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王子とヒロインは庭園で見ていた
しおりを挟むそれは数分前に遡る。薔薇園の長椅子に座り、頭のおかしな令嬢と話をしているとき、突然隣にいた令嬢が叫び声に近い奇声を発した。
「……。」
(聞けることはもう無さそうだし。そろそろ会場に戻ろう。)
「じゃあ、僕は会場に戻るね。」
そう言った僕の言葉が聞こえていない令嬢の視線の先を追ったのは、何となくだった。
だけど、令嬢が奇声をあげた理由がすぐにわかった。
先程令嬢が気にしていたマーガレットと辺境伯が2人で話しているのだ。マーガレットは王子妃な訳だから、貴族の世間話に付き合わされる事もあるだろう。
それに目くじらを立てるほど、度量が狭いつもりはないけれど、マーガレットが調べていたという事実がある以上、あの辺境伯とのツーショットは出来れば見たくなかったなぁ。
そう感じて、足は2人の元へ向かっていた。
最初はまだ、そう思っている余裕があった。
けれども、進むうちにマーガレットの後ろ姿しか見えないのに、ある異変に気がついた。
(もしかして…泣いている?マーガレットが。)
僕は誰よりもマーガレットの事を知っている。
マーガレットの微笑み、落ち込む姿、照れている表情、恥ずかしがっている顔。僕だけが知っていて皆は知らないマーガレットの姿。
マーガレットは人前で泣いた事がない。
彼女は王子妃として、弱みを見せまいと誰の前でも涙を見せなかった。
僕の前でも涙を見せたのは数える程しかなくて、影に隠れて涙しようとするマーガレットに僕が気が付いて寄り添うときだけ。
(何故、マーガレットは泣いている?誰が彼女を傷付けたんだ。側室をもうけろと父上に進言した侯爵か?
でも侯爵の娘は僕の参加するパーティーを出禁にした。侯爵にはもうマーガレットを傷付けるメリットがない筈だ。むしろ王族を敵に回すデメリットが大きい。他の者もそれから大人しくなっていた筈だし…)
「やっぱりこうなるんだ、マーガレット様が運命の人なんだ!変えられないんだ!小説の作者出てこい!1発殴らせろっ!!私、私がどんだけ頑張ったと思ってるの、それなのに、遠くでしか見た事ない人に一途になる!?そんなの絶対認めないから!うわぁぁぁん!」
後ろで令嬢が号泣しながら、おかしな奇声あげて、庭園の奥に走って遠ざかる足音が聞こえる。
いつもの僕なら外用の笑顔で見送るんだけれどー・。
僕は王子として、何があっても取り乱すような教育のされ方はしていない。いつも冷静沈着に。そう教育されている。
けれど、今の僕は取り繕えているのかわからない。冷や汗が出るのを抑えられず、心臓の音が煩い。進む足はどんどん速度を上げた。
ここから見える辺境伯の表情だけでもその人柄の良さが伝わってくる。
でも。だからこそ嫌な感じがする。
(どうして話をした事もない彼の前で泣く?)
最近耳にする辺境伯の名前。こんな偶然はある訳がない。
辺境伯とマーガレットには僕の知らない何かがあるのだろう。
さっきのあの令嬢はきっと僕の知らない何かを知っている。
だけど、それを問うのは今じゃない。
気が付けば王子は2人の元へ走っていた。
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