【完結】辺境伯は元王子妃に恋をしている

マロン株式

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恋愛小説 マーガレットside

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 恋愛小説のような恋したいとは思っていたけれど、幼い頃から王子妃であり、まだ幼い王子を守る事が私の役目だと疑わなかった私には、何処か遠い話のように思えていた。
 
 それでも、周りにいるのは優しい人々ばかりで、種類は恋愛のそれとは違うけれど、それでも充分過ぎる程多くの愛を受けてきた。

 私は恵まれていた。初めて出会った時小さく誰かが守られねば心許なかった王子も、今では1人で身を守る術を身につける程に育ち、それだけでも充分幸せだと思える人生だと思っていたし、

 残りの人生はこの国の王子妃としてただ王子を傍で支える。それだけを考え生きてきた。

 その役目も後半年後で終わりを告げる。周りがどう思っているかは分からないけれど、後は誰にも迷惑をかけず穏やかに過ごす事が出来れば、私の人生はそれで充分幸せだと思えた。  
 

(だけど……。)


 椅子に座り、恋愛小説を観ながら思い出すのは昼間の辺境伯のことだった。

(私にずっと片思いをしていたって、いつから…?)
 

「ねぇ、マーガレット。」

「どうしましたか?王子。」

 王子と私の部屋は離縁決定後も分けられていない。離縁決定後は大臣達の間では分けようかと言う話も出ているようだけれど、今の所は従来通りだ。

 私も王子もどちらでも良いと言う感じだ。私としては隣にいても弟が寝ている感覚に近いし、人がいた方が安心して眠れる。

 けれど、確かにたまに、寝相で抱きついてくる事もあるので、大臣達の危惧もわかる。事情も知らず側から見たら何故離縁するのか分からないほどに仲が良いと言われているから。

「…マーガレットは、恋愛小説が好きだね。」

 マーガレットの手元にある小説に視線を落とすクリス王子に、笑顔で頷いた。


「はい、物語のような恋が出来る人はほんの一握りですが、本はそのように奇跡的な幸せを、読んだ者に分けてくれるんです。」



「マーガレットが気晴らしを見つけられて良かった。
最近あの噂のせいで社交界では負担を掛けているだろう?
やはり、制度はあれどそう簡単に離縁なんかすべきで無いね。」


「王子…私にとって王子は実の弟同然です。
弟の為を思えば、少しばかり何か言われたとしても、何とも思いません。 
王子、唯一無二の愛する人が出来ると言うのは奇跡のようなものなんです。
ですから、少しばかり周りが煩わしかったとしても、その手を簡単に手放してはなりませんよ。」

「…もし僕にとってのその奇跡が、マーガレットだったらならどうする?」


「…私ですか?」


「もしもの、話だよ…」

 

 いつものように笑顔を浮かべている王子が何故か元気がなく見えて、少しおかしい事に気が付いた。

 手元に持っていた本を閉じたマーガレットは、ベッドサイドに腰掛けている王子の横に歩み寄りゆっくりと腰を落ち着けた。

「…ずっと共にいた私が居なくなると言うのは不安になるのかもしれませんね。 けれど、これだけは覚えていてください。

私はいつだって、王子の味方です。」

 やんわりとした包み込むように王子を抱きしめて、あやす様に背をさするマーガレット。王子は僅かにのばしかけた手を止めて口を開いた。

「マーガレット、僕は「実は、ここだけの話、今日私もドキドキする出来事があったんですよ。」

「……。」

「ですから王子、もう私に気遣いをする必要はありません。
好きな方がいるんですよね?生涯ただ1人しか愛せない王子が、苦悩されていたのを知って居ます。」

「…そうだね僕は、生涯ただ1人しか愛せないと悩んでいたよ。」


 王子の顔を覗き込んでいる、他意のないマーガレットの顔を見て、王子はいつも通りの笑みを浮かべた。
 
「だけど僕では、その人が望むものを与える事は出来ないのだろうね。」

「王子…。大丈夫です、此処まできたら離縁はもう覆りません。今は苦しいかもしれませんが…。」
.
「そうだね、、ねぇ、マーガレット…
すまないけど眠くなってきたから、僕は先に眠っているね。」

 ニッコリ笑う王子は、赤子の頃から変わらずまるで天使のようだと思えた。

 初めてその姿を見かけた時はまるで本物の天使のように可愛くて、私を見て無邪気に笑い、喜ぶ赤子の姿に、全力で守らなくてはと、幼心ながらに決意した日が懐かしい。

 あの時、王子の可愛さに思わず生涯懸命に仕えようと心に決めて居た。


(王子…さっきは何を言いかけたのだろう。成人したと言えどまだ12歳。いくら大人びて居ても、母代わりでもあった私が居なくなる事が不安なのね。)

 布団を被り、目を閉じて眠りについた王子の姿を見つめながら、後半年したらこの寝顔を見る事もないという事実と、成長した子供の姿に少し物悲しさを感じていた。

(もうこの先私が、貴方に出来る事はないのね…。)

 成人を迎えてからこなす公務の量が増えた王子は余程疲れているのか、背を向け横になってからさほどもしないうちに、小さく寝息を立て始めた。

 その柔らかな黄金色の髪をさらりと一梳したあと、マーガレットは自分も眠る為に本を片付けようと立ち上がった。

 そして。手元にある本へと目を落とす。


(…そうだわ王子妃でなくなったその時は、きっと今より時間も出来るわね。
私自身で王子を題材にした本を書いてみようかしら。王子が奇跡的な恋をする、そんな話を。)
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