたら、傷付いて涙しているのだと勘違いするわよね…。
…。それにしても真っ赤だったわ。)



 マーガレットがその時借りたハンカチを眺めていると、先日の男性の姿が思い浮かんだ。

 そして、再び小さくクスリと思い出し笑いをする。

 あの時、感傷にひたり、涙を流している最中、急に現れた彼に慌てているマーガレットの右手を取って『離縁成立後、わたしの元へ。来てもらえませんか?』

と視線を逸らさず真っ直ぐに言って来た。

 女性の励まし方に慣れている方なのかと思うとそうでも無くて、その後直ぐに我に返ったのか、ボッと頬を朱に染めて汗を噴き出していた。

 何故かその後も更に言い募る必死さと、切実さと誠実さを感じさせる姿に、とても勇気を出してマーガレットに声を掛けてくれただろう事が伺えて、心がじんわりと暖まるのを感じた。



(…私は、勘違いしていない。

あれは傷心していたであろう女性への親切。

…分かってはいるのだけれど…。)


 真っ直ぐに自分を見据えていたペリドットの瞳が頭に焼き付いて、思い出すとマーガレットの胸が小さく鼓動する。


「ー・また、お会い出来るかしら…。花の辺境伯様」


 ハンカチに刻まれた花の家紋に、そっと触れて、マーガレットは小さくそう呟いた。




ーーーーーーーーーー
ーーーーー   


 社交界から数日が経過したある日の事、王宮にマーガレットの母が訪れた。


「離縁後、直ぐに再婚…ですか?」

 
 動揺の色が見て取れるマーガレットに、王宮へ訪れた公爵夫人であるマーガレットの母は頷いた。

「貴方の年齢ならまだ、条件の良い年頃近い初婚の相手を見つけられるからね。女としての名誉を傷付ける噂を払拭する為にも。早々に貰い手を見つけておいた方が良いでしょう。」

「ですが…。」

「私はね、元々歳の差ある王子に嫁がせるのは少し不安だったの。

政略結婚だから仕方の無い事とはいえ、赤子から共に居るとなると…余計に、互いに夫婦というより肉親に近くなるのでは無いかと。

杞憂していた通りになってしまった挙句、多妻制に抵抗があり悩む王子に配慮して自ら離縁を申し出るなんて…。
 
こうなったら今度こそ、貴方には女としての幸せを手に入れて欲しいのよ。」



「お母様…。」  


「それで、周りにお声掛けしたら数人了承してくださりそうなの。このうち何方が良いかはマーガレット、貴方が決めたら良いと思うわ。」

  数枚の釣書を机に並べられたけれど、マーガレットは首を横に振った。

「離縁が決定事項とは言え、まだ王子妃としての務めもありますから…そういった事は王子妃で無くなってから考えます。」

「…けれど、貴方の年齢だから良い条件を揃えられるのよ?
どの方も年頃は近くてお家柄も良いわ。皆初婚で、後添いなどでは無いし。
保留にして1年もしたら、彼らとて適齢期なのだから、他のご令嬢との縁談が纏まってしまうわよ?」


(でも。離縁して直ぐ再婚なんて…私には男女の夫婦関係と言うものがわからなくて不安だわ…。)



 今まで私は弟のような存在の王子を、お支えすると言う気持ちのみで、そう言った事を考えた事が無かったし、自分には関係ないと思っていた。

 次の嫁ぎ先に行くと、新しい環境で今までとは違う事が求められるだろう。それに自分は応える事が出来るだろうか。

 幼き頃から王子妃として王宮に居たマーガレットには未知の世界。次の嫁ぎ先とはそんな風に漠然とした不安を抱かせるものだった。


 そんな漠然とした不安もあるまま、次の嫁ぎ先の事をまだ王子妃と言う立場である今、考える余裕はマーガレットにはなかった。

(それに、まだ初婚で歳が近く条件の良いお相手の方が私との結婚を望んでいる訳がないわ。
王家や公爵家に言われたから断れ無いとしか思えない。)

 そう思うと、選ぶのが申し訳なくて返って誰を選んだら良いのかが分からない。

「お母様のご心配は有難く思いますが、もう少し考えるお時間を頂けますか?」

「でも…。」

「少し、心の整理をしたらお母様の提案を前向きに考えますから。」

「…わかったわ。なら釣書は置いて行くわね、目を通しておいてね。今度の社交界でその方々とお話する機会もあるでしょうから。」

「はい、お母様が私を心配して、御用意してくださったご縁ですから。後程、拝見させて頂きます。」
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