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王の勅命 辺境伯side
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マーガレットが騎士との出会いを果たしてから数ヶ月が経とうとしていた。
王子妃が外交や社交界、教会での催しもの等公務を行い外出する傍で、1人の騎士がただその責務を果たしていた。
ある時は外交や社交界でマーガレットに不埒を働こうとする者から遠ざけ、またある時は視察の先でマーガレットを乗せた馬が従者の不手際で驚き、走り出した際は迅速に対処した。
けれども、残すところ後2ヶ月でマーガレットは王子妃としての任期を。
辺境伯は護衛としての任期を迎える頃。
予定よりも早く辺境の地へ帰還するよう、辺境伯へ王命が下った。
「辺境伯としての任に戻るよう、王命が下りました。
ですから、護衛としての任務は明日で最後となります。」
「そうでしたか…。」
残念そうに眉根を寄せるマーガレットに、辺境伯は片膝をついて儀礼としての許しを乞うた。
「ー・最後まで護衛任務を続ける事が出来ずに申し訳ありません…。」
辺境伯は、いつもの様に少し困った顔をして〝仕方ありません〟と笑むマーガレットが想定出来ていた。その事が悔しくて胸元に握った拳に自然と力が籠る。
けれど想定した反応は幾ら待てどもなく、暫くの沈黙の後、くるりと背を向けたマーガレットはこう言った。
「辺境伯様、これから最後の護衛任務をこなしてくださいませんか?」
ーーーーーーーーー
ーーーー
マーガレットが辺境伯を連れて来たのは城下町を見渡せる崖の上。
青く澄み渡る空の下に王家の誇る華園全てと民の暮らしが一望出来るその景色は、平穏の世にしか表せない王国の美しさを保っていた。
マーガレットより数歩下がったところにいた辺境伯は、景色に溶け込む王子妃の背中が、それ以上近寄る事が憚られる程尊く、気高く、美しく見えて、息を呑んだ。
(駄目だ、これ以上近寄ったら。触れたくなってしまう。)
この数ヶ月葛藤を抱きながらも一定の距離を保ってきた辺境伯は、もしマーガレットが振り返っても情けない顔が見られないよう、口元を手で覆う。
けれど、そんな辺境伯の危惧は必要なく、マーガレットは背を向けたまま話始めた。
「私は、幼き頃に王宮へ迎えられてから、此処へ来ては小さく愛らしい王子が背負う大きなものを、いつもこうして眺めて来ました。
生涯かけてこの国を背負う事になる小さくか弱い赤子の王子を、守り支える。
それが私の生まれた理由だと、思って生きて来ました。」
「………。」
「ですから辺境伯様も、この4ヶ月私の側に居て気が付いた事でしょう。
私は、それを除いてしまえば、何も出来ない。無力で何の価値もない、ただの女である事を。」
「妃殿下…。」
「私自身、気付いています。私自らにはなんの価値も無いことを。
人々が私に焦がれるのは、王子妃であるマーガレットのみであると言う事を、わかっています。
〝触れられない〟からこそ尊く、〝尊い〟からこそ人は焦がれるのです。」
「………。」
「ー・けれど、私は貴方の言葉が嬉しかった。
間に受けてはいけないと思いつつ、現実を理解した貴方は、近く幻想から覚めると分かってはいても。
わたしは……、貴方の言葉が、嬉しかったのです。
だから…(此処に来れば大丈夫と思ったのに。駄目だわ、何時ものように、王子妃らしく許しの言葉を言えない。)」
言葉の続きを止めたマーガレットは、瞳から溢れ出る涙が辺境伯に見えないよう、背を向けたままだった。
辺境伯からは返事はなく、マーガレットは目を閉じた。
「ミストロイヤ辺境伯、護衛騎士の任務は此処までとします。
ですから、先に王宮へ戻ってくださいませんか。」
それは困らせる命で、出来ない望みである事は知っていた。
もし万が一、王子妃を1人にして何かあったなら、責任を取らされるのは辺境伯だ。だからそんな事は出来ないし、こんな命令は困らせるだけだ。
だけど、そんな理屈が頭では理解出来るのに、何故か、いつもこの辺境伯の前では心から湧き出る声を止める事が出来なかった。
王子妃が外交や社交界、教会での催しもの等公務を行い外出する傍で、1人の騎士がただその責務を果たしていた。
ある時は外交や社交界でマーガレットに不埒を働こうとする者から遠ざけ、またある時は視察の先でマーガレットを乗せた馬が従者の不手際で驚き、走り出した際は迅速に対処した。
けれども、残すところ後2ヶ月でマーガレットは王子妃としての任期を。
辺境伯は護衛としての任期を迎える頃。
予定よりも早く辺境の地へ帰還するよう、辺境伯へ王命が下った。
「辺境伯としての任に戻るよう、王命が下りました。
ですから、護衛としての任務は明日で最後となります。」
「そうでしたか…。」
残念そうに眉根を寄せるマーガレットに、辺境伯は片膝をついて儀礼としての許しを乞うた。
「ー・最後まで護衛任務を続ける事が出来ずに申し訳ありません…。」
辺境伯は、いつもの様に少し困った顔をして〝仕方ありません〟と笑むマーガレットが想定出来ていた。その事が悔しくて胸元に握った拳に自然と力が籠る。
けれど想定した反応は幾ら待てどもなく、暫くの沈黙の後、くるりと背を向けたマーガレットはこう言った。
「辺境伯様、これから最後の護衛任務をこなしてくださいませんか?」
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マーガレットが辺境伯を連れて来たのは城下町を見渡せる崖の上。
青く澄み渡る空の下に王家の誇る華園全てと民の暮らしが一望出来るその景色は、平穏の世にしか表せない王国の美しさを保っていた。
マーガレットより数歩下がったところにいた辺境伯は、景色に溶け込む王子妃の背中が、それ以上近寄る事が憚られる程尊く、気高く、美しく見えて、息を呑んだ。
(駄目だ、これ以上近寄ったら。触れたくなってしまう。)
この数ヶ月葛藤を抱きながらも一定の距離を保ってきた辺境伯は、もしマーガレットが振り返っても情けない顔が見られないよう、口元を手で覆う。
けれど、そんな辺境伯の危惧は必要なく、マーガレットは背を向けたまま話始めた。
「私は、幼き頃に王宮へ迎えられてから、此処へ来ては小さく愛らしい王子が背負う大きなものを、いつもこうして眺めて来ました。
生涯かけてこの国を背負う事になる小さくか弱い赤子の王子を、守り支える。
それが私の生まれた理由だと、思って生きて来ました。」
「………。」
「ですから辺境伯様も、この4ヶ月私の側に居て気が付いた事でしょう。
私は、それを除いてしまえば、何も出来ない。無力で何の価値もない、ただの女である事を。」
「妃殿下…。」
「私自身、気付いています。私自らにはなんの価値も無いことを。
人々が私に焦がれるのは、王子妃であるマーガレットのみであると言う事を、わかっています。
〝触れられない〟からこそ尊く、〝尊い〟からこそ人は焦がれるのです。」
「………。」
「ー・けれど、私は貴方の言葉が嬉しかった。
間に受けてはいけないと思いつつ、現実を理解した貴方は、近く幻想から覚めると分かってはいても。
わたしは……、貴方の言葉が、嬉しかったのです。
だから…(此処に来れば大丈夫と思ったのに。駄目だわ、何時ものように、王子妃らしく許しの言葉を言えない。)」
言葉の続きを止めたマーガレットは、瞳から溢れ出る涙が辺境伯に見えないよう、背を向けたままだった。
辺境伯からは返事はなく、マーガレットは目を閉じた。
「ミストロイヤ辺境伯、護衛騎士の任務は此処までとします。
ですから、先に王宮へ戻ってくださいませんか。」
それは困らせる命で、出来ない望みである事は知っていた。
もし万が一、王子妃を1人にして何かあったなら、責任を取らされるのは辺境伯だ。だからそんな事は出来ないし、こんな命令は困らせるだけだ。
だけど、そんな理屈が頭では理解出来るのに、何故か、いつもこの辺境伯の前では心から湧き出る声を止める事が出来なかった。
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